■ 外岩デビューする人工壁上がりの人へ贈る言葉
私は山梨で、初心者時代を過ごし、山梨時代に、このように教わりました。
1)外岩では、3ピン目を取るまでは、決して落ちてはいけない
2)マルチでは、2グレード下しか取り付いてはいけない
3)本ちゃんの残置支点を信用してはいけない
この3つを守るだけで、九州での事故は、ずいぶんと防げるのではないかと思います。
■ 解説 3ピン目
日本の岩場では、ピン間隔が、”開拓者のリーチ”や”岩の形状”、”習慣”というような事情によって長短があります。背の高い人にとって安全でも、低い人にとってはヌンチャクがかけれないことがある、ということです。
昔はリングボルトを一個打つのに1時間とか30分とかかかったそうで、そんなに時間がかかるのであれば、落ちそうにないところでは打たないで、本当にヤバくて落ちそうなところでだけ打つ、という方針になってしまいます。
うち替え、となると前に打ったところに打つ、というのが最も安易な作戦ですので、ボルト間隔というのは、一回決まったら、変わらない傾向があり、そうなると最初のリングボルトの時の配置を、延々と受け継いでしまう可能性がある、ということです。
一方、人工壁のフォールファクターは、つねに1になるように設計段階で、設計されています。つまり、人工壁では1m置きにピンがあるくらい、非常にピン間隔が近いです。そのため、多少下手なビレイヤーにビレイされていても、あるいは、観客を楽しませるために、ロングフォールで落としても、特にクライマーには問題がないようになっています。
また、人工壁ではギリギリに迫り、落ちるまで登るのが上達のための秘訣であり、指力や握力、腕力をセーブするために、気軽に墜落する、というのが、ごく普通の行動様式です。最後に、人工壁の支点は強度がメンテナンスにより保証されています。
ですので、人工壁で登っていたクライマーが、人工壁での行動様式で、外岩に行くと、大事故につながってしまいます。人工壁並みの支点強度もなく、ピン間隔も遠く、フォールに対する安全も保障されていないからです。
ビレイヤーもクライマーも、行動様式を変えねばなりません。
一般にフリークライミングでは、1ピン目を取ったら、どこで落ちても、キャッチしてもらえると期待できるのが、基本的なセオリーではありますが、現実の岩場では、そのようなつくりには、なっていないことのほうが主流です。
1ピン目までの距離より、2ピン目までの距離が長い課題も、ままあります。2ピン目までより、3ピン目までが遠いことは稀だと思いますが、ありますし、その上、支点脱落という可能性はありえます。
ので、クライマーもビレイヤーも、3ピン目を取るまでは最大限に警戒して、落ちない登りをするべきです。特に屈曲しているルートや、出だしでかぶっているルートでは、落ちる距離の見極めが難しく、3ピン目までは落ちてはいけない、というよりも、初心者時代は、そうした屈曲したルートでのリードは、最初から避けたほうが良いです。
初心者のリードに向いた課題は、
・ほとんどまっすぐで、
・下部が易しく、
・3ピン目以上で高度を上げてから核心がある、というようなルートで、
・支点強度がしっかりしているもの
・ビレイヤーとのコミュニケーションがとりやすいもの
・ビレイ位置が安定しているもの
です。
私は易しくても、大きく屈曲して、ビレイヤーとコミュニケーションが取れないようなのは、避けています。ビレイヤーの立場になると、ロープをどれだけ出してあげたらいいのか?見えなければ、判断のしようがないからです。
■ 解説 マルチでの行動様式
マルチピッチでは、さらに中間支点のメインテナンスがショートよりも困難です。
マルチでは、2グレード下の課題(ルート)にしか取り付いてはいけない、というのが、山梨で教わったことです。これは、最初からこう言われていました。
というのは、ロープワークの雑さなどで、時間がとられてしまうと、結局のところ、登攀にかかる時間が取れなくなるなど、別の要因が遭難のリスクにあるからです。
