■ 一般登山→日本のエイド→フリークライミング→ビッグウォール→アルパイン
たぶん・・・なのですが…一般的に アルパインの教育のステップはこういう風になっていたのではないでしょうか?
第一段階 一般登山 (ピークハント→小屋泊縦走→テント泊縦走→一般レベルの雪)
第二段階 読図の導入
第三段階 入門レベルのオールラウンドな山登り (雪→沢→岩→氷)
第四段階 フリークライミングでの基礎的登攀力作り (いわゆるフリーの基礎力)
第五段階 ルート経験数を貯める
第3段階のどこにスポーツクライミングという危険を排除した形でのクライミングを入れるか悩ましいですが、スポーツクライミングに基本的にはリスクはありません。リスクがあるとすれば、技術的ミステイク、です。
ただアルパインクライミングの価値観を学ぶ前に、スポーツクライミングのルール、フリークライミングのルールなどを学ぶことになるので、学ぶ当人が混乱しますよね。
例:
スポーツクライミング=ボルトはあって当然。プロテクションは、元々あって当然。
フリークライミング=いくら落ちても命取りにならない。ロープに守られる。
エイドクライミング=背が高いほうが有利
現代では、新人教育ができない山岳会がほとんどなので、読図が山の必須教育の一部だとか、あるいは、フリーでマルチピッチのルートに出る前に、危急時の講習が必要だ、とか、一般的にクライミングジムでスタートした人には、てんで皆目見当がつかないのかもしれません。
アルパインクライミングが、冬の壁を前提とするのは、夏でもアルプスには雪があるから、であると思われるのですが…雪渓歩きや、氷河歩行みたいなものは、日本の山で必要となるのは、ほんの少しであるので、日本でアルパインの教育を受けた人は、セラックが落ちる、とか全然想定しない可能性もあります。雪庇の崩壊などもです。
■ 夏山の事故
今、問題になっているのは、基本的に夏山の事故です。
ココヘリの配布などで、技術を教えるというよりは、保険を手厚くする方向に日本の山の世界は動いていますが、これは、遭難者のプロフィールが、
定年退職後に山をスタートした高齢登山者=新しいことを学習するスキルが著しく低い
ということを配慮してのことのような気がします。
年配の人の老後の時間つぶしとしての登山には、特に登山史の一ページに何かを追加する力があるとは思えません。
ので、ココヘリなどのように、保護を手厚くする方角で、お金で解決するという方向性はあながち間違っているとは思いません。
肝心の年配者だって、ザックを肩代わりして背負ってくれるなら、快適に歩けるので、若い人を雇いたい、というニーズがあることも、実際目の当たりにしています。若い人のほうも、そのようなガイドでのニーズであれば、トレーニングしてお金を貰えるのであれば、それでいいのではないでしょうか?
いわば、日本版シェルパ。しかし、このようなタイプのガイドに、ガイド能力を求めない方がいいのではないかと思ったりします。例えば、花の知識とか、危急時の対応能力(一般的な救急救命措置以上の能力)を求める必要はないような気がしますね。
なんたって、年配の人、ただちゃっかりしているだけなので。送り迎えのハイヤーと荷物持ちが欲しい、持病の発作が起きた時一人だとかなわん、という程度のニーズだろうと思うからです。これは、往年のアルパインクライマーだって同じです。さりとて、高齢者の寄せ集めでは、誰もニーズを満たすことができないです。
■ 本質的なアルパイン教育
一方若い人は、高齢者のような、ただ歩ければ成功、みたいな山をしていても、埒があきません。
私みたいな中途半端な人ですら、北アの一般ルートでも、南アの一般ルートでも、一般ルートであれば、もはや歩けないところはないくらい、簡単に若い人は、山は歩けてしまいます。
特に、九州のような温暖地では、山自体の気候リスク、標高のリスク、岩稜リスクがないので、どう頑張っても、沢登りをさせ、読図を教える程度ができる精いっぱいかなぁ…という気がします。その沢にしても規模が大きいものがないので、宿泊を伴う沢の、例えば、幕営場所選択のイロハ、みたいなことは教えてあげる機会が著しき制限されます。
ほとんど、どこかのネイチャースクールでおぜん立てされ、リスクはあらかじめ取り除かれたような楽勝の沢のようになってしまっているって意味です。
なので、ぜんぜん何年積み上げても、いわゆる未踏の地に踏み込むに十分なだけの知識とか、経験値とかは積みあがらない訳です。
■ 知識と経験を積み上げるには?
