■ ヒマラヤの価値ある登山とは何か?が理解できる本
この本は、クルティカの評伝(他者が伝聞で人物を描いたもの)なのですが、ポーランドのヒマラヤ黄金時代や、クルティカ本人のアルパインの考え方、スタイルへのこだわり、思想などもさることながら、
何がヒマラヤにおいて価値がある登山なのか?
という一般山やには、なんか意味が分からないミステリーになっている部分を明らかにしてくれる本です。
たとえば、大体のヒマラヤの商業登山…公募の登山…は、ただユマールで上がるだけで、どうも、足を前に出す体力だけしかイラナイみたいで、そんなのに何百万も出したいと思います?
よっぽど名誉に飢えていない限り、思わないですよねぇ? 高所遠足、と国内でも揶揄されるくらいだし…。
しかし、聞こえてくるのはそういう山ばかり…お誘いが来るのもそういう山ばかり…(と言っても、そういうのじゃない本格的なのが来ても、能力的に困るんですけど…)みたいなときに、やだな~登山の王道がない山、と思ったら…この本を読むといいです。そうよね~!と思うことができる。
例えば、ギリギリボーイズの皆さんや平出和也さんらなど、ごく少数のきちんとしたクライマーは、どうも楽しいヒマラヤの登攀をやっているみたいだし、それはどういう系譜なのかな?と思うと思いますが…この本を読むと、大体、価値ある登山の意味が明らかになります。
メスナーが包囲法で登ろうとしていることが描かれていたり、トランゴタワーをアメリカのヨセミテクライマーにフリーで登れ、と言ったり、ガッシャブルムⅣ峰のほうが、他の〇峰より、難しいこととか…、そういえば前穂北尾根も、2峰とか楽勝でしたよね… 登山許可をどう取ってきたのか?など…ちょっとした豆知識的なことも分かりますし。
クルティカの登山の足跡を追うように描かれているので、読みやすいです。
晩年、下界のフリークライミングで、ルート開拓とかしているのも、成功したクライマーの王道って感じです。さすがで13Aを含むルートを開拓しています。ヒマラヤニストってフリーはイマイチなのかね?と思っていたら、すごい人はどっち向いてもすごいのみたいでした。
■ 成功したクライマー 山で散る?
山で亡くなる人が余りに多いので、山で散る…がクライマーの成功した生き方なのか?と思ってしまいそうになりますが、そうではない、山でも成功し、人としての成熟としても成功した人生とは、どういうものなのか?ということについて、一つの例を提示している点も興味深いです。
ただ山男は結婚生活はどうもお留守みたいなんですが…。昨今、若いアルパインクライマーはみなさん、家庭を持っており、ほほえましいなぁと、見ていて思っていたりしたのですが、そうれは他人の目からの感想で、自分が奥さんの立場だったら、サイテーの旦那、かもしれません(笑)。クルティカも2度も離婚しています…家庭を顧みない、ということらしい…。
男性クライマーの皆さんは気を付けましょう(笑)。
■ アルパインスタイル、
というスタイルでは、極地法みたいな大勢で登る山はしないのが、最近は忘れ去られているというか… シェルパに工作すべてお任せ、登る人はお金を出して、登らせてもらうだけ、みたいな山になってしまうと悲しいですが、そういう山ではない少人数で、マルチピッチを登る山のスタイルが描かれています。
当時でも、クライマーではなく、トレッカーもいたみたいです。ですよね、海外に行くと、ヒマラヤをトレッキングしてきました…という若い人には、結構良く会います。日本では、なんだかヒマラヤって年を取ってから行くところみたいですけど…。それどころか、登山自体がおじいさん・おばあさんの趣味なのだと大阪OL時代はずっと思っていました。
■ 女性パワー
この本の著者ですが、女性の山岳ジャーナリストです。また、翻訳者も女性。そして、谷口けいさんの言葉が、数か所、箇所引用されています。なんだか、女性パワーを感じます。
ヒマラヤは女性クライマーの活躍もあったエリアですよね。一人友人を思い出しつつ、彼女は元気かな~と思いました。滑落で怪我をしたのち、それから連絡が途絶えてしまっていますが…。
■ 日本の若いクライマー頑張ってほしいなぁ
最後、アマゾンのコメント欄にけんじり君のコメントが出ていました。彼もいい山をする人だったと思いますが…日本のバリエーションルートで小さくまとまっていないで、若い男性はヒマラヤの大きな壁を目指したらいいのかもしれません。まだまだ、未踏の壁はあるのではないでしょうか…。
まぁ、世界的に、冒険は含まれない、スポートルートのほうが流行中のような気がしますが…。
10代後半とか、20代前半の若者に是非読んでもらい、次世代のヒマラヤ、アルパインクライマーに育ってもらいたいなーと思う本でした。
体力一点豪華主義登山とか、グレード一点豪華主義とか、競争主義で、ワールドカップのコンペで勝つのに四苦八苦している場合ではない!って感じです。
人生を楽しまないと、あっという間に年を取って、どこを登る能力もなくなってしまいそうです(笑)。