宇土内谷の氷瀑を見たいと思い、出かけたら、残念ながら、氷結はイマイチどころか一切ない感じでした…。
その場合、代わりに比叡の岩場に登る、ということだったので、てっきりゲレンデだと思っていたら、れっきとしたアルパインでした~。いや~ビックリー。
山行計画書がない=ゲレンデ
と思っていたからです。基本的に安全のために、ゲレンデを共有してからしか、アルパインルートは行かない、というのが暗黙知だと思っていた。
そのため、アルパイン装備ではなく、普通のゲレンデ岩装備で行ってしまった…(笑)。
まぁ、3000mの山ではなくアプローチも下山も小さい山で、感じがゲレンデみたいだからなのかもしれません。
しかし、フリーで5.10cRP程度のゆとりを作って行って良かったです。私が思うには、アルパイン(ランナウトが当然の岩場)では、決して落ちれないため、登攀力がギリギリでは取り付くことができません。
現在の私くらい…大体、5.9ならほぼ確実で、5.10aは9割登れる、5.10bはオンサイト出来るものもある、5.10cはRPがほとんど、登れるものが1割あるかないか、5.11aはトップロープで登っている、というスキルレベルのクライマーが、初対面のビレイヤーと取りつくのに、ちょうどよいのがⅣ-だと思います。
■ 1日目、失われた草付き
アプローチ 一般登山道30分 11時半スタート
1P目 リード
2P目 リード
3P目 途中で墜落
4P目 セカンド
下降 一般登山道 30分 15:30終了
きれいに晴れました☆ |
まぁ、1,2Pをリード出来たので満足。
2P目は、プロテクションが1本しかなくびっくりでした。スモールカムを持っていけばよかったです。
そして、3P目はワンポイントですが、フリークライミングのグレードの部分があり、そこで核心の前にプロテクションが取れないので、墜落というか、意図的にやめ、敗退にしました。黒く変色した悪いスラブ。スタンスが遠くて私には届かない。
”山には一か八かはない”と習いました。
そこを行けば、私のスキルでは、”一か八かになる”ことが明らかな箇所でしたので、行かないこと=正解。
次のピッチは途中までは楽勝そうだったのですが、上でランナウトしている中で核心があることが下から見て分かったので、自主的にセカンドに振り分けてもらいました。
この岩場に通っており、ここをリードするのが課題の人がいたので、その方がリードするというので、適切な判断になったようです。落ちていたら、どか落ち。
■ ローワーダウン核心の初心者君
翌日は1P目 ナックルスラブ、2P目奥の細道、懸垂で帰る、ということに。
これはゲレンデで空荷での登攀です。アイスを登りたいという初心者の若い男性が来ていたから。初心者は別のところで登りました。
しかし、岩2度目でマルチにセカンドとはいえ駆り出されており、ローワーダンすら怖がっており、やっぱり、つい最近初心者の男性50代が来てくれた時に、性急にマルチに連れて行かなくて良かったなーと思いました。
実は、本当の初心者の時は、ローワーダウンもちゃんとはできないです。私もアイスクライミングの講習で、保科さんの講習に出た本当の1回目のクライミングでは、クライミングと言うよりも、ローワーダウンを習得しました(笑)。
もうずいぶん昔のことの様ですが、その後ギアも持っていない初心者をアイスに連れ出して、トップロープでもローワーダウンがダメで、ずるずると荷物のようにおろされている初心者を見て、本当の初心者だと、懸垂どころか、ローワーダウンもダメだということを知っていたから、一目見て、どのくらいの初心者君か、分かりました。
20代のぴちぴち男子でしたが、怖がってローワーダウンには、たった1Pで30分くらいかかっていました…。ロープにぶら下がるということができていない…
私たちのパーティは全員経験者だったので、特に問題はありませんでしたが
1P目 5.11RPできるクライマーでも、1テン
2P目 岩場に慣れたベテランでも、1墜落
だったので、まぁそれなりにギリギリに迫ったかも(笑)。初対面でギリギリに迫るのは、心理グレードが上がると思うので、きっと頑張ってくれたんだろうなぁ…と思います。
私自身は2日目は、セカンドなので、登攀を頑張るのが課題でした。1P目のワンポイントは、ほぼほぼ、ジャーマンスープレックス的なものでした。そして、2P目は、核心はランナウト。
■ ダブル
アルパインでは、ダブルでの確保が主体になりますが、ダブルだと、繰り出しに余計に技術が必要です。1墜落の後は、下のセカンドは2名だったので、それぞれ1本ずつをビレイすることにしました。
ダブルロープは一本ずつ、一緒に組むクライマー同士が持ち寄るのが通常です。
私はダブルもシングルも持っているのですが、判断するには、ルートが屈曲が多いのか、それともまっすぐなのかを知る必要があり、トポが本来はその役目を担うのですが、今回は、頭からゲレンデだと思っていたのが間違いでした(笑)。
私の知っている会山行というものは、”山は一番弱い者に合わせる”、という原則から、大した山は登らないので、どこを登るか?もたいして気にせずに行ったので、シングルを持って行ってしまいました。私にとって初回の会山行だったからです。
■ 充足感を作るには?
