■ 九州の問題点のまとめ
1)ボルトが40年もので、国際基準の強度を満たしていない
2)教育機関がゼロ
3)高齢化で個人的に指導できる人もいない
4)結果、若い人は指導者ゼロでもなんとかなるボルダーを志向中
5)ボルダーでも、わざと命を危険にさらすクライミングになってしまっている人もいる
です。
このままの状態で、”クライミングの町〇〇” をやると、町としては、
「こんなはずではなかった」
という事態に陥ることが確実です。
■ ボルトが40年物
ボルトが40年物で国際基準を満たしていない点については、比較的解決が容易です。
ボルト代を行政が負担。行政の規模感で考えると、たいして費用は掛からないです。数百万円レベルを超えることはないのです。
施工する相手については、
・国際クライミングに慣れており、
・基本的に適正ミニマムボルトの感覚を正確に身に着けているクライマー集団
に、依頼する必要があります。
なぜなら、日本のクライミングルートは、自分以外の他者がそのルートを登るための配慮がいらない時代に作られたものが多く、地域外からやってくるクライマーつまり、事故などのリスクを背負えない人…海外で事故にあったら医療の手続きが大変面倒です… には、不適切なリスクテイク(クライミング専門用語で、ランナウトといいます)が大きく、多くのビジターに楽しんでもらうという目線では、不適切であることが多いためです。
国際的に普及している、一般市民が趣味として楽しむクライミングの主流は、
落ちても死なない
前提になっています。もちろん、打ち所が悪いなどで、落ちて死ぬ場合もありますから、例外はありますが、一般的には、ちょっとしたケガ程度が許容範囲であり、わざと自分を死に追い込む世界観はプロのもの、とプロとアマは区別されています。
この区別があいまいな過去がありましたが、それを引きづっているのが九州で、時代の流れにより、昔はプロ級とされたルートも、今ではアマチュアが楽しんで登るようになりました。
そのため、初登者は命がけで登ったところを、現代では命を懸けずに楽しんで登れてしまう。そのことが気に入らない、悔しいという心情は理解できます。
しかし、観光資源としてのクライミングルートを考えた場合、そこは
命の尊さ
が優先されるべき点です。もちろん、町にとっては、不名誉な事故はできる限り未然に防ぐ、ということが大事です。
そのための第一の安全策は、
国際グレードが理解できる円熟したクライマーに適切なボルト再整備を依頼する
です。
この場合、海外登攀の豊富な経験値はマストです。
■ 教育機関がゼロ
私は、積雪期ガイドステージ2の資格を途中まで取って、危急時対策のあと一つ終了すれば終わりというところで取得を控えています。
それは、九州でのガイド活動には、身の危険を感じたからです。(お客さん自体もリスク認知が甘い土壌にあり、ガイドに無理な要求を押し付けがち)
しかし、取得している中で、
九州にはきちんとした山の技術を教える学校自体が存在しない
ことがわかりました。
こちらをご覧ください。
九州最大の都市福岡の県岳連サイト
実際に行われているのは、スポーツクライミング、つまりインドアの大会だけであることがうかがえます。スポーツクライミングをいくら教えても、アウトドア、つまり、本当の山や岩場でのスキルには全くつながりません。
こちらは大阪府岳連のサイト
非常に講習が豊富であることがわかるでしょう。このような活動が本来、普通なのです。
こちらは東京都岳連です。
九州での山や育成は、距離的な近さから、大阪府岳連に助っ人を求めるのが良いのではないかと思います。
これらの私立版もあります。プライベートで登山学校をしている人もいます。
https://greenfield.style/article/11817/
一番良いのは、佐賀の樋口先生がしているように、指導者を招聘して、講習を開いてもらい、手を変え、品を変え、入れ替えて、良いとこどりをすることです。
■ 高齢化
山の世界の高齢化現象も、大阪・東京の都会よりも、地方都市では著しく、指導者の発見自体が困難になっています。
一方、地方の行政は、地域おこし協力隊に、若さだけを求める性向性があり、それは、その行政が必要とする知見と、必ずしも結び付いていないことがあります。
必要な知見は何なのか、地域自身が規定できないと、ミスマッチが起こります。
結果、就任した地域おこし協力隊員にクライミングで町おこしを、いう気持ち自体があっても、当人にその知見がない、ということが起こりえます。ただ若けりゃいい(あわよくば定住)という人選が、ミスマッチの元なのです。移住するにしても、だれでもいいわけではないでしょう。互いがハッピーに暮らせるという視点が必要です。
人選してしまった後で、何とかクライマーに仕立てよう、としている自治体も知っています。
これらの事柄は、自治体自体に調査スキルが不足しているために起こります。その場合は、適切なアドバイザーを起用することです。
クライミングなんて、若い男子なら誰でもできるでしょ、という先入観もあります。肉体能力的に登れる人が、事業創造に向いているわけでは必ずしもありません。