現代では、基本となる、能力が、
5.12がスイスイと登れる & 40kgを担いで山登りができる
で、この能力を身に着けるまでは、
経験値を積み上げるというステップには入れない
ようです。
過去のレベル感では、同じく基本となる能力が
5.9がスイスイと登れる & 積中泊1泊二日程度の重さのザックを担いで山登りができる
だったようです。女性25kg、男性30kgだということでした。
5.9がスイスイ → 5.12がスイスイ
30kg → 40kg
というわけで、こうしてみると、歩荷能力の増強度よりも、フリークライミング能力の増強度のほうがスゴイ…。
5.9スイスイは比較的可能ですが、5.12スイスイは、大人になってクライミングをスタートした人が達成するのは難しいかもしれません。5.12がRPできる人はたくさんいますが、うんうんうなってやっとこさ登るっていう意味ですから…。うんうんうなってやっとこさでは、ダメって意味なんですよね。
そうなると、フリークライミングの基礎力、というのがものすごく習得に時間がかかると言うことなので、途中でアルパインクライマーであることは忘れてしまって、フリークライミングに行ったら行きっぱなしになるかもしれません(笑)。
■ フリークライミングの階段を駆け上がることができないのがネック
実は、フリーはフリーで結構楽しいというか… 私がラオスや龍洞で登ったような感じでいいのなら、私もアルパインは捨てて、別にずっとフリーでもいっかなーって感じでした。山で死にたいわけじゃないしなぁ…。
ところが、日本でネックになっているのは、フリークライミングで基礎力をつけたいとおもったところで、フリークライミングの階段を安全に駆け上がることができないということなんですよね。
登山のレベルの時は、Ⅱ級=遊歩道、Ⅲ級=登山道、Ⅳ級=鎖場程度、Ⅴ級=ロープなしに登るのは不可能、と登山道の難易度が分けられているので、フリークライミングのレベルになった場合、5.〇〇…と Ⅴ級の5.からスタートします。一番易しいⅤ級は、5.7です。日本では。
しかし、5.7~5.8のルートというのは、フリークライミングのレベル感からみたら、あまり歯牙にもかけられず、伝統的に、そのスキルは、特にフリークライミングのスキルトレーニングなしに登れる程度、という意味ですので、移行グレード、みたいなグレーな区間です。
したがって、 フリークライミングの階段というのは、5.9をオンサイトする能力がそなわってからスタートするわけですが…。
ここで、クライマーの命を奪う、リスクとスキルの逆説現象が起きています。
5.9のフリークライミングの課題 のほうが死ぬリスクが大きい
5.12のフリークライミングの課題 のほうが死ぬリスク小さい
という具合に、日本では逆転現象が起きてしまっており、原因は
・グレードの付与が不適切 (5.9でもほんとには5.9ではないとか)
・ボルトの配置が不適切 (5.9でも5.9を限界グレードとする人のためには打たれていない)
という事情があり、フリークライミングの入門期も、死者が多いという事情につながっています。
中級者と言われる5.12が登れるほうが、日本の岩場の課題は安全で、下手したら1mおきにボルトが打ってあります。
余談ですが、昔の基準では、5.12登れることは熟達者扱いをしてもらえるスキルでした。今では、ジムで今日来た!みたいなやつが、5.12をその日に登ってしまうこともあり、グレードを見当に、”ベテラン”とはとても言えなくなりました。
さらに余談ですが、年齢による見た目もベテランと非ベテランを区別できないです。昨今、引退してからクライミングスタートするクライマーもいます。
■ まとめ:多い遭難タイプ
1)高齢初心者の登山”客”による無知&過信によるもの
2) アルパインクライミング入門期 技術へのヒューマンエラー
例:5.7~8レベルの新人時代の岩場でのうっかり。三つ峠で懸垂失敗で死ぬなど。
3)フリークライミングの入門段階期 岩場の質によるもの
例:5.1〇~5.11アンダー期
ということになってしまっています。
■ 対策
さて対策ですが…、私の勝手な考えですが…
