■ 事故を招くような姿勢と実力の見せつけは違う
実際、正直に言えば、私も台湾の龍洞で5.2の看板ルートをカムで登った時は、けっこうランナウトさせましたし、小川山の有名なクラックでカサブランカというのがありますが、上手なクライマーはカム4つくらいだったりして、同じ課題を登るのでも、”そこらの初心者と違うのよ”とアピールするクライマーは当然います。
カサブランカを例にとると、ここは、クライミングガイドの人が初心者にリードさせるのに使うルートでもあり、その際は、自分はフィックスロープにぶら下がって、リードクライマーが設置したカムがきちんと決まっているか?をガイドがチェックしながらリードさせる、というルートです。カサブランカは、少しフレアしていてカムが決まりにくいからです。
同じリード&ノーテンションで登るにも、
・初心者は、ガイドがプロテクションをチェックしてから…という念の入り用
・ベテランは、カム4つ
そんな質の差があります。ベテランは、4つでも、危なくない配置で登れる訳です。実際一本目をできるだけ高くに取れば、4本のランニングでもかなりの高度が稼げます。1本目が6mの高さにあれば、2本目は4m離してもよく、3本目は6m離しても良く、4本目は14mくらいは離してもグランドフォールはしなくなります。(ロープの伸びを大墜落30%、テンション10%として、30%で考えると)
たぶん、一般には、3m、2m、4m、7mみたいなのが普通だとは思いますが…。ただ、実際に、プロテクション間隔を非常に大きく取っても安全が確保される場合もある、というのは本当です。
全体のプロテクションの間隔に一番大きな影響を与えるのが1本目の高さで、もし下部が易しくて落ちないのであれば、できるだけ高い位置に一本目を取れば、間隔を大きくすることは可能です。
少し脱線しましたが、
ベテランがカムを節約で登る場合の実力誇示型のランナウトは、基本的に、安全マージンが大きいことのアピールです。10Aならカム4つでいいくらい、自分には安全マージンがある、というアピール。
つまり、楽勝さ、のアピール。
一方、事故を起こすタイプのアピールは、命知らず自慢…どれだけギリギリか?つまり、ゆとりがないか?ということなのです…
ゆとりがないことを自慢してどうするんです?
易しいところではセルフを取らなくていい、とかそういうアピールですが…。易しいところですらセルフが取れないゆとりの無さ、ということになってしまいます。
■ お前、階段、何段飛べる?
小さい男の子たちは、仲間内の序列を作るのに、自分が恐怖を抱く対象にどれだけ近づけるか?ということで順位を付けたがります。
小学校で、階段があるとしましょう…
お前何段飛べる?と、どの段から飛べるか競争が始まってしまうのが男の子の性質です。
ある子は5段、ある子は6段飛べました…
誰にも飛べなさそうに見える10段… それを誰が飛ぶのか? 皆がかたずをのんで見守る中、俺が行く!と飛んで見せる…
…と、たとえ、そのトライで失敗し、怪我をしたとしても、その場にいる男の子全員から敬意を集めることができる。
…というのは、男の子の世界では当然のこととして、知らない人がいないようなことでしょう… 仲間のほかの誰もが、勇気がなくて踏み出せなかった一歩を踏み出した一人として、問答無用の尊敬を集める。
しかし、女の子の世界では、最初から怪我をすると分かっていて、なんで飛ぶのか?意味が分かりません。
周囲の男の子たちが、たとえ、怪我をしたとしても、飛んで見せた男の子を尊敬する理由もわかりません…女の子には、ただ仲間からの注目を集めたいがためにやっているようにしか見えないからです。
失敗は失敗にしか見えず、勝ち目のない勝負に出るのはただの馬鹿にしか見えないのが、現実に生きる女の子の世界観です。
クライミングで生き残るのは… たぶん、後者です。アレックス君のフリーソロがどれほど分厚い安全マージンのアピールなのか?ということを理解したほうがいいですね。
イチかバチかではなく、徹底した自動化の勝利、ということは、普通にクライミングをやっているクライマーなら、100発100中の自動化が起こるまで、登りこんだという自動化のすごさにびっくりしてしまうと思います。