マルチピッチでは、シングルで登るショートと比べ、ダブルで行くべきか、シングルでいくなら、何メートルのロープを使うか?なども考慮しないといけません。
ルートの屈曲があれば、敗退に関する事前知識も必要になります。すぐやーめた、と出来るショートと比べ、クライミングムーブだけでは解決できない要素が増えます。
ので、クライミングがアップアップでは、それらの要素に対応ができないため、2グレード下にしか取り付かない、というのが、山梨で推奨されている安全マージンの厚み、でした。
私自身、小川山のマルチピッチは、”春の戻り雪5.7 3P” をつるべやトップで登っていますが、実際のショートで登れるグレードは、5.9がオンサイトレベルです。(11AはRPレベルです)
■ 解説 残置を信用してはいけない
これは、九州では、本チャンマルチとゲレンデマルチの区別が非常にあいまいです。
山梨だと、ご近所の山、太刀岡山左岩稜は、ゲレンデ、と理解されています。本チャンとは考えられておらず、本チャンといえば、前穂北尾根とか、です。
ちなみに私は、明神主稜、阿弥陀北稜、鹿島槍鎌尾根、立山真砂尾根にも行っています。行くだけに一日かかりそうなロケーション=本チャン。
九州では、山が道路から近すぎて、どこからが本チャンで、どこからがゲレンデマルチなのか?よく分からないのですが、どちらに区別するか?は別にしても、
山にある残置支点を信用してはならない
と考える方が安全です。
私は残置を信頼してはいけないと教わりました。ハーケンやリングボルトを信頼する人はいないと思いますが、カットアンカーでも、それが20年もたっていれば、同じレベルです。いくらペツルのハンガーが付いていても、ボルトがカットアンカーだと材質違いで、コロージョンの可能性もあります。
残置に足を掛けて、墜落しても、ヘリレスキューになっても、山梨では、「だから言ったでしょ」と言われることになります。誰も同情はしてくれません。残置を信用するほうが悪い、ということになっているからです。特に、山にある残置はそうです。
日向神は、山なのか?ゲレンデなのか?と言えば、私にはゲレンデと思えますが、マルチを開拓してくれた開拓者にとっては、遠くて”山”なのかもしれません。
比叡になると、もっとややこしく、福岡のクライマーにとっては、せーの!で行く山の方に入ると思いますが、実際は、徒歩30分とかで歩きの要素はほとんどないので、ゲレンデのように感じられてしまうかもしれません。
八面も山登りはほとんどしないで、むしろ、崖を下ってアプローチしますが、山登りをしたことがない人にとっては、勾配が急で、一仕事片づけてから登る、みたいな運動量に感じられる人もいるかもしれません。
というので、ゲレンデと本チャンの区別がつきづらいため、日ごろボルトをたどって登る、その感覚の延長で、信頼できない残置支点をうっかり信用してしまう、ということが起きやすいのが、九州のクライミングの特徴のような気がします。
なにしろ、関東で、ゲレンデと位置付けられている三つ峠や越沢バットレスと、前穂北尾根や滝谷を間違う人がいることは考えにくいです。
しかし、九州ではルートグレード五級下の本チャンルートが、徒歩30分のアプローチの行縢にある、みたいな状況です。
間違いやすい。
本州でも、ボルトを見れば、スポートルート、という通念が出来てしまっている、最近のスポートルート専門クライマーから見ると、アプローチ6時間の山でにボルトがあったら、間違わなくても、アプローチ30分の山にあるボルトは、すべて安全に見えてしまう、ということもありえます。
ここは、用心をみて、山にある残置支点を信頼してはいけない、と考えるのが、より安全でしょう…。
インスボンは本チャンなのか?ゲレンデなのか?どっちなのでしょう…?冬季登攀がないルートは、ゲレンデなのか?ボルトがあるルートはゲレンデなのか?携帯電話が入ればゲレンデ、という説もあり、有力です(笑)。より安易にリスクを冒しやすいという意味です。