2019/08/15

適切な安全マージンの考察

■ バカ女

今回のクライミングは、対照的な二人の女性クライマーに出会った。

便宜的に、バカ女と謙虚すぎる女と区別することにする。

一人目は、志賀の岩場で会ったバカ女だ。バカ女と言って、憚らないのは、彼女が

 イケイケ強気の自分に自己陶酔

していたからだ。山の世界では誤解が多い。やんちゃや向こう見ずを武勇伝扱いする風潮だ。例えば、クラックのリードについて。

「私、すーぐ取り付いちゃうの!考えないで行っちゃうよ~(さもそれが素晴らしいことであるかのように)」

「へぇ~登る前にオブザベするの?なんで~?!行けばいいのに!」

と言う具合だ。私は終いには

「あなたはそうかもしれないけれど、私は嫌なの。無理強いしないで!」と釘を刺さないといけなかった。言いたくないことを言わされた。

しかし、つまり、5.9を登らない判断をするワタシをチキン扱いされたため、一矢報いておかないといけなくなった。私は彼女のせいで、この日、自分がオンサイトしたいと思った5.7のクラックが登る時間も、ビレイヤー資源も奪われた。

山の世界では、イケイケどんどんの人は注目を浴びれる。なぜなら、誰かが制止してやらないと、死んでしまうようなことも、やってしまうからだ。分かっていない人。向こう見ずを武勇伝化する人だ。男性に多いが、女性にもいる。

彼女は、そう言う事情で、男性…といっても、定年後のおじいさんたちだが…からの注目を一身に集めるという幸福を謳歌中だった…。大家族の一人っ子状態だ。ギャーギャーとうるさい。

こう言っては何だが、女性としてあまり容姿が良くない人だったので、様子から、そういう注目を集める機会があまりなかったがために、注目を集めて舞い上がってしまっているようにも思えた。

実際、年配のパートナーが、「あんな娘っ子が登りたい登りたいというんでよ、俺も頑張る羽目になってよ」と言っていたので、男性にとっては、相手がどんな女性であっても、”娘っ子”なんだーと認識を新たにしたくらいだ。

そうだとすると、モテるなら、誰でもいい、つまり、相当な幅で、どんな容姿の女性でもいいわけで、そういう男性心理のせいで、私も登ってもらっているのかもしれない?

その可能性は、女性である限り、100%は否定できない。

私は、そういうクライミング…男性の歓心を女の武器で使うクライミング…には、陥りたくない。と言う訳で、今回、年配の男性のもてたい心理には、用心の必要を感じた。

今、私と登ってくれている人たちは、私が女性だからという理由で、登ってくれている人ではないとは思う。

一言で言えば、

 ”舞い上がっている”

それが彼女を形容するのに、ふさわしい言葉に見えた。パートナーのおじさんも、私の師匠も、登りたがりの彼女の対応に、てんやわんやだった。

こういう人は一人いると、周囲が大迷惑をこうむる…。おかげで、私はあまり自分の課題には取り組めなかった。私は彼女のせいで、自分のテーマにしている、易しいクラックのリードに取り組めず、あとでリベンジで、青ちゃんに付き合ってもらった。彼女のほうは、私がリードした5.9のクラックをリードしようとして周囲に止められていた。実際、登れていなかった。「あれ~ほんとだ。登れない」とか、言っていた。

彼女はよくいる競争心丸出しのイケイケタイプなので、私と自分を比べていたと思われ、どれだけ舐められていたんだろう…私は(笑)。

私は、人からの評価を気にしないタイプではあるが、”評価に気が付かない”わけじゃない。そこまでバカなわけじゃない。

というわけで、イケイケのバカ女に舐められて、自分の課題消化がおろそかになるという、私にとっては、好都合とは言い難いクライミング合宿となった。

このタイプの人は私の天敵だ。

いれば、私は自分のために時間を使えなくなる。私にとっては、子ども時代に、妹がギャン泣きするため、親が妹ばかりを優先せざるを得なくなり、私にとっては、早すぎる自立を強いられることになった子供時代を思い出させられ、うんざりさせられるタイプ。だから、お子様は嫌いだ。

でも、山岳会には、必ず一人はいる。周囲を振り回してハッピーな人。

青ちゃんは、「あの子、あの様子じゃ、いつか大怪我するで」と言っていた。

しかも、彼女のパートナーのおじさんは、アルパインのクライマーとしてスタートした人だったので、とてもいい人だったが、フリーは高齢になって始めたそうで、ビレイでの立ち位置が遠すぎる人だった。私だったら、ビレイにもっと注文を付けるか、彼と登るのは断念するだろう。

