2026/08/16

【クライミングの心理学】なぜストッパーノットを省略するのか?

 提示された記事に基づくと、クライマーが懸垂下降(ラッペル)の際に末端にストッパーノット(結び目)を作ることを省略してしまう主な理由は以下の通りです。


1. ロープがスタックするのを防ぐため

マルチピッチなどのクライミングにおいて、結び目を作るとその結び目が岩のクラック(裂け目)に引っかかり、ロープが回収できなくなる可能性が高まります。この懸念から、あえて結び目を作らない選択をするケースがあります。
※記事では、この解決策として「サドルバッグ(ロープの末端をハーネスのギアループにクリップする)」という手法を紹介しており、これであれば結び目を作らずに末端を安全に管理しつつ、スタックを防ぐことが可能であると指摘しています。

2. 心理的な要因(過信と習慣)

研究者ヴァレリー・カー氏の分析によると、「慣れ(familiarity)」が安全手順をスキップさせる大きな要因となっています。その作業が日常的で慣れ親しんだものになるほど、重要な安全手順を怠る傾向が強まります。これを「リスク鈍化(risk desensitization)」と呼び、熟練者であっても陥りやすい心理的罠であると指摘されています。

3. 疲労と判断力の低下

長時間のクライミングやストレスのかかる状況が続くと、人間は自己制御能力が低下し、リスクを負った行動やミスを犯しやすくなります。特に下山時(下降時)は、集中力やエネルギーが枯渇しがちであり、こうした疲労の蓄積が事故の引き金になることが多いと説明されています。

記事の結論として、懸垂下降による事故は主要な死亡原因の一つであり、こうした心理的・身体的な限界を認識し、適切な安全対策(クローズドシステムでの下降など)を徹底することが重要であると強調されています。

トップクライマーが「スピードアップ(効率化)」を理由にストッパーノットをあえて作らない、あるいは作らなくてよいと判断する背景には、シビアな実戦的リスク管理の観点があります。

具体的な構造上の理由は以下の通りです。

1. トラブル時のタイムロスとリスクの天秤

マルチピッチの長大な下降において、結び目を作ったことでロープがクラックやスラブの微細な凹凸に挟まる(スタックする)と、ロープを回収できなくなる、または登り返して回収し直すという最大のタイムロス(かつ極めて危険な状況)が発生します。
経験豊富なクライマーほど「結び目を忘れた・作らなかったことによる末端からの墜落」よりも、「風や地形によって結び目が引っかかり、日没や悪天候に巻き込まれるリスク」のほうをより致命的と捉え、あえて結ばずに手元での厳格なコントロールやロープ末端の管理技術でカバーする選択をすることがあります。

2. 「ロープの長さを把握している」という前提

トップレベルのクライマーは、使用しているロープの実長と、下降するピッチの長さ(アンカー間の距離)を正確に計算・把握しているという自負があります。
「左右のロープ長が均等にセットされているか」「ピッチの長さに余裕があるか」を完全に管理できている前提であれば、末端までロープを使い切る状況自体が想定外であり、システム上必要ないという判断です。

3. 一方で潜む「ベテランの罠」

前述の研究(ヴァレリー・カー氏の分析など)でも指摘されている通り、こうした「技術と経験への信頼」や「スピード重視の判断」の裏側には、無意識の慢心やリスクの鈍化が潜んでいます。実際、どれほど経験豊富なトップクライマーであっても、極度の疲労や焦りから左右のロープ長の違いや末端の処理を見落とし、この「スピード優先・結び目なし」の判断が致命的な事故に直結しているケースが後を絶ちません。




初心者のころに、清高さんとかなりあれこれ議論しましたけどね。みんなはそんな師匠がいないからしないのかなぁ。