2020/03/06

追悼:杉野さんの記事から考察する ”支点整備の方針”

以下、追悼のため、ポイントを整理します。赤字当方。

-----引用‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

大体において、私の場合は、前からルートを整備するということがあまり好きでなかった。

なぜかというと、初登され、発表されて、作品としてルートが公になったものには、初登者のこだわりとか主張とかが感じられるまま、ボルトがさびようが、終了点がなかろうがそのままの状態にしておき、そのルートにトライしたいのだけれどもボルトに不安があると感じた人が初めて、初登者に了解を取った上で打ち替えなどすればいいのではないかと思っていた。
 今となっては、理解できない人の方が多いとは思うのだけど、私は終了点はなくてもいいとすら思っていた時代もあった。(ここでいう終了点とはボルトアンカーなどの岩に残置した支点のこと)終了点は登るためには必要ないからだ。 うわっ何いってるんだこいつ、という声が聞こえてきそうなのでもう書くのやめようか、いや、でももう少し書こう。
 私がクライミングの影響を受けたのは、どうしてもヨセミテで、そして実はジョシュア・ツリーなのでもある。ジョシュアにはルート中、登るために必要な本当に最低限の残置物しかなかった。ナチュラルならその岩には何もなかった。終了点もない。岩の頂上には木もない。大体ナチュプロで終了点を作り、フォローしてもらうか、ロワーダウンで回収したりするのだが、ではその終了点はどうするかというとその岩塔の他のやさしいルートを再度登って回収し、そのルートをクライムダウンするのである。とまあ恐ろしく面倒くさいことをしていたわけだが、でもこれが妙に気持ちいいのだ。今登ったこの岩には人が登った痕跡が全く残らない。
 だから、私のルートは、自分の事しか考えず、どうしても最低限の物資で作られている場合が多い。

 そんな私が、幕岩と城ヶ崎の整備をしようなどといいだしたものだから、D助はそれは驚いていたようだ。
 私が整備をする気になったのには訳がある。
 まず第一に時代は流れているということだ。スーパーイムジンの最後のボルトはどうしてもうち変える気になれないが、上から開拓されたルートなら、ボルトは新しくて頑丈なのに越したことはない。つまりグラウンド・アップで打たれた訳でもないのにその貧弱なボルトを使い続ける理由はないということ。それにレッジ・トゥ・レッジのクライミングの発想どころか意味も薄られてしまった今、終了点のないルートはルートでないといっても過言ではなくなってしまった。
 二つ目として、鳳来での美化活動に少しだけだが関わって、ルート整備(美化)の意味と必要性をあのような方向からも再認識し、カモフラージュされたボルトときれいな終了点を見て妙にスッキリした気分になったこと。そしてやはりJFAの他メンバーによってほとんどケミカルに打ち変えられた城山南壁を見て、それまで感じていたボルトの違和感を感じなくなったこともある。岩場再生という言葉がぴったりだった。
 第三に、自分が講習会で使っているエリアでもあるわけだし、私のような職業の人はすすんでやらなければいけないことだと今更ながら思ったこと。講習会をしながらいつも思っていたこのグチャグチャな汚いスリングの終了点早く何とかしなきゃの思いは、今は岩場のノーモア・スリング運動につながっている。
 そして最後に自分も変わった。スティッククリップも投げ縄ならOK。こうやって人は時代に流されていくものなのですね。
 ジョンバーカーは今でもジョシュアの終了点を抜いて歩いているのだろうか。(わけないか)
 さ、というわけで何日かD助と幕岩、城ヶ崎の整備をおこなってきた。しかしこれはまだ始まったばかり。城ヶ崎などほとんど手つかずのままであるが、気になったことをいくつか書いてみたい。
 シーサイドや二子、鳳来のように、ある程度フリークライミングのことが分かっている人が行く岩場なら何の問題にもならないようなことが、幕岩ではおこっている。
 対物ビレイ全盛の、リングボルト1本で対物ビレイしていた輩に注意した藤原雅一氏が、「アルパインやったこともない人にそんなこと言われたくないね。」と罵られたというのは有名な話だが、そんな時にくらべればここやJ山での、生と死の分岐点博覧会状態は激減したものの、それでもやっぱり終了点のビナは持って行かれてしまうんですね、これが。ひどかったのは幕岩の「蟻さんルート」周辺の終了点だ。
 整備1日目に終了点をチェーンタイプに交換し、カラビナ2枚をとりあえず残置。その3日後再び訪れるとその間は平日だったにもかかわらずきれいさっぱりカラビナはなくなっていた。まあ予想はしていたけどこんなに早く無くなるとはなと思いつつ、今度は終了点の一部であることを強調すべく結束バンドできちきちに固定し、ヤマタケ作製の注意点を記したカード(写真)をチェーンにつけた。今度は大丈夫だろうと新しいロックビナを残置。しかし、その一週間後そのロックビナもあっと言う間になくなってしまったいたのである。このときのD助の落ち込みようといったら無かった。私もこの日は整備する気が失せた。結束バンドから強引に抜き取ったあとを見ると間違って回収したとかは考えられない。あきらかに取ろうとして盗っている。だったらいっそのことFIXEのチェーンごと持っていけばいいのにと思うがそこまではやらないようだ。(やらないか普通)
 このビナや、終了点はみなさんの会費で買ったものだ。それが、当然会員ではないであろう誰かによって持ち去られるというのはまったくもってやるせない気持ちになる。
 それから、やはり気になるのが、終了点リング直がけトップロープ軍団だ。これは、カードを付けなかったJ山ではかなりの人がやっていた。まあ、そうすればいつでも回収できるし気持ちはわかるけど、リングは減るし、他ルートと共有の場合とかロワーダウンできないわけだからやめましょうね。でも、これ読んでる人はすでにそんなこと百も承知なんだよね、読んで欲しい人ほど読まないんだよな、FFみたいなこういう雑誌って・・。
 終了点のセットは難しいことは何もない。それぞれのハンガーにヌンチャクを1本ずつかけてロープを通すだけでいいのだ。よくわからないのが支点を自分で作っておきながらも、リングにも通しちゃってる人。リングや残置ビナは最後に回収するとき以外は空けておいて下さい。
 さあ、というわけでルート整備もまだ始まったばかり。最近整備したルートは別紙の通りだが、まだまだほんの一部。これから城ヶ崎や小川山、そして鳳来と手をひろげていかなければならない。この辺で支点整備の方針をあきらかにしておく必要があるだろう。

