2025/10/26

初心者向けにトポの改定を

 日本ではクライミング事故隠ぺい体質が利得になっている件について

日本のロッククライミング界では、事故が隠蔽されている。

その隠ぺい体質には、事故が発覚すれば、地主によって、岩場が閉鎖されるかもしれないという恐れが根拠にあり、そのため、見られてはまずいことは、言わない、隠し通す、という体質にあり、結果として、事故対策に真正面を切って向き合う、対策する、ということは、後手後手に回っている。

日本が後手に回っている証左としては、アメリカではAAC(アメリカアルパインクラブ)が事故調査レポートを冊子にして毎年出版しており、アマゾンで入手可能だが、同等のものは、日本では発行されていない、という事実がある。

岩場で起きた死亡事故は、警察の統計には載るかもしれないが、実際は、クライミングコミュニティに周知されることはなく、延々と同じ過ちで死ぬ人が絶えない。

この事実は、例えば、関西にある非常に有名な危険ルート、斜陽の事例でも、ネット上でも明らかになっている。このルートは私が知った時点では、6件の重大事故を起こしている。検索してみてほしい。

https://kkinet.sakura.ne.jp/oshirase/2016/160308_iwabamondai-osirase.pdf


しかし、これは、単に代表的な事例、と言うことであり、全国各地に類似した課題は多く放置されている。例えば九州では、インディアンサマーを知った。その他、多くの岩場で、同類のルートが放置されていると思われる。

従って、外岩にデビューする前のインドアジムのクライマーには、このような課題の存在が放置されていることを教えなくてはならない。ケーススタディでクライミングを教えるとしたら、非常に有効なケースが斜陽だ。

問題の本質は何か?本末転倒

この問題の根本を一言で言い表せば、

 実力に不相応なリスクが、課題そのものに設定してある、

ということだ。

初心者向けルートの5.9には、5.9のクライミングムーブがこなせる実力の人が取れる以上の上級者向けのリスクが設定されている一方、より高度なルート5.12には、5.12のクライミングムーブがこなせる人にしては、全くゼロと言ってよいリスクしか設定されていないことが通例だ。誤解を恐れずに単純化すれば、
 
 5.9は危険で、5.12は安全、

ということになっている。

その本末転倒が、昨今のジム上がりクライマーと出会うとき、事故が起きている。

私自身はジム上がりではない。初心者で成人でクライミングに遭遇した。また、同じくジム上がりではない、山梨〇ルパインクラブで出会った(しかし、彼の経験値は詳しくは知らない)クライマーと各地の岩場を登った経験から顧みて、”登山のステップアップとして、アルパインクライミングへ進み、その後フリークライミングに進んだ、一般的な身長の男性”にとっても、低グレードをそのグレード一杯一杯の登攀力で登るほうが、より大きなリスクを背負って登らないといけないということは、理解が難しいようだった。

理解が難しいため、低グレードを登る相手を臆病者だと言って、馬鹿にし、あおられてムキになったクライマーが無理をして、事故になる、という精神的な構造がある。この手のあおりは男性社会では一般的で、これで競争し合っているともいえる。その結果、重大事故になっている。
また、ここでは深くふれないが、自分は臆病者ではないということを示すための記録、というものも実際ある。

低グレードのほうが危険な原因は何か?

この原因は何か?というと、私のクライミングメンターであったクライミング歴40年のクライマーの様子から考えると、指導者側がマルチピッチをフォローで登った経験の少なさ、だ。

マルチのフォロー経験が少ないと、組んでいる相方の身長への理解が乏しくなる。相手のリードクライマーの身長で取れる、ハンドホールドの高さを実感として持てない、ということだ。

一般的には相手の立場を考える能力というのは、知性と正比例であり、もともと自分のことしか考えられない性格の人は、相手の立場に自分を置いて、考えてみる、ということが、そもそもできないそうである。

時代は変わり、今は誰もがクライミングをするようになった。

したがって、これまでの慣行では、事故が増えることになった。

昔は、18歳男子大学生というのが、”新人”の典型的な姿であった。つまり、運動能力としては最大期の男性だ。つまり、兵役に出るくらい、生きの良い奴ってことだ。

しかし、現在では、20~30代男子が多いとはいえ、下は10歳程度から、上は70代まで、多種多様な老若男女が登る。一般市民だ。

そこで、多様な能力を持つ初心者(いや、昔ほど能力が高くない初心者というべきか…?)が台頭してきたのであるから、インフォームド・ディディジョン・メイキングができることが大事になるが、そのような情報提供が、日本ではされていない。

