■ 大前提
クライミングにおいては、ビレイヤーは命の保険。
クライマーはビレイヤーが信用できないと登れない。
このことは、私はまだ登山しかしていない時代に、先輩に教えられた。(でも、教えられなくても、クライミングの本にも書いてありました)
だから、別の先輩が初心者の私をビレイヤーに任命して限界グレードにチャレンジしたときは、非常に光栄に思った。
”これはお役目重大!”と思い、ロープに全身全霊を込めて、ビレイした。ちょっとの揺らぎも見落とすまいと、ロープから相手の息づかいを感じようと努めた。
■ 原則
1) クライマーがビレイヤーを選ぶ
ビレイヤーはクライミングギアである。クライマー側が選ぶものである
2) トップロープ
一般に初めて組む人のビレイが安心できるかどうかの見極めは極めて難しい。
そのため、初めてのビレイヤーにはトップロープのビレイを最初はお願いする。
3) 誘った側がリードする
基本的に登りに行くのですから、誘った側が行きたい場所や課題があるのが普通です。
逆に言うとリードする気がないのに誘うと、”わかっていない人だな~”と思われます。
ビレイヤーは品薄なので、良いビレイヤーであれば、自然と誘いがかかるでしょう。
4) 3人以上
慣れるまでクライミングは
3人以上です。
一人が落ちて怪我したとき、どうしますか?レスキュー、救急救命の心得はあるか?Yes/No?
私は山岳会に所属していましたが、まったく初めての人を、私一人で岩場に連れて行ったら、なんと先輩が同じ日にしれっ~と岩場に勢ぞろいしていました。それで一瞬にして理解しました。
新人の私は、岩場に初心者が二人だけで行くのが危ない行為だとは気が付いていなかったからです。クライミングの最小単位は2名ですが、怪我のリスクが初心者ほど高く、いったん事故が起こると2名では、リスクが高いです。最低一人が事故者に付きそい、一人が伝令で走る、くらいの用心が必要です。
5) 岩場の知識が必要
岩場には、それぞれの岩場固有の問題がある。
例: 小川山レイバックは5.9の入門レベルのクラックだが、墜落で腰椎骨折した人もいる。
斜上に上がる課題は、振られるため、ビレイが難しく、プロテクションのセットも難しい。
初心者のリードに向いた課題 = 直上でボルト間隔が短く、ペツルもしくはケミカル
なおかつ、核心部が出だしにはない
これらを理解するには、(岩を見る目) vs (TRでやったことがあるという経験) のどちらかが最低必要。
そうでなければ、5.9であっても、ななめ上に向かっている課題で、落ち、ビレイヤーの方も上手な落とし方、止め方が分かっていないので、クリアランスを確保できず、岩に体をぶつけてしまったりする。
6) 適期
岩場には、それぞれ固有の適期がある。知らない=初心者。
例: 城山や湯河原は冬。甲府周辺の岩場は真冬。
・真夏はスラブは向かない。
・雨上がりはクラックは乾きが遅い。
・標高の低いエリアは、真夏・真冬は向かない
・シーズン初めはラクが多い
・岩質により、登りやすさにばらつきがある
・花崗岩でも、あまり登られていない瑞牆や昇仙峡と小川山では悪さに違いがある
・ランナウト
・開拓者の好みによる違い
・ボルトの感覚と種類(リングボルトのルートにテンションかけかけはない。ペツル、ケミカル)
・終了点の整備具合
7) 終了点
外の岩に行く前に、終了点の勉強が必要です。
外の岩には、人工壁のような強固な終了点があるわけでもなく、足場も悪いので、慌てて終了点を作れない、となると、そのままフォールになる。
したがって、(終了点の知識)、(慌てない性格)、(危険を見極める目)などが必要。
8) アンカー知識
外の岩に行く前に、ビレイヤーのセルフの理解が必要です。
ビレイヤーのセルフは、パーティ全体の最後の砦。いつもいいビレイ位置が選べるわけではない。
9)ビレイヤーの見極め
外の岩に行く前に、ビレイヤーの見極めが必要。
■ ビレイヤーの見極め方
ビレイヤーは、クライミングにおいてはクライミングギアである。不良品を掴むと、フォールした時に墜落を止めてもらえない。
1) 制動手が下になっている
(確保器の基本的な使い方を誤認している人)や
(確保器の取り扱い説明書を読んでいない人)は、制動する手が
上になっている。
制動する手が上だと、屈曲による力の倍率減少で衝撃を吸収する仕組みなので、その仕組みが働かず、墜落した時にロープが流れてしまう。
2) 繰り出しが遅くない
遅い=
クライマーの動きを見ていない。
ただし、慎重なビレイヤーは、最初の3ピン目まではタイト気味に出すので、クライマー側もクリップ時に「ロープ」「出して」などと声を掛けるべきである。
私はジムで登るとき、1、2、3ピン目まではタイトでも、腹は立たない。慎重なビレイヤーの証だと思っている。
3) 立ち位置が間違っていない
基本は1ピン目の真下
4) だらりんビレイになっていない
だらりんだとグランドします。パツパツだと、登りにくいです。
