■ 若い人はアルパインもフリーも指導者がいない
最近のジム上がりの新人クライマーはクライミング技術といえば、ムーブのことだと思っており、クライミングを理解していない。
のは、クライマーが書いたクライミングのことを読まないからではないか?と思うんだが…
アルパインクライミングでは、山行報告書の習わしで、文章を書くのが当然の習わしになっているが、フリークライマーは、登攀そのものの時間的にも短いだけに、その登攀の
個人的な価値
について書くことがすくない。そもそも書かれたものが少ないから模倣もし辛い。だから、若いトップクライマーも登攀について語らない。
だから、読む人も少なく、後進の人が登攀の実際のことが分かるようにならないんではないだろうか?
以下、一流のアルパインクライミングと一流のフリークライミングの記録を、事例として研究してみたい。
■ 事例1 アルパインクライミング クワンデ北壁
https://koyaken4852.hatenablog.com/entry/2016/11/30/165211 より引用
赤字当方。
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翌日はお日様がすっかり昇り切ったころの出発となる。ここから第1の核心と思われる右上するジェードルに入っていく。僕がジェードルの入り口までロープを延ばす。双眼鏡で偵察したときはジェードルの下部がこれほど薄氷だということが分からなかった。登れると思えば登れそうだがプロテクションはほとんど取れないのでミスは許されない。傾斜は70~75度くらいだろう。相方が核心に入る。「悪っ」と言いながらジリジリと登っていく。カナダで鍛えた薄氷登りのテクニックを見せてくれる。“よくあんな所を登っていくわ”と僕にとってはひとごと。薄氷の部分さえ抜けてくれれば僕はそのあとの厚く張った氷をリードするだけだ。
今日の行動食はスニッカーズだ。スニッカーズは何度食べてもうまい。3分の1を二口で食べ、3度に分けて食べるのが僕流の食べ方だ。こうすればたくさん食べた気になるし、身体にたくさん吸収されているような気がする。口から入れたものはなるべく吸収して出さないほうが効率がいい?
“くそっ、あんな所で切りやがった”まだロープは余っているのに上部に見えるさらに険悪な薄氷の下でピッチを切った。僕がビレー点に着いたら一言、相方が「お前にも面白いところ残しといたで。」僕も一言「有難う。」“仕方がない、行くか”当然プロテクションは取れない。岩から1箇所と気休めにスカスカ氷に半分しか入らないスクリューを決める。
ここからはピックが1cmほどしか入らないパッチワーク状の薄氷だ。クランポンを置く氷がミシミシと音を立てる。怖くない。落ち着いている。5m、10m取れない。途切れ途切れの厚い氷になり、気休め2号を放つ。次第に氷は厚くなり第1の核心は抜けた。ジェードルは計4ピッチ、上部2ピッチは氷が厚く快適な登りだった。さらに1ピッチ延ばし岩の下にビバークをすることにする。登攀を開始するのが遅かったため6ピッチしか進むことができなかった。お互い「今日のピッチは難しかったからしゃあないわ。」と慰めあう。
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・オブザベして、そもそも、自分が登れるかどうかを判断するものだ、ということがわからないと文章の意味が味わえない
・下部のほうがより危険で落ちれないことが分かっていないと味わえない
・傾斜70度=初心者でも登れる=難易度は、リスクと無関係だと分かっていないと味わえない
・薄い氷=危険と分かっていないと味わえない
・ピッチを切る切り方にクライマーの考えが現れるものだと知らなければ味わえない
・悪い=リスク=面白い が分かっていないと笑えない
・ ピックが1cm=かなり入っている方…女性のわたしだとアックスを振り下ろす力が弱いので、1cm入れば上等です。もっと入らなくても登ります。
・5m、10mのランナウトが悪いと分かっていないと味わえない
・気休め2号 プロテクションの意味が分かっていないと味わえない
・ 6ピッチしか 普通は20ピッチくらいが楽勝だと分かっていないと味わえない
大事なことは文章から、
リスクテイクのあり方がリアルに伝わってくる=手に汗握る
ってことで、そのリスクが分かるには、ある程度、知識と経験が必要です。
トップクライマーでも5m、10mで緊張している=つまり、死を意識している
のに、一般市民クライマーに40mランナウトを期待していたらしいんですよね、九州では…(笑)。今は、20mランナウトくらいだそうですが、
市民が、生涯スポーツとして楽しむのに適したリスクかどうか?
