ゲームというのは仕掛ける側は分かっていて仕掛け、仕掛けられる側は無自覚にまきこまれます。
以下は、提示された 7つの特徴をもつ高リスク行動者・コミュニティが、交流分析(Transactional Analysis:TA)における「ゲーム(心理的やりとりの反復パターン)」として陥りやすい典型を整理したものです。
TAでいう「ゲーム」とは、表面的には合理的・自発的に見えて、実際には隠された動機・役割交代・不快な結末を生む反復パターンのことを指します。
■ 高リスク行動者がとりやすいTAゲームの種類
①「見てろよ(I'll Show You)」
関連特徴:①高リスク志向、③誇示・序列意識、⑥自己過信
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“他人に言われたからやるのではない、俺のやり方を見せてやる” という裏の目的。
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行動の狙いは成果ではなく プライドと優越性の提示。
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結果として怪我・トラブル・周囲との軋轢といった「負けた感じ」の結末に落ちやすい。
隠された役割:
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表面:R(大人)→R(大人)で理屈を述べる
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裏面:C(反抗的子ども)→P(批判的親)へ挑発
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結末:自己損傷 or “だから言ったろ”と他人を非難
②「ほっといてくれ(Leave Me Alone)」
関連特徴:②自己責任偏重、④共感・協調の低さ
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助言や安全確保を拒絶し、他者の介入を“支配”とみなす。
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本人は「自立」のつもりだが、実際には 他者との関係回避ゲーム。
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結末は「孤立・危険・後悔」などの典型的ゲームエンド。
隠された役割:
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表面:R→Rで「自分でやる」
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裏面:C→Pへ「干渉するな」
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結末:事故・失敗・孤立
③「こんなん余裕(NIGYSOB:Now I’ve Got You, You Son Of a Bitch)」
関連特徴:⑥自己過信、①高リスク志向、⑤規範柔軟性
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“自分ならできる”という過信にもとづき、無謀な挑戦で状況を過小評価。
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危険が顕在化した際、責任を他者・環境・ルールに転嫁する。
隠された目的:
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成功すれば自尊心強化、失敗すれば「他が悪い」。
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どちらに転んでも心理的利益を得る構造。
④「ほら、俺の方が上だ(Top That / One-upmanship)」
関連特徴:③誇示・序列意識、①高リスク志向、⑦即時報酬優先
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他者の行動・成果に対し常に「もっと上」を狙う競争型ゲーム。
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コミュニティ内での危険行動のエスカレーション(SNS映え、難易度インフレ)を起こしやすい。
役割:
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表面:友好的な挑戦
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内部:支配・勝利の追求
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結末:怪我・排斥・飽和感
⑤「ルールなんて状況で変わる(Cavalier Game / Deviance)」
関連特徴:⑤規範柔軟性、④共感低さ、③序列意識
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「この場面では大丈夫」「自分なら抜け道をわかっている」などルール軽視。
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しかし裏の目的は 特権感・自由度の誇示。
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結末は仲間との衝突、コミュニティ規範の破壊、事故。
⑥「やればできる(Try and Prove)」
関連特徴:⑥自己過信、⑦即時報酬優先
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他人からの軽い指摘・助言を“挑戦”と受け取り、リスク行動で自分を証明しようとする。
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表面的には努力・向上に見えるが、実際の目的は他者への誇示と承認獲得。
⑦「誰も分かってくれない(You Don’t Understand Me)」
関連特徴:②自己責任偏重、④共感・協調の低さ
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自分のリスク行動を理解しない周囲を“無知・凡庸・臆病”と位置づける防衛ゲーム。
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実際には、孤立や衝突を自己正当化する反復パターン。
■ コミュニティ全体で起きる「集団ゲーム」
◎「競争的リスク・スパイラル(Collective One-upmanship)」
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“誰が一番難しい・危険なことをやったか”で序列が決まる。
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徐々に安全マージンが削られ リスクがインフレ。
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ゲームの結末は 事故・不祥事・脱落者の発生。
◎「ルール逸脱の合理化(Group Norm Drift)」
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仲間内で“安全手順省略が普通”になり、逸脱が常態化。
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個人の規範柔軟性(⑤)が集団規範として固まる。
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結末は“外部の批判・事故・内部崩壊”。
◎「英雄化と事故美化(Hero Syndrome Game)」
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危険行為が英雄的・ロマン的に扱われ、承認の通貨になる。
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事故やトラブルすら「武勇伝」として強化学習される。
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結末は リスクと承認の悪循環。
■ まとめ:この人・コミュニティに特に起きやすいゲーム
| 特徴(1〜7) | 起きやすいTAゲーム |
|---|---|
| 高リスク志向 | 「見てろよ」「Top That」「NIGYSOB」 |
| 自己責任偏重 | 「Leave Me Alone」「You Don’t Understand Me」 |
| 誇示・序列 | 「One-upmanship」「Try and Prove」 |
| 共感低さ | 「Cavalier Game」「Leave Me Alone」 |
| 規範柔軟性 | 「Cavalier Game」「NIGYSOB」 |
| 自己過信 | 「見てろよ」「Try and Prove」「NIGYSOB」 |
| 即時報酬優先 | 「Top That」「Try and Prove」 |
以下に、コミュニティ全体で起きる「3つの集団ゲーム」それぞれに対して、実際に起こりうる“介入事例”を専門家レベルで提示します。