5) トップロープのビレイで、パツパツビレイをしない
トップロープのビレイである程度ビレイ習熟度は分かります。パツパツに引くビレイをする人だと、ロープで引っ張り上げようと思っている=クライミングを誤解している 可能性があります。
TRのビレイで、あまりパツパツに引くと、クライミングできません。基本はクライマーが登って、ロープが弛んだら、その弛み分だけを引く。
6) トップロープでも座ってビレイしていない
座ってビレイはないです。
7) 制動確保を理解している
落下係数0、落下係数1、落下係数2の違いが分かっていないと、ただパツパツに引くだけのビレイになり、しかも、落下係数2のときに、「テンション」と言われても、「ちょっとクライムダウンして」と返事をしない。
落下係数2のときに、クライムダウンしないで、テンションしたら、落とされます。
8) ロープを足にかけても何もいわない
ロープをまたいでしまって足にかけると、墜ちたとき頭が下になります。 クライマーがロープをまたいでいるのに、それを指摘しないビレイヤーは、ビレイヤーとしての資格が不十分です。
9) ロープの交差
ロープは、擦過に弱く、こすれると切れます。ロープ同士が交差すると、擦過が起きます。
10) 逆ぬん
逆クリップについて指摘しないビレイヤーはダメビレイヤーです。
11) Z
ついZになることがあります。すぐに登れなくなりますが、下からゼットを指摘してやるのが普通のことです。
12) ロープの伸び
ロープは伸びるロープ、伸びないロープがあります。伸びるロープならガツンと止め、伸びないロープなら多少は出してもらわないと衝撃緩和できません。衝撃荷重が支点にかかると、支点崩壊の可能性があります。
テンション(静荷重)しながら登るなら、伸びないロープがいいです。
また、プーリー現象についても理解している必要があります。
人にもらったロープを使っていると、これらのことについては理解していないということが察せられます。
なぜなら、通常、衝撃荷重が何度もかかって、ロープが痛み危険になってくると、黄色信号くらいで、人にあげることになっているからです(笑)。
クライミングでは使いたくないロープでも、初心者のロープワークの練習用やフィックスロープ用なら十分な強度だからです。
したがって、自分のロープを買う気になった=リードの危険を理解するようになった=リードデビューして良い=外岩デビューして良い時期、という考え方もできます。
13) ゼロピン目、1ピン目を分かっている
1ピン目を取る前まではビレイなしと同じです。1ピン目で落ちるようなクライミングはダメです。1ピン目で落ちるような場合は、まだトップロープで登るべきということです。
14) 被りについて分かっている
被っていると、トップロープでは登りにくいです。落ちたら終わり。
15) 回収について、分かっている
ぬんちゃくの回収は、技術です。
16) ローワーダウンが、きちんと両手になっている
片手というのはないです
17) ビレイグローブをしている
流れ出したロープは、素手では止められないです。
ロープバーンの経験がないと、ビレイグローブをしないかもしれない。トップロープなら、あまり気にしないですが、シビアなリードでは気になります。
18) 体重差について分かっている (ダイナミックビレイになる)
体重が軽い相手と体重が重い相手よりも、大体同じくらいが良い。軽いほうはジャンプして止めれば、衝撃緩和になる
19) ハーネスの着用の仕方
墜落時の衝撃について分かっている人=腰骨より上
ファッションでハーネスをしている人=腰パン状態
ハーネスはきちんとウエストで締めないと頭が下になって、ハーネスからすっぽ抜けてグランドする可能性があります。
19) 墜落停止の経験がある
墜落を止めた経験がないビレイヤーは、墜落停止自体にビビッていたりする。一度でも止めていると、止めることが普通のことになる。
「制動手は死んでも離してはいけない」と教わりました。 持ちかえで、下の手を放す人は、その瞬間にクライマーが落ちたら、止めれません。
■ ビレイはクリエイティブな技術
ビレイは、クリエイティブな技術です。
クリアランスとロープの伸び、衝撃吸収を計算してないと、適切なビレイができません。
岩棚があれば、落ちて、そこに当たるような距離なら、タイト目に出します。かぶっていてタイト目に出すと、岩に激突するようなら緩目に出します。トラバースでパツパツに出すと、登れるものも登れません。
■ 充分なリード経験
(ビレイの精妙さ)について理解するには、(リードクライマーとしての危険認知力)が前提です。
もっとあると思いますが、とりあえず思いつくままにビレイについて書きました。
ビレイがこのような細かな配慮を必要とするということについて、きちんと理解ができるという理解が、何によって発生するか?というと、リードクライミングです。
自分がリードクライマーとして登るときに、
今、落ちたらどうなるか?
