2023/10/27

【情報提供】ツインで登る・ダブルで登る

 ■ ダブルでもツインでも使えるロープ

世の中は便利なもので、ダブルでも、ツインでも使えるロープっていうのが出ています。

実はインスボンは、ツインで行きました。その時、アイス以外でもツインって便利ね~と思いました。

■ ツインの出番とは?

屈曲がないルートでは、シングルで十分ですが、その場合、マルチでは、2本目のロープをセカンドが背負っていくことになります。

重たい=楽しめないというクライミングの法則があるので、トップもセカンドも双方が楽しんで登るためには、ツインと言う選択肢は良いかもしれません。

コツ)ツインで登る=ビレイヤーが2本目のロープを担いでいく必要がない

おすすめです。

両刀使いのロープであれば、屈曲のあるルートではダブルに変更して使えばよいです。

コツ)ピッチによってダブルに変更もできる (同一ピッチ内でダブル・ツインの混用は危険)

日本の花崗岩では、スラブとクラックが混同されている場合が多いです。スラブは屈曲が多く、クラックはほとんどのケースでまっすぐです。

■ 基本)シングルでしかみんな登ったことがない

「外岩、外岩」と言いますが、外岩クライマーのみんなが、一般的にやっているのは、海外ではクラッギング(Cragging)と言われる行為です。この言葉は日本では普及しておらず、日本ではショート、などと、みんな言います。

クラッギングは、ロッククライミングの中の一形態です。

基本的には、

・車が横付けできたり、携帯電話が入るような、下界に近い、気軽な岩場での行為

・大体20m前後の岩を登っては、ロープにぶら下がって降りる(=ローワーダウン)ということを繰り返す行為

です。

この行為に、日本では明示な名前が名前がついていません。”リード”、と言ったり、”ショート”と言ったり、”外岩”と言ったりで、どれも間違っていないが、どれも、その行為だけを特定的に示す言葉になっておらず、文脈によって使い分けることになっています。したがって発話者は分かっていても、聞く人の知識の度合いによっては、誤解が生まれる余地が大変大きいです。

<用語解説>

リード=自分がトップで登ること。インドアでもリードできるし、マルチピッチでもリードできる。ビレイの対比用語。リードできても、ビレイができない人も多い。余談だが、初心者は、まずは、リードではなく、ビレイを身につけなくてはいけない。

ショート=マルチピッチとの対比で使われる場合が多く、一般的ではない。ショートと言って通じる人は、結構クライミング歴の長い人であることが多い。

外岩=インドアとの区別に用いられるため、ボルダリングでも使う。

と言うようなことになっています。

さて、その岩場で行為はどのようなものか?と言いますと…

【クラッギングとは?】

まず、最低単位2名以上で岩場に行きます。

岩場には、すでにボルトと言われる安全器具があらかじめ、初登者と言われる人たちにより、開拓と言う行為によって打たれています。

そのボルトを使って、一人はリードし、一人はビレイと言われる、安全担保のための行為をし、終了点と言われる金具にロープを掛けます。クライミングはここで終了です。

その後、登りながら手繰ってきたロープに全体重を預け、ビレイヤーにローワーダウンしてもらいます。

岩場では、”課題”(ルートともいう)と言うクライミングの対象が設定されています。安全器具がすでに打たれ、難易度がつけられ、いくつも用意されています。例としては、5.9~5.12が一般的難易度です。

難易度がついているため、一般に、易しい課題から、難しい課題へ、順に登っていきますが、その途中で、能力の限界にきて、落ちることがあるため、ビレイと言う行為で、地面への激突(死や大けがを意味することが多い)を阻止します。

登れなかった場合、そこで安全器具のボルトにぶら下がります。これをハングドッグと言います。ハングドッグがやたら長いクライマーは嫌がられる傾向があります。落ちればアウト、登れれば成功というのが、基本的なゲームルールです。

一度ぶら下がってしまうと、レッドポイントという登りになってしまいます。クライミングというゲームの勝ち負けのルールでは、オンサイト(一発で登れる)がもっとも得点が高い登り方です。レッドポイントとオンサイトでは、全く実力が異なります。オンサイトは、初めて見た課題を全く落ちることなく、一回目から完全に登れるということです。

一般にクライマーたちは次々と難度を上げていくことを目的にしています。

これを海外ではクラッギングと言いますが、日本ではこの言葉は普及していません。

■ さて、この行為の中で学べることは何か?

