■ 本物のアルパインクライミングを!
いや~、すごく軽やかで、楽しく、冒険の楽しさが伝わってくる報告でした。
この報告を聞けば、今までの冬壁のイメージが覆るでしょう…
このロープを切ったらあいつが死んじまう…みたいな、イチかバチかヒロイズムを山に持ち込んだのは、新田次郎の小説なのでしょうか?それとも神々の銀嶺みたいな、登山漫画?
現実のヒマラヤクライミングの楽しそうな様子が伝わってきます。
私がしたいのは、このようなクライミングの、一般人バージョン、です。
■ なぜかM自慢だったこれまでの山
今までの山ヤの報告が、イチかバチかで、雪崩に遭いました、とか、仲間を亡くしました、とか、凍傷で指が5本亡くなりました…とかが勲章だったのは、Mな伝統で、本来健全に、つらいことはつらい、楽しいことは楽しい、と言い、
どのような実力で、どこまでできる、というのが、合理的に、健全に判断できる、
というのが大事なことです。
そうでなくても、山は安全でないのですから、わざと安全ではないようにして、それを自慢してしまうような、愚かな行為は、易しい簡単なところしかチャレンジしていない、という証拠なんではないでしょうかね?
それで、
俺ってすごんだぞ系報告
って、恥ずかしい…。この記録を、雌鉾アイス初登とか、クロステオテ谷エイド初登が、初登であれば記録だからというのでロクスノに出してしまった人に見てもらったほうがいいかもです。
これらをロクスノに載せてしまった編集者も、ちゃんと現代アルピニズムくらい理解できるようになってから編集者をやってもらいたいものです。
いやはや、苦言ですみません。しかし、冒険でも、チャレンジでもないものを冒険風に書いてしまってはいけません。それに騙されてもいけません。
■ スタイル
伊藤さんの報告は、従来の報告会の、あちら側とこちら側を隔てるノリと異なり、具体的で、何が核心か分かりやすく、アルパインクライミングを志す若い人には、何がどうできれば、どこに行って良いのか?が分かりやすかったんではないだろうか?と思いました。
まずは、Googleアースで、1か月半びっちりパソコンに張り付いて壁を探したそうです。
つまり、そういう探す作業ができる暇人が必要ですし、探す際に条件を分かっていることも必要です。
これは、国内で未踏の場所を探す場合でも同じです。私は氷瀑を探して回った経験がありますが、大体は、1)北面に向いていて、2)水量が多くない滝マークを探すことになります。このように、1)2)のように条件を絞り込める経験値も必要です。
条件を絞り込めるためには、あらかじめヒマラヤを登っている経験が多少は必要でしょう。
次に、スタイル。
・ずっとリードフォローで行きたかった
・1ピッチだけ残念ながら、荷揚げになった
・日本の屏風岩みたいな感覚で登りたかった
・トップ3kg、フォロー10kg
やっぱり、リードフォローで、快適に抜けたいですよね… カメラを持っているのが伊藤さんだったので、ずっと相方がリードで、伊藤さんはセカンドだったような印象を受けましたが、つるべだったのかなぁ。
私も、トップは軽く、セカンド(フォロー)が荷物を持つ、というスタイルで、インスボンなど登っていますが…インスボンは300mくらいの壁だけど、伊藤さんたちは、さすがの1700m…
一般人クライマー 300m
トップクライマー 1700m
1700mを登るには? 1700÷300=約5日? 4泊のビバークで、登って、その食料、生活ギア込みの重量がトータル13kgとは…軽い。
ギアを見てみましたが、アイススクリュー7本、カム一式、ハーケン9枚、ナッツ2セット、アルパインヌンチャク6枚、捨て縄用ギア4つ、あとはスリングと環付きビナって感じでした…
いや~、私、普通のクラックのリードでも、カム2セット、持って行っています…(笑)。これは怖がりだからですが、これを怖がりだというのは、正確な描写だけど、手繰り落ちること確実な、ランナウトしたボルト配置を怖がって、怖がりだと描写されるのは、不正確な描写です。リスクに正常に反応しただけ。
さて、ルートは、M7、AI5 R 1700mでした。ピッチ数不明。4日で登ったということなので、4で割ると、400mちょいくらいなので、60mロープで、7ピッチ~8ピッチと、スピードが、速いです。ミックスなのに…。
分不相応に難しいルートに、レッドポイントで取りついて波状攻撃しているフリークライマーは、さっさとは登れない… 高難度レッドポインターではなく、オンサイトで早く登れる能力が必要です。
高い標高なのに、普通に無雪期のインスボンくらいの速さだなぁ…と思いました。私と師匠の青ちゃんとで、インスボンのマルチ一本では時間が余って、2本目を行く日があったくらいなのですが、グレードが易しいので、ぱっぱと登ってくれたので、それでセカンドは普通に上がれば、一日の登攀距離は400mくらいだったかもしれない。
