■ 長い長いグリーフワーク
私の弟は、水泳でメダル何個も持っていたようなアスリートで、24歳で突然死しています。
あまりに突然だったので、死の実感もなく、私にとって、悲しみが癒される瞬間がなかなか訪れない…という事柄でした…。
夫と登っていた一般登山から、私がステップアップしたくなり、山岳総合センターのリーダーコースへ…。その頃から、山での友人、知人の死に出会うことが多くなりました。
例えば…
・山岳写真家だった新井さんの劔での落石による圧死、
・講習仲間の涸沢岳西尾根、
・ニュージーランド帰りのアイス仲間がパートナーが見つからなかったからと言う理由でソロで行った冬富士の遭難…、
・友達の宝剣での400m滑落と開放骨折…
・師匠の青ちゃん…腰椎、足首の骨折の回復中、ボルト23本入ってます、とか…
そして、山岳会で出会う男性の多くは、リスクを理解しようとする頭自体がない…。その
男性性
という性質が、これでもか!と言うくらい、弟を思い起こさせるのでした。
それはこういうことです…
小さいころ、弟がロッキングチェアに載って、動いたチェアから落ちて頭を縫いましたが、3歳の弟を見た5歳の私は、見れば分かるじゃん!と馬鹿だなぁと強く思ったのを覚えています。
山での死を見聞するのは、その思いを強く刺激するもの…でした。
■ まともな強いクライマー
一方、弟みたいなツヨツヨクライマーのハッシーは、山においては先輩でしたが、「あの頃の俺は強かった」と口にする30歳で、あの頃っていつ?って聞いたら、25歳のころ…で、現在2段…なのに、私がいいって言うんですよ、ビレイヤーには。一緒に宙づり脱出の練習を初回のロープ合わせでしましたが、教えなくていいから楽、とか言っていました。
私にパートナーができたので監督役で、ルート、付いてきてもらいましたが、なんとその日にガイドの仕事が入ってしまい…仕事を断ってついて来てくれたんですよ?なんて人情味あふれる人なんだ。
私とこれまた初心者の相方のために…。そして、相方のずさんなロープワークを見て、これでは、四尾根は日が暮れる、と指摘…。その当時、私は何度も相方に、今年の四尾根は無理と指摘していたのに、私の言うことは聞かない相方だったので、助かったのでした。四尾根は、ルートグレード3級です、初めてやるなら前穂北尾根1級でしょ。
余談ですが、前穂北尾根は二人で行く予定で頑張っていたら、初心者だけで行かせるのは心配だというので、もっとベテランの先輩がついてきてくれ、相方も誘ったのですが来なかったです…なんでやねん…
まぁ、あれこれ、山では苦労しながら、弟と死、について突き詰めてきたのでした…。
■ 人は100%死にます
死は免れない。人はどうやっても死にます。致死率100%。どうせ死ぬなら楽しいことをして死にましょう。
一方で、ロッキングチェアから落ちて死ぬような、恐ろしく知性の低い死に方をする山や多数。
例えば、宝剣ではロープをつけてさえいればよかったのでした。
■ 古い革袋に新しいワインは合わない
この人は花谷ガイドのヒマラヤキャンプで指導を受けた若い人で、昔の山岳部のやり方で育った人です。古い革袋にいれられた新しいワインです。古い革袋は、人を死に至らしめる可能性が高い。その教育法では新しいワインには向かないということです。”これくらいノーロープでいけるぜ”ってやつです。
ロープを付けない、アイゼンを付けない、そういう軽視の心は、どこに現れるか?というと、
・ブイブイ言わせたい
・めんどくさい
・危険予知できていない
そんな程度です…。そういえば、アイゼンつけたままグリセードして骨折した先輩もいたっけなぁ…。
■ グリーフワークの進行
昨日は弟が死んだことを考えて、なんどか涙があふれてきました…。やっとそこまで彼の死がリアリティとして追従してきたということですかね…。
正直、私を守るために、弟はパートナーを送ってきていると思うんですよね…。福岡では登るの辞めようとしていたのでした…アシュタンガヨガでいいやって。そしたら、アラーキーがなぜか来たし…。弟の魂は、私が山から離れるのは嫌なようでした。
