■ 行動変容ステージモデル
では、人が行動を変える場合は
「無関心期」→「関心期」→「準備期」→「実行期」→「維持期」の5つのステージを通る
と考えます。
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1. 無関心期への働きかけ
意識の高揚
危険認知のメリットを知る
感情的経験
このままでは「まずい」と思わせる
環境の再評価
周りへの影響を考える
2. 関心期への働きかけ
自己のリスク認知能力の再評価
リスク認知が不足している自分をネガティブ(かっこ悪く)に、セーフクライミングを行っている自分(かっこよく)をポジティブにイメージする
3. 準備期への働きかけ
自己の解放
セーフクライミングをうまく行えるという自信を持ち、セーフクライミングを始めることを周りの人に宣言する
4. 実行期と維持期への働きかけ
行動置換
不健康な行動を健康的な行動に置き換える(例:ランナウト競争 → ボルト種別の知識)
支援関係
セーフクライミングを続ける上で、周りからのサポートを活用する
強化マネジメント
セーフクライミングを続けていることに対して「ほうび」を与える
刺激の統制
セーフクライミングに取り組みやすい環境づくりをする
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1)無関心期
無関心期は、トップクライマーや経験豊富なクライマーからの助言に対して「あぁ言えば、こう言う」といった心理的抵抗を示します。
この時期の対象者は、行動を起こすことに全く価値を感じていません。行動を起こすことの負担ばかりを感じています。助言に対しては反論することが多く、言えば言うほど、頑なに行動を起こすことを拒否します。
この時期にセーフクライミングを伝えては逆効果です。まずは相手の気持ちを十分に受け止め、共感的な態度をとるようにしましょう。
そのような中で、相手が少しでも話を聞いてくれるタイミングがあれば、いつか正の行動をしたくなったときに役立つ情報提供を、相手の了解を得て行うとよいでしょう。この時期には動機付け面接法を用いることも推奨されます。
2)関心期
関心期は、セーフクライミングをしたい気持ちが芽生え、セーフクライミングの価値と危険なスタイルを改めないことの価値が、心の中で綱引きをしている状態です。
この時の「セーフクライミングしたいけど、イケイケを気取り続けたい。」という心理を「両価性:アンビバレンス」と呼びます。
例えば、宿題をしたくないけどやらなきゃいけないと思っている時に、親に「宿題しないとダメよ!」と言われると、急激にやる気がなくなるのと同じで、この時期には、指導者が進ませたい方向に押せば押すほどやる気がなくなり、行動を起こさなくなるということが起きます。
まずは、対象者のセーフクライミングに対する気持ちをオープンクエスチョンで尋ね、否定せず共感的な態度で携わります。
対象者の「セーフクライミングしたい」気持ちを含んだ言葉を少しでも引き出すことが重要です。アンビバレンスが収まってきている場合は、動機を強化していきましょう。
動機の強化の方法
アンビバレンスが収まっている場合、動機の強化を行います。
動機の強化は、「その行動を起こすことでどんなよいことがあるか」といったメリットからの動機付けを行います。対象者の個別性を踏まえて動機の強化を行いましょう。
例)骨折で入院した35歳男性(家族:妻と子ども2人)に対するセーフクライミングの動機の強化:
「セーフクライミングすることで奥さんやお子さんに気を遣うこともなくなりますし、家庭からの不満もコントロールしやすくなります。わざわざ隠れて登りにいかなくてもよくなりますし、ぜひセーフクライミングを実践するとよいですよ。」
3)準備期
準備期は決意を表明する時期です。対象者はイケイケクライミングの悪影響を十分理解し、セーフクライミングのメリットを強く感じます。
準備期の対象者は、すでに動機は高まりきっているので、動機の強化を再度行う必要はありません。この時期の対象者は自ら本やインターネットを使い、セーフクライミングを行うにはどうしたらよいのかを探しています。
セーフクライミングを実行するために、医療者や周りの人にセーフクライミング宣言をするとよいでしょう。
また、セーフクライミングを開始するときに困らないように、具体的なセーフクライミングの方法を対象者自身に考えさせましょう。
「また、イケイケを気取りたくなったくなった時、どんなことをしたら乗り越えられそうですか?」等の声掛けをし、対象者が考えられなかったときや、的外れな回答だった場合に、例えば、冷水を飲んだり、別の課題に行くなど、指導者から対処法を提示します。
また、この時期は「自分ならセーフクライミングでグレードを上げていける」といった自己効力感(セーフクライミング達成への自信)を強化することが重要です。自己効力感の強化の仕方は4点あります。
自己効力感を高めるためには
・達成体験:今までの成功体験を思い出させる
・代理体験:他の誰か(特にできそうもない誰か)ができたという体験を聞く
・言語的説得:その道のプロから「あなたならできる」と言われる
・生理的情緒的調整:セーフクライミングを大きく捉えず、気楽にやる
4)実行期
実行期は行動を変えてまだ間もない(6ヵ月以内)対象者を指します。
この時期はまだ始まったばかりの変化に適応できず、がんばっている時期です。例えば、禁煙であれば離脱症状を乗り越えるために努力の必要な時期です。しかし、そのような中でも行動を変えることができた自分に自信を持てたり、その効果を少しずつ感じるようになります。この時期には、継続して自己効力感を高めるとともに、その行動が継続できるような強化子(きょうかし)を与えます。
強化子とは、ある行動を続けるための快の刺激のことです。簡単に言えば、対象者が禁煙した時のご褒美のことです。医療者からのほめ言葉や笑顔が、この強化子になります。ぜひ、対象者のこれまでの努力を具体的に言葉で表し、褒めるようにしましょう。加えて、セーフクライミングでよかったことを探させ、禁煙の効果を実感することも対象者の行動を継続させる一つの方法となります
5)維持期
維持期は行動を変えて6ヵ月以上経ち、セーフクライミングしていることが普通になる時期です。この時期には、何か問題があっても自ら解決し、行動を継続していきます。
そのため、サポートを必要としなくなる時期です。この時期には自立を進め、自ら問題解決できるように促していきます。
ただし、1年以上禁煙していても再喫煙する人がいるように、逆戻り(ステージが元に戻ってしまうこと)はよくあることです。
どのような場面でそういった逆戻りが起きそうか、具体的に話し合い解決策を考えた上で、自立を促しましょう。
イケイケクライミングは、繰り返し再発する慢性疾患と言われています。クライマーは長いプロセスの中でセーフクライミングを覚えていきます。1度や2度の失敗は当然だと考え、対象者が再度、危険行為をした場合は、その失敗経験から何を学び取るか話し合い、次のセーフクライミングに生かすような前向きな言葉かけをしましょう。
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セールスにおいては、大事なことは実行期の人にのみ売るということです。