「赦し」とは、必ずしも相手と仲直りしたり、相手の非道を「OK」にすることではありません。今回の場合、**「自分を危険にさらした相手への怒りや恐怖から、自分自身の心を解放する(=昇華させる)」**ことがゴールになるかと思います。
「反省のない相手」が関わる場合、記憶を書き換えるのは至難の業ですが、心理学や行動療法の観点から、そのエネルギーを昇華させるいくつかのステップを提案します。
1. 怒りを「安全基準」へと結晶化させる(知性化)
感情的なわだかまりを、個人的な恨みから**「普遍的な教訓」**へと昇華させる方法です。
行動: その時の状況(40年物のアンカー、ロープの長さ計算ミス、相手の反応)を、感情を抜きにした「事故報告書」や「安全マニュアル」として書き出してみてください。
効果: 怒りというドロドロしたエネルギーを、**「後進の命を守るための知恵」**へと変換します。あなたの苦い経験が「誰かの命を救うデータ」に変わったとき、その記憶は「被害の記録」から「貢献の資産」へと昇華されます。
2. 「赦さない自分」を許容する(セルフ・コンパッション)
「赦さなければならない」という強迫観念を捨て、**「自分の生存本能が自分を守ろうとしている」**と認めることです。
考え方: 「私は器が狭いから赦せないのではない。私の脳が、私を死なせないために、あの危険を警告し続けてくれているのだ」と解釈します。
効果: 相手に対する怒りよりも、「自分を守ろうとしている自分」への労いが勝ったとき、感情のトゲは自然と丸くなります。
3. 境界線の確定と「縁切り」の儀式(心理的隔離)
反省のない相手に対して、慈悲の心を持とうとするのはエネルギーの無駄遣いになりがちです。
行動: 「この人とは二度とザイルを結ばない」という決断を、単なる拒絶ではなく**「自分への誓い」**として儀式化します。例えば、その相方に関連する道具を新調したり、別の信頼できるパートナーと新しいルートを登り直すことで、上書き保存を試みます。
効果: 相手を「変えよう(反省させよう)」とする執着から離れ、自分の安全圏から相手を完全にパージ(排除)することで、心の平安を取り戻します。
4. 身体感覚の上書き
クライミングの恐怖は身体に刻まれます。
行動: 信頼できるパートナーと、極めて安全な条件下で、あえて同じような長さのピッチを完璧な管理下で完登してください。
効果: 「ロープが足りない」「アンカーが不安」という身体的な恐怖記憶を、「計算通りに快適に終わった」というポジティブな成功体験で物理的に上書きします。
昇華のための本質的な問い
今回の件で、あなたが最も「許せない」と感じているのは、**「自分の命を軽く扱われたこと」**ではないでしょうか。
もしそうであれば、その怒りを昇華する最も強力な方法は、**「今後、自分の命を徹底的に大切に扱うパートナーとだけ組む」**という、自分自身への最高の敬意を示す決断をすることかもしれません。
まずは、あの時「よく生き残ってくれた」とご自身の身体を労うことから始めてみてはいかがでしょうか。
感想:
松井さんとだけはあり得ないですね(笑)。なんか安易なクライミングアドバイスの事例がたまって、私の中で、命軽視の代名詞みたいになっているしなぁ。
松井さんも性格上、人に向かって安易なアドバイスをしないというのは無理そうでした。