■ 謙虚すぎるオンナ

一方で、大阪へ帰ってくると、千石岩と金毘羅に連れて行ってくれた女性がいた。

謙虚すぎるオンナだ。

Mさんとは、今度、龍洞で登るんだが、せっかくはるばる行く龍洞で、5.7のクラックでいいというから、私と同じくらいの段階のクライマーかなーと思っていたら、大違いだった…(汗)。

FBの投稿での内容がすごいので、薄々、感じていたことだったが…10年分くらいの実力差がありそうだ。

今回は、KoWallでのリードと、外岩でのロープ合わせをした。

海外で一緒に登攀するのに、ロープ合わせは必須だ。なので、この機会が持てて良かった。新保ガイドと行ったときも、登れる登れないは、ともかく、登る以外の面で、お互いの意識合わせをしておくと、後が楽だ。海外では、国内以上に怪我が許されない。

登攀は、特に2日目の千石でのスカイライン5.10Aのリードは見事で、カムの設置技術もバッチリ。私はトップロープでも1歩目から、テンションが入る始末。かなり被ったラインであるのだった…。

フェイスも、金毘羅でやったが、私は5.10cをムーブ分解して登れるかどうかレベル、彼女は11cをムーブ分解して登れるかどうかなレベル。

彼女は今夏小川山に行き損ねて、今回の外岩になった。小川山では、小川山レイバック(5.9)をやりたい!などと、そんな実力の彼女がのたまうので、Mさんには、もはや小川山レイバックは簡単すぎるよ!と言うと、「思い出のルートだから」とのことでいたって謙虚。

わたしだったら、そうかな~ルンルン、と次のルートを考え始めるだろう…。

地元だった私としては、彼女に適切なクラック課題をアドバイスしてあげたいところだが、私も、今見えているのは、ジャク豆(5.10b)や5.10cの笠間ピンキーが終わった程度のため、もっと上級者向けのクラックは分からない。Mさんは、クレイジージャム5.10dは、たぶん一撃だと思う。

■ 千石 スカイライン 5.10A

千石岩のスカイラインは、たかだか5.10Aだが、何十回も登って熟達したのだそうだ。岩場資源が少ない土地のクライマーは、同じ課題に繰り返し登るしかなくなる…。私も自分のホームの岩場の課題で、そんなのがあるが、スカイラインのような難しさがある課題ではない。

スカイラインは、クラックと言うより、アルパインっぽい、どっかぶり課題で、腕力とカムの設置能力のち密さの両方が試される。腕力尽きて落ちて、カムが効いておらず、プロテクションが飛んで、大墜落、がありうる事故だ。

Mさんは、かなり上級者なので、私の師匠の青ちゃん…現在、怪我の療養中…よりも、おそらく現時点で登れる。ので、本格アルパインの、錫杖の注文などを勧めてみたが、「私なんて、まだまだ」とのたまう…。

■ 私は適正マージンです!

さて、以上のことを踏まえて、考察する。

たかだか無名の12,3メートルの5.9クラックを屈曲しているからと固辞して、5.7をオンサイトして、

「用心深いクライマー」

「安全マージンが大きすぎるクライマー」

つまり、”ビビりでチキンクライマー”と、言われている私なんだが、その指摘は正しいのだろうか?

いや、正しくない。

Mさんの安全マージンは、私の3倍くらいありそうだった。

今回は、この二人の女性の安全マージンの大きさの差が、鮮明だった。

考えると、私の安全マージンは、常に男性クライマーの安全マージンと比較されて、チキン扱いを受けている。

とはいえ、この強い女性クライマーMさんの安全マージンよりは、確実に薄いと思われる。

ということで、私の現在の安全マージンの幅は、適正マージンだという結論に至った。

私をチキン扱いする皆さん、フェイスで11が登れるレベルで、そこまで確実性を上げてから、5.9や5.10Aをリードするものらしいですぞ?世間では(笑)。

色々な人と登るとすごく勉強になる。

それはつまり、こういうことだ。

まぁ、安全マージンをどれくらいとるか?ということは、それこそ、そもそも、個人的なもので、他人がとやかく言うようなものではない、と思う。

そして、そのような質のことに、とやかく言われて嫌だ、というのは、正常な反応であると思う。