■ ケミカルへの抵抗感
一般にオールドクライマーが開拓者のことが多いこの業界で、ケミカルへの打ち替えが進まない理由は、
オーバースペック感
というのがあると思います。クライマーの文化の中に、
過剰な安全を好まない文化
というのがあるのは、事実です。
何しろ、ボルト数を減らそうというのが根底思想。もともと打つのが手打ちのジャンピングで1つ打つだけでも大変だった、という歴史的理由からですが、岩を保護する、という観点からも、人工壁並みに1m置きに打ってあるとやっぱり変だなって感じです。
■ 景観への配慮
ケミカルが推奨される、強い理由の一つは、昨今のアクセス問題のことがあるようです。
天然記念物にくさび問題、に端的にみられたように、クライミングが大衆化していくプロセスで、今まで普通に登られていた場所が、”え?!ボルト打ってある!いいのか!!”と社会の目…批判的な目のこともある…を向けられるようになった、という事情です。
昔はハーケンで、目立たなかったものが、打ち替えで、ピカピカのペツルになってしまえば?
目立ちます。
そして、不必要な注目… ”器物破損じゃないの~?”などを生んでしまいます。
クライマー目線で言えば、危険極まりないハーケンを安全安心なボルトに打ち換えるというのは、打ち換えてくれたクライマーにとっては、何も得るものはなく
善意以外の何物でもなく、
本当にありがたいお方、なのですが、それは、同時に社会的にみると、
犯罪
ということになってしまいます。究極のババですね…。善意のリボルトクライマーが、犯罪歴付きになってしまいます。
■ アクセス問題、という単語だけで 忌避感 があります(--;)
アクセス問題を解決する、アクセスファンド、が日本にはありませんが、アクセス問題は、おそらくアメリカでも、相当厄介な感じに受け取られている問題だと思います。
なにしろ、ラオスで登った時、どうもドイツ国内には、すでにアクセス問題を抱えず、楽しく登れる場がないから、ラオスに開拓に行ったという感じなのではないか?とうかがえたんですよね。それは、世界のクライマーの雰囲気で分かりました。
アメリカ人クライマーたちも、大勢がラオスに来ていましたが、アクセス、という単語を聞くだけで、及び腰モードな感じでした。
雰囲気は、誰も寄り付きたくない分野、みたいな?
しかし、誰かが許可を取らない限り、みんなで登る岩場は確保されません。
■ 日本百岩場に載っている岩場でも…
このような忌避感のためか、日本百岩場というきちんと印刷された本に載っている岩場であってすら、
使用許可の受領
は、
口約束
だったりして、かなりいいかげんなものであるそうです。その辺に野良仕事をしていた、おじさんに聞いたら、「いいよ、いいよ」と言われた、とか。
そのようないい加減なものであったり、きちんとしていたとしても、
30年前の許可で、すでに許可をくれた人が亡くなっていたり
ということで、基本的にもう一度取り直さないといけないことのほうが多いのだと。
■ 支点のカモフラージュがマナー化しています
上記のような理由で、アクセス問題が浮上してくると、地権者やほかの利用者へ配慮して
登らせていただいている
という姿勢が大事になります。そうなるとクライマー自身のマナーだけでなく、ボルトのも、マナーとして、
目立たないボルト
ということが重要になります。
ハンガーがないケミカルは目立たない点で非常に有利だ、
ということです。何しろ目立ちませんので。ラッカーなどでのカモフラージュも可能だそうです。
という事情で、岩場のアクセス問題の有無によっては、新規開拓であっても、グージョンで打つよりも、ケミカルのほうが採用に適している、ということになります。
■ 施工が難しい
しかし、欠点もあり、施工が難しいということです。施工者のスキルによりばらつきがある、ということ。それで、
リボルト職人、
という職位を設けて、きちんと責任をもってケミカルボルトを打つことができる人を育成している、という訳なんですね。
施工の難しさについては、どのボルトも同じですが、
下穴が大きすぎれば、当然、抜けます。
粉塵の洗浄が十分でない場合も、同様に抜けやすくなるので、丁寧な施工をするという細やかな配慮が必要です。
■ まとめ
上記に加え、ケミカルボルトには、他にも利点があります。
1)目立たない
2)部品点数が少ない …部品の数が少なく、コロージョンの影響がない
3)カラビナに優しい
4)強度が強い 40kN
逆に、欠点もあります。
1)1本1600円と高価 …接着剤分は除く、です
2)施工が難しい … リボルト職人検定で対策中です
3)逆クリップが許されない
4)粘りがない … 破断するときは唐突
です。
とくに逆クリップに関しては、これだけを取り上げて書いておいた方が良いと思いますので、別の記事にします。