2022/11/19

グローバルスタンダードの無視とガラパゴス化

 ■ クライミング界は最後の、”出来ないおじさん族の砦” なのでは…

グローバルスタンダードということを考えたときに、思い浮かぶのは、数々のビジネス上の経験だ。

例えば、国際会計基準… 日本だけが日本式簿記から離れられず、企業経営の透明性が非常に低いままなので、投資対象として、評価が難しいんですよね…。これは、30年くらい前からずっと言われていますが。

私も投資是非を判断する立場のグループにいたので、ファイナンスは多少勉強しましたが、アメリカ式と日本式は違い過ぎていて、国際的には米国会計基準に向かっているので、日本だけが取り残されて、ガラパゴス化しているようでした。

ところが、そのほうが都合が良いと、一部のオジサン族は考えるようで、それは、会社が俺の城、で、俺のエゴに奉仕するフレームとしてグループを作り、社会に何らの便益を奉仕する公の器、という意識がない人が多数だからです。例えば、社員を殴る・けるの暴行をするようなタイプ。

クライミング界を見ていると、そういう”俺様タイプ”の思考法の人が、

 歴史を盾に時代の変化への対応を嫌っている

 ”俺様”に無断で、とはけしからん

と言っているようにしか、聞こえない…。年を取ると人は鈍く愚かになるものだなぁと思います。

■ 儒教の教え= 若者の思いやり

私はある時、九州の国立大学の山岳部が、ヒマラヤ登山に向かった記録を見たのですが…その記録は、どう見ても、老人に若者が付き合った記録でした…。年配の人の時代は、若い人が歩荷して先輩の山を手伝い、そして次の時は自分が手伝ってもらう、だったのだそうです。が、現代はそういうことはすでに終了しています。

年功序列で先輩が花を持たせてもらって当然、というのは、若い人には順番が永遠に来ない(笑)。しかし、その大学の山岳部学生は、あきらかに付き合ってあげていて、気の毒な感じでした。だって、ヒマラヤまで行くのも、多額の旅費がかかるんですよ?ちゃんとした山じゃないと行く気になれないでしょう?

それで、あれまぁ!と思ったんでした。

普通は、若い人の夢の実現に、年配の人が一肌脱いでくれるものでしょう… 逆になってる。

■ カットアンカー事件

カットアンカー事件(九州はいまだにリボルトにカットアンカーを用いようとしている事を知ること)は、私が岩場でたまたま出会った往年の開拓者に

・ボルトを提供しよう

という、奇特な心を起こしたために起こったことでした。

私は父親なしで育った娘なので、ファザコンなのです。しかも、

・クライマーは自分が登る岩場を整備すべし、

というまっとうな意見の持ち主なので、近所の岩場だし、自分のポケットマネーをいくらか投資するのは当然だろうと思いました。

そこで、ボルトを検討していて分かったのが、何十年もカットアンカーを使いづづけているという開拓者のミス、でした。

まったく、誰も教えてやらんかったのかね?今でもその岩場はカットアンカーですが、新品でも十分な強度がない、ということが分かった今でも打ち換える人はいないですが…。

ボルトが変われば、ドリルも変えねばならないし、何より、その開拓者の岩場は、あまり使われていないようでした。

流行っているクライミングジムに行っても、若者店長は、「そんなところに岩場があるんですか?」という感じ。

若者の側でも、高難度を登る男性たちを現在魅了しているのは、パズルのように置き換えることができる人工ホールドで、よりトリッキーなルート設定をして、クライマーとセッターの知恵比べをする方で、自然の中でのんびり岩と対話する、ということではなさそうでした。

というので、若者のほうは、岩場イラナイし、カットアンカーなら余計要らないし、老人の方は、知らぬが仏で、趣味の岩場作りが辞められないという状態。しかも、本人はそのボルトにぶら下がることはないのです…。ずっとトップロープでしか登らないので。

このような成り立ちで成り立っている岩場だと、九州ではすぐにも藪とコケに埋まって原野に帰ってしまいそうです。

そこは、大学山岳部が手ごろな、ゲレンデとして使っていそうでした。丁寧にぶつからないように使っている曜日まで教えてくれましたが…近くに野北のゲレンデがあり、そちらはカムで登れるので、そっちを登るほうが大学山岳部は、本州の北アなどでの本チャンの練習になると思います。野北は三つ峠レベルでした。懸垂支点は、グージョンに打ち換えたほうがいいと思いますが。

■ ガラパゴス化

そういう風に、九州ではガラパゴス化が進行しています…。

もはや誰も、本州では採用していない先輩後輩システムが温存され、若者が一方的に損をする世界です。

フリークライミングの場合は、部活制度で、コーチが一方的にビレイに徹し、登らず、クライマーの若い人は、スポーツの壁で一切のリスク認知を学んでいないようでした。

コーチに、ココを登りなさい、出来たら次はこれを登りなさい、その次はコレ、と次々に指定され、

 自分が何を登りたいのか? どのようなクライミングが好きだから登っているのか?