1)高齢初心者の登山”客”による無知&過信によるもの → ココヘリ&若年シェルパ
2) アルパインクライミング入門期
→ しっかりとしたアルパインクライミング教育機関の設立 と
公的な子弟縁組制度のサポート
例:師匠になれるベテランの裏付けを公的機関が行い、若い人と1対1、あるいは、ザイルパートナー2名対師匠1名でのペアを公的機関がセットアップ。師匠の行動に疑問がある場合、第三者に相談できるセカンドオピニオン制度も採り入れられる。
3)フリークライミングの入門段階期
→ しっかりとしたフリークライミングインストラクター協会公認フリークライミングインストラクターの講習へ、国費税金によるサポートをつけ、各都道県で年2回開催。
をしたらいいのではないかと思います。
■ 山岳会 はあきらめましょう…
なんか、突拍子もない話題で恐縮なんですが、最近、フランス革命の勉強をして、
王政が廃れ行く現実を直視しないで、あくまで王政復古を目指したルイ16世
が、断頭台の露と消える羽目になった主たる原因だと思いました。
時代の流れというのは、抗っても全然、得にならないものみたいなんですよね。
日本では、日山協と労山を2大派閥とし、下部組織に各都道府県の山岳会がぶら下がるというピラミッドシステムで来たわけなんですが…昨今、全然、機能しません。
実は、こちらに来てすぐ、福岡労山の事務局長をしていた吉永さんに誘われて、彼の作った会(と言っても会員は3人だけです)に属してあげたのですが、きちんとした山行は、ひとつも催行されないまま、労山に支払う上納金(山岳会の会費)だけ毎月払うというので意味を感じず、さっさと出ました。
私自身も、”岩とお友達になる会”という会を持っていますが、こちらのほうが基本的には活動がまだ出来ていました。
■ライフスタイルの変更が必要になる
基本的にアルパインを志向する会であったとしても、日ごろはフリークライミングで基礎力UPみたいな日常行事をしているのが、普通のクライマーのライフスタイルです。
ところが、一般登山の山岳会しか知らないと、そのようなライフスタイル自体を身に着けそこなっているので、なんで山の会なのに、人工壁でリード練習なのか?とか分かりません。
それどころか、正月に雪の山で冬山合宿をするためには、GWにどこか雪の高山に行って、雪になれておく必要があることも分からないかもしれません。
参考になるか分かりませんが、関東で一般的と思える会の月の会山行を書いておきます
GW: 雪山での雪渓歩きなど、雪訓、スキルレベルに応じて
5月:易しい岩場で岩登り訓練 もしくは海外など
6月:雨なので人工壁 ビレイ訓練
7月:高山 ロープが使える素養がある人は岩稜帯へ ない人は歩きの歩荷トレで夏山
8月:沢 レベルに応じて
9月:台風シーズンなのでインドア 縦走組はお好きな高山
10月:秋の岩トレ スキルに応じて 縦走組はカモシカ山行 フリーの本格シーズン
11月:雪足慣らしで北ア 宿泊はテントで アイスは凍結次第
12月:正月の冬山合宿 城ケ崎などのシーズン到来
1月:アイス本格シーズン 海外での登攀シーズン
2月:ラッセルの山本格シーズン
3月:春山合宿
4月: 岩登り訓練
こんな感じかなぁと思います。毎月 かわりばんこで行く山決めようね~という発想では、山はステップアップはできず、ずっと同じレベルに居続けるだけです。
なので、登山歴10年といっても、同じレベルに居続けただけの人と、ステップを上げる山の年間計画がある場合では、全く違う成果になります。
まぁ、だとしても、大体の人は、フリーでお茶を濁す山に落ち着きますので、別にハイキングの山しかできなくても、卑下する必要はないでしょうが、アルパインクライマー、フリークライマーのライフスタイルと、一般登山のレベルの山しかしない岳人のライフスタイルは大きく異なります。
そのライフスタイルの習得というところが、大きなステップの一つかもしれません。
週二日ジムに行き、土日は岩場というライフスタイルが標準です。
それだけ、歩きから登攀へのステップは大きい変化ということです。
それだけ山が人に要求する努力は大きいということなのかもしれません。