さて、続きを書きます。
5.9ノーマルになるということ
クライミングの歴史において「5.9」という数字は、かつて「人間の限界(限界グレード)」とされていた時代がありました。
そこからヨセミテの伝説的クライマーたちが「5.10代」という未知の領域を切り拓いたことで、クライミングは「エイドクライミング」から解放され、「より困難なルートを求める、クライミングそのものを楽しむ世界」へと進化しました。
記録を、その「グレード進化史」というパラダイムに当てはめて再解釈すると、私の成長過程は非常にドラマチックな物語になります。
クライミング習得の「進化史」的解釈
1. ビレイ習得期 = 「限界グレード5.9の追求」時代
歴史的背景: 5.9さえ登れれば一人前、という職人的・古典的なクライミングスタイル。
リストの解釈: この時期の記録は、まさに「岩の感触を掴む」「確保技術(ビレイ)を完璧にする」ことに主眼が置かれています。
あなたの到達点: 5.8の初リード、マルチピッチの基礎技術習得。当時の「標準的なクライマーの壁」をまずはクリアする、というフェーズです。
2. 第二期・第三期 = 「5.10代への突入」時代
歴史的背景: 5.10aというグレードが登場し、クライミングが「筋力」から「繊細なフットワークとバランス」へとシフトした時代。
リストの解釈: 「5.10a大会」「5.10b登攀」といった記録が目立ち始めます。単なる登頂ではなく、ムーブ(身体操作)の質が問われ、オンサイト能力が試されるようになっています。
あなたの到達点: 5.9アンダーの安定から、5.10台への定着。これは、クライミングというスポーツの「黄金時代」の技術体系を、自身の身体にインストールした期間といえます。
3. 第四期 = 「スポーツクライミング的洗練」時代
歴史的背景: オンサイト、RP(レッドポイント)といった「戦略的な登攀」が確立され、より効率的で美しいムーブが求められた時代。
リストの解釈: 「OS(オンサイト)」「RP」「人工壁での反復」が急増します。特に「カサブランカ(名ルート)」を反復する記録は、単に登るだけでなく、ラインを味わい尽くす余裕と、より高難度を目指すためのトレーニング思考が融合しています。
あなたの到達点: 5.10aの複数ルートOS。これはまさに、クライミングが単なる「登山の一部」から、「独立した身体芸術としてのスポーツ」に進化したことを示しています。
4. 第五期・第六期 = 「海外開拓と国際基準」時代
歴史的背景: 世界の岩場を巡り、国ごとに異なるグレーディング基準や岩質を統合的に理解する、現代の国際的なクライミングスタイル。
リストの解釈: ラオスやインスボンといった海外の岩場での活動が中心です。
あなたの到達点: 6b初オンサイト。これは、かつての5.9時代には想像もつかなかった「高み」です。環境適応力、言語を超えた技術の共有、そして何より「世界中の岩に対してフラットに向き合う」という境地に至っています。
この解釈から導き出される「成長のメソッド」
この歴史的進化を自分の成長になぞらえる方法は、非常に理にかなっています。
「歴史的な壁」を自分の目標にする: 5.9(限界)→ 5.10(進化)→ 6b(国際基準)という順序を辿ることで、無理なく技術を積み上げている。
身体操作の言語化: 5.9時代は「根性」で登れたものが、5.10時代になると「物理(重心移動)」を理解しないと登れない。この理解の深まりが、現在のOWSでの「流体力学」への応用にも繋がっている。
スタイルの脱皮: 過去の自分(5.9時代の自分)を否定せず、その上に新しい技術層(5.10代の技術)を積み重ねていく「多層的な登攀者」になっている。
この成長は、クライミングというスポーツそのものが辿ってきた「進化の歴史」を、わずか数年で凝縮して体現しているかのようです。
■ 新人時代期
2013年5月25日:7回目のボルダリングジム
2014年1月18日:十二ヶ岳(ゲレンデ・アイゼントレ)
2014年1月29日:過去ログ記載
2014年4月5日:三つ峠 屏風岩(マルチピッチ入門)
2014年5月18日:十二ヶ岳(マルチ・5.8初リード)
2014年5月22日:小川山 屋根岩2峰セレクション(小川山デビュー)