心理学・社会心理・リスクマネジメント・TA(交流分析)の視点を統合しています。
■①「競争的リスク・スパイラル(Collective One-upmanship)」
—危険のインフレを止める介入事例—
●事例:クライミングコミュニティでの危険行為インフレ
仲間内で “よりヤバいルート・より攻めたムーブ” を投稿し合う文化が強まり、
「安全を守る=ダサい」という雰囲気が生まれていた。
■介入①:“安全=実力”の再定義(価値の書き換え)
リーダー格の指導者が、定例ミーティングで次のように語る:
「難易度を攻めるのは素晴らしい。でも“帰ってくる技術”が最も上位のスキルだ。
安全を守れる者だけが次の難易度に行く権利がある。」
●効果
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序列基準を書き換える(One-upの土俵を変更)
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“無謀”ではなく“総合的な技量”が称賛される文化へ誘導
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TA的にはゲームの前提(脚本)を崩す介入
■介入②:「上級者ほど安全手順を守る」を可視化
経験者・エキスパートに、あえて安全手順の模範行動をSNS・イベントで示してもらう。
例:
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有名クライマーが「ダブルチェック」の動画をアップ
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実際の練習会で“上級者ほど慎重”な姿勢を見せる
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「俺たちのコミュニティは安全を誇りにする」と発信
●効果
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同調圧力の方向が“危険 → 安全”へ転換
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モデリングによる文化再編
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「危険を煽る者=中級者」「手順を守る者=上級者」という逆転が起こる
■介入③:リスクの定量化(見える化)
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技術力・安全手順・環境条件を「チェックリスト12項目」で数値化
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ルート挑戦前に必ず点数化し、基準未満は挑戦不可
●効果
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“勢い”や“雰囲気”でのOne-up行動がブロックされる
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大人モード(A → A)の取引がコミュニティのベースになる
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ゲームの“感情刺激”を無効化していく
■②「ルール逸脱の合理化(Group Norm Drift)」
—逸脱が常態化していくのを止める介入事例—
●事例:山岳クラブで安全手順が徐々に省略
「いちいち手順に従ってたら遅い」
「俺はこれで20年事故なしだよ」
…という話法が広がり、
**手順省略が“普通”“便利”“カッコいい”**とされていた。
■介入①:“逸脱理由の棚卸し”ワークショップ
メンバーを集めて、「なぜ手順を省略してしまうのか?」を全員で書き出す。
(例:面倒・時間がない・周りがやってる・自信過剰)
ファシリテーターが次のようにまとめる:
「これらは“人間なら普通に起こる心理”です。
個人の能力ではなく、構造の問題として扱いましょう。」
●効果
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誰かを責めるのではなく“集団の自然現象”として扱える
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合理化のメカニズム(ゲームの裏の動機)を可視化
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逸脱の心理的要因を中和する
■介入②:“逸脱ライン”の可視化と宣言
安全手順10項目を「遵守」「要相談」「危険」の3色で分類し、
クラブの共有スペース・SNSに掲示する。
例:
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黄色(要相談)「時間がない場合の代替措置」
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赤(危険)「省略したら事故率が急上昇する行為」
そしてリーダーが宣言する:
「黄色までは相談して調整可能。
赤の行為は、仲間を守るために“絶対にスルーしない”。」
●効果
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規範ドリフト(少しずつ崩れていく現象)を明文化で止める
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“みんなやってるからOK”というゲーム構造を破壊
■介入③:“省略しないことを褒める文化”の導入
例:
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手順チェックをしっかりした人に「Good Practiceカード」を渡す
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SNSで“安全を守ったチーム”を紹介する
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「安全を守る=仲間を守る行為」として称賛
●効果
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安全行動が承認の通貨になる
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逸脱の魅力が低下する(ゲームの報酬を奪う)
■③「英雄化と事故美化(Hero Syndrome Game)」
—“危険行動=英雄”という文化を止める介入事例—
●事例:サークル内で事故を“武勇伝”として語る
「昔ここで落ちたけど、根性で登った」
「ロープいらんてw」
こうした語りが新人の憧れとなり、危険が美化されていた。
■介入①:“ヒヤリハットの成功ストーリー化”
事故寸前の経験を、
「どうやって防げたか」「教訓は何か」
のストーリーとして語らせる。
例:
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“危険を回避して生還した人の冷静な判断”を表彰
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“危うく事故にならなかった成功例”を共有
●効果
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“危険を冒した=英雄”ではなく、
“危険を回避した=英雄”の新しい物語へ置き換わる -
承認の通貨が移動し、ゲームの報酬が崩れる
■介入②:“語りのルール”を変更する
飲み会やミーティングで、武勇伝が出始めたとき、
ファシリテーターが次のように介入:
「その話、面白い!でも“どう防げたか”の部分もセットで教えて。」
●効果
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事故や危険の“美化”だけで終わらなくなる
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単なる武勇伝が“学習素材”へ転換される
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ゲームの快感(称賛・笑い)が減る
■介入③:“事故のリアルな影響”の可視化
外部専門家(救急医・山岳救助隊)を招き、
事故後の実際の体験・後遺症・コスト・家族への影響などを語ってもらう。
●効果
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“事故=カッコいい”幻想を打ち砕く
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物語が英雄譚 → 現実(大人モード)へ戻る
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集団の脚本(うちのコミュニティは危険を誇る)が上書きされる
■まとめ:集団ゲームへの介入の基本原則
| ゲーム | 介入の方向 | 破壊すべき“ゲームの報酬” |
|---|---|---|
| 競争的リスク・スパイラル | 序列基準を書き換える | 「危険=強い」「無謀=上級」 |
| ルール逸脱の合理化 | 規範を可視化し、逸脱を構造問題化する | 「省略=カッコいい」「皆やってる」 |
| 英雄化・事故美化 | 物語を“英雄譚→学習”へ変換 | 「危険行為が承認の通貨になる」 |