■ 安全は、個人の資質次第
アイスクライミング歴40年ベテランである師匠に説明しても、どうしても理解してもらえないことの一つに、
安全なプロテクション位置は、それぞれ人によって違う
ということがありました…。
その理由はなぜか?と考えると、平均的な身長があり、自分がリードするばかりで、セカンドで登る経験値が低いと、気が付く機会がないものなのかもしれません。
私は自前で行ったアルパイン1本目の明神主稜ですぐに気が付きました。相方の設置したカムが遠くて、手が届かない…(^^;)
■ 屈曲したクラックは、初心者のリードに向かない
クラックの場合、カムの設置の難易度は、クラックの形状によります。
そのため、プロテクションの設置に不慣れな初心者は、セットが難しいクラックは、登攀は易しくても、リードさせられません。
以下が一般に初心者のリードに向かないクラックです。
1)フレアしているクラック (カサブランカなど)
2)素直な直上ではないクラック (愛情物語など)
3)パラレルな部分が見極めづらいクラック
これらは、基本的に初心者のリードには向きません。
じゃ、どれが向くの~?ということは、クライミングの世界では、標準的な、これが登れたら、次はこれを登れ、ということは、ほとんど指南されていません。
関東であれば、一般的には、三つ峠などでカムセットを覚え、湯川や小川山の5.9で初心者時代を過ごし、5.10代のクラックを一通りRPする、ということになりそうです。
■ プロテクションを覚える時期
クラックの場合、プロテクションの信頼は、5.10Aが登れるようになったくらいから作り始めます。
それくらいからが、フリークライミングの技術領域で、それ以下で落ちるようなクライマーは、そもそもフリーに来てもらいたくないからです(笑)。つまり、下手くそは、お呼びでないのがフリークライミングの世界です(笑)。最低限は、5.9で落ちない登攀力、です。
ですから、5.7や5.8のクラックでは、オンサイトで構いません。オンサイトというのは、プロテクションには、まったく頼っていませんから、プロテクションの技術は、結果として、ゼロでも結構です。とりあえず、真似事でも、どっちにしろ、そのプロテクションにテンションすることはないんで。そこで落ちるなら、フリーには素質無しです。
というわけで、結局、5.10Aあたりから、本格的にクラックの修行が始まることになります。この段階では、カムは、本当に文字通り、プロテクション…身を守るもの…です。そのカムにぶら下がるということが前提ですので、カムへの信頼を作っていかなくては、今後、一か八かクライミングをやることになります。
したがって、テーマはカム設置となるハズです。
■ 事例
以下の写真は、背が高く、体重が重いクライマーがセットしたカムの配置です。
1ピン目が高く、
2本目は、屈曲部に入る前の水平部
3本目は、屈曲の後、ガバが持てるところのすぐ上で、2個、固め取り
4本目は、傾斜が変わる落ち口の直下で1本です。
固め取りしたのは、落ちる可能性があるところでは、固め取りが基本だからです。落ち口も、ロープの流れを考えると入れたくはないですが、安全のためには入れざるを得ません。
結果、ロープの流れが良好なカム配置になっています。
背が高く、重たく、ガバ得意なクライマーのカム設置 |
■ ちびのカム配置
こちらが、私のカムの配置です。
1ピン目が、1枚目の写真と比べて、はるか下であることが見て分かると思います。
2本目は、1枚目と同じです。
3本目は、ハンドジャムバチ効きだったので、ジャムしながら入れたところです。ランナウトを避けた格好です。
4本目は、1枚目の写真の3本目と同じです。
5本目も、同様に1枚目と同じです。
背が低く、軽く、ジャム得意なクライマーの設置したカム配置 |
■ 考察
見て分かると思いますが、1枚目は3本目がランナウトしています。これは、このクライマーにとっては、ガバを取ってから、プロテクションを入れるほうが、むしろ、不安定なジャミング中に入れるより安全だからです。
実際、登攀中、”手汗で滑る!”と言いながら登っていました。そのような場合、不安定な部分は、速やかに通過したほうが安全です。
ガバ=プロテクションチャンス、です。
私のカムセットでは、明らかに違うのは1本目の位置です。
これは、ボルトルートでも同じと思われます。
日本では、現在でもクライマーの9割は、男性です。女性は増えてはいますが、1割から多く見積もっても、1.5割程度です。昔はさらにそうで、95%は男性だったと思われますから、日本に現存する多くのボルトルートは、男性の標準身長における安全、のみを考慮して打たれた配置だと思われます。
これは、安全志向のクライマーにとっても理解が難しいと思います。誰にとっても相手の立場に立つのは、想像を超えたものだと思うので。
2本目は大きな横クラックで、ラインが変わるので、いれますが、人によるかもしれません。縦のクラックでプロテクションが取れるなら、そのほうが流れがよいのかもしれません。
3本目は、すでに述べました。安全とはその人によって違うという事例です。ガバがすぐ持てる人にとっては、取ってから入れるほうが良いですが、私はランナウトする前に入れます。
4、5本目は同じ配置なので、取れるところでは必ず取る、という原則に従った形です。
こうしてみると、やはり、核心は、
1)1ピン目
2)ガバを安全と感じるか、ジャムバチ効きを安全と感じるか
3)ランナウト
です。私は握力が低いクライマーなので、ガバよりは、握力を使わないで済むジャムのほうが、プロテクションのチャンスです。
また体重の重さもリスクになるので、重たいクライマーは、どか落ちの可能性がある個所では、カムは固め取りしたほうが良いと思います。
以上考察でした。