2022/03/26

入門者向け課題に上級者向けリスクテイクが求められる日本の岩場

 ■ 戦うか逃げるか?

クライミングは、基本的に、疑似的なファイトオアフライト行動を楽しむものです。

戦うか逃げるか反応

これに直面するのは、クライミングでピンチに陥った時です。つまり、登りに行き詰った時。

■ 戦うにおける2大対応

ムーブに行き詰った時、選択肢は3つです。

 1)麻痺する ⇒ 何もできない状態

 2)逃げる ⇒ 安易なハングドッグ、安易なA0

 3)戦う ⇒ ハードプッシュ、あるいはムーブによる解決、エイドによる解決

アルパインでは何としても前進することが肝心の目的なのですから、エイドを出して乗り切るというのは、逃走反応というよりは、冷静な対処、というほうがふさわしいです。

一方、フリークライミングの様式においては、道具なしで登るというのがフリーのフリー足る目的なので、すぐにハングドッグに行ってしまったり、安易にA0してしまうのは、フリーであることをすぐにあきらめた、逃げの反応ということになるでしょう…

しかし、これを複雑にしているのが、ボルトの信頼性の低さ…です。

■ ボルトが信頼できない場合の対処法

たとえば、私の登ったことがある課題では、大蛇山 10cがあります。

この課題は、私が課題について紹介を受けた時点では、ボルトは超怪しく、案の定、というか、のちにJFAによるリボルト対象になりました。

つまり、リボルトされるということは、気楽に墜落は許されないボルトの状態だったということです。

この課題は、私は初見のとき、2撃でしたが、核心部では、私はリーチが短いので、クリップ前に核心をこなさねばならず、だいぶ躊躇して登ったことを覚えています。確実性を上げるには、手順の暗記が必要で、何度か、降りては登る、の登り直しをしました。

このリスクを本人が考えて落ちないように登っているのに、”なんだよ!落ちろよ!!”と言われるのが嫌。基本、余計なお世話です。リスク対応こそが、クライミングのだいご味。

しかも、落ちて怪我をしても責任取るのは、本人。

■ ハードプッシュ一辺倒は危険

このようにボルトが信頼ならない状態では、暗記なしのハードプッシュ、での登りは、おススメできません…。

つまり、人工壁でやるように、ボルトが確実に墜落を支えてくれる前提、という登りは、するべきでない、ということです。

特に古いボルトの場合は、ロシアンルーレット状態になっており、前の人が登って、テンションや墜落に耐えたボルトが、その次の自分の番で耐えてくれるか?というのは、未知数、であり、全国的に問題になっているのは、その未知数性、だからです。

■ ハードプッシュを楽しむならケミカル、もしくは自分で設置したプロテクションで

逆に、ハードプッシュを楽しめるのは、ケミカルのルートです。ボルトが強固ということは、ケミカルうち替えが証明しています。

ハードプッシュを楽しみたい人ほど、ケミカルルートはどこか?と探した方が良いかもしれません。

もちろん、ケミカルだからと言って、ランナウトの問題が是正されているとは限らないのが日本の国内岩場ですので、その点は、別の注意が必要です。

支点の信頼性、ランナウト、の両方の問題点を解決する課題は、

 自分で設置したカム

による登攀です。

■ 実力にあったリスク

この写真は、私のラオスの課題を登っているところですが、見ての通り、離陸ははしごです。

さらに位置ピン目の位置がかなり低いことが見て取れるでしょう…

これはクライミングのリスクにおいて、理にかなっています。

 ・1ピン目を取る前は墜落は許されない

 ・この課題は入門課題であり、入門者には、過大なリスクテイクは求めるべきでない

です。

これは、初級者には初級者に即したリスクの量、が設定されているため、です。

当然ですが、上級者になればなるほど、大きなリスクが取れるようになっていく、というのが、まっとうな成長の流れであり、初級者の段階で、大きなリスクを取らされることは、事故の原因になります。これが日本の岩場で起きていることです。

つまり4級しか登れない人に40mランナウトに耐えるよう、求めること自体が、本末転倒です。

逆に40mランナウトが平気なくらいの人は、6級つまり、デシマル換算で5.12は登れているハズですから、そんな簡単なルートでランナウトすることに関しては、普通はバカバカしさ、しか感じなくなると思われます。

懸けなくて良いところで命を懸ける羽目になるからです。例えば、海外のクライマーをそのようなルートに招待できるか?というと、出来ないですよね?

何が面白しろいの?と言われてしまいそうです。

日本の岩場の問題点は、入門者向けの課題に、上級者向けのリスクテイクが設定されていることです。

しかも、手が届けばリスクは減るということなので、怖くもなく、リスクテイクもしていない人が、より大きなリスクを取らねばならず、恐怖と戦わないといけない、リーチの短い人を馬鹿にしたり、「なんでこんなところで怖がるんだよ」という無理解を押し付けることになっています。

ボルダーをしたことがない人に顕著です。6級のボルダーがシットスタートになったとたんに2段になるのは良くあることです。同じことで、5.9でもホールドに手が届かない人が登れば、もっと上級のムーブが必要、ということになります。

まぁ、日本に限ったことではなく、怖い岩場というのは世界的に多いように思いますが、海外では、そのことが日本のような暗黙知ではなく、明快な、集合知、となっていると思います。ですので、初心者の段階から意識的に自分は、どの程度のリスクを取りたいか?クライマー自身に選択肢が豊富です。

日本の場合は、本人の好むと好まざるとにかかわらず、すべての人が一律の選択肢しか取れない、ということになっています。

日本の場合、このように選択肢がない、という問題があり、インドアクライマーが、徐々に困難度とリスクを並行的に上げつつ、スキルアップができるという岩場が用意されていません。

そうなると、トップロープを手放すということはかなり難しくなります。トップロープ癖というのは、岩場の不備と二人三脚、共依存状態だということです。

ラオスのこの課題は、5c(5.9)くらいの課題ですが、こんなところで、開拓者のプライドだの、初登者の権利だの言っている人は、いません(笑)。

12が中級者であるという現代のレベルから見たら、そんなことにこだわっていること自体が陳腐であるのではないかと思います。

ですので、登る人のスキルに合わせたリスクを課題は設定すべき、という前提を超えて、初登者の権利主張にこだわるのは、過剰な保護であり、権利を主張するところ義務アリ、ですので、死亡や重大事故者に対する補償や、リボルト義務を開拓者には求めていくべきだと思います。現状は、ボルト打ち逃げ、と称しても良いような状況が続いています。

少なくとも、自分の課題での死亡者の存在には、向き合っていく必要が人としてあるでしょう…