これでは、初心者側は、自己責任を全うした判断ができず、盲目的に危険に追い込まれることになっている。

対策: ボルト本数に注意を払おう

これはトポ(ガイドブック)の書き方に表現されており、海外のトポは、課題ルートの高さとともに

 ボルトの本数

が記入されているのが普通だ。

日本のクライミングガイドブックにはボルトの本数は記載されていないことのほうが多い。

したがって、安全と非安全を分ける肝心の中間支点の数は、示されていない。この時点でルート選択に対して、日本側のかなりアンフェアな姿勢が見て取れる。

海外クライマーは初心者同士であっても安心して岩場に出向く。これはクライマー同士の助け合いで、安全が互いに持ちつ持たれつされているからだ。

一方、日本では文化的にこれがなく、しかも、高グレードを登る者のほうが偉いという盲目的な価値観により、実際はより小さなリスクしか背負っていない側(5.12の側)が、岩場で大きな顔をしていることのほうが多い。

単純化すれば、強い者が弱者を虐げている、ということだが、結果的にこれで、排他的グループを形成している。

この排他的であることの自己正当化に、そのほうが事故が減るから良い、という欺瞞が使われている。

その結果、外岩クライマーというある種の特権グループが非言語に形成されることになっている。

これが不健全であることは言うまでもないだろう。

さて、このようなことが起こるのは、根本的には、ボルトが遠く、リスクを含んだ名作課題、事例としては、ニンジャと、ただボルトが遠いだけで名作でも何でもないルート、事例としては斜陽、との区別がつかず、名作ニンジャを擁護するために、不出来な斜陽をも擁護しないといけない論理構造に陥っているからだ。

さらに違いは、名作のほうは、ボルトが遠いことが認知されてクライマーは挑むことになるが、駄作のほうは、登る側にその認知がないことだ。

日本のクライミング界に必要なのは、

 ただボルト配置が悪いがために、そのグレードにしては過大なリスクが”告知なく”設定されている駄作課題

 ボルトの遠さも含めた名ルート

との区別だ。

前敲で紹介したが、小川山で、5.7などで良く登られている人気ルートは、”ボルトの遠さを含めた名ルート”のほうである。(例:川上小唄 5.7)

つまり、初心者は名ルートではなく、ボルトが適切なルート、を登らないといけない。

初心者向きのルート選択の方法が、きちんと指導者側から、初心者側に適切に伝えられていない。

ちなみに、初心者向きのルート選択方法は、以下だ。

ロッククライミング初心者向けルート選択法


・ボルト間隔が適切で、
・グレードが適切であり、
・どこで落ちてもグランドフォールすることなく(どこでも落ちる可能性があるのが初心者です)
・ビレイをする場所が安定しており、下地が良い
・下部核心ではなく、(下部核心だと、適切なビレイをしても、グランドフォールの危険がある)
・低身長のクライマーに対しては、たぐり落ちのリスクがなく
・素直に直上しており、クイックドローの工夫が必要ない(初心者は長ぬんで伸ばしてロープの流れを作る必要があることを知らない)

注意事項として、長いルートは、そのグレードにしてはムーブが易しく、登りやすいが、ロープのすっぽ抜け防止のために、50m以上のロープが推奨。

50m以上というのは、昔のロープは40mしかなかったため。日本の古い岩場では、登れる距離は必然的に、その半分の20mであり、大体の日本の岩場では、20mの高さが標準的だからだ。新しい岩場で、20m以上の課題を登る場合は、用心が必要だが、50mあれば、すっぽ抜けのリスクは、ほぼカバーされる。60mあれば、国内岩場で登れないルートはほぼないだろう。

まとめ

インドアジムのクライミング経験者が外岩にデビューする場合、課題を選ぶには、

ボルトの本数が多いルート

1ピン目が遠くないルート

を選ぶ。ほかにも重要な選択項目がある。

日本のトポには、不備があり、このような情報は、意図的サボタージュも含めて、あえて提供されていない。