その場合、適切なアドバイザーをそろえる必要がありますが、クライマーの世界では、大体アドバイザーとして適切そうな人は、すでに名前が有名です。
本を書いていたり、あるいは、東京、大阪などで、指導者として有名になっている方が多いです。何人かに打診してみて、比較することで人選は容易でしょう。合い見積もりと同じことです。
フリークライミングだと、第一人者は、平山ユージさんです。私もビレイを務めた吉田和正さんはなくなってしまいましたが、北山真さん、東秀樹さん、草野俊平さん、なども有名です。
アルパインのほうだと、ピオレドール賞を受賞した人を検索すれば出てきます。
日本では、ロッククライミングという括りが発展しておらず、フリークライミング陣営とアルパインクライミング陣営が、二大政党みたいな形で対立しています。どちらも、これこそがロッククライミングだ!という自負が経験の上に成り立っており、構造的に譲れないので、
外の岩場を登るロッククライミング
という視点で安全対策を入れたい場合、両方から知見を得ないと、偏った知見になってしまいます。
例えば、アルパインクライマーにとっては、支点を自作するのは普通ですし、懸垂下降もできる前提でしか、山に行きません。しかし、フリーのクライマーは、支点を作った経験もなく、懸垂下降もしらないまま、世界の最高難度を登って栄誉を得る最年少組の人も現在では出ています。これはクライマーとしての評価の尺度が違うためです。
日本では、
ロッククライミングという尺度で統合された資格やスキルが認知されていない
ので、技術講習に出た人でも、その違いの隙間の落ちてしまうことがあり、その典型は、懸垂下降や登り返し技術を知らないフリークライマーです。
懸垂下降、登り返しなどのエイド技術を教わっていないクライマーが各地の岩場で問題を起こし批判されていますが、現在の日本のクライミングの教育システムでは、教えられそこなう仕組みに構造的にあります。そもそも、登り返し技術はエイドクライミングなので、フリークライミングをするクライミング教室で教えないのは当然のことです。 結果的にフリーもアルパインも、横断的に登るクライマーだけが安全ということになります。(詳細はこちら)
■ ボルダーの指向性
結果的に、指導者がいなくてもなんとかなる、ボルダー、に若い人は偏って活動することになっています。
幸い、ボルダーについては、一流の課題がそろっています。
海外のクライマーの受容もボルダーからスタートするのが良いように私には思えます。ボルトの整備がいらないからです。
この分野は、九州では、小山田大さんという巨人がおり、小山田さんにアドバイザリーになってもらうのが、最も良い施策であると個人的には思います。
ちなみに一般的に、ボルダーの安全対策は、ランディング(着地)です。
十分なランディング練習とマットの使用法の習熟が、ボルダーの講習会ではメインの要素となるはずです。
安全器具である、クラッシュパッドを、町が貸し出すことは、大変大きな、訪問クライマーにとってのメリットです。
海外には、ボルダーで非常に有名な町が多数あります。海外の情報については、ChatGPTに聞けば、大体のことはわかります。もちろん、裏取りは必要です。
■ わざと危険を冒すクライミング文化
クライミング文化として、
わざと自分を危険な目に合わせることでアドレナリンブーストを得る
ということが、クライミング文化の基調に長く伝統としてあることは否めません。この分野では、ヨセミテのディーン・ポッターという人が、有名で、むささびみたいなボディスーツを着てジャンプするスポーツで、死亡しています。死を美化する伝統もクライミングの中にあります。
しかし、現代は、そうしたリスクを前提とするクライミング以外にも、市民の健全な趣味としてのクライミング、も当然ですが、並行的に存在しています。
クライマーはすべからく命がけすべきである、そうでなくてはクライマーでない
という時代は、かなり昔のことになっていますが、日本では、その伝統をいまだにひきづっています。
市民の健全な遊び、レクリエーションとしてのクライミング
は黎明期、といったところです。どう転んだところで、クライミングにはリスクがつきもので、たとえインドアジムであっても死亡事故は起こっています。
ので、リスクをゼロにしたい人は、クライミングをしない以外の選択肢以外ありませんから、ゼロを目指すのは適切な行為ではありませんが、わざとリスクに身をさらす、ということとはまた別の話です。
九州の場合は、指導者の不足もあり、若い人は全く無自覚に、さらさなくてよいリスクに命をさらしています。
たとえば、ボルダーの場合は、ランディングについての注意がゼロです。公に催されているボルダリング大会でも注意喚起ゼロという事例を見ました。つまり、大会主催者もリスク自体を認知できていないのです。
ランディングに十分習熟してから登るというのが、ボルダーの基礎講習です。
また、クラッシュパッドの隙間に落ちて、足をくじくというのが最もポピュラーなボルダーの事故です。
つまり、一人で登っていたら、下でマットを動かしてくれる相手がいないので、かなりリスク大です。ボルダリングこそ多人数で行き、各自がマットを持ち合うというのが安全対策です。
以上、クライミングによる町おこしへの提言でした。