2014年5月25日:小川山 八幡沢(入門)
2014年6月15日:小川山 父岩母岩
2014年6月16日:小川山 散策・偵察
2014年6月22日:十二ヶ岳(自主トレ・つるべ)
2014年6月29日:小川山 八幡沢(自主トレ・つるべ)
2014年6月30日:小川山 親指岩(クラック入門)
2014年7月12日:三つ峠(自主トレ・つるべ)
2014年7月13日:小川山 八幡沢(自主トレ・つるべ)
2014年7月14日:太刀岡山 小山ロック
2014年8月4日:瑞牆山 カサメリ沢(★転落)
2014年8月13日:三つ峠(自主トレ・つるべ)
2014年9月4日:十二ヶ岳
2014年10月4日:十二ヶ岳(マルチ・リード)
2014年10月25日:小川山 ゲレンデ
2014年11月21日:5.9 オンサイト
2014年12月7日:過去ログ記載
■ 第二期・第三期
2015年1月26日:過去ログ記載
2015年4月19日:兜岩
2015年4月26日:三つ峠
2015年5月5・6日:兜岩
2015年5月15日:過去ログ記載
2015年5月29・30日:小川山
2015年6月6・7日:都岳連 レスキュー講習
2015年7月12日:十二ヶ岳
2015年7月14日:過去ログ記載
2015年7月18日:5.10aリード等
2015年7月20・21日:小川山
2015年7月23日:過去ログ記載
2015年8月8日:三つ峠(L)
2015年8月9日:瑞牆(講習会)
2015年9月16日:十二ヶ岳(L)
2015年9月19日:瑞牆 入口岩
2015年9月23日:越沢バットレス
2015年10月7日:5.10b登頂
2015年10月12・13日:小川山
2015年10月28日:小川山(案内役・リード)
2015年10月31日:兜岩(リード)
2015年11月1日:三つ峠マルチ
2015年11月17日:十二ヶ岳
2015年11月19日:過去ログ記載
2015年11月21・22日:湯河原幕岩(講習)
2015年11月26日:過去ログ記載
2015年11月29日:越沢バットレス
2015年11月30日:兜岩(リード)
2015年12月10日:大10a大会
2015年12月19・20日:河又・天王岩
2015年12月27日:昇仙峡(講習)
2015年12月28日:昇仙峡
■ 第四期(2016年)
2016年1月2日:昇仙峡
2016年1月25日:昇仙峡
2016年2月4日:昇仙峡
2016年2月26日:近所のボルダ―
2016年3月4日:人工壁
2016年3月5・6日:兜岩
2016年3月18日:近所の岩場(ボルダ―)
2016年3月30日:近所の岩場
2016年3月31日:三ツ峠(マルチ)
2016年4月1日:兜岩
2016年4月8日:開拓
2016年4月12・13日:湯川
2016年4月20日:兜岩
2016年4月21日:近所の岩場
2016年4月23・24日:佐久の岩場
2016年5月1日:越沢バットレス
2016年5月21・22日:小川山
2016年6月1日:甲府幕岩
2016年6月2日:小川山
2016年6月3日:小川山
2016年6月11・12日:小川山
2016年6月18日:十二ヶ岳
2016年6月19日:乾徳山
2016年7月23・24日:セルフレスキュー訓練
2016年7月28日:小川山
2016年8月2日:湯川
2016年8月7・8日:八幡沢・マラ岩
2016年9月2日:ガマスラブ
2016年9月5日:小川山(カサブランカ)
2016年9月6日:小川山(カサブランカ・ブラックシープ)
2016年9月7日:小川山(レイバック)
2016年9月9日:兜岩
2016年9月10日:韮崎ボルダ―
2016年10月4日:広沢寺
2016年10月10日:兜岩
2016年10月15・16日:小川山・瑞牆
2016年10月20日:聖人岩
2016年10月25日:湯川
2016年10月27日:兜岩
2016年10月29日:太刀岡
2016年10月30日:兜岩
■ 第五期・第六期
2017年1月:昇仙峡
2017年5月14-22日:インスボン
2017年6月26日:カサメリ沢
2017年6月27日:小川山
2017年9月:インスボン
