🎭 プロローグ:居場所を求めて
30代のOLである 姉の葵(あおい) は、純粋に登山とクライミングを極めたいと願っていた。しかし、現実の登山界は、恋愛や社交目的で集う「出会いの場」、あるいは古参が牛耳る閉鎖的な「伝統の場」ばかりだった。女とみると、陳腐化した登山技術を引っ提げて、葵の気を引こうと、アタックしてくるオヤジには事欠かない。
同じ志を持つ 弟の悠真(ゆうま) と、二人で様々な山岳会の門を叩くが、どこへ行っても 「場違いな異物」 扱いされた。
「あなた、何個目?」「山を、頑張る?そんなの面白くないよ」
「クライミングをやるなら、スポンサーをつけてコンペにでも出たら?」
「恋愛もせずに登るだけなんて、何が楽しいの?」
「緩くやろうよ、山で宴会、サイコー!」
どこへ行っても、二人の山に対して真摯に取り組む姿勢・・・レスキュー訓練やロープワークへの固執、山行計画書の作成などは、理解されず、そんなことイラナイとばかりに、嫉妬や揶揄の対象になった。
🔥 試練①:孤独な決断
「もう、どこにも所属できる場所がないわ。悠馬、わたしたち、どうする?」
「会に入る必要はないよ。逆に危険が増すだけだよ、葵」
「そうね、仕方ないわ」
葵と悠真は、しかたなく、結局 二人だけで登る という選択をする。
しかし、孤高の道は、厳しかった。
山岳会に所属していれば、ロープワークやセルフレスキュー、雪山の読図などは仲間に頼れた。しかし、独立するということは、すべてを 自分たちだけで習得する ということだった。
🔥 試練②:師を求めて
各種の講習会に参加した二人は、どうしても独学では限界があることを悟る。
知識は得れても実践する場がえられないのだ。
そこで、現代のトップアルパインクライマーたちのもとへ足を運び、直接指導を仰ぐことにした。しかし、それは決して簡単なことではなかった。
あるクライマーには 「お前らみたいな素人に教えてる暇はない」 と冷たくあしらわれ、別のクライマーには 「金を払うならいいよ」 と商売扱いされた。
それでも諦めず、本気の覚悟を見せ続けた結果、ようやく一人の 伝説的なクライマー が彼らを受け入れる。
「葵君は、岩屋の後輩なんやな。ほな、話ができそうや」
「お前ら、どうしても登りたいんだな?」
「なら、俺が 教えてやる」
そこから始まったのが、葵と悠馬の山ヤ修行だった。
- クラックでの膝と肘をすりむきながらの、必死のクライミング
- ー17度の環境で、氷壁に張りつきながら登る、アイスクライミング
- ロープが絡まりながらのセルフレスキュー訓練
- 保険のロープもなしの、頭が下の体勢からの滑落停止@七倉沢
- -17度なのに無雪期用シュラフでのビバーク訓練
- ごうごうと音を立てて流れている中州で、雨が降りしきる中での沢でのレスキュー訓練
- 厳冬期富士山6合目での滑落停止
- 一晩で1.2mの豪雪が降る中での冬季雪洞泊・・・
- そして雪崩に埋設しながらのビーコンプルービング
それは、「山岳会のゆるいトレーニング」ではなく、本当に 命を預けるための技術 だった。
「お前らが ヤル気があるってことは分かった。
だが、山はな、人の覚悟なんか関係なく、殺してくるぞ。山は人を選ばない。」
「技術を持たないクライマーは、どこまで行っても ‘犬死しに行くやつ’ でしかない」
「一番避けないといけないのは、”登る前から遭難”って奴だ・・・」
二人は、師匠の言葉を胸に、 血を流し、汗を流し、山に食らいついた 。
二人の兄弟愛があったからこそできたことだった。
⚔️ 試練③:嫉妬と攻撃
山岳会に属さず、純粋な動機で、登山技術を磨き続ける二人の存在は、次第に目立ち始める。
「あの二人、なんであんなルートに登れるんだ?」
「どこにも所属してないのに、なぜあんなこと知ってるんだ?」
すると、各山岳会の 古参クライマーたち が、彼らを 攻撃の対象 にし始めた。
「そんなの ‘俺たち’ が教えてやった技術じゃないか」
「金持ちの道楽だろ」
「所詮、若いから登れてるだけ。すぐに限界が来る」
さらに、悪質な妨害も始まる。
📌 彼らが計画した登攀ルートに、 「誰でも登れる簡単ルート」 というデマを流される。
📌 二人の登山の情報をSNSで歪められ、 「簡単ルートにビビるチキンクライマー」 扱いされる。
📌 山岳会の人間が 「これ登れるか?」登るべきでない危険なルートを登るように挑発してきて、リスクを感じて、登ろうとしない二人をチキンだ、と貶めようとする。
しかし、二人は動じなかった。
「私たちは、ただ登るだけ。」
「外野が何を言おうと、山は山。変わらない。」
彼らは、 山に答えを求め、登ることで証明する ことを選んだ。
🌟 帰還:人間的な成熟
やがて、二人は、 長く目標にしていた、あるルートを完登する 。
それは、過去に何人も敗退し、 誰も成功していなかったルート だった。
そして、そこは驚いたことに、かれらにとって、困難ではなく、むしろ、楽しくすらあった。
いつの間にこんなに成長していたんだろう・・・。
壁の途中で朝日を浴びながら、不思議な感動に包まれる二人。
しかし、その登攀は、SNSで騒がれることもなく、ニュースにもならなかった。
なぜなら、彼らは 何のアピールもせず、ただ静かに山を登って、無事に山から、降りただけだった からだ。
「すごいな!」 と誰かに言われることもなく、拍手もない。
だが、二人は それでよかった 。
彼らは知っていた。
この登攀をやり遂げるまでに、血と涙と汗。苦悩の日々。
極限の状況で、互いの命を預けた瞬間。そして、あっけない成功。
「誰にも認められなくても、この登りが ‘本物’ であることは、自分たちが一番よく知っている。」
「これが、私たちの山なんだ」
「悠馬、やったね!」「葵、おめでとう!」
🎭 エピローグ:孤高の道
二人は、今では別々の道を歩き始めた。
悠馬はボルダリングで突破力をあげることにした。葵は海外で登ることにした。二人は別の道を歩み始めたが、それぞれ、自分の嘘をつかない山をやる。
嫉妬し、妨害してきた山岳会の人々は、未だに彼らを認めようとはしない。
だが、それでいい。
葵も悠馬も、「評価される登山」は求めていない。
「本当に登りたい登山」をするために、ここまで来たのだから。
そして、この道を選んだからこそ、出会えたものがある。
「誰にも奪えない ‘本物の経験’」と、「互いを支え合う関係性とは何かを知ること」 が。