■ すごいかすごくないかが支配する世界に住むのは窮屈
クライマーのナルシシズムの世界は好きになれない。
スゴイかスゴクナイか?かっこいいか、かっこわるいか?それだけが価値基準だからだ。
地元のエリート校の熊本高校に進学した時、ゲンナリした。勉強できるか、できないかだけが価値基準だったからだ。
勉強ができないやつは、人間のクズ、という扱いだった。
たしかに勉強はできたほうが良いが、良心を伴わない知性は、片方の車輪がない車のようなもので、とんでもない方向に行ってしまうのは、エリートが日本の中枢を牛耳っている日本の政治経済の状況が証明している。
それと同じことで、クライミングの世界においては
登れない奴は、人間のクズ、という扱い
の世界観も存在する。そうした価値観の人は、登れなくなると自分の人間としての価値がなくなる気がする。
なぜクライミングするのか?
そこに、純粋さを伴わないクライミングは、ただ自尊心を満足させるだけの道具、になってしまう。
■ 尊敬を得るのは、意外にカンタン
実はクライマーの間で、尊敬を得るのは意外にカンタンだったりもする。ハングドックを2時間すればいい。
しつこく登れば、誰でもすぐにも尊敬を得れる。
落ちても落ちても登る、という行為が尊敬の対象だからだ。
しかし、執着して登ることは、上達への近道か?というと、そうでもない。
同じところを酷使して痛めてしまうからだ。そうなると、もう登ること自体ができなくなる。
■ きれいなクライミングを
昨日、一緒に登ってくれた初心者の方は、一番易しいピンクの課題も登れない。
馬鹿にされるのか?馬鹿にするのか?
そんなことはない。そんなことはしない人だと彼女が思ったから、私のところへ来てくれたのだろう。
私自身はそんなものも登れないのか、という人たちの間で登らなくてはならなかった。だから、だろうか?
彼女には、無理な所はさせなかった。
彼女はまだ全体像が分かっていない。
仮に、ただ周囲のリスペクトを得るためだけに、根性で登って、体を痛めてしまったら、クライミング自体が後退してしまう。
クライミングの課題には、意図がある。
薄被りの、9級の課題なんて、単純に ”フリのムーブを覚えてください” というのが意図だ。
覚えるためには、何回か繰り返しが出てきたほうがいいので、4~5手、同じムーブが連続するように、ホールドが並べてあるが、ただそれだけのこと。
無理して、4~5手を連続して登るように力任せに登るより、課題の意図はムーブの習得なのであるから、1手、2手しかできなくても、カラダを休めて、キレイなムーブで、できるようになったほうが、課題の意図と一致している。
私は同じことを小瀬の17mの外壁で45度11Aの課題を傾斜15度にして、リードしながら習得した。思えば、厳しい道を歩んだものだ。恐怖心とのセット販売だ(笑)。
■ 狭い課題
実は、私も、やらなくていい課題に執着してしまったりした。反省している。
ルーフ越えの課題で、越えた後、私が持てる中継ホールドを持つと、どうしても足の位置が悪く、正対引付けというムーブは合っているのだが、すごく狭く体を入れなくてはならなくて、やだな~ もっと楽に登りたいな~という課題があった。
楽に登れるムーブを考えている間に、膝を痛めてしまった。
他に男性に登ってみてもらったら、そこは単純にパワーで解決で、中継ホールドは飛ばし。だから狭くない。
私には、飛ばしはパワーの面でも、リーチの遠さの面でも、無理で、中継ホールドを使わないといけない。
ので、まぁ、同じムーブは体格的にもパワー的にもできないし、同じようなことを目指さなくても良い。
のだが、なんとなく、もっと楽に登れるんじゃないかと思ってしまったのだ。
■ 意図が読めたらOK
そうした、”体のサイズとあっていなかったり、パワーがまだ習得できなかったりしている課題”に、執着することは、
今の課題 = 課題設定者の意図を読む
という自分の目標に反する。
だから、いくら周囲の人が、
体格に合わない課題を克服して行くことも強くなるには必要
と力説しても、私にはイラナイ。
そもそも、私のクライミングは、アルパインのクラシックルートで安全安心にクライミングするためのものであり、ジムの課題で、カラダを壊していたら、本末転倒である。
たしかに、無理をしても登る必要がコンペの選手にはある。
リーチがない選手はジャンプ力を鍛えて、デッドやランジに強くならないといけない。
しかし、それは、それ以外にムーブがない、ともう読めるようになった人の話で、私はまだ完全にムーブが読めないのだから、その必要はない。
・・・というようなことが分かったのは、昨日の初心者の彼女のおかげだ。
人は、自分で自分に何が今必要かを冷静に判断するのは難しい。
けれども、他人だったらよく分かるのだ。その人になぞらえることで、自分に何が必要か?についても、確信が持てる。
E藤さん、ありがとう☆