という自分軸が失われた状態で登っているということです。結果、

 勝ち負けだけで自分の価値を測る=競技

になるとそうなりますね。そういう人は大人になって、苦悩することになるでしょう。

■ クラック嫌い・アイス嫌い

御坂山岳会では、アイスクライミングに対する深い誤解がありました。それは、アイスは危険だ、アイスは金で登るものだ、という誤解です。なんせセミチューブから、アイス登っていなかったみたい。

本当はアイスは、氷との対話なので、”氷”が”今、登ったら落とすよ”と言ってくるときは、登りません。それが会は分かっていなかった。長年、ボルトルート一辺倒で、トップロープ限定になってしまっていたんだそうです。

同じような誤解に、九州クライマーのカム嫌いがあります。米澤さんという往年のクライマーは、カムの強度がボルトと比べて著しく低いと信じておられました。が、実は現代のカムは結構しっかりした強度があります。出ているカムの種類も増えました。

なにより、カムのセットをしないクライミングしか知らないと、自己を守る能力はつきません。作曲家が自分で曲を作るのと、人の曲を奏でるくらいの差があります。自分でクライミングを奏でているのではなく、 ヒトの作ったクライミングの歌を聴く、ということです。

例えば、米澤さんの作曲は、ガバ=ボルト飛ばしという歌で、それが5.12あたりと思しき、彼の限界グレードまで続きます… それは、アルパインのリッジルートでは、そういう風に奏でるのが当然だから、それをリッジではなく、ウォールに持っていくと、自分の限界グレードまでは、自分にとってイラナイ、と判断したら、ボルトはないです。それでも米澤さんのは、その奏で方はフリークライミングのルールには即していないのではないか?と思ったようで一応、距離的な目安も取り込んでいますが、微妙にランナウトのところもあり、ボルトがあっても、落ちれない箇所もあります。グレードは混乱中です。

そういう感じに、昔の栄誉あるクライマーだって完璧ではなく、発展途上だったのです。人が老いず、永遠に最盛期の筋力を保てるならば、彼だって、ハードフリーから、今日のフリーに進み、まっとうなルートの作りを学びたかったでしょう、たぶん。誰だってユージや、小山田大みたいになりたいんですよ、男性は。だけど、そこは、天賦の才能の差、や生まれた時代の差、があって仕方ないところでしょう。

米澤さんは、評価も確立した、いいクライマーでした。ビレイループ2重にするほどの安全志向がそれを物語っています。

そして、その米澤さんも、現代のフリークライマーがグレードがおかしいと感じるなら、連絡を、と言っていました。そもそも、自分が開拓した岩場を誰も登ってくれないので、悲しい、ということなのです。

昔の人は、全国の岩場を渡り歩いて、グレード感を身に着けるとか、世界の岩場を行き来してグレード感を身に着けるとかできなかったのです。

■難易度の感じ方は老いで変わる

例えば年を取ってから、ボルダー一級の基準のエイハブ船長に行っても、エライ難しく感じ、若い間に行けば、俺一発で登れたぜーとなるでしょう。

これは、アルパインでも同じことで、若い20代に、北岳第四尾根を登ったおばちゃんが、あの頃は簡単だったのに、今ではとっても怖い、と言っていました。若い時は、リスク認知センスも育っていないし、元気いっぱい、怖いという感情をまだ学ぶ前です。だから、何がむずかしいの?と四尾根レベルの登攀は誰だってスイスイ登れてしまいます。が、年を取ると、5.7だって恐る恐るです。

師匠の青木さんは、「クライミングは、知れば知るほど怖くなり、自分との戦いになる」と言っていました。それこそ、かみしめるべきベテランからの言葉の贈り物でしょう。

つまり、怖いもの知らず=単にまだクライミングの円熟を知らぬ未熟者、って意味ですよ。 なんせ、リスクを学習する前の男性の自信の根拠は、お母さん、です。幼児が遠くに行くのと同じ動機なんですよ。

しかし、人が衰えることを、逆に言えば、若い時は楽しめなかった易しいルートでも、年を取れば楽しめるということです。簡単なルートは、入門時と衰退期の両方に使えるおいしいルートってことです。

■クライミングのマナー

私は、米澤さんと、日向神の入門マルチに行っていますが、小川山の春の戻り雪5.7より、うんと易しいスラブで、あれだとオンサイト出来たので、米澤さんがトップには別の男性を連れてきたのが、奥ゆかしく、礼儀正しいと思いました。米澤さんとは一か月以上ご一緒して、登れる力も見極められていたからです。

