2023/03/11

認知症のおばあちゃんから学んだクライミングのこと

■ 認知症のおばあちゃんのこと

アメリカにいる時、84歳のアルツハイマーのメイおばあちゃんのお世話をアルバイトでしていました。メイは、パワー型というか、すごく怒りっぽいタイプだったから、大変でした。

今回入院では、野本さんというおばあちゃんが、骨折して入院していることをすぐわからなくなり、ナースコールを夜中に10回くらいすることになるので大変だった。このおばあちゃんは、謙虚ですが自己責任派で、手術が怖い、なんで手術しないといけないのかわかりたい、と言って看護婦さんと喧嘩しました。聞いていたら、看護婦さん、無理に道理を通さなくてもいいのに…ホントね、ホントね、と言って、共感したり、同情したりしていたらいいのに…と思いました。どうせすぐ忘れるのです。道理を理解させても。

後から入ってきた竹本さんは、大きなわがままな子供になってしまっており、看護婦さんがうんざりするのも当然だなーとなっていました。ただ、ご飯をたべるところから、いやいや、なのですが、これは子供の試し行動と同じでした。

それで、結局、看護婦さんは竹本さんをスルーすることに決めたみたいでした。私がナースコールで呼んでも、私に移動を進めるくらいで、竹本さんのケアをしない。野本さんへの対応とは全く違いました…それで驚いた。

私は野本さんも竹本さんも区別せず、ケアしないといけないと考えるタイプなんですよね…

世間は違う。
 

私がそう考えるのは、正義感のようなものです…。

嫌なやつには嫌な対応でお返ししていい、とは思わないで、これまで生きてきたからなぁ…。

例えばクライミングでは、明らかに相手が悪い場合にも、それを世間にばらすとその人の立場が相当悪くなると思ったので、身を引いたりしました。コンパニオンという言葉での誤解があったときです。

私のこの正義感のためか、逆に、この人なら差別して来ない、と思われたり、この人なら話を聞いてくれる、と思われたりします。結果、世間の標準値から、見放された人が寄ってくる。これは、小学生の頃からです。

特に男子は気の毒だなと思われたのだ、ということに気が付かないみたいです。いつもバイキン扱いされていた男の子がいて、学校のプリントを持っていって上げたりしましたが、後から成績で張り合われて驚いたことがありました…というのは、私はダントツ気味に成績が良かったからです。

話を戻すと…  認知症の竹本さんがTVの音が聞こえないと言って大騒ぎしたので、私のヘッドホンを上げたのですが、看護婦さんは二人、いらない、と断ってきて、3人めで受け取ってくれました。ヘッドホン付けたら静かになった。その後、手を握りに行ったら、何度も何度も私の手をさすっていて、私が手を握りに行ったのが嬉しいみたいでした。

野本さんのほうは、苦しそうだったので、松葉杖で近づいて、「野本さん、どうします?ナースコールします?」と聞いたら、「ここが痛いとよ…ぐるっと回して」と言ってきたので、「ごめんね、私も松葉杖なの」と言ったら、なんと…「ごめん」と。その後、静かになりました。

■ナース=わがまま放題していい人

ナース=わがまま放題していい人みたいな感じなんだろうなぁ…。ナースは大変だ。ナースは認知症の人のお母さん役です。振り回して振り回して、本人が納得するまで振り回される。それでもナースは頑張っていてエライ!と思いました。

私がクライミングで陥ったのは、このナースの立場です。 

あれもして、これもして、と白亜スラブに付き合ってあげるだけでも大変なのに、沢に二人で行くとか、クライミング業界を何とかする役割とか…まで期待され… 

私は43歳でクライミングを始めているんですよ?そんな人が初心者にトップロープを張ってあげる、それだけで、十分な能力だと思いませんか(汗)? 

そんなの、どんな救世主ができるっていうんです??? 期待のしすぎ、ってやつでしょ?

ガイドだって8000円もらっているのに、無料で命まで掛けさせられてしまっては…

私は、入院病棟で、なんというか、アイドル役というか、若いというだけでおばあちゃんたちは嬉しいみたいで、手を繋いだり、横に座って、お話を聞いたりしました。そういう人がナースの助けになるので、若くて怪我している人は、結構、こういう高齢者病棟では戦力です。看護婦さんにだいぶ感謝されました…。しかし、私は看護婦さんのほうに、ホント、同情してしまうのです。私が最もなりたくない立場はナースの立場です。あれもやって、これもやって、と要求された挙げ句に感謝もされない、というわけです。

もしかすると、男性の一部は、母親と妻を、このナースのような立場の人、俺の面倒を見るだけの人と勘違いしているのでは? 

クライミングパートナーは、互いに、50:50 ですよ? 

そう考えているとしか思えないのは、なんで肉離れしている足で2日も連れ回されたりとか、膝脱臼して痛い、って言っているのに、ワイドクラック登るのを嫌って言っただけで、関係が終わりとか、そうなる原理が、そういう前提じゃないと理解できないからです。

すごく大人しくて我慢強いおばあちゃんの歳谷さんは、ずっとカーテンを閉めて引きこもりだったのですが、遠慮されているんだろうと思っていました。私が西島さんという、私が妹に似ているらしいおばあちゃんと、おしゃべりしていると、ベッドから出てきて、話に加わろうとしていたので、これはおしゃべりが嫌いってわけじゃないんだなーと思ったので、もう一人若い方がいるときに、真ん中に入れて、おしゃべりしたら、とっても嬉しそうだった。

なんか、若さって、若いだけで眩しい!みたいな感じかもしれません、若い人に囲まれるだけで嬉しい!みたいな?

■ 祖母も母も安泰だな…

この入院中、私が思い出したのは、祖母のことで、母への心配は浮かびませんでした。

母を介護しなくてはならないという呪縛は、もう溶けている、と思いました。

一般に人は老後が怖いのだと思うのです。介護で、迷惑モノ扱いされ、誰からも愛されないことが、一番怖いがために、老後の蓄えをたくさん貯めようとしているのではないでしょうか?

しかし、高額医療を経験してみて、その恐怖は

 事実無痕なのだ、

と分かりました。日本に生きている限り、どのような所得であっても、きちんとした医療が受けられます。

祖母が亡くなった時一人だったので、ちょっと気の毒だったと思っていました。

しかし、入院しているとお友達ができるので、心配いらず、祖母も人と接点があって楽しく入院生活をしただろうということを確信しました。

■ 認知症

しかし…認知症だけは、本人が不幸なのです。人の暖かさが全く受け取れない。

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