ときちんと危険の認知ができる、ということです。
そうでなければ、逆の立場になった時に、アブナイか危なくないかの判断ができません。
したがって、トップロープだけで登っているクライマーだと、危険の認知が十分でない場合があり、トップロープのビレイは良くても、リードのビレイは任せられない場合が多いです。
したがって、ビレイヤーとしての資格が十分かどうか、というのは、リード経験が豊富かどうか?にも、かなりの部分で関係してきます。
■ 裏返し
つまり、リードで学ぶべきことを学び終わっている必要があります。
1)1ピン目ですぐ落ちる → まだリードデビューは早すぎる
1ピン目で落ちると、どんなに優れたビレイヤーでも止めれない可能性がありますから、1ピン目で落ちるようなクライミングは、トップロープでもできるだけしないようにしないといけません。
例外もあり、わざと落ちてビレイヤーのスキルを試す場合もあります。
2) 3ピン目まで緊張
今落ちてグランドするかどうか、で、緊張の具合が代わってくるのが当然です
3) 被ってきたら安心
被ってきたら、クライミングは難しくなりますが、落ちても安心になります
4) トラバースなら緊張
トラバースは、落ちたとき、振られることがあるので、タイト目に引かれると、岩にぶつかるし、かといって出しすぎだと、振られ幅が大きいし、ビレイは難しいです。
5) 高ければ安心
高度があがると怖くはなりますが、グランドの可能性は減って行きます
6) 声が聞こえるか
声が聞こえないと、リスク増
7) ラク
良く登られている岩場=ラクが少ない
上が登山道 =ラクがある
ラクについて見極めができない場合は、ヘルメット着用。
ロープをまたいでしまうなど、頭が下になって落ちる可能性がある場合も、ヘルメット着用。
■ 経験とは洞察力(推理)
(制動手が上になっているビレイヤー)や(クライマー側とビレイヤー側を反対にセットしているビレイヤー)を見て、その人が(取扱い説明書を読んでいなかもしれないこと)が推理できます。
(取扱説明書を読んでいない)ということは、その人が(ただ単純に無知である)ということを示すだけでなく、もしかしたら、(そもそも、クライマーの命を預かっている責任感自体がない可能性)があることを意味します。
仮に、それが事実だった場合、(仲間としてふさわしいか?)は、個人の価値観によります。
(無責任な人に命を預けるかどうか?)についても、(クライマーの自己責任)です。
(ハーネスが腰パン状態のクライマー)を見て、(まだ初心者だな)と察します。逆に(しっかりウエストの位置で締められてるハーネス)を見て、(熟練と経験)を察します。
(ビレイヤーが確保器を交換)したら、「ロープ径が合わなかったですか?」と聞きます。太いロープには、スリットの幅の大きな確保器でないと、流れが悪いです。逆に細径のロープであれば、スリットが大きいとフリクションが足りず流れすぎます。こうした所作は、信頼できるビレイヤーの証です。
太いロープなら、クライマーとしては流れが悪いだろうと想像し、細いロープなら、伸びすぎて落ちる場所に注意が要ります。そのため、リードクライマーは慣れている自分のロープで登りたいものです。
クライミングに(自分のロープを持ってこない)人は、(それら危険とリスクを回避するのがクライマーの自己責任であることをまだ理解していない)人です。ロープは命綱です。
ガイドさんの講習に出ても、自分のロープで登る人がいるくらいの世界です。(由来の分かっていないロープ)は、危険です。内部の痛みは、外皮を外してみないと分かりません。ショックが掛かったロープは、外皮と中身がずれています。
一緒に登る人の様子を見て、意図を理解できるようになるのには、クライミングに対する興味(理解しようとする心)と、(実際の場数)が必要です。
場数がないのは、誰にもあることですから、その状態の時は、経験者に連れて行ってもらい、そこからできるだけ多くを学ぼうとすることが大事です。
ちなみに、3回連れて行ってもらって学んでいない人は、クライミングには素養がないと思います。
≪参考記事≫
アメリカンアルパインクラブのビレイ解説