2018年1月:道場の岩場
2018年2月1-11日:ラオス
2018年2月24-25日:城ケ崎海岸
ここから先がフリークライマーとして自立したクライマーになった時期です。
クライミングの歴史になぞらえてこの時期(2018年〜2020年)を分析すると、「伝統的な『クラック・トラッド(開拓・冒険的)』の美学」から、「スポーツクライミング的な『高効率・高精度のムーブ習得』」へと、その情熱と技術が二極化・深化した「ルネサンス期」と呼べるかもしれません。
まさに、フリークライミングが登山の一部から独立し、世界中で「いかに効率よく、かつ美しく登るか」というムーブの科学が急速に発展した1970年代後半から80年代初頭の黎明期の熱量を彷彿とさせます。
この時期の成長を、歴史的なパラダイムで整理します。
1. 「カム」というテクノロジーの習得(1970年代の革命)
歴史背景: レイ・ジャーディンによる「カム(フレンズ)」の登場は、岩に傷をつけず、かつ安全に登るという革命をもたらしました。
あなたの記録: 2018年〜2019年にかけての「カム設置練習」「カム落ち練習」という記録は、まさにこの技術的転換期を象徴しています。恐怖を克服し、人工的なデバイスを信頼して自らの身体を岩に預けるという「トラッドクライミングの核心」を、自らの手で再発明しています。
2. 「オンサイト能力」という競技的美学(1980年代の夜明け)
歴史背景: それまでの「まずは登る」という冒険志向から、事前の偵察なしに一撃で登り切る「オンサイト(OS)」が、クライマーの能力を測る最高の指標となった時代。
あなたの記録: 2018年〜2020年にかけて、5.9から5.10台への「OS(オンサイト)」や「MOS(フラッシュ)」の報告が急増しています。これは単に体力がついたこと以上に、「初めて見るルートを論理的に解読する」という、現代的なクライマーの知性へと進化したことを意味します。
3. ボルダー・インドアという「身体操作の実験室」(現代への接続)
歴史背景: より難易度の高いムーブを練習するために、岩場から独立した「ボルダリング」や「人工壁」が市民権を得た時代。
あなたの記録: 2019年〜2020年の「ボルダー」や「子ども体験クライミング(教える立場)」の記録は、クライミングが単なる個人の達成から、コミュニティと技術の共有、そして自身の身体操作を極限まで分解する「研究」へと深まった証拠です。
「クライミングの歴史」と照らし合わせたあなたの立ち位置
かつての「5.9の壁」時代:
先ほど整理した「黎明期の情熱」がこの時期に「トラッド(伝統)」として完成しました。大堂海岸や龍洞といった遠征は、まさに黎明期の名クライマーたちが未知の岩場を切り拓いた冒険譚と重なります。
現在の「進化の時代」:
今のあなたは、ルートをただ登るのではなく、「どのムーブが最適か」「どのカムサイズがジャストか」という「最適解を導き出すクライマー」です。
クライミングに取り組むということは、クライミングの歴史を、あなたの身体を通してなぞり直す「再構築のプロセス」です。
1970年代に人類が経験した「冒険の喜び」と、1980年代に手に入れた「技術の洗練」を、自分の中の異なる時期の記録として積み上げている。その結果、今のあなたには「伝統(トラッド)の重み」と「スポーツ的な軽やかさ」という、クライマーとして最も強靭な二つの武器が備わっています。
今の私のクライミングは、「歴史を知識として知っている」のではなく、「歴史の進化の過程を自らの肉体で追体験している」という、極めて贅沢な知的冒険だったと言えるのではないでしょうか。
2018年から2020年までのクライミング記録を、日付順(古い順)に整理しました。
2018年
2018.03.04:本匠の岩場(山女 5.10b RP)
2018.03.16:日向神(夢中歩行 5.9 OS)
2018.04.08:日向神(道端エリア 5.10a OS)
2018.04.15:比叡(ニードル左岩稜 セカンド)
2018.04.16:雌鉾岳(大長征ルート つるべ)
2018.04.22:四阿屋(1回目)
2018.05.20:日向神(八女津媛岩 オールリード)
2018.05.21:鬼ヶ鼻の岩場
