2023/08/01

【ガイド】日本の夏山登山におけるガイドツアーは問題が多い

これは私が大阪OL時代に通っていた社会人ビジネススクールの講師の投稿なんだが…

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1日目は畳平(2702m)までバスで移動し、そこから乗鞍岳(剣ヶ峰)(3026m) まで。2日目は千畳敷駅(2612m)までロープウェイで上がり、そこから中岳(2925m)と木曽駒ヶ岳(2956m)へ。

さほどきつくはなかったのですが、帰り道で転倒した参加者が腕の骨を骨折。また初日は通常の道でも歩行がややふらついている高齢者が参加し、途中でリタイアせざるを得なくなり、ガイドさんに怒りをぶつけていました。

個人的な学びとしては、頂(いただき)はそれを目指している時に最も美しく見えるということ。そして高齢者はどれだけ身体能力が下がっても旅を求めており、そこにカスタマイズ旅行の未充足ニーズが広がっているということ。
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山の素人が山岳遭難を起こして危険、というニュースが周知しているので、ガイドツアーを使う必要のない人までもが、ツアーを使った場合の感想だと思った(笑)。

■ 問題1: 中高年という年齢の括りがおかしい

自分が中高年という年齢の括りになってから、登り始めたからなんだが…38歳で山スタートしたが、その頃、私も大手ツアー会社の登山ツアーに参加して、下界の町も、まともに歩けない、リハビリが必要なレベルのおじいちゃんやおばあちゃんが、低山だから、というので、甲斐駒黒戸尾根にすら出てこないような、ものすごい急登の山道で、崩落痕になっているのを、全員でトラロープを引っ張って、登るので、びっくり仰天したことがあった。

それ以来、ツアーには参加するほうが危ない、と心得て、一度も参加していない。

こういうことになってしまうのは、中高年と言った場合に40代以上になっているから。

まともな人は、自分だって中高年だし、と考えてしまう。

普通に考えても、40歳と、60歳では全く身体の条件は違う。当然だが、60代は弱い。特に運動習慣がない人。しかし、統計上は40代以上で中高年。遭難者の大半は60代以上です。

山岳総合センターで、雪上訓練に出た。滑落停止の基本技術で、七倉沢の雪の急斜面を背中で滑りながら、体を翻して、ピッケルを指す、という訓練があるんだが…4人のメンバー内で一発でできたのは私だけで、講師に、ピッケルの向きが反対だよ、と言われたのを、雪面滑りながら、あ、ほんとだ、と治してピッケル指すという具合のゆとり。他の男性クライマーたちは、全然ダメで、何度やってもできる人が一人もいなかった。この講習では、雪道歩きがあるんだが、なぜか一番私が足が速く、男性は50代までしかいなかったのに、全員がバテバテ。講師について歩けたのは私だけだった。

つまり、運動習慣を失った人は、それくらい弱いってことです。まぁ、働くってことは命を燃やした、って意味なんだし、名誉の勲章と思ってください。しかし、このレベルの人は山岳総合センターの、いみじくも”リーダーコース”に出ているので、ガイドツアーに参加する側ではなく、ツアーガイドになる側です。それで、このありさまです。

大体、山では体力は、年齢順、です。

■ 山での安全の約半分くらいが体力で、残りが計画を立てるという知力です。

その心は?

例えば、午後から雷の予報があるとします。4時間で歩ける人が、8時に登山口を出ると、山頂には12時につくことができ、午後の落雷には合いません。セーフ。つまり、安全です。ところが、体力がなくて、6時間かけないと歩けない人が8時登山口だと、もうバリバリ雷です。全然、安全じゃない。これを理由に、一般の人は、体力=山だ、と言います。

実はそうじゃないのです。6時間かかる人は、6時に登山口に行くのです。朝、起きれない?夜登山口に行って、そこで車中泊をすれば、朝起きたら6時出発になります。だから、65歳以上の高齢な登山者たちは、みんな車中泊なんですよ。あれは安全対策なのです。

このように、登山の安全は、半分が体力、半分が知性です。

これが分かっていない人は、下界の時間を山に持ち込みます。なので、山の遭難の約半分はもう登山口で分かっている遭難です。

■ 問題点2 : ”みんなで一緒” は、もう”ない”

