2025/11/22

【心理学】高リスク行動者がとりやすい交流ゲーム

ゲームというのは仕掛ける側は分かっていて仕掛け、仕掛けられる側は無自覚にまきこまれます。


 以下は、提示された 7つの特徴をもつ高リスク行動者・コミュニティが、交流分析(Transactional Analysis:TA)における「ゲーム(心理的やりとりの反復パターン)」として陥りやすい典型を整理したものです。

TAでいう「ゲーム」とは、表面的には合理的・自発的に見えて、実際には隠された動機・役割交代・不快な結末を生む反復パターンのことを指します。


■ 高リスク行動者がとりやすいTAゲームの種類

①「見てろよ(I'll Show You)」

関連特徴:①高リスク志向、③誇示・序列意識、⑥自己過信

  • “他人に言われたからやるのではない、俺のやり方を見せてやる” という裏の目的。

  • 行動の狙いは成果ではなく プライドと優越性の提示

  • 結果として怪我・トラブル・周囲との軋轢といった「負けた感じ」の結末に落ちやすい。

隠された役割

  • 表面:R(大人)→R(大人)で理屈を述べる

  • 裏面:C(反抗的子ども)→P(批判的親)へ挑発

  • 結末:自己損傷 or “だから言ったろ”と他人を非難


②「ほっといてくれ(Leave Me Alone)」

関連特徴:②自己責任偏重、④共感・協調の低さ

  • 助言や安全確保を拒絶し、他者の介入を“支配”とみなす。

  • 本人は「自立」のつもりだが、実際には 他者との関係回避ゲーム

  • 結末は「孤立・危険・後悔」などの典型的ゲームエンド。

隠された役割

  • 表面:R→Rで「自分でやる」

  • 裏面:C→Pへ「干渉するな」

  • 結末:事故・失敗・孤立


③「こんなん余裕(NIGYSOB:Now I’ve Got You, You Son Of a Bitch)」

関連特徴:⑥自己過信、①高リスク志向、⑤規範柔軟性

  • “自分ならできる”という過信にもとづき、無謀な挑戦で状況を過小評価。

  • 危険が顕在化した際、責任を他者・環境・ルールに転嫁する。

隠された目的

  • 成功すれば自尊心強化、失敗すれば「他が悪い」。

  • どちらに転んでも心理的利益を得る構造。


④「ほら、俺の方が上だ(Top That / One-upmanship)」

関連特徴:③誇示・序列意識、①高リスク志向、⑦即時報酬優先

  • 他者の行動・成果に対し常に「もっと上」を狙う競争型ゲーム。

  • コミュニティ内での危険行動のエスカレーション(SNS映え、難易度インフレ)を起こしやすい。

役割

  • 表面:友好的な挑戦

  • 内部:支配・勝利の追求

  • 結末:怪我・排斥・飽和感


⑤「ルールなんて状況で変わる(Cavalier Game / Deviance)」

関連特徴:⑤規範柔軟性、④共感低さ、③序列意識

  • 「この場面では大丈夫」「自分なら抜け道をわかっている」などルール軽視。

  • しかし裏の目的は 特権感・自由度の誇示

  • 結末は仲間との衝突、コミュニティ規範の破壊、事故。


⑥「やればできる(Try and Prove)」

関連特徴:⑥自己過信、⑦即時報酬優先

  • 他人からの軽い指摘・助言を“挑戦”と受け取り、リスク行動で自分を証明しようとする。

  • 表面的には努力・向上に見えるが、実際の目的は他者への誇示と承認獲得


⑦「誰も分かってくれない(You Don’t Understand Me)」

関連特徴:②自己責任偏重、④共感・協調の低さ

  • 自分のリスク行動を理解しない周囲を“無知・凡庸・臆病”と位置づける防衛ゲーム。

  • 実際には、孤立や衝突を自己正当化する反復パターン。


■ コミュニティ全体で起きる「集団ゲーム」

◎「競争的リスク・スパイラル(Collective One-upmanship)」

  • “誰が一番難しい・危険なことをやったか”で序列が決まる。

  • 徐々に安全マージンが削られ リスクがインフレ

  • ゲームの結末は 事故・不祥事・脱落者の発生

◎「ルール逸脱の合理化(Group Norm Drift)」

  • 仲間内で“安全手順省略が普通”になり、逸脱が常態化。

  • 個人の規範柔軟性(⑤)が集団規範として固まる。

  • 結末は“外部の批判・事故・内部崩壊”。

◎「英雄化と事故美化(Hero Syndrome Game)」

  • 危険行為が英雄的・ロマン的に扱われ、承認の通貨になる

  • 事故やトラブルすら「武勇伝」として強化学習される。

  • 結末は リスクと承認の悪循環


■ まとめ:この人・コミュニティに特に起きやすいゲーム

特徴(1〜7) 起きやすいTAゲーム
高リスク志向 「見てろよ」「Top That」「NIGYSOB」
自己責任偏重 「Leave Me Alone」「You Don’t Understand Me」
誇示・序列 「One-upmanship」「Try and Prove」
共感低さ 「Cavalier Game」「Leave Me Alone」
規範柔軟性 「Cavalier Game」「NIGYSOB」
自己過信 「見てろよ」「Try and Prove」「NIGYSOB」
即時報酬優先 「Top That」「Try and Prove」


以下に、コミュニティ全体で起きる「3つの集団ゲーム」それぞれに対して、実際に起こりうる“介入事例”を専門家レベルで提示します。
心理学・社会心理・リスクマネジメント・TA(交流分析)の視点を統合しています。


