2026/02/22

昔はOKでも、今はNGのロッククライミング技術リスト

 ロッククライミングの世界は、道具の進化と事故統計の蓄積によって、かつての「常識」が現在の「禁忌(NG)」へと劇的に変化してきました。

あなたが目撃した「一人のビレイヤーが二人を同時にビレイする」という行為も、まさにこの「古い(そして危険な)慣習」の典型例です。世界基準で見た、現代では許容されない古い習慣をリスト化します。


1. ビレイ・システムの安全基準(ヒューマンエラーの排除)

かつては「ベテランならできる」「技術でカバーできる」とされていたことが、現在は**「物理的な不備」**として明確に否定されています。

  • 二人同時のビレイ (Simultaneous Belaying):

    一人が二人のクライマーを確保することは、一方がフォールした際にもう一方への注意と制御が物理的に不可能になるため、現代の安全基準(UIAA/CE)では完全にアウトです。

  • ボディビレイ (Body Belay):

    腰にロープを回して摩擦で止める手法。確保器(デバイス)が普及した現代では、ビレイヤーへの衝撃が大きすぎ、制御不能に陥るリスクが高いため、緊急時を除きNGです。

  • 肩がらみ懸垂下降:

    エイト環などの下降器を使わず、体にロープを巻き付けて降りる手法。摩擦火傷や、パニック時の墜落リスクが非常に高く、教育の場からも消えています。

2. 用具の扱いと結び目(信頼性のアップデート)

「昔からこれでやってきた」という経験則が、実験データによって覆されたケースです。

  • エイト環でのビレイ:

    下降器としては現役ですが、ビレイデバイスとしては制動力が弱く、特に細い現代のロープでは「止まらない」リスクがあるため、専用のチューブ型やアシスト機能付き(グリグリ等)が推奨されます。

  • ロープの直通し(カラビナなしのロワーダウン):

    支点の残置カラビナを通さず、終了点のリングやボルトにロープを直接通してロワーダウンすること。摩擦熱でロープが溶断する事故が多発したため、現在は「結び替え」か「残置カラビナの使用」が鉄則です。

  • ヘルメット未着用:

    「自分は落ちないから大丈夫」という考え。現在は、自分のミスではなく「落石」や「先行者の落下物」から命を守るため、岩場での着用はマナーではなくルールに近い扱いになっています。

3. 環境保護と倫理(エシカル・クライミング)

「岩を征服する」時代から「岩と共生する」時代への変化です。

  • チッピング (Chipping):

    登りやすくするために岩を削ったり、ホールドを加工したりすること。現在は「歴史的・環境的な冒涜」として、世界中のコミュニティで最も忌み嫌われる行為の一つです。

  • 過剰なチョークの使用と放置:

    チョーク跡が岩を傷め、景観を損なうため、登った後はブラッシングして消すのが現代のスタンダードです。

  • 固定ボルトの乱設:

    伝統的なルート(トラッド)において、安易にボルトを打ち足すことは、そのルートの歴史的価値を破壊する行為と見なされます。


4. 教育と権威のあり方(心理的安全性の欠如)

あなたが指摘した「重鎮へのよいしょ」が許容されていた時代との決別です。

  • 「黙ってついてこい」式の指導:

    安全の根拠を説明せず、恐怖心や根性論で従わせる指導。現代では、安全管理は「論理的・科学的」であるべきであり、新人がベテランのミスを指摘できる「心理的安全性」が事故防止に不可欠とされています。


結論:技術は「アップデート」されるべきもの

クライミングにおいて、過去の習慣に固執することは、単なる「古風」ではなく「リスクマネジメントの放棄」を意味します。