日本の登山で文化的に問題なのは、”みんな一緒”という、根拠の希薄な前提です。

なにしろ、標準コースタイム、というのは、日本国だけの前提です。

海外では、誰にもマッチしない標準コースタイムなどはなく、あるのは、

 距離と標高差の表記

です。日本でよく見る団体ツアーも、基本的にありません。気楽に参加できるツアーはありますが、登山靴でなくても、歩けるようなレベル感のやつです。私はオーストラリアで、夫と観光登山に行ったことがありますが、基本、ロマンティックな山小屋の雰囲気を味わうもの、でした。ヨセミテもそんな感じだった。

”平均”という言葉は、”みんなができる”、”多数派”、みたいなことを連想させ、”平均に合わせなくては…”という力学が作用します。

これで、参加者全員が無理することになる。これでは、構造的に遭難予備軍です。

平均ピッタリの人なんて、世の中には一人もいないんです。あるのは個別。人の指紋が一人一人違うようにです。葉っぱだって一枚一枚葉脈が違うでしょう。

そういうことを学びに行くのが、登山なのに、ツアーに参加し、みんなに合わせる、ということが大目標になったとたんに、大事なものが見落とされ… 他人のお尻を追いかける旅となってしまいます。

脚力が弱く、足が遅い人が、無理して周囲に合わせて歩いたら、どうなるでしょう?

そりゃ急ぎますね? 急いだらどうなるでしょう? そりゃ、注力散漫になりますね?

注意力散漫になったら、どうなるでしょう? そりゃ、コケやすくなりますね?

ということで、個人で行くより、ツアーで行くほうが、もともとの体力が低い人には危険、です。

しかも、ここには、日本的な「足を引っ張って、すみません」が入るんです。無理に合わせてケガをしたうえ、負い目を感じるという、踏んだり蹴ったりな羽目が待っています。

■ 問題点3 : ガイドレシオの無視

こうした問題があるにもかかわらず、日本の団体ツアーはなくなりません。

それは、定年退職した人の中に、できるだけ安く、でも、誰かと登りたい、というのがあるからです。ケガをしたときの保険が欲しいんですよね。

それは、やっぱり保険なので、若い男性が適していると思います。あるいは、うようよ人がいるときであれば、誰か親切な人が救援に走ってくれるので、混雑した山を選べば、一人でもOKです。混雑した山=孤独ではない、です。

保険を得るために、無理をするというマイナスを甘受していては、本末転倒です。

団体ツアーは非常に問題が多く、大規模な遭難事件は、大体、ツアーご一行様なので、ガイド協会では、ガイドレシオといって、ガイド対お客さんの比率(宝剣なら1:5です)をもうけていますが、基本無視されています。バスガイドくらいの扱いです。法律で規制したらいいのにね。一向に個人ガイドを雇う習慣が身につかない日本人。

私は登山ガイドは、積雪期ガイドステージ2という、自然ガイドよりも上の資格を取りましたが、ガイドにはなりたくないです。ババ引きのババだからです。

60代のお客さんの足では、4時間の行程も、6時間~7時間かかるのに、前述のように、6時登山口、出発、5時登山口、出発にするのが、難しすぎるからです。お客さんは基本的に無知で、みんなが4時間で歩けるところが、自分も歩ける、という前提でいます。ところが、大体、高齢者は歩けませんよね。

となると、本来到着しているべき山小屋に、定刻にたどり着けないことは、ほとんど、登山口にいる時点で明らかなわけです。

となると、まぁ、雷予報の山頂に突っ込むか、森林限界の手前あたりで、ビバークするかになってしまいます。たいていが、12時ころ、が判断の時間になるので、それでは、お客さんは納得しません。お客さんの持っている”町の時間感覚”をベースにした感性だと、”え?まだ明るいよ”となります。 でも、雷って、回避しようがないんですよ。純粋に運です。でも、その時点では、天候、崩れていません。お客さんは納得しません。

で、結局、行くことになるでしょう… で、雨が降ってくる。雷になる。これで、お客さんがこりて、レインウエアを着て、下りましょう、というガイドの言葉に従ってくれればいいですが、たいていはそうならないですよねぇ…。えー、ここまで来たのに?ってなるでしょう。