ただし、これは私が勝手に考えたもので、JFAの総意ではないので念のため。

1.終了点について
 スリングなど貧弱なものの場合はチェーンタイプにうち変える。
問題は場所だが、基本的にオリジナルの位置を尊重する。
 しかし、ルーフなどでイグジットムーヴがあきらかにそのルートの一要素であり、
そのために終了点を高くしたことによって、深刻なロープドラッグやリップとの擦れなどを起こす場合(以前の「鳳来/クライミングショウ」など)は、初登者と話し合いの末、終了点の位置を変更する。

 そのために、そのルートのオリジナリティが失われてしまう場合は、新規トポや、各メディアなどを通じて「このルートは最後はたちこんで終了とする」といったように情報を伝えることで対処していく。
  
2.プロテクション用のボルトについて
・アンカー
 10mm以上のステンレスで、錆や変形の発生がなく確実に打たれているものならそのまま使用することも考えられるが、それ以外は打ち替え。ハンガーは変形や腐食したものはもちろんだが、形状自体が危険なもの(不必要に大きい、バリがあるなど)も交換したい。
 しかし、比較的やわらかい岩質や、城ヶ崎など腐食の激しいエリアのものは、ケミカルに打ち直す。
・数
 よっぽど理不尽な理由でランナウトを強要するものでなければ、例えロングフォールの危険があろうとも、初登者の意向を尊重し打ち足しは行わない。
(逆に数が不必要に多い場合は、撤去することはありえる)

・場所 
 やはり、場所は基本的にオリジナルの位置を尊重する。ケミカルの場合はできるかぎりオリジナルのボルトを撤去し、その穴を利用して設置する。

同じ場所に打てない場合は、最低でも20cmは離す必要があるので、多少の位置の変更は
 初登者に了承してもらう。また、ロープの流れや岩質の問題上、オリジナルの位置から大きく離れてしまう場合も同様。

 しかし、オリジナルの位置が次の場合は積極的に位置を変更する。

1.あきらかな設置場所のミス
2.最初からドローやスリングが、かかっていることが前提になっている位置決め
3.あきらかに「とりあえず」の位置決めで、それが習慣的に使われてきた場合
4.本来のルートとは無関係な、不自然なクリップムーヴを強いられる場合

