■ 受け取り上手
昨日は自分のクライミングが進捗したというよりも、後輩が楽しんでくれたことで、満たされた気持ちになった。ので、後輩に感謝。
連れて行く後輩にたいして、先輩は責任がある。
ので、もちろん、色々と教えないといけない。
教えることは、”与えること”、だろう。だが、この”与える”が、”奪われていること”、に感じさせてしまうような人もいる。受け取っていて当然、という態度の人だ。なので、受け取り上手な資質というのは、それはそれで大事なこと。
昨日はトップロープの張り方、を教えたんだが、その中の技術的要素を分解すると
1)立木でのスリングのかけ方
2)ブーリンでリング荷重してはいけないこと
3)折り返しビレイでのローワーダウンとセカンドのビレイ
4)立木の懸垂セット
5)懸垂で急傾斜の崖にアプローチする方法vsローワーダウンでアプローチする方法の2種と比較
6)立木にトップロープをセットする支点
7)懸垂下降の途中停止
これらの要素は、ただ、裏から回ってトップロープを張る、ということを達成するために必要な技術なんだが… もし、個別にバラバラで教えたら、全然できるようにならないのではないか?と思う…。
というのは、前に一緒に組んでいた男子の初心者君たちが作ってくれる支点類や、崖へのアプローチの仕方とかが・・・あれえ?大丈夫なの?という具合だったからだった…
■ ポイント1 情報の共有
昨日は、下から見て、後輩が登りたいラインと私が登りたいラインそれぞれを観察した。
あらかじめどの支点に行く予定か、目星をつけないといけないからだ。それは支点のタイプによりギアも異なるため。
後輩が登りたいラインの終了点は、直径60cmほどの立木だった。これに終了点を作るのに必要なのは、スリングと環付きビナだ。スリングは持ってきたか?と尋ねると持っていないという答え。なので、180cmのスリングを貸した。環付きビナは1枚あるそうだった。
私の登りたいラインのほうの、終了点は普通の残置ビナだったので、ヌンチャク2枚。
■ ポイント2 現場の危険評価
さて裏に回ると、上部は普通に歩けた。
が、当然だが、立木は崖のギリギリにあり、目視確認できる終了点はなかった。
さて、どこからロープを出すか?
崖までノービレイで行くような軽率なことをしてはいけない。
だいたい崖の端は土が緩く何かにつかまっていたとしても、不意に足元が崩れないとも限らない。
後輩が登りたいラインの立木は、直径60cmほどの大木だが、そこまでには4mほどあり、直径20cmくらいの木にフィックスが張ってあった… 2mくらい下にインラインフィギュア8ノットで、取っ手が作って合った。
私の登りたい課題の終了点のほうは、大樹の陰でよく見えなかった。きっと岩肌にあるのだろう。私は、大樹まで行って、のぞき込むようなことはしない。
さて、どっちを先に張ろうかと考えた。効率が問題だ。
…一人だったら、フィックスを取ってある立木に懸垂でとりつくしかない。今あるギアは、スリング1、環付き2、ヌンチャク2、以外は、各自、下降器、セルフしかない。
立てるところでまず考えるのはセルフ。立木のフィックスが張ってある、その結びの輪にセルフを掛ける後輩…。見ると、ブーリンで取ってあった。ブーリンの輪にセルフを掛けるとリング荷重になってしまう。リング荷重はノットがほどけるということを伝える。まぁ、この場では、セルフに体重をかけないから、荷重はかからない。ので、問題はないんだが…。でも、ブーリンにリング荷重は習慣的に良くないと思う。なので、フィックスを見るときは、何というノットでフィックスが取ってあるか?を見るのが大事だ。避けたリスク、その1.