議論が待たれているでしょう。なんせ、
”1億総おれもいつかはピオレドール賞”だった時代
は、とっくに終わって、
”今どきの山や”は、結婚して子供も作る(驚き)
もとっくに終わって、”今だと、
おれ、在宅勤務なんでジム行くことにしました。憧れはマルチでーす(はあと)
って人が新人なんですよ… その時代に
お前も20mランナウトに燃えろよ
って(汗)。
■ 事例2 フリークライミング Romance Dawn 5.14A
Yuta KashikiのFB投稿より引用。赤字当方。
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2023.4.27
8年前に自らボルトを打った地元広島:三倉岳のプロジェクトが登れた。
もともとリングボルトが打たれ、基部はキジ場と化していたこの壁は、フリーでまともに試みた人がいないにも関わらず長年プロジェクトと言われていた、そんなラインだった。
長さこそ全長15m弱程度だが120°は優にある花崗岩のフェイスは日本では稀有な存在で、プロジェクトとして文句無しのビジュアルだった。
実際に上からチェックしてみると奇跡的にホールドは繋がっていて、トップロープながら曲がりなりにもムーブを起こす事が出来たのでボルトを打つ事に決めた。
だがほどなくして仕事の関係で広島を離れる事になった。その片道500kmの現実に事実上通ったり、自分の好きなタイミングやコンディションでトライする事が難しい環境に、本当に終わらす事が出来るのか自信は全く無かった。だが、常に頭の片隅にこのプロジェクトはあった。
内容はショート系のハードルート。
離陸した瞬間からボルダーグレードで2〜3段程度の動きから始まり、息つく間も無く縦に距離感のある人工壁のようなムーブが続く。そして、レストポイントを挟みラストはランナウトした状態でシビアなムーブをこなしてトップアウト。終了点は源助崩れのテラスにある木でよくみんなが荷物を広げている場所だ。妥協点は最小限、自分で言うのも憚れるがコンパクトながら素晴らしい内容だ。
しかし、その恐ろしく難しく感じていたこのプロジェクトだったが、登れる時はあっけなく、澱みなく終わった。月日が経ちどうやら少しは強くなっているようだ。思いがけず突然に終わってしまったのでグレードもはっきり言ってよくわからなくなってしまったが、これまで登ってきたどのショート系の5.13台よりも別次元に難しかった事ははっきりと言える。実際はもっと簡単かも知れない。でもこれから色んなクライマーにトライされ登られ、議論して色んな意見が出ればそれで良いと思う。
昔は自分のクライミングの為だけに通っていたこの山も今では仕事で訪れる事の方が多く、付き合い方も変わってきた。だからこそ、その逆境の中でどうプロジェクトと向き合っていくのか、チャレンジしていくのか考えさせられた気がする。そして苦労して乗り越えられた今、クライマーとしてまた少し成長させてくれたと思う。今も昔も自分のクライミングの原点であり、常に厳しさを教えてくれたホームの岩場、これからもお世話になります。だけど、この自己最難クラスの登攀がこれからのクライミング人生の夜明けであるように
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・フリーで長いこと登られていない、見捨てられたルートの発掘
・長さより、傾斜や難しさ
・ビジュアル
・奇跡的にホールドがつながっている
・課題との付き合い
・登れる自信はなくても頑張る
・ハードかどうかが問題で大きいかどうかは問題ではない
・いろいろなクライマーにトライされ、登られることが価値
・人的成長
・厳しさ、苦労 でも 自己最難
■ アルパイン&フリーの比較とまとめ
アルパインの価値 フリークライミングの価値
大きさ&悪さ 難しさ&見た目
ピッチ数 NA
スピードの速さ 見ているだけも含めた長い付き合い
リスクによって山と向き合う 難しさによって課題と向き合う
核心は悪さ 核心はムーブがつながるかどうか
隔絶 みんなに登ってもらいたい
逆境はスノーシャワー 逆境は仕事
本当に向き合っているのは自分 本当に向き合っているのは自分
おれはこのリスクを取れるのか?と向き合う おれはこの難易度が登れるのかと向き合う
■ まとめ
いかがでしょうか?
フリークライミングは、特に前提知識がなくても、クライマーが向き合っている対象がわかりやすいと思うのですが、アルパインクライミングになると、ある程度の知識がないと、そもそも書かれている文章を読解することができないのではないか?ということが伺えます。
そもそも、文章を通じて、
自分が何と向き合ってきたか?
ということがよく分かる文章が、クライミングに関する文章としては良い文章と言えるのではないかと思いますが、そこには、
価値観
が当然現れており、アルパインクライミングとフリークライミングでは、価値観は全く違います。
アルパインの人は、壁がデカくないから、と言ってバカにしたりしますが、小さくても難しい壁は、日本にはいっぱいある。
一方、フリークライミングの人は、ムーブがつながる、の意味が理解していなかったりします… チビにはムーブ繋がりませんよねぇ?
余談ですが、小鹿野で初登と違うホールドだからって岩のホールドが加工された事件が合ったようですが、初登者の自分に使えないホールドを女性や子供を含む他の人が使えることは普通のことで、リン・ヒルの著作にも、手の大きいクライマーが使えないホールドを使ってリンが登ったことが書かれています。
つまり、課題の岩が奏でる歌は、身長別だったり、手のサイズ順だったり、ってことです。
そんなのビレイ中にクライマーを見ていれば、分かるようになると思うんだけど…。
人工壁をクライミングと教えてしまうと分かるようにならないかも知れませんね。
一般の人バージョン
ジャム中のわたし
フリークライミングは、ボルトルートで覚えるより、トラッドで覚えるほうがやっぱり安全と思う…