以上に該当しないのであれば、そのルートの本質と初登者の意向を尊重し、例えロングフォールの可能性があろうとも大幅な場所の変更は行わない。

初登者が、位置の変更を依頼してきた場合はその限りではないが。

・ボルトや終了点のカモフラージュ

 全ての人工的支点は、一般観光客やハイカーに目立たないよう、
岩と同色にペイントすることなどにより、「適度に」カモフラージュする。

(「適度に」というのは、目の前にあってもわからない位見事にカモフラージュ
されるのも、それはそれで問題だから)


ーーーーーーーーーー以上引用終わり

■ まとめ

昔のクライマーの考え方 

方針
1)ルートを整備するということがあまり好きでない
2)初登者のこだわりとか主張とかが感じられる
3)終了点はなくてもいい
4)終了点は登るためには必要ない

影響を受けた岩場
1)ヨセミテ
2)ジョシュア・ツリー

当時の考え方の結果
ルートは、自分の事しか考えず、どうしても最低限の物資で作られている


《現在の考え方》

現状認識
1)時代は流れている
2)上から開拓されたルートなら、ボルトは新しくて頑丈なのに越したことはない
3)つまりグラウンド・アップで打たれた訳でもないのに、その貧弱なボルトを使い続ける理由はない
4)レッジ・トゥ・レッジのクライミングの発想どころか意味も薄られてしまった
5)終了点のないルートはルートでない
6)講習会で使っているエリア
7)グチャグチャな汚いスリングの終了点が美しくない 
8)ステッククリップOK
9)現代のルート整備は、”整備”ではなく、”岩場美化”であり、”岩場再生”。

影響を受けた岩場
・鳳来
・城山南壁

現在の考え方の結果
カモフラージュされたボルトときれいな終了点

■ 文章から抜き出したあるべき姿

1)シーサイドや二子、鳳来のように、ある程度フリークライミングのことが分かっている人が行く岩場なら何の問題にもならないようなことが、幕岩ではおこっている。

→ 上級者の岩場と入門者の岩場は分けるべき

2)対物ビレイ全盛の、リングボルト1本で対物ビレイしていた輩に注意した藤原雅一氏が、「アルパインやったこともない人にそんなこと言われたくないね。」と罵られたというのは有名な話

→ 九州でも支点ビレイをするクライマーが時代遅れとは気が付いていない。危険だと指摘されても、言うことを聞かない人は昔の山岳会の自慢話をする。

3)生と死の分岐点博覧会状態

→ ノーモアスリング活動

4)終了点のビナは持って行かれてしまうんですね、これが。ひどかったのは幕岩の「蟻さんルート」周辺の終了点

→ 終了点のビナを持って行かない →残置ビナ文化を辞め、結び替え習得させる

5)やはり気になるのが、終了点リング直がけトップロープ軍団

→ ぬんちゃく2本で終了点を作る

■ 方針のまとめ

1.終了点=チェーンタイプ
2.ルーフは要注意
深刻なロープドラッグやリップとの擦れなどを起こす場合、初登者と話し合いの末、終了点の位置を変更する
3.変更がない場合「このルートは最後はたちこんで終了とする」といったように情報を伝える
  
4.プロテクション用  最低10mm以上のステンレス もしくは、ケミカル
5.ロングフォールの危険=OK (※グランドフォールの危険ではない)

6.位置変更
 1.あきらかな設置場所のミス
 2.最初からドローやスリングが、かかっていることが前提
 3.あきらかに「とりあえず」の位置決め
 4.不自然なクリップムーヴ

7.ボルトや終了点は「適度に」カモフラージュする。

以上、まとめ終わり。

■ 考察

印象に残っているのは、やはり、レッジToレッジを基本としなくなったクライミングスタイルのことです。終了点でローワーダウンすることが前提だと、ルーフでロープドラッグが起こってしまい、下からビレイするスタイルだとロープがこすれて危険です。その場合、リードフォローで上で確保したほうが安全です。

去年はしばらくアルパインのオールドクライマーと登っていましたが、オールドクライマーはルート整備をしてくれたとしても、登り方のスタイルが現代のクライマーのスタイルでは、登らないので、ルーフの後に終了点を作ると、ロープがこすれてアブナイ、という発想自体が持てないのだと思います。