■ 弟の死と山の死。咀嚼の歴史…
一つ目は、母が甘やかしてしまった男の子の行動原理の理解。
…甘やかさざるをえなかった母の必然の理解。
…母は男の子の育て方に自信がなかったので、水泳で弟を鍛えたんですよね…メダル重視という間違った方向性でしたが…。
…間違った方向性を許すための理解…周りが一斉に競争に向かっている社会で、競争に興味ありませんって難しいですし…そもそも子供は競争大好き。
そして、男性心理の理解。
男性クライマーってどうしても、女性の前では、自分が強い男であることを気取るために、かっこつけたくなるんですよね…。女性が入ると、事故率増えるという研究結果がある。
君が強いのは分かったから、ランナウトじゃなくて、荷物担いでくれ、って感じ。でも、荷物を担ぐのは嫌なんですよ。大体の年配の男性は、妻に重たい荷物持たせて、自分は手ぶら…。それは女性の分担って頭から決まっている。これは74歳の開拓者と登って理解しました…晩御飯作るの嫌がっている奥さんのことをひとごとのように話してくれました…。
男性の心はギャラリーを求める心です、ナルシズムとヒロイズム。ヒーローにしてくれるから、女性を大事にするだけで、そうでないなら、しない。だからリードで取り合いにならない、女性パートナーが登れないところだけ、行きたいわけです。師匠はそうだった。だから私が行きたい石灰岩は来ない。私は引率の先生のようにビレイで付いて回らないと行けなくなるわけです…足を怪我しているのに。逆に、自分が怪我をしたときは、リードしてくれるわけですよ、ヒーローになれるから。
「〇〇で一番死に近い男」と言われて喜んでいる相方… それ、見張っていないと、やらかすって意味ですよ。みなで気を付けて見張っていよう、という意味で、かっこいい、って意味じゃないですよ…。
なかなか治らなくて、白亜スラブでは、やっぱりやらかしていました…。それでもなぜか彼には成功体験になってしまった。私にとっては、うかつだった事件の記憶です。この記録、私以外のフォローだったら、日暮れレスキューになった可能性もある。
たいていのセカンドは、ロープアップされなかったら、どうしていいか?頭真っ白になって終わりです。自己確保で登る技術を教わってから、マルチに行く若い人は、昨今少ないです。
アレコレと書きましたが、結局のところ、私は弟の死を自分の中で消化するために登ってきたんだろうと…。
なぜ父は私たち兄弟三人を捨てたのか?…自分の自己実現のほうが子供への愛や責任より大きかったから…
なぜ母は弟ばかりを優遇して育てて無能な巨人が出来てしまったのか?母にとってすがれる男性は弟だけ…。上げ膳据え膳で溺愛したため、水泳はできるけど、水泳しかできない子になってしまった…。
なんで男性はかっこつけるのか? なぜなら、モテたいが男性の行動原理だから。親になるまで、それは変わらない。
いつ男性は自分の命を大事にし始めるのか?子供が出来てから。自分が守るべきものを得てから。
クライミングで、誰に何を言われても、ゆずらない硬い意志で、安全管理について訴え続けるのは、弟の死がコアにあるからです。
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1)許すとは、自分にはもう恨みも敵意も、自己憐憫も必要ないと気づくこと
2)許すとは、自分を傷つけた人を罰したいとは思わなくなること
3)許すとは、過去に起こったことで自分とういう人間を決めるのを辞めること
4)許しは自然に訪れる結果
5)忘れないけど、手放すこと
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1)許すことは大目に見ることではない
2)許すことは相手を免責することではない
3)許すことは自己犠牲ではない
4)許すことは、そのことについて二度と怒りを感じないということではない
5)許すことは、一時の決意でできることではない
ーーーーーーーー 『子どもを生きればおとなになれる』 より 引用