つまり、M7を、M5みたいなスピード感で登れないといけないってことですね…。ムーブ解決とか、やっている場合じゃない、ってことです。
これは、岩に置き換えると、5.11を5.9みたいにさっさと登れないといけないって意味です。
すごいな~、私にはありえないすごさだけど、昨今、男子が5段とか言ってるんだから、若い男性なら、M7(5.11)って普通にその辺の人も登るので、ありえないグレードではありません。クライマー最弱者の私でM5くらいなので。
それを確実にさらにスピーディに登れ、しかも空気薄くても…って話。
個人的に、6000m級で、ミックスルートを登り、未踏の壁を登る、ということの具体的事例で、必要な能力は何か?ということが、報告で因数分解ができました。
1700mをワンプッシュということになると、壁で4泊ビバークしなくてはならないので、もっと標高の低い場所で、壁内ビバーク経験を洗練させる必要があります。易しくするには、ルートも整備されたところで、壁内ビバークする。それは、一般的には、ビッグウォールの経験ってことになる。できない人は人工壁や近所の岩場で壁ビバーク練習するのが良いと思います。
このような理由で、ヨセミテのビッグウォールに行くことは、ヒマラヤの未踏峰の冬壁の訓練の一部ということですね☆
ヨセミテビッグウォールなら、まぁ、エイドで登れる人なら、誰でも行けるそうです。御年74歳だった米澤先生だって、俺も行きたいと言っていたくらいな場所です。もちろん、壁ビバークが不快な宿泊と言うこと以外は、私もやろうと思えばやれる。(やりたくないけど!おトイレ空中なんて…)
それ以外に絶対に必要なのは、やはり、雪上生活経験です。
これは、八ヶ岳で雪上テント泊していれば、十分。八つのほうが寒いから。6000m級でー10度くらいというのが一つの水準になっているそうでした。八ヶ岳だと、標高2000で、ー24度です。
大雪への対応力も学ばないといけないので、豪雪の山に行けば、夜中に除雪で寝床から起きなくてはならいというキャリアも積めます。
私も谷川岳周辺の山で、経験させてもらいましたが、一晩で1m40cmくらい積もってびっくり仰天でした。雪の量で言えば、日本の山のほうがシビアなので、雪への対応力の高さは日本の山のほうが高度ですね。濡れた雪だし。
そして、当然だが、アイスにプロテクションを取る技術。アイススクリュー設置能力。それも、岩の溝に詰まっているようなの。
それから、岩にプロテクションを取る技術=カムのプレイスメント。
そして、オールラウンドなクライミング能力。フリークライミングのムーブだけではだめですね。アックスでクラックを登る技術=ミックス技術=つまり、ドラツーのクラックバージョン。ドライもボルトルートではだめってことです。
また壁に行きつくまでに、読図が必要なので、沢登りもこなせないといけないです。
さらにどの壁を登るのが適切か?というので、ルートファインディング力…これはベテランの知恵が伝承されてほしいところです。ゼロから作るのは、かなり難しいです。登っている先で、ああ~プロテクションが取れない、けど、今、手も離せない!って羽目になるのは、普通のショートのゲレンデで、5.8しか登っていなくても、よく発生します。私も、初めて瑞牆で登った日にランナウトして、カムが玉切れになりました。登れたからよかったけど。
同じようなことを僻地でやって、それで落ちれば、即ピンチというか、救急車来ないので、そういう羽目にならない能力を培う必要があり、ランナウトを自慢話にしている場合じゃないですね。
当然ですが、テント泊技術が必要なので、当然、冬山の縦走や、雪稜登攀、無雪期テント泊も経験済みであるのは、基本のキです。そして、アイスとクラックは、そこそこ登れて当然…ということになります。
これらの上に、M7はフリーで登れ、M5を登るかのようなスピードでないといけない。エイドは5だそうでした。めっちゃランナウトって意味です。しかし、これは自慢する話ではなく、単純にやむを得ないって意味です。
大体登るより、降りるほうが難しいのが山ですが…帰りは、板状の岩が重なったところを降りるのを避け、遠回りして降りていました。
また、クライムダウンは、ロープつけてコンテで降りていました。40度だったそうです。これくらいの傾斜だと、懸垂では、ロープが地面についてしまうし、逆に遅いので、クライムダウンになると思うけど…、コンテで間にプロテクションが取れない場合は、トップクライマーの間でも、ロープをつけるかつけないかは意見が分かれるところだろうなぁと…。
片方が落ちたら、他方が巻き込まれるからです。
そして、体力温存。ビバークハンモック手作り。手作りのバックパックが50リットルで560gとウルトラライトでした。これ販売したら売れそうです(笑)。
全般に、いかに苦しかったか?という報告ではなく、いかに楽しかったか?という報告だったのが新鮮だった☆