■コミュニケーションのパワー
コミュニケーションにはスタイルによって、パワーの序列がある。
弱い方から… 暴力 → 脅迫 → 命令 → 説得 → 懇願 → 暗示&喚起
事例
強制=暴力: 勉強をしないと、ごはん抜きよ
強迫: 勉強しないとひどい目に遭うよ
命令: 早くしなさい!
説得: 運動したほうが健康に良い
懇願: お願い、学校に行って。
■ クライミング界に応用
これをクライミングに用いると?
もっとも強い暗示&喚起は?
友人の死であろう。
友人のクライマーの死が、物語ることは多い。
事例:
私がアルパインクライミングを始める前、環境問題の専門家だった友人の新井和也さんが亡くなった。新井さんとはボランティア活動で出会い、一緒に三つ峠の希少生物探索をした人だった。
新井さんは、登れて語れる希少な人で、劔でテント泊中に、机代の落石があり、その落石は無音だった。隣のテントの人は無事で、新井さんは亡くなった。当時、私は、小屋で働いていたが、ショックで下山して追悼で三つ峠に行った。
新井さんの遺体は、押しつぶされたために膨らんでしまい、最後は大変な姿だったそうだ。
事例2:
その後、山岳総合センターの同期が唐沢岳西尾根で亡くなった。ジャンでは落ちないで、普通に歩いていたのに、アイゼンをつけるのを、下山中、サボったのだろうか…、何でもないところで下山中に滑落。身重の妻を残した33歳。若手の講師が卒業生を誘っていった山で、その講師と一緒にいたとしても、事故が防げなかったということになる。
事例3:
女性の友人で、花谷康弘さんのヒマラヤキャンプに参加するほどの実力のあった人が、甲府の私のところに来てくれ、パートナー候補的な感じだったんだが…。一緒に小川山には行ったが。平松美和子さんも滑落した宝剣で滑落。九死に一生を得た。
小川山のクライミングでは、カサブランカに挑戦したんだが、やっぱりテンション入った。私はテンションを入れるほうが、予告なく落ちるより、いいという考えなので、そのことに何とも思わなかったが、今思うと、彼女は、背が低いことによるハンデをまだ理解していないところだったんではないだろうか?
というのは、縦走では女性はあまりハンデを感じることがない。私も雪をやっている間は、誰かに劣ると感じることはなく、20kgでへばっているおじさんを見ると、はてな?となっていた。女性で筋力がない私でも、歩荷で20kg担げるからだ。というので、リーチのない女性は、クライミングで、支点の場所で、相当に不利をこうむらないといけないのだ、ということが、なかなかピンとこなかった。彼女も同じだったろう…
事例4:
故・吉田和正さん。最後のプロジェクトのビレイヤーになってしまった…。 吉田さんはせっかく私に開拓を指南してくれようとしていたのに…。受け取れず、ごめんなさい。
事例5:
最近では知り合う前だったが、トラベリングクライマーの萩原さんが亡くなった。ラオスに誘ってくれた人だった。コロナ前で、誘いに乗って行っていたら、コロナで帰ってこれなくなるところだったんだが…当時、行かなかったのを後悔中…
人の命は短い。できる間にできることをしてしまうのが大事なことだ。
■ 悪影響… 自分の判断力に不信感
手を差し伸べてくれる人の、手を払う結果になってしまった…のは、実は、あまりに疑心暗鬼で、誰の手を助けの手と考えてよいのか、よくわからなかったのだった…。
それは、九州に来て以来、相方の善意(と思えること)が、全く善意ではない、ということが度重なり、何度も殺されかけるような目に遭っていたからだ…。
例えば、
・会を率いていて、メンバーにここを登ったらいいよと指南するような人が出してくるルートが、どれも、リスクが大きく初心者に向かないルート
・オリンピックのビレイを習得して、「私はビレイはできます」と言う。岩とスポーツクライミングのビレイの差を理解していないのだろうか…
・自分のセットしたカムに落ちろ → え?一個で?! いくらカムセットの自信をつけたいと言っても、一個って駄目でしょう…
・下部核心のルートを勧められる
・アイスに行ったら凍っておらず、岩に転進になり、初めてロープを組むのにいきなり私のリードで、しかも、2名のリードクライマーを一人がビレイするというトンデモスタイルだった…。カムも持っていなければ、ザックは大型ザック、それで登らされたので、グレード3つアップ。(カムがない、荷が重い、ビレイヤーが怖い)これが超有名山岳会。
などなど…。
基本的に、教える人のほうが、クライミングのリスク管理について、教わる側の私よりも甘い認識しかもっていないようだった。認識と言うか、クライミングに対する理解。
以上の理由で、相手の言っていることと行為が一致していなかった。言っていることは好意なのだが、やっていることは悪意であるように思われた。そのため、私は疑心暗鬼に陥り、自分の健全な判断力を発揮することができなくなった。
■ 喚起&暗示が大事
話を戻す。
いろいろと、私には、クライマー人生の最初から、
リスク管理を徹底しないと、奴らみたいに死ぬぞ!という暗示
が入っていたわけだった。大体のリスク管理がいい加減な人たちを見ていると、
過去の事故研究
がおろそかである。アルパインなら必須だ。
■ フリークライミングの世界は山の世界に輪をかけておろそか
しかも、フリークライミングの世界では、カッコよく登っているイメージ動画ばかりが流布され、肝心の事故情報…は、仮に事故があったとしても、アクセス問題があるが故に隠蔽されている。
だから、一般クライマーたちには、
喚起&暗示
によるコミュニケーションが全くなされていない。だから、
ビレイを確実にしましょう
ビレイを確実にしないと死ぬぞ
ビレイを確実にしろ!
ビレイを確実にしたほうが、いろいろといいですよ
ビレイをどうか確実にしてください
ロープワークを確実にしましょう
ロープワークを確実にしないと死ぬぞ
ロープワークを確実にしろ!
ロープワークを確実にしたほうが、いろいろといいですよ
ロープワークをどうか確実にしてください
などと、どれだけ直接的なコミュニケーションを行っても、全くコミュニケーションが成立しない。パワーが弱すぎるのだ。
■ 健全なクライミングを取り戻すための施策
ということで、日本に健全なロッククライミングをもたらすための最大の作業は、
・ロッククライミングの事故情報をまとめ、解析すること
・アメリカアルパイン協会並みの事故情報をまとめた冊子を毎年出版すること
・クライマーズ・ウィ・ロスト日本版を制作し、事故に限らず、また著名クライマーだけに限らず、できるだけ多くの亡くなったクライマーの追討記事の発表を行うこと
である。
喚起&暗示によるコミュニケーションがゼロの日本のクライマー業界。
■ 悪者探しを辞める
事故が起きると、誰が悪いか?っていう悪者探しになってしまい、どうすれば事故が防げるか?って話には全くならないんだよね…
そもそも、著名クライマーの死亡事故以外を扱わないという姿勢自体が、
差別的
で、階級構造を強化する暗示を行っている。つまり、
平民
クライマーには、
お前の命は、ロクスノに追悼記事が出るほどの価値はないからな!
と暗示によるコミュニケーションしてしまっているってことだ。だから、若いクライマーは
お願いだ…登らせてくれ…2段をノーパッドで…
ってなってしまう。俺の命に価値があると認めもらいたい、ということなのだ。だから、今3級しか登れないのに、2段をノーマットで登りたい、とか言い出してしまうのだ。
真実は
誰の命にも価値がある
そういうコミュニケーションをロクスノがしていない。そこに問題があるのだ。