2023/01/12

クライミングの心理学 Trust But Check

■ Trust But Check

トラストバットチェックというのは、英語圏で良く言われることです。信頼するけど、ダブルチェックせよ、ということです。
 

日本では、儒教の影響が強いためか、上下関係がある間柄では、その上下関係が妄信につながりやすいです(ハロー効果)。

また、上の立場に立つ人は、下の立場の者がチェックすることを、相手が信頼していないと言って立腹するケースが多いです。 山ではそれではリスクにつながり、ダメです。

先輩がやったこと、リーダーがやったことでも、チェックが必要です。それは、リーダーや先輩、ベテランでも神ではなく、間違いを犯す可能性があるからです。山で死んでしまうより、失礼なほうがいいですよね?

 
 もし師匠が投げたロープがセルフがとられておらず、下降の手段をまったく失ってしまったら、それは、任せっきりにしたセカンドの私の責任でもあります。

私がとっさにロープを手に取ったのは、自分の責任であるという認識があったためです。多くの人は、セカンドをしていると、自分の責任に無自覚で、こちらが、懸垂セットしていても、ロープを持ってくれる人は本当に稀です。
 

トップが懸垂セットしていたら、

  •  相手のセルフが取れているか、
  •  懸垂のセットは確実か、
  •  ロープをたるませて一緒に手元を見ている

くらいのパートナーシップは必要です。
 

私の経験では、後輩君は、ほとんどの人が、”お客さん”状態 になっており、自分はどうするべきなのか指示がない限り、ただ立っているだけのことが多いです。
 

が、アルパインも、普通のクライミングも、やることは分かり切っているので、たいていの場合は、先の行動が予測可能です。
 

私自身も、まだ分かっていなくて、あたふたしている状態のころはあったので、厳しいことは言いたくありませんが、何も状況に貢献していないで突っ立っているだけの時代が、10年の人もいれば、1年の人もいます…
 

その差は何か? ちゃんとやらなければ死ぬかもしれないという自覚によるのではないか?と思います。


■ 比叡は落ちてはいけない 岩場ですよ… ボルト40年もの

ーーーーーーーーーーーーーー

ちょっと前に比叡山でマルチピッチを登った時の相棒が20台の学生でした。4ピッチ目が5.11なので12クライマーの彼にリードを頼みました。核心部はスムーズに抜けて、見えなくなった頃、もう終了点のコールが聞こえるかな、と言うときに落ちて来ました。ランナウトとロープの伸びで10m以上は落ちたでしょうか?僕の方はあら落ちたって感じでしたが彼は結構ショックだったみたい。マルチでも別に問題は無いので次からも思い切り登ってくれると良いけど。

--------------------------------

というやり取りをしていたことが分かりました…。ここに

  ボタンの掛け違い

があったんですね。

私はバンバン落ちるクライミングをすることで成長が加速できる段階に来ているクライマーでしたが、

  九州では、バンバン落ちれるクライミングをしていい外岩環境

にあるルートは数えるほどしかなく、ほとんどがカットアンカーのルートです。

  とりあえずテンション登り(ショックロード1程度の墜落にとどめておく)

が安全です。ショックロード2の登りは辞めておきましょう…

もちろん、グージョンやケミカルに打ち換えられた課題ならOKですよ。

しかし、 

気楽な墜落癖をつけると、日本の他の岩場で通用しなくなる、というリスクがあるかもしれ

ません。

私自身も

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

私も初めて落ちた時は、ビックリ仰天でした。知り合いの13クライマーが言うには、俺ら9割落ちてる。

支点がプアなアルパインだけしかしないと落ちれないので、落ちないところしか登らないようになり、成長が鈍化すると思います。

思い切って登るかどうかは 支点が重要だと。

後は、上なら上なほど地面から遠くてむしろ安全性が高まっているかと。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

と当時書いており、支点の重要性は認識したうえで、落ちるクライミングは、成長するうえで大事だという認識で、正しい認識だと思います。

たぶん、九州の人は、本気で、カットアンカーが強度不足の信頼してはならない支点だということに気が付いておらず、他の地域も、カットアンカーだと思い込んだままだったのでしょう…

しかし、勉強不足も良いところですね…(汗)。

■ 経験値が悪習慣につながる事例
 

懸垂下降で。
 

 懸垂のセットは失敗が許されない。
 

それで、師匠がロープのセルフを取らずに、ロープを投げたことがあった。私は、”ハッ!”として、とっさにロープを掴んだら、


”ロープばらけるまで、しばらく間があんねん。経験値が悪いほうに出た事例やね”
 

と分かってて、ルール違反したそう。
 

しかし、こういう事例を重ねて、信頼を積み上げるのだろうと思った事例。
 

信用しすぎて相手にゆだねすぎる、というのが一番クライミングでは危険。

 

  山では、お互いに、相手がやっているはず

 

と思う。

例えば、冬山では共同装備に入っていても、コッヘルストーブは自分のザックに入れている。一人で落ちたら、ツエルト、シュラフ、ストーブセットくらいはないと、私の体力では厳冬期八ヶ岳の夜を超すのは、かなりシビア。フツーにテント泊してても単独だとテント寒くて切ないもん… なので共同装備に入っていても、個人でも、ツエルトもシュラフもコッヘルも持っていく。

白亜スラブの、敗退ロープなし事件も、信頼しすぎ事件、だったわけですね。

相手にゆだねすぎ、安全は相手が担保してくれて当然だという慢心に負けてしまったわけです…

適切な問いを重ねることが大事ですね。

例えば、「敗退なしで行けると思う根拠は、なんですか?」とか…

登っちゃった後で、トンデモボルトと分かったんですよね… 落ちずに登って良かったな