■①「競争的リスク・スパイラル(Collective One-upmanship)」

—危険のインフレを止める介入事例—


●事例:クライミングコミュニティでの危険行為インフレ

仲間内で “よりヤバいルート・より攻めたムーブ” を投稿し合う文化が強まり、
「安全を守る=ダサい」という雰囲気が生まれていた。

■介入①:“安全=実力”の再定義(価値の書き換え)

リーダー格の指導者が、定例ミーティングで次のように語る:

「難易度を攻めるのは素晴らしい。でも“帰ってくる技術”が最も上位のスキルだ。
安全を守れる者だけが次の難易度に行く権利がある。

●効果

  • 序列基準を書き換える(One-upの土俵を変更)

  • “無謀”ではなく“総合的な技量”が称賛される文化へ誘導

  • TA的にはゲームの前提(脚本)を崩す介入


■介入②:「上級者ほど安全手順を守る」を可視化

経験者・エキスパートに、あえて安全手順の模範行動をSNS・イベントで示してもらう

例:

  • 有名クライマーが「ダブルチェック」の動画をアップ

  • 実際の練習会で“上級者ほど慎重”な姿勢を見せる

  • 「俺たちのコミュニティは安全を誇りにする」と発信

●効果

  • 同調圧力の方向が“危険 → 安全”へ転換

  • モデリングによる文化再編

  • 「危険を煽る者=中級者」「手順を守る者=上級者」という逆転が起こる


■介入③:リスクの定量化(見える化)

  • 技術力・安全手順・環境条件を「チェックリスト12項目」で数値化

  • ルート挑戦前に必ず点数化し、基準未満は挑戦不可

●効果

  • “勢い”や“雰囲気”でのOne-up行動がブロックされる

  • 大人モード(A → A)の取引がコミュニティのベースになる

  • ゲームの“感情刺激”を無効化していく


■②「ルール逸脱の合理化(Group Norm Drift)」

—逸脱が常態化していくのを止める介入事例—


●事例:山岳クラブで安全手順が徐々に省略

「いちいち手順に従ってたら遅い」
「俺はこれで20年事故なしだよ」
…という話法が広がり、
**手順省略が“普通”“便利”“カッコいい”**とされていた。


■介入①:“逸脱理由の棚卸し”ワークショップ

メンバーを集めて、「なぜ手順を省略してしまうのか?」を全員で書き出す。
(例:面倒・時間がない・周りがやってる・自信過剰)

ファシリテーターが次のようにまとめる:

「これらは“人間なら普通に起こる心理”です。
個人の能力ではなく、構造の問題として扱いましょう。」

●効果

  • 誰かを責めるのではなく“集団の自然現象”として扱える

  • 合理化のメカニズム(ゲームの裏の動機)を可視化

  • 逸脱の心理的要因を中和する


■介入②:“逸脱ライン”の可視化と宣言

安全手順10項目を「遵守」「要相談」「危険」の3色で分類し、
クラブの共有スペース・SNSに掲示する。

例:

  • 黄色(要相談)「時間がない場合の代替措置」

  • 赤(危険)「省略したら事故率が急上昇する行為」

そしてリーダーが宣言する:

「黄色までは相談して調整可能。
赤の行為は、仲間を守るために“絶対にスルーしない”。」

●効果

  • 規範ドリフト(少しずつ崩れていく現象)を明文化で止める

  • “みんなやってるからOK”というゲーム構造を破壊


■介入③:“省略しないことを褒める文化”の導入

例:

  • 手順チェックをしっかりした人に「Good Practiceカード」を渡す

  • SNSで“安全を守ったチーム”を紹介する

  • 「安全を守る=仲間を守る行為」として称賛

●効果

  • 安全行動が承認の通貨になる

  • 逸脱の魅力が低下する(ゲームの報酬を奪う)


■③「英雄化と事故美化(Hero Syndrome Game)」

—“危険行動=英雄”という文化を止める介入事例—


●事例:サークル内で事故を“武勇伝”として語る

「昔ここで落ちたけど、根性で登った」
「ロープいらんてw」
こうした語りが新人の憧れとなり、危険が美化されていた。


■介入①:“ヒヤリハットの成功ストーリー化”

事故寸前の経験を、
「どうやって防げたか」「教訓は何か」
のストーリーとして語らせる。

例:

  • “危険を回避して生還した人の冷静な判断”を表彰

  • “危うく事故にならなかった成功例”を共有

●効果

  • “危険を冒した=英雄”ではなく、
    “危険を回避した=英雄”の新しい物語へ置き換わる

  • 承認の通貨が移動し、ゲームの報酬が崩れる


■介入②:“語りのルール”を変更する

飲み会やミーティングで、武勇伝が出始めたとき、
ファシリテーターが次のように介入:

「その話、面白い!でも“どう防げたか”の部分もセットで教えて。」

●効果

  • 事故や危険の“美化”だけで終わらなくなる

  • 単なる武勇伝が“学習素材”へ転換される

  • ゲームの快感(称賛・笑い)が減る


■介入③:“事故のリアルな影響”の可視化

外部専門家(救急医・山岳救助隊)を招き、
事故後の実際の体験・後遺症・コスト・家族への影響などを語ってもらう。

●効果

  • “事故=カッコいい”幻想を打ち砕く

  • 物語が英雄譚 → 現実(大人モード)へ戻る

  • 集団の脚本(うちのコミュニティは危険を誇る)が上書きされる


■まとめ:集団ゲームへの介入の基本原則

ゲーム 介入の方向 破壊すべき“ゲームの報酬”
競争的リスク・スパイラル 序列基準を書き換える 「危険=強い」「無謀=上級」
ルール逸脱の合理化 規範を可視化し、逸脱を構造問題化する 「省略=カッコいい」「皆やってる」
英雄化・事故美化 物語を“英雄譚→学習”へ変換 「危険行為が承認の通貨になる」