■縁と因
今日の仏教説話から。 因と縁でいえば、同じクライミングしたい!という気持ち(=因)を持った人がいたとしても、
山梨では良縁であると思う。一流のクライマーたち…室井登喜男さん、佐藤祐介さん、などがが普通にその辺に市民として存在しているので、そういう人たちが、グレードを鼻にかけていない様子を見れば、10aが登れただけでかっこつけてしまう…というような陳腐なことは起きない。
他にも、天野和明さん、伊藤仰二さん、沢なら後藤真一さん、成瀬陽一さん、ちょっと足を延ばせば、平山ユージさんにも会いに行ける。
クライミング講習会は、菊池敏之さんとか、もう亡くなってしまったが杉野保さんのが行列であり、故・吉田和正さんもしていた。中根穂高さんも講習会をしている。
ピラニアにも別にビレイ講習会とかはなかった。だから環境として優れているのは、トップクライマーがいるということだけで、教えてもらえるか?というとそんなことはない。
■ 教育機関はわざわざ出かけていくものですよ
車で3時間の場所の大町に長野県山岳総合センターがあり、一年間のリーダー講習を受けることができる。
私の班の講師は、村上周平さんで、八ヶ岳の遭対協の副隊長なので、リアルタイムで遭難情報が回ってくる。もう一人の講師だった高橋さんは、小川山の”春の戻り雪”の開拓者だった。小川山で登っていたら、どちらの方にも時々会うので、”どこそこで登っています”と一声かけておけば、保険付き、という感じだ。
山梨でも一つの会だけで、ちゃんとしたクライマーになるための初期教育が満足にできることはなく、基本的に、会ごとに分業で、オール山梨、でないと、山や教育を完了できないし、本人の勉強熱心さが、会から教わることを上回る。
必要なのは、
・スポーツクライミングを教えてくれる会
・合宿を教えてくれる会
・本チャンを教えてくれる師匠
・沢を教えてくれる会
・危急時の講習会 (普段一緒に行く仲間と共有しないと意味がない)
・フリーを一緒に行ってくれる相方
・クラックを一緒に行ってくれる相方
で、
・アイスを一緒に行ってくれる相方
は、オプション。アイスクライミングは、特殊なクライミングです。が、アイスの進化系の
・ドライツーリングの仲間
は、海外クライミングの常連であり、海外クライミングが初心者に有効なクライミングであるという情報はドラツー仲間から得ました。ドラツーからの情報がなければ、永遠に、ヨセミテに行って上がり、ということになっていたかもしれません。
ここには、ハイキングに行く仲間は含まれていませんが、ハイキングは個人で普通に済ませてしまえるからです。冬の小屋泊まりハイキング的雪山くらいまでは、個人で済ませてから、でないと、足も出来ていないし、お天気を見るというような基本さえも身についていないので、山岳会に行っても、お荷物になるだけです。
ハイキングの山…つまり、ロープが出ない山をやる人の最高峰は北鎌尾根です。東京方面でも、北鎌尾根を登って上がり…という登山者は多いそうです。北鎌尾根で落ちるような人はアルパインに適性はないかもしれませんが…北鎌尾根は、登る人のクライミング力、つまりムーブをこなす力によってはロープを出さないと危険レベルの山です。ので、太っている人などは、とても不利です。登山では体が大きいこと、つまり体重が重いことは、歩荷ができるということで大きな不利ではないですが、クライミング要素が出る山では、体重が重い事は、かなりの不利です。体格であきらめてしまってここで辞める人もいます。
古い方法論では、尾根→沢→雪→岩→氷と進むので、次は沢になりますが、沢登りは、とても危険が多い登山形態なので、仲間が必要です。
しかし、これはメンバーの頭数が難しい。沢は、谷なので携帯電波が入らないことが多く、事故になった場合、外部との連絡を取るのが難しいことが多いです。
九州でも、山岳雑誌『のぼろ』の編集長が、洗谷で墜死しています。福岡の近郊の沢です。もともと、登山道だったくらいの沢なので、大したレベルがあるとは聞く限りでは思えないですが、死者がでるということですから、登山者のレベルが下がったのか、沢のレベルが九州では高いのか分かりませんが、単独は、辞めたほうが無難です。
大体、4-5人が一番いいです。2名だと負傷者についておく人、と連絡に走る人、と分けられません。斜バリなど、レスキューをしっかり学ぶのが沢です。尾根のリスクは風ですが、谷のリスクは、もっと深刻で複雑です。
沢登り時代に学ぶのは、登攀のオーダー(順番)とか、沢で一泊するときは、増水時に逃げるためにロープを張っておくとか、焚火とか、あるいは、ゴボウとか、後続の簡単な確保、あるいは弱い人をどう守るか?です。
一般のフリークライマーはこの辺は知らないので、お助け紐、とか出し方、知りません。ハーケンの打ち方も沢で学びます。
雪は九州は関係ないので割愛します。ピッケルとか滑落停止とか、雪訓の山です。
岩は、2段階構成です。アルパインの人は岩トレが必要で、普段クライミングをしない人でも、山岳会にいれば、一年に一回くらいは、岩トレしているハズです。岩トレで、登攀が上手になることは基本ないですが、知ってると知らないでは雲泥の差です。