他の著名な会の人が、初対面なのに私にリードを頼んできたのは、マナー違反なので、ビックリでした。普通は初対面は、リードするにしてもショートですし、その判断も登る本人がし、強要されることはありません。訳も分からない人に登らせたら、その人は落ちて死ぬかもしれないからです。特にランナウトしたルートを登らせるなど厳禁。私は、こちらの価値観で、これをクライミング常識通り断ったら後で難て言われるか分かった者じゃないなと思ったので、うけて立ちました。普通は、常識的に考えても自分より弱いと想定できる女性や、力が未知数の相手に、登って見せろ、とチャレンジして来る男性クライマーなんて、いません(笑)。

その上、後から送られてきた写真によると、二人のクライマーを一人がビレイするという悪習慣で、それを悪とも分かっていないようだった。送ってくるのは、悪いと思っていないという意味だからです。ビックリでした。

しかし、福岡の若い人はこのような指導者しか得れていないということです。若い人が気の毒でもありますが、知識武装していないがために、このような指導と言えない指導を受け入れざるを得ず、

間違った知識の再生産をしている、

ということです。この悪習慣はすぐ改められなければなりませんが、九州にはきちんとしたクライミング教育を施せるクライミングガイドがいません。

さて、以上のように、

 古い、間違った習慣が改められていない、

のは、

 全国岩場巡りできない、海外岩場巡りできない

という

 知見の限界のため、

で、それが正当な理由があるから、ではありません。おそらく、誰だって世界のユージやサチのように

 海外の岩場をバンバン登る経験

があれば、グレードバラバラ状態にあちゃーと思うかもしれませんよね…。その機会がなく、自分の限られた知見…自分の岩場で精いっぱい‥‥が現状ということなのですから。

サボっているのではなく、人には限界がある、ということです。年を取って、パソコンやSNSに疎くても仕方がないでしょう。

私は団塊2世ですが、14歳でプログラミング言語を独習し、20歳で渡米して自活生活し、25歳で開発部に入り、帰国後は外資でお勤め、Google先生使用は28歳からです。最後の仕事は、九州三井物産新事業開発室というところで、ビジネスの投資判断をする部署です。

そういう人と長年大学という世間から隔絶した場所でしかも、鹿児島という奥地にいたら、それは、世間の流れに疎くなっても仕方がないかもしれません。

仮に、引退して日之影町に隠居していたらもっと情報には疎くなるかもしれません。

そいうことですから、年配の人から受けた精いっぱいの岩場を

 どうしたら、無理なく、事故なく、多くの人に登ってもらえるか

を考えるべきです。現代のクライマーは、山からクライミングに入らず、ほとんどの人が、クライミングジム育ちです。

その人たちにはその人たちにあった教育法を授けるべきで、昔ながらの

 18歳男性、山岳部新人

という基準を、

 子供や女性、18歳ではなく30代などの男性もありうる、という現代の初心者

に適用するのは、無理があります。

当然ですが、

 グレーディングは、正確であればあるほど良く、

フレンチかデシマルか?というのは、本題からそれる議論になります。フレンチでも、デシマルでも、

 正確さこそが、グレーディングの命、

なのです。

 またボルトスペーシングについては、

 5.10代のボルト間隔が、5.12の登攀力を前提にしている件

は早急に改めないと、事故は減りません。本来のグレーディングの意味を骨抜きにする、誰が聞いても変な悪習慣です。

 10代を登るのに、5.12の登攀力が必要という意味

だからです。

ステファン・グロバッツが登ったニンジャは、5.14だから、50m3ピンなんです。比叡では、5.9で50m3ピンだと庵の三澤さんは言っていましたが、今はそういう時代ではないともおっしゃっていました。

50m3ピンを5.9でやって楽しいのは、往年のクライマーです。私の師匠だった青木さんも、楽しくて、辞めらないでインスボン30回くらい行っていましたが、初心者の私に適用することはなく(当然)、私が仮にインスボンをリードできるようになるとしたら、5年後だろうと言っていました。私はインスボン、セカンドでも落ちたの2回程度です。ショートなら落ちながら登ることはフリーでは当然なので、リードレベルです。実際、5.12をRPできる先輩をインスボン連れて行きましたが、リードは怖がっているピッチがあったそうです。師匠によると。つまり、ランナウトの耐える力は、ショートで5.12RPする力とは違うということです。

今の時代のジム上がりクライマーは、師匠なしで登るので、5.9 に5.12が必要とは思うはずも知るはずもなく、5.9と見たらすぐ飛びついてしまいます。そりゃ当然ですよね、5.9と書いてあるのですから。しかし、事故は避けないといけないので、5.9 50m3ピンのピッチには、

 Rを付けたらいい

だけです。それで、往年クライマーの名誉も守られるし、ジムクライマーは来なくなるし、八方よしです。 サチさん、大やすり岩、Rつけていましたよね。