2022/03/13

昔の教え方で教えると、クライマーは下手くそにしか登れない

 ■ 昔の教え方 vs 現代の教え方

ずっと考えていることの一つで、昔の教え方vs現代の教え方、というのがある。

 昔の教え方= まだ5.8も登れないうちから、外に連れ出し、リードさせる

 現代の教え方= クライミングジムで、ボルダーなら5級、リードなら5.11が登れる程度の登攀力を上げてから、外岩

私はハイブリッド型というか、クライミングを始めた時から、師匠の鈴木さんがいたので、ジムで、8級とかをやっているときから、アイスボルダーをリードするなどしていた。鈴木さんとは外岩は、三つ峠などのアルパイン系のしか行っていない。小川山のような本格的なフリーの岩場は、鈴木さん自身が登れるところがほとんどなかったからだ。

一方、私はアイスでクライミングをデビューしているので、最初にアイスを教わった指導者は、保科さんだ。白髪鬼を初登した人でも有名だが、アイスクライミングのリードは、湯川のピラーがスイスイ登れるようにならないと許可されない。保科さんは言うまでもないが、日本のトップクライマーだ(った人だ)。

まとめると

 昔の教え方 = 早くからリード

 現代の教え方 = 長い間トップロープ 上手になってからリード

だ。両方経験してみて、結論としては、後者をお勧めする。

理由は、昔の教え方だと、恐怖に手足を縛られている状態で登るので、全く上達しないからだ。

これは、パートナーだった岩田さんがリードしかしないという登りに固執していたせいで、11止まりだったことからも、証明できる。昔の登り方では、努力をしたとしても、11を登れるようになるのがせいぜい、ということなのだ。

これは、恐怖に縛られているためで、いわば、アクセルを踏みながらブレーキを踏んでいる状態だ。

■ ブレーキを外す

自分を振り返ると、ラオスでいきなり上達したが、その理由は恐怖がなかったことによる。ラオスでは、リードしかしていないが。ラオスの岩場はランナウトしていない。つまり、恐怖に縛られながら登らなくて良い、というのが上達の理由だったのだ。

あとはアイスでは、トップロープであってもリードを前提とした登りをしている間は上達しなかった。コンペ向きのスピード重視の登りに変えたとたんに、いきなり上達した。

アイスでは不確実性をゼロにしてリードする。そのためにアックステンションというテクもあるくらいだ。なので、不確実性をゼロにするためには、テスティングという動作が必要になり、これをやっていると、全然スピードは出ない…特に登り始めは落ちれないのでテスティングに時間がかかり、落ちても良い高度まで出てから、スピードが出ることになると、すごく時間がかかる。

コンペではそのようなことはカヤの外、で、とにかく早く終了点についたほうが良い。

まとめると、スポーツ化(ノーリスク化)しないと、上達しない、ということなのだ。

■ 外岩

外岩というのは、一般にジムクライマーからは憧れの対象だが、ジムのリード壁を選ぶように、これを登って、あれを登って、というような具合には登れない、という難点がある。

外の課題は、ランナウト、という問題があり、ランナウトについて、外岩デビュー前に教えておく、という教育は、いまだかつて、どのようなフリークライミングの指導本にも書かれているのを見たことがない。

結論的に言えば、初心者に向いた課題を3年程度は登り続けるべきだ。外岩は、頻度を上げても、せいぜい週1くらいしか行くことができないので、経験による情報量が溜まらないからだ。

・ランナウトしていない

・まっすぐ

・下に核心がない

・テラスなどがない

・ビレイヤーのたつ下地が良い

など、課題を選ぶ条件があるが、これらの条件を満たした課題を登る、というような課題を選ぶ必要性というのは、インドアジムのリード壁では起こらない。

どんな課題でも登って良いようにインドアでは、課題は設定してある。

つまり、5.9と書かれている課題でも、外の岩では、ボルトの配置が悪く、落ちれば死に至ることが必然という配置が頻繁にごく普通に起こっているということだ。

したがって、その対策としては、インドアジムで

・ランナウトがあるために課題のグレードより、命がけである率が高い課題を設定し登る

・屈曲して落ちれない課題をインドアで登る

・下に核心があり落ちれない課題をインドアで登る

・テラスがある課題をわざと作って登る

・まずいビレイヤーで登る

だ。インドアジムは、アウトドアのシミュレーションであるので、文字通りシミュレーションすると、理解ができる。落ちれないビレイヤーつまり、下手くそビレイヤーと登ると、2グレード下しか登れないことが分かるだろう(笑)。

■ グレード感の当たり

昔の教え方をされた人でも、最終的には、5.11は登るようになる。そこから先は成長しないので、経験の長さは、5.11以下がどんどん確実になっていくだけだ。

5.11より上は、(ハングドッグ)と(自動化)で解決する世界になる。おそらく12くらいまではそうだろう。人によっては、筋力の強化が入るだろうが、一般的な男性は、ジムの出現によって、ほとんど苦労せず、たどり着ける。

その上となると、これは標準的な男性でも涙ぐましい努力が必要だということになるだろう。

部活というのは、8-18歳というゴールデンエイジと呼ばれる、吸収力が強い時期に行われる。しかも、ほぼ毎日、ほぼ無料で、という世界で、このような(若さ)と(機会)が揃うことが条件化する。

どちらもえれないとなると、まぁ、5.12以下がどんどん確実になっていくだけだ。ので、日本中がこのレベルに落ち着いている。

■クライミングから、冒険がなくなった

という苦情?をオールドクライマーからは聞くことが多い。

それは、本当ではないのではないだろうか?と思う…

なぜなら、オールドクライマーが言っている冒険の中身が…例えば、比叡のように40メートルランナウト、などだとすると、命知らずだ、ということは言えても、冒険、と言えるのだろうか?

まして、その”冒険”を主張している人たちが、”進化”や”新しいことにチャレンジすること”などを拒んでいる場合、冒険を拒んでいる、とすら見える。

冒険は、危険だけが条件ではない。スタートアップ企業などのように、新たなことにチャレンジする、という側面が強い。

実際日本の岩場で起こっていることは、”新たなことにチャレンジしたくない病”、であり、それが生んだ症状が、”最新情報への無知=いまだにカットアンカー症候群”であり、むしろ、そこから、冒険は蝕まれていると思える。

クライマーよ、進化を求めよ!

その進化は、ロジンの性能追及に向けるものではないのですぞ!