特に大事なのは、懸垂下降で、フリークライマーのようにちゃんとした確保器などの道具を持っていないでも、カラビナ一枚とか、肩がらみ、などでも、なんとか降りれたり、3分の1システムを学んだり、あるいは、介助懸垂を学んだりします。
その段階が終わったら、エイドは大体のことが出来ているハズなので、普通にフリークライミングにステップアップしたい人はそこへ、そうではない人はハイキングの山を極めます。極め方は個人によって、いろいろで、私はシブ好みなので、南アルプス深南部へ行きました。鎌ナギとかです。
フリークライミングになると、複雑性が増します。ビレイの習得がまずは課題になるので、スポーツクライミングの会に属して、週2回半年は最低人工壁に通い、ビレイを習得します。この段階で間違った会に入ると、壁から離れたビレイなどをそれで良いのだと勘違いしてしまいます。体重差など、学ぶことが多く、事故が一番多いのがこの時代です。ハイリスクグループということです。
スポーツクライミングのクライミンググレードで、アルパインのルートが登れると勘違いしてしまうことも良く起きます。岩トレの段階で岩場のグレーディングについて理解を深める機会がないとか、自分で山行計画を立てる習慣がなく連れていかれて終わり、だとそうなります。
ビレイが習得出来たら、外の岩場でも支点がしっかりしていて、ほぼ落ちないようなのに通います。ロープ慣れがないと、何ピッチも登る場合は、ロープに使われてしまって時間がかかるので、主に登攀力よりも外岩ではロープの処理の練習会です。
登攀力を上げるのは、ボルジムで個人練習で、せっかく二人そろったのにリードフォローをしないのは、もったいないからです。機械喪失です。段々早くなり、最初は一日かけて5ピッチしか稼げなかったのに、段々と12ピッチくらいは時間内に終われるスムーズさを身に着けられるようになります。超ベテランは20ピッチくらいだそうです。マッターホルン北壁とか50ピッチもあるそうで、そんな山でロープワークに時間がかかっていたら凍死してしまいますね。ヘルンリ稜は下山路だそうです。
余談ですが、ガイド登山でヘルンリ稜に行くという話は誰もしてません。ガイド登山というのは、登山者ではなく、登山客がすることなので、最初から思考の中にないわけです。
さて、そういうロープでピッチ数を稼ぐ特訓を経ていないトップとマルチに行くと、ボルトルートでも痛い目に遭います。登攀力ではなく、ピッチを稼ぐことができない…という下手さが核心で、時間がかかって、下手したら夜になってしまいます。懸垂でロープが足りないとか、ブッシュに向かって懸垂してしまうとかも、不慣れなクライマーという意味です。
次はクラックの相方を見つけて、クラック修行です。なんせ現代の支点はハーケンは稀で、カム時代です。カム以外にナッツなどのパッシブのスキルも必要なので、そういうのを知っている人を見つけたら、大ラッキーです。
この段階でも、登攀力を上げるというのは、ボルジムで個人練習でいいです。一緒にいる時間があるときは、外でしか登れないクラックとか、マルチとか、インドアではできないことをします。とくにクラックはジムではぜんぜん練習できないです。
この段階の人がリードを強要されることはほとんどないハズです。いたら、その先輩はおかしい。外岩に行っている目的を共有していないかもしれません。もちろん、登っても落ちない登攀スキルがあれば、リードの方が楽しいので、リードを勧められます。私も、三つ峠は行って2回目からリードしています。この時は、2度目でリードって大丈夫なのかな?と思ったので、信頼できる先輩に「ほかの人を見ていると二度目でリードしている人はいないですが、私はやっていいのでしょうか?」と聞きました。よほど登攀が確実でないと新人さんの段階ではリードを勧めてくる人はいないと思います。
”アレヤコレヤ…”と表現される色々な知識が溜まるのに、しばらくかかります。
毎日クライミングに行けば違うと思いますが、普通の人は土日毎週行く程度が限界だとすると、3-5年程度はかかると思います。昔の大学山岳部は年間130日、やっていたそうで、そういう場合は、1年でいいようです。ロープはなぜダイナミックなのか?とか、墜落係数とか、ビレイヤーのセルフとか、登山の歴史とか、フリークライミングの歴史とか、色々机上でも学ぶことはあります。結び替えができないとか、この時点でないハズです。
その後になって、やっとフリークライミングです。この段階で、ロープクライミングか、ボルダリングか、指向が分かれると思いますが…
フリークライミングで限界グレードを上げていくクライミングは、ロープに確保されるので、ビレイヤーとの信頼関係を築きながら登っていくクライミングです。
ボルダリングは、石ころを登るので、ビレイヤーは要りませんが、大体の人はグループで仲間と登っています。マットがたくさん必要です。