つまり、クラッギングで学べることは、

 リードクライミング

 ビレイ

 ローワーダウン

 難易度が徐々に高くなっていくムーブ

と言うようなことになります。逆に言えば、それ以外は知らない、と考えるべきでしょう。

つまり、

 盲点1)懸垂下降を知らないで済んでしまう

ことになります。つまり、リードで登れるだけで、一人で岩場から降りる技術は知らないことになる、ということです。

一般にクラッギングの課題は、まっすぐであることが多いので、屈曲があるルートの対応法も知らない場合が多いです。長ぬん、と言われる、長めのクイックドローを使いますが、

 盲点2)屈曲があるルートへの対応法も知らない

も、クラッギングでは、まっすぐなルートだけを登って難易度を上げていくことも可能なので、たとえ、5.12という難度が登れたとしても、知っているだろうと期待することはできません。

このように、クラッギングでショートの課題をレッドポイントと言うスタイルで登って、難易度を上げていく活動を何年繰り返していても、その活動の中に

 懸垂下降や屈曲がるルートへの対処

は出てきません。

それ以外にも、シングルロープ以外を使う機会が全くないので、ダブルやツインの使い方は、学ぶ機会がなく、屈曲したルートでは、長ぬんを使ってロープの流れを良くしないといけない(ロープドラッグを避ける)、なども知る機会がありません。

余談ですが、そのままの知識では、マルチピッチに出るべきではなりということになります。

■ 同音異義語

クライミングは、もともとはロッククライミングでスタートし、細かなカテゴリー…ボルダリングやインドアクライミングに発展してきたので、

 もともとは、皆が共有していた知識

を今も皆が共有している、という前提条件(=無意識)が働いています。

そのため、

 その細分化されたシチュエーションごとに、

 いまだに同じ言葉が使われると、

 具体的アクションや意味がまったく異なる、

ということがあります。

例えば、ストッパーノットと言う言葉では、

A)クラッギング時のストッパーノット=ローワーダウンで確保器からロープがすっぽ抜けるのを防ぐ

B)懸垂下降時のストッパーノット=懸垂下降で確保器からロープがすっぽ抜けるのを防ぐ

A)のストッパーノットは、相手のためです。なければ、デバイスからロープがすっぽ抜け、相手のクライマーが地面に落ちてしまいます。

B)のストッパーノットは自分のため、です。なければ、デバイスからロープがすっぽ抜け、自分が地面に落ちてしまいます。

■ 言葉が使われる文脈にまったく無頓着なクライマーが多数

特に昔からやっている人は、逆に

 経験年数があだ

になって、自分が理解していることが、クライマーとして全員が当然、理解すべきこと、と勘違いしてしまいます。

現代クライミングでは、ほとんどのクライマーが懸垂下降ができない状態で、岩場に来ます。また、5.11なり、5.12をインドアジムで登れるようになってから岩場に来ます。

すると、彼らは、自己申告では「私は5.12が登れます」と言います。これを聞いた側は、昔の常識では、5.12を登れるような人は、各山岳会のトップクライマーであり、当然ベテランの人だったために、5.12が登れるというのなら、大抵のことは理解しているだろうと想定してしまいます。また、10年登ってきました、と言う言葉も同じです。内容がインドアジムであれば、10年登っていても、懸垂下降は知らないです。

しかも、今日では高校生など、5.12という難度は、初めてクライミングした、その日のうちに登ってしまいます。この時代感の格差のために、次のような会話になってしまいます。

現代クライマー:「今度、外岩ご一緒しましょう!」(ベテランと登れば安心だ~) → 期待

旧世代クライマー:「いいですね!」(楽しみな若者だ~)→ 期待

現代クライマー:「〇〇さんはどのくらいを登るんですか?私は5.12を今やってるんですが…」(インドアジムの課題の5.12のこと)

旧世代クライマー:「12かい、それはすごいね。俺は、5.10bでやっとだよ。トップは任せたよ」

後日、岩場で…

現代クライマー:「登りまーす!」…「ローワーダウン、お願いしまーす」

   …旧世代クライマーを見ながら…、”げげ!なんじゃあのビレイ!壁から遠い!”

   → 失望

旧世代クライマー:「了解!」(あいつ、5.12が登れるって言ってたけど、ほんとかなぁ。へっぴり腰じゃんか?)

   → 失望

結果、互いに決裂。これは、相手への期待値が間違っていることに無自覚だったために起こっています。

後で…

現代クライマー:「Aさんってベテランだって言ってたけど、壁から2mも離れたビレイだったんだけど、ほんとにベテランなのかなぁ…」

旧世代クライマー:「Bって、5.12登るって言ったたけど、5.10bで落ちてたぞ?俺のほうが登れるって、どういうことなんだ?」

ということになります。

つまり、話をしているときに前提になっている経験の内容が、全く違うのです。

結局、”群盲、象を評す”、みたいなことになり、結局は双方が相手を悪く思ったまま、別れてしまい、平行線をたどることになります。

■ ロッククライミングやクラッギングという言葉の普及と分類

必要な知識の整理が、権威ある団体から発行される必要があります。

クライミング界は、皆が別々のかなり違う内容を語っているのにも関わらず、下手したら、全部まとめて、一緒くたに”クライミング”と言ったりします。

クライミングと言ってしまうとその指し示す内容が大雑把すぎて、その人の言っていることが、

 どういう行為なのか?

があいまいになり、誤解の元、喧嘩の元、クライマー界内部の分裂の元になっています。

クラッギングと言う言葉が、基本的には、現在最も普及している行為(岩場で20mくらいをボルトルートで登ってローワーダウンで降りるだけの行為)を最も狭義に意味している言葉です。