リング荷重が嫌だったので、セルフを取るのに、スリングの支点が欲しいと思い、最初は私を確保してもらうことにする。そうすれば、二人とも確保された体制になるからだ。
安定した立木であることをたたいて確認し、立木の高い位置にスリングでタイオフして、しっかりと固定し、それにセルフをかけ、体重を預けてもらう。常に静荷重をかけておいた方が実は安全だし体制も安定する。
彼女の確保器は、ノーマルATCなので、私をローワーダウンしてもらうのに、支点から、カラビナ1枚で折り返して、上にロープが引かれるようにしてもらう。これはマルチでセカンドの確保と同じ。
私はアンザイレンし、最初の支点まで降りたら、ヌンチャク2枚でトップロープ支点にし、ロープを投げて、1つ目が完了。懸垂より途中停止がやりやすい。止めて、と言えば、終わりだからだ。その後クライムアップ。
次は、使用中のスリングが必要なので、ビレイを解除して、同じ立木に懸垂下降のセット。後輩には自分のスリングで直接立木にセルフを取ってもらった。2番で降りないといけないこと、私が先に降りて、スリングで支点を作り、それにロープを通すので、彼女は、懸垂したら、セルフを取り、立木のロープを引き抜いて、下降しないといけないことを説明。
この懸垂は、4mほどの短い距離の懸垂なので、ロープの途中を使った。ただし、すっぽ抜けは怖いので、短いほうの末端は結んだ。長いほうは上に残しておいた。
60cmの巨木に来ると、終了点は根からとることもできそうだった。つまり、短いスリングしかなくても、なんとか作れるようだった。下を見ると岩がテラスになっていたので、これは高い位置に終了点があるほうが、ロープと岩がこすれないと思い、根で取るという選択肢を排除して、立木の幹でとることにした。固定分散にして環付きビナを掛ける。支点ができたら、懸垂を解除するのに、セルフを支点に取った。荷重が抜けたロープを、カラビナに通して下におろすと、課題自体は8m程度なので、すぐロープは地面についた。再度懸垂下降をセットし、そのまま下降。
後輩には降りる前に、フィックスロープも末端を輪にしてセルフを取ることができること、自分のスリングで木の根に直接セルフを掛けるか、支点のシェルフにかけることもできることを伝えた。上の懸垂のロープを引き抜かねばならないからだ。
私自身は下で彼女が懸垂するのに備えて、ロープを引っ張る=途中停止させることができる、ように準備した。
懸垂下降は、最近は初心者には、バックアップ付きを教えることが多い…私もそれで習ったし、彼女もだ。ただ実践では、バックアップはむしろ邪魔になってしまうことが多いのだが、それも、そうだということが分かるまで場数が必要だ。ベストプラクティスというのは大事だが、四角四面に教えられた1通りの方法しかできない=思考停止状態、というののほうが、山ではむしろ問題であるような気がする。
私は太ももに巻いて途中停止する方法を最初に教わったので、彼女にもそれを教えた。これは、懸垂のセットをするときも、ロープをたるませるのに使える。ロープのたるみがないと、確保器の中にロープを入れるところから、四苦八苦になる。
彼女が降りている最中、試しにロープを下から引っ張ってやった。降りれない、ということなんだが、これも初心者は知らないことが多い。
無事、トップロープが2本取れた。ここまでで、解説に時間をたくさん取ったので、ここまでで、1時間くらいかかった。
清高さんの教え方は、こんな感じだった。
2番目の師匠の青ちゃんは、危ないから、と自分で張りに行ってしまって、教えないタイプの人だった。
なので、私は一向に支点の様子を知るようにならず、不満を抱いた。自立を阻止されているような気分になったからだ。
なので、連れて行ってもらった岩場には、自分で勝手に後輩を連れて行っていた。
あるとき、青ちゃんが靴を忘れ、取りに帰るので先にやっておいてということになり、私が支点構築に行くのに、後輩のかっちゃんを連れて、支点に行ったことを知ると、激昂した。なんで怒られるのか?分からなかった…。
ので、行ったときの様子を詳しく説明した。私は、今回のこの後輩にしたのと同じように、かっちゃんにもセルフには念には念を入れて、立てるところから、ローワーダウン、もしくは懸垂で支点に取り付いたんだが…。
一般に男子は、立てるところから、ロープを出す発想がなく、支点構築に行かせると、一か八かのギリギリトライを披露してくれることが多い。ので、当然ながら一人では行かせられない。
青ちゃんは、支点構築は一人で行くのがベストという考え方だったが、私はそうは思わない。自立したクライマーを育てるには、支点の知識が必要だからだし、一人で行くと懸垂以外確保手段がなく、いちいち時間がかかる。2名だとスタカットという手段がいつでも使える。
今回は、後輩には、ベストプラクティスと言えるものを見せることができたのではないか?と思う…少なくとも私が知っている技術で出来るベストプラクティス。
それが登攀そのものよりも、私には充足感というか満足感をもたらした。
登攀自体は、むずかしく、スリングでの簡易エイド(Aゼロ)もだいぶ持ち出した。エイドを持ち出したのは、後輩にエイドの方法も見て盗んでほしかったからだ。知らないと、登れないときに引き上げてもらうしかなくなるから、知らないと困る。
クライミングそのものは、誰が教えなくても勝手に上手になるんじゃないだろうか?と思う。でも、エイドの仕方とか、ロープの張り方みたいなことは、教わったり見たりという経験がないと、どうしたものか、となってしまうだろう…。
実際、私は初期のころ、師匠クラスの人とは出かけておらず、初心者と出かけていたら、貧弱な支点構築だった。例えば、腕くらいの木でトップロープしていて、バックアップの木が直径60cmだったりした。
自分が危険な目にあわされているとも知らず登っていたのだ(笑)。
そんな人と登りたい人がいるのだろうか?いくら登れるクライマーでも…
まぁその時は私も初心者で、支点をアドバイスする力量がなかったから、自己責任なのだが、無知に付け込まれている、とも言える。正しいことを知らなければ、間違ったことを指摘することもできないからだ。
自己責任というのは、情報量が同じであって、公平な立場で、なりたつことだろう。
もし連れて行ってくれた人が「僕の支点はあやしいですが、それでも一緒に行ってくれますか?」と聞いてから、誘ってくれたなら、支点の予習でもして出かけたのかもしれないが…。
ということで、昨日のクライミングは充足感がたっぷりだった。
私は自分が教わった通りに教えているのだが、他にも教え方があるのだろうか?
■ 自分自身を知る
私にとってのクライミングムーブの習得は、上達や達成感ではないのかもしれない。
上達や達成感は、安全構築技術という基本的技術の上に、上達したら儲けもの、程度のものかもしれない。