ロープのクライミングは、持久力。ボルダリングは突破力。ロープのクライミングで長いところを登っても、ロープの長さいっぱいが限界です。5.12でも、全部が5.12というわけでなく、スタートは10ぐらいで、まんなかあたりは11くらい、核心部が12で、トータルは12とか、ムーブで要求される能力自体は11くらいだけど、長いから12とか、そういうグレーディングなので、ある一部の核心ムーブができない!となれば、ボルダーでやりたくなるかもしれません。
ボルダーで突破力をつけてから、その課題に戻れば、その核心部は越えられるはずだろうからです。
私も、たいていは特定のムーブが苦手…私の場合は、アンダーとか、マントルとか苦手です。ので、そういうのを練習しに行く先がボルジムでしたが、外のボルダーはそのような人には便利というか、外でやれば、ホールドを見る目も養えます。
ムーブの洗練を求める人は、ボルダラーになってしまうと言われています。
またロープのクライミングでも、傾斜がない、つまり、スラブやフェイスと、オーバーハングの石灰岩だと必要な能力が違うので、集まっている人たちも違います。
上半身のパワーがより必要なオーバーハングなどでは、当然ながら、男性や若い人が多い傾向があります。
どちらにしても、体重が軽いほうがクライミングでは有利で、極端に太っている人を見ることはまずありませんが、それだけに、太っていて登れると尊敬されます。スラブは体重が重いほうが安定するそうです。
どちらかというとリードは知性が、ボルダーは身体能力が必要になりそうです。
書き損ねたのは合宿ですが、合宿の経験がないと、集団生活でのテント泊やパーティ行動での歩調の合わせ方とかわからないかもしれません。自分と同じを相手に期待してしまうということです。
女性と山に行ったことがない男性登山者は、朝一からハイペースすぎ、休憩が長すぎる、というのが、大体の女性登山者の悩みです。女性はぜんぜんペース早くないですが、休憩がほとんどいらないです。休憩が要らないペースで登っているというほうが正しいかも…?
一方、男性は瞬間的に力を出し切ることが喜びなようで、ボルダリングなどはその最たるものです…でも出し切ってしまうので、出し切った後は、しばらく使い物にならないです。
このように男性と女性では、指向性がまったく反対ベクトルという傾向がありますが、それはおおよそで、個人により、女性でも瞬発力タイプ、男性でも持久力タイプの人はいます。
ボルジムでの延々と長物をやって楽しそうな男性とか、女性でもダッシュで登ってダッシュで降りてしばらく伸びている人、とか…。
クラックでも、フィンガーが得意なのは女性ですし、ワイドは体幹です。ワイドはアルパイン人がいうワイドとオフィズスのワイドでは意味が違います。アルパインのワイドは、ステミング登るだけで、核心はプロテクションです。登攀は易しいですが危険です。オフィズスは、色々と細かいテクがいっぱいあって難しいです。こちらは大型カムは、販売されています。ビックブローというプロテクションもあります。
全体で見れば、その人の個性に合った快適なスタイルを見出せばよく、私は、外ボルダーにはそんなに喜びがなかったというか、これなら、歩いているだけだとしても山の方がいいな、と思いました。
一番好きなのは、やはりアイスです。アイスはダンスと同じでリズムがあるからです。
あとは、ドライツーリングがありますが、冬季のオーバーハングクライミング、だと思えばよく、アイスは難しくするのは限界がありますが、ドラツーであれば、人工壁もあるので、どれだけでも難しさを追求できます。
その意味で、真のフリークライミングレベルの困難度が求められるのは、ドラツーに行ってからで、外アイスは、あるレベルを超えると、危険度の争いになってしまうので、楽しみがない、と感じる人もいると思います。
私もそうで、5級はリードでき6級もトップロープなら登れると分かってしまうと、脆さという方向性に伸びようとするのは、生命保存の法則に反するので、テクニックを磨くには、ドラツーに進むのが得策、となりました。
アイスは九州では関係ないと思いますが、ドラツーは外アイス環境は不要なので、九州でもアックスを使った高難度フリークライミングとしてドラツーが広まれば、海外へ登攀へ行く扉も開くのではないかと思います。
なにしろ、海外のクライミング人口は当然ながら、日本より多く、ということは、初心者向けルートや教育体制も日本より整っているということだからです。
■ 良縁
良縁を活かしたことが、私のクライミングでの成功の秘訣です。
私の登攀力を見れば分かるように、楽しくクライミングするのに、登攀力は後付けでいいです。
クライマーならほっておいても勝手にグレードは上がっていくものです。
本来なら、10代が登れる人は誰でも、私のように韓国にマルチに行ったり、台湾にクラックに行ったり、ラオスに一人で行ってパートナーを見繕って登ったりできるのが普通なのです。
誰でもやれてしかるべきことがそうなっていないのは、縁、が揃っていないからです。因は、本人が勉強するかどうか?なので仕方がありませんが、縁は本人の事情には寄りません。
日本全国に良縁が張り巡らされ、趣味程度のクライミングで死んでしまう人が減るように願っています。
カムが使えれば、台湾では色々と登れますラオスで一番多いのは、5Cとかの課題です