まぁ、悪くすれば、そこで遭難です。純粋に運です。つまり、ABY遭難というのは、こういうことです。あのバカやりやがったぜ、の略だそうです。もう登山口の時点で遭難しているんですよね。

お客さんは、自分の無知が原因だとは思っていない。運が悪かったのだと思っている。ガイド、何とかしてくれよ、と思っています。そのためのガイドだろ、って思っている。

そりゃガイドは救助を求めて走りますよ、でも、なんで雷に打たれるかもしれないリスクを背負って走る羽目になったかっていうと、お客さんの無知なんですよね。

それで、雷に打たれたら、ガイドは職業上の殉死ですが、バカみたいな死です。最初から、出発前に、こうなることは分かっていたわけなんで。

裁判所の判決は、このようなケースでも、ガイドの注意義務違反になります。

ので、結局、登山ガイドというのは、いちかばちかのばくちを打ちながらしか、仕事ができない。

事前に一時間くらいの講義を聞いてくれるお客さんならいいのかもしれませんが、そんなのレジャーなんだから、ヤダってなりますよね。

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なにもかも、”標準コースタイム”がもたらす前提(無意識)に、”皆が同じ体力”という大きな誤謬が含まれるためです。

山の世界的団体、UIAAも、なんども、標準コースタイムを辞めよ、と日本に言ってきていますが、一向に改まらない。

なんせ、標準コースタイムに慣れすぎていて、標準コースタイムの何割で歩けるか?が、能力測定のモノサシになっているからです。

九州では、厳しい山がないので、自分が1時間で標高何メートルを登れるのか?という、標高を知る習慣すら失われています。本州で1700mと標識があれば、それは標高1700mのことですが、九州では、1.7㎞のことです。

そんな古い基準にしがみつかず、高齢者が安全に前夜泊で山に登れるように、登山口に広めの駐車場を整備したらどうですかね?七倉のように。まぁ、山岳地帯で駐車場確保は難しいのは分かりますが。

ちなみに、一般の人、普通の体力の人は、ツアーに参加するメリットは全くありません。

それより、登山の本を1、2冊読んで、常識、を仕入れてから、一人で行ってください。マイペースが一番安全なペースなのです。

一般に、山ヤと言われる登山のベテランや愛好家が、夏山の小屋に泊まっていることは、ほとんどありません。みな、人がいない山を選んで、テント泊、しています。山は不快なので行かず、大体、沢にいます。

ですので、ベテランと山で出会って教えを乞う、というのは、期待できません。夏山にはベテランは来ない。ここでいうベテランとは、一般縦走しかしない人ではなく、登山をオールラウンドに理解している人のことです。一般に、岩登り、沢登り、雪山とオールシーズン登っている人のことを指します。

そういう人が、山小屋のご主人である、という確率は、比較的高いです。

ので、一番いいのは、山小屋のご主人に、個人ガイドを紹介してもらうことです。最適なガイドとは、その山を足蹴しく年中通っている人のことです。 

八ヶ岳を登るのに、九州のガイドを雇って、一緒に八ヶ岳まで連れて行ってもらう、っていうのは、素人を連れて行くのと同じことです。山にはそれぞれ個性があり、危険回避の方法も異なるのです。

私もガイドができるというと、糸島の山に一緒に行ってもらいたい、と言う人が出て、困ります。私が分かるのは、八ヶ岳です。なんせ八ヶ岳には年中通いましたから。

そういう山の個別性を理解せず、ガイドなら、どこの山でも案内できるという発想が、どこで生まれるのか謎です。

普通の町を案内してもらうのでも、普通、詳しい人に教えてもらいますよね?パリに行くのに、東京のタウンガイド連れていきます?行かないでしょう?

というわけで、一番良いのは、自分の好きな山を見つけ、簡単で安全に登れる難易度のところから、一歩一歩、自分の足で自信を深めながら登ることです。

そうすれば、帰納法的に、山というものは、こういうものなのだな、と一般的な山のことが分かるようになります。失敗しても大きな傷にならない山を選べばいいのです。

このようなことを教えてくれる人がおらず、不安がっていると、私が連れて行きましょう、という人が出てきますが、避けましょう。

不安は、正しいことです。その不安に向き合い、つぶしていくプロセスで、人は成長します。

これこそ、山が教えてくれる、ビジネス界にも通用する、人生の教え、です。