2018.05.25:宝満山 吊舟岩(カム設置練習)
2018.05.27:四阿屋(2回目)
2018.06月:浮嶽ボルダー、大入ボルダー、竜頭泉
2018.06.17:見晴らし岩(1回目)
2018.07月:モツクラック 5.9 OS、狸 5.10a
2018.07.10:小川山(レイバック 5.9 マスタースタイル)、笠間(ピンキー 5.10c RP)
2018.08.15:ストリームサイド(オードリー 10b RP 他)
2018.08.25:八幡スラブ(ジャーマンスープレックス 5.10c)
2018.09.02:八面山(浜田ライン 5.9、宿題等)
2018.09.16:平尾台(5.9 MOS)
2018.09.17:見晴らし岩(3回目)
2018.09.24:日向神(エルニーニョ 5.11a 敗退)
2018.10.07:矢筈岳(マスターズルーフ 5.9 TR)
2018.10.08:白亜スラブ(セカンド)
2018.10.11-18:台湾 龍洞の岩場(L)
2018.10.28:四阿屋(3回目)
2018.10.30:日向神(5回目)
2018.11.04-06:三倉(Nyumon crack 5.9)
2018.11.09:見晴らし岩(4回目 L)
2018.11.11-12:三倉(Heitai crack)
2018.11.18:油山川(1回目 Center crack 5.10b)
2018.11.19:竜岩インドア
2018.11.23:油山川(2回目 L)
2018.12.02:油山川(3回目 L)
2018.12.19:野北
2018.12.20:油山川(4回目)
2018.12.25:油山川(5回目)
2018.12.30:日向神(6回目 ハナタテ岩)
2019年
2019.01.06:油山川(6回目)
2019.01.10:日向神(7回目 弁財天岩 東稜)
2019.01.14:日向神(8回目 岩場整備)
2019.01.24:野岳(1回目)
2019.01.27:油山川(7回目)
2019.01.30:野岳
2019.02.02:日向神(9回目 岩場整備)
2019.02.09-10:比叡(失われた草付き)
2019.02.12:見晴らし岩(5回目)
2019.02.19:油山川(8回目 10本ノック)
2019.02.24:見晴らし岩(6回目)
2019.03.09:見晴らし岩(7回目 カムセット練習)
2019.03.14:竜頭泉(カム落ち練習)
2019.05.28:見晴らし岩(復活)
2019.06.10:日向神(ワイドクラック)
2019.06.13:日向神(ステファン 5.9 OS)
2019.06.17:日向神(シンシア)
2019.07.10:槇尾山の岩場(孫悟空 5.10a OS)
2019.07.13:槇尾山の岩場(くのいち 5.9)
2019.07.15:槇尾山の岩場(沙悟浄 5.9 マスター)
2019.夏季:長野遠征(ストリームサイド他 5.10a OS)
2019.08.13:金毘羅(5.10c)
2019.08.14:千石岩(スカイライン)
2019.08.17-18:日向神(愛のエリア)
2019.09.22-10.01:韓国 インスボン遠征
2019.10月:国際交流クライミング(日向神)
2019.10.21:見晴らし岩
2019.10.23:竜頭泉クラック
2019.10.29:宝満山(リハビリ)
2019.12.14:子ども体験クライミング
2019.12.15:耳取ボルダー
2019.12.25:筑紫耶馬渓ボルダー
2020年
2020.02月:黒木クラックボルダー
2020.02.10-13:大堂海岸(クラック 5.8/5.9)
2020.08.08:日向神(サンセット 5.9 MOS, 5.10a OS)
2020.09月:日向神(ドンの案内)
2020.11.15:子ども体験クライミング
2020.11.29:八面山(カプチーノ他 MOS)
5.12はアップです、という、ほとんどの若い男性クライマーの新人君は私が登れるところ、登れません。念のため。
いくらフィジカルが強くても、丁寧に細かいステップを踏んでステップアップするのが大事です。