一人目は、鈴木清高さん。最初の師匠です。”山には順番がある”、を教えてくれた人です。
鈴木さんは非常に頭の良い人で、それがゆえに、結論にジャンプすることがあり、それが誤解で鈴木さんと登らなくなったことが残念でした…。
当時、私はジムで意気投合した”ジムで5.11が登れるからという理由でバットレス四尾根”というクライマーにどうやって四尾根をあきらめてもらうか、苦悩していました。花谷康弘さんが突如ガイド日程が空いたので、花谷さんで先に四尾根を予習させてもらい、その後この彼のフォローをして、それとなく、彼を正解に導いて花を持たせてやろうか?と思っていました。四尾根の核心は登攀ではなく、ラクとルーファイだし、この彼に押し切られて登攀に行き、死ぬ目に遭うよりは、5万でも6万でも払って命びろいしたほうがよいからです。そのことを、ガイド登山にすがる人間だと勘違いされてしまったのです。
この事件での、反省点は師匠に自分の置かれている状況をきちんと説明するということですね。
鈴木さんも、背が低い場合に、エイドでもフリーでも、プロテクションの面で不利なことは理解していなかったと思います。私が三つ峠では2回目でリードできるのに、フリークライミングのレベル感になったとたんにリードが難しい理由が分からなかったと思います。ピンが遠いから私にはプロテクションにならないんですよね。多分、年配の人はボルダリングをしないので、SDスタートが普通のスタートより難しいことが分からない。
その代わり、冬には伊豆半島の沢、など、快適なルート選択が非常に上手で、私もそういうタイプになったと思います。
ATCガイドではなく、ただのATCを持って行っただけで、「リードする気がない人は連れて行きません」という人でした。またルートで核心の大滝をロープなしで越えたら、「そんな山は教えていない」と言ってくれた人でした。
二人目は、くれさん。山岳会の先輩です。信州大学卒で、大学時代から社会人山岳会で登っていたそうで、積雪期の山選びがさすがの選択。渋い選択、なおかつ、レベル感に合った選択をするのが上手でした。ヨセミテまでは行ったそうです。小川山で5.9を登るにも、プリクリップする、会ではもっとも登攀力が高いクライマーでした。
”導かれ感”…というのが、ルートにはありますが、それが読めるようになっていくと、ルート外しが減ります。導かれ感を分かるようになったのが、呉さんからもらった技術。
3人目は、誰かなぁ…。沢の後藤さんかな。沢の講習会に出たら、ものすごくびっしりと書き込みがある地図を見せてくれて、感動しました。すでにその山域は私は歩いていたので、行く資格はある…つまり、下山路は確実、ということです…が、それで十分と思っていた私はガーンとなりました…。それだけでなく、ありとあらゆる尾根と谷に細かい書き込みがあって、ここまで講師は考えて、指導してくれているんだ!と感動しました。何があっても、大丈夫なように考えているということです。
4人目は、青ちゃんですね。なにしろ、レスキュー隊長を務めたほどですから、支点構築技術はしっかりしていましたし、しっかりリスクマージン取っていました。相手のミスで、自分が危険になるというのが、あれでしたが。
青木さんは、宴会大好きでしたので、ここでお酒と宴会を覚えました(笑)。一番勉強になった宴会は、NHKのデナリのエクストリーム滑走を一緒に見た時です。NHKですら嘘ばっかり放映しており、一番易しいルートでスキーを担いで上がったのに、最も難しい尾根で上がったとか、放映していました。そもそも、NHKですら、その滑走の価値が、下りのエクストリーム滑走にあるということを分かっていなかったわけです。
その次は大阪の登攀事情を居酒屋で聞いた時かなぁ。昼から飲んでしまいましたが(笑)。大阪の事情もかなり悪かったので、九州だけが特殊事情ではないと分かりますが…。ともかく、危険でした。
色々相談しましたが、「そんな奴は、ほっておけ」というのが一番効いたかな。あとは、「3点目を取りなさい」。私がアイスで5位しか取れなかったときも、アルパインのクライマーはコンペで勝たなくていいと言ってくれましたっけ。
アイスでは、私のほうが先輩より登れるのですが、「言っておくけど、彼女の方が登れてるよ」と言っていたのが釘刺した格好になった。男性クライマーは、ちゃんとは登れていなくてもリードしたがります…。私よりムーブ的には登れていない人が摩利支天をリードしたのですから...。
青木さんは体重重いのにラッセルがスゴイ上手で驚きました。(私は軽いので、当然ですがラッセル早いです…)
ただ青木さんも石灰岩は嫌いとか、食わず嫌いな面があり、それが足を引っ張っているようでした。ガイド仲間の新保さんが、一生懸命ラオスにリハビリに誘っても、石灰岩は嫌いだ、の一点張り。行けば、きっと気に入ったのに。まぁ昼間から飲んでしまい、登攀どころではなくなったかもしれませんが(笑)。
全般的に年配の人は、現代のフリーには、多少偏見があるような感じでした。鈴木さんも同じだった。鈴木さんは私がフリーに傾くと、嫌みを言うということがあり、だいぶ混乱させられました…。後述する米澤さんも、ドーン・ウォールの価値は分からないみたいだったしな。
5人目は米澤先生。歩きつくした山の記録…。山には順番がある。立派な有名クライマーになった後も、ハイキングにしかならない歩きの山から、その山のすべての沢、という具合に、一番まじめに山に取り組んでいる様子が見えるHPサイトでした。こんなまっとうな山やさんがまだいるんだ~と感動。他にビレイループが2重になっているのにも、感動を覚えました。安全対策バッチリではないですか。
その上、レベル感のジャッジメントが正確で、米澤さんが選んだルートは今の私の実力にぴったりのルートであるという安心がありました。
当時、別の人と登っており、行く岩場が初見の岩場というのがありましたが、どの岩場に行っても、私の実力以上のに取りつかねばならず、危険が大きかったためです。相手も悪意があってやっているわけではないのですが、トポしか情報源がないから、初めて登る人向けに課題が選べない訳です。一番ボルトが危険というエリアを選んでしまったり。例えば初めて行った八面は”下部エリア”で、最もボルトがボロく、至急リボルトの対象になっている浜田ラインとかです。いやはや。知らないということは恐ろしいことですね。
一般に、初心者は、安全に配慮してリード課題を選んでもらうのが会の慣行になっているハズで、ある先輩は、私が小川山もうでを始めたころに、100岩場に自分が登った順番が分かるように書いてくれました。なので、初心者向きに課題を選ぶという発想がないということは、今までそう言うことを自分が後輩としてしてもらってきたことにも、思いが至らなかった人だったのかもですね。
小川山は多くの人が独学でも無理なく課題が選べるような具合に情報が豊富ですが、情報がそう出ていないのです、地方では。誰にどこに聞けばいいかも、情報出ていないですし。ジムの店長も、アドバイスする能力がある人は皆無ですし。
故・吉田さんとかはいれていません…私はフリーではなく、アルパインのクライマーなので。
2) 共通点は何か?
山には順番がある…を実践していること、かな?
技術的に習得を飛ばしていることがない、ということですね。
山は習得しなければならない技術課題をどこでやるのが安全かな?と考えて選ぶと、適切なルートが選択できます。
逆に、選択の動機が、”皆に俺の実力を示してやろう”とかだと、あーあ…という結果になります。
また、リスク管理がバッチリ、というのも共通点でした。フェイルセーフ付、ということです。
そして、貫いているのは、すべての人がフォローに対して強い責任感があったということです。
3)傾向と対策
大事なことは、間を端折ろうとしない人を選ぶことですね。
師匠らが、そんな奴、ほっておけ、というだろうと想像できる人とは組むべきでない。
あるルートに行きたい、フォローしてくれ、と言われたら、きちんと
動機
と
計画書 (特にロープの采配と敗退)
を確認することですね。それでめんどくさい奴だと思ってくれたら、ラッキーかもしれません。まぁ、師匠らと山に行ったとき、計画書がないことは良くありましたが、それでも、持っていくべきものの指示などで、敗退計画まで理解可能でした。例えば、インスボンはツインで行きました。
いくら、立派なクライマーでも、老いにはみな勝てない。いくら徒歩5分の湯川で6級がリードで来ても、アプローチ6時間の黄連谷はもう行けないのです。私の黄連谷の相方を色々心配してくれましたが…。
同じことが、私の身長にも言えます。届かないものは届かないですから(笑)。人は変えうるものと変えられないものがあります。
時代の束縛にも勝てません。師匠らの時代を考えると、ヒマラヤからヨーロッパアルプス、ヨセミテまでで、その後、ラッペルダウンのヨーロッパ的クライミングの時代感まで、自分の山、を取り込めたクライマーはいないかもしれません。ボルダリングもです。それは、体力が最大のころに、そういうクライミングが日本で流行っていなかった、ということだと思いますので、仕方ないですね。
■ もともと岩は嫌いだった
フリークライミングの世界は、私は外野です。あんまり好きでないんですよね、岩は。
何篇考えても、同じ予算だったら、アイスルートとか、山に行くための費用に充てたほうが心が満たされ、岩に充てるのは、なんか損した気分になります。
若い男性クライマーと登ると、なんか損した気分というか、本当に損している…。一度証明するようなクライミングデーがありました。
私には登る課題が1,2本しかなく、相手には10本だとしたら、フェアでないです。
それも、別に私の側の事情によるのではなく、日本では岩場の作りがそうだから、みたいな理由でしかないので、そのために不利を被り続ける関係を維持するのは、自分を大切にしていない、ということになります。
海外に行けば、大体、対等にフェアな関係性で誰とでも組めますから、私が一方的に不利になっていると分かる関係を好んでくる人は、私の足元を見て、弱みに付け込んでくる人という意味なのかもしれません。自分が行きたいのには行くけど、私が行きたいのには行かないということですね。
今後日本のクライミングはどうなるのでしょうか。
スポーツクライミングで安全に登攀力を上げたら、その登攀力を使って登る、外岩課題が必要になりますが、そういうのが足りていないかもです。不必要に危険か、過保護すぎるか、みたいなことになっている。
楽しそうなのは、やはり海外で開かれた新しい岩場ということではないでしょうか?
タイとか楽しそうで、アメリカ人の往年のクライマーですら、タイで老後はクライミング三昧したいそうです。温かいですからね。