私の満足を作るには、最も易しい弱点から、どんどんとステップアップするしかないのだろうな~と思いました。
壁を山と見立てるわけですね。一般ルートから雪へ、そしてバリエーションへとステップアップしたのと同じです。弱点からスタートし、徐々に強点へ。
山には順番がある
と一番目の師匠に習いました。それは、逆に言えば、飛び級は危険、という意味です。
なので、飛び級をしないで登る、という教えを守っています。
ただ日本のマルチピッチだと、それがなかなか難しいです… というのは、初心者向けの低グレードのところは、ランナウトが核心。つまり、落ちれない。
落ちれるルートはないか?となると、ボルトが整備されたスポーツルートということになりますが、スポーツルートはスポーツルートで、今度はレベルが高騰化しており、高難度過ぎて、初心者が登って楽しいと感じられる課題がほとんどない。
ということで、外岩だけで成長するのは、難しすぎ、人工壁とボルダリングジムを併用し、登攀力のゆとりをつけてから、外岩に行く、というプロセスが必要になってしまいます。
岩登りを教えてください!とやってくる新人さんというのは、普通、山に行きたいのであって、人工壁に行きたいわけでない。しかも新人さんは、このような外岩事情が分からない。
ので、新人さんには、納得がいかないことになってしまいます。しかも、セカンドであっても、アルパインのルートでは、登攀力のゆとりが必要で、それがないと、行っても何も楽しくないのです…。
このあたりで、よく考える新人さんなら、ビレイを習得する必要があることやムーブは身に着けて損にならないことを考えて、人工壁やジム通いを飲み込んでくれるでしょうが、そうでない人は、新人時代に大きな遭難をするリスクがとても高いです。
今回も岩2度目で来た20代男性の新人さんには、こりごりの経験になってしまったかもしれません。登攀は難しすぎたようで、ものすごく時間がかかっていました。
それは、指導者が悪いとか、新人がメンタルが弱いとか言うことではなく、日本の岩場の現況が、岩を岩でスタートするには、危険すぎることになってしまっているからです。初級クラスのクライマーには、八方ふさがりということです。
そういう意味で、行き止まりになった時、私はラオスの岩場という解に巡り合い、本当に良かったなと思っています。ラオスでは、初級のクライマーであっても、5.13レベルの上級クライマーであっても、同じように安全に登攀を楽しむことができます。
■ 比叡でリードにデビューするに適したグレーディング
私の観察によると、前の会で会長さんが専属で育てていた女性がいましたが、その人が5.10b~cを登る程度になるまで、ルートは、3年間程度、オールセカンドでした。支点も懸垂下降も教わる前に3年をオールセカンドで過ごす、という方法論もあるということです。その後、本チャンで5.7のリードが課題になる。この方法論だと安全マージンは分厚く、フリーで(つまり支点に頼ることなく)登れて当然ということになると思います。
したがって、もし同じように安全度が高い状態で初心者時代を過ごしたいクライマーがいるとしたら、フリーで5.10b~cくらいになってから、アルパインで、5.7~5.9程度の場所をリードするのが適切だと思います。
もちろん、人工壁やトップロープなどでは落ちながら登攀力を高めていくのが正しいと思います。
■ グレードは言わないほうがいい?
しかし、不思議だな~ ということがありました。
フリーでの、5.10bや5.10cを、Ⅳ+やⅤ-がスイスイのベテランは、登れないのだそうです。
そんなはずはないのになぁ… 食べず嫌い?と思ったりもしましたが、デシマルグレードを申告して、私に登れる適切なルートは何か?をベテランでも、判断することは難しい、ということが分かりました。
その部分も自分で主体的に判断すべきということですね。大体、適切に判断できるようになってきたと思います。
それにしても、RCCのグレード感から、デシマルへ移行するのは、大きな差があり、難しいことだったのだ、ということなのでしょう…。
60代になってフリーを習得した私の2番目の師匠が言うには、まったく動き(ムーブ)が違う、ということでした。
私自身は、いわゆる登山での3点支持から、フリークライミングでの片手、片足だけのムーブ(=2点支持)への移行は、とても大きなパラダイムシフトでした。
しかし、現代のスポーツクライミングには、その先があるということも分かります。アイスでは、ドライツーリングが現代のスポーツクライミングのワールドカップのレベルに達しているクライミングのようです。
■ グレードを追いかけない
グレードを追いかけるな、という教育を受けました。
しかし、現代では初登ということはありえない。ので、ルートファインディングをどうやって身に着けるか?というのは、非常に難しく、沢が一般的には、その位置づけにあります。
が、沢は、縦走、ゲレンデ、と比較しても、もっとも危険が大きいです。自然を味わうなら、沢ですが、リスクが大きい、というので、いつでも敗退を前提にしていないと取りつけません。まどろっこしい。
そうした、まどろっこしさを回避すると、岩となりますが、岩のルートには、すでにグレードが付けられており、それは目安程度の話だ、といくら言っても、すでにあるグレードがいったん耳に入ってしまえば、それを一つの物差しにせざるを得ず、期待というのができてしまいます…。というので、”惑わされるリスク”があります。
1回目で惑わされるのは仕方がないかもしれませんが、2度、3度というのは、その人自身のミスです。
惑わされるリスクを避けるには、新しい岩場に行くときは、
”どんなに高い登攀力があっても、その岩場の最も易しいルートから”
というのが一つの作法になると思います。
V級=5.9だと思って取り付いたら、とんでもない!ということを避ける、ということです。
V級に色々な難しさが含まれてしまうのは、それも仕方のないことで、1960年代以前には、Ⅴ級以上がないので、Ⅴ級には、5.9から上のすべてのルートが含まれてしまった経緯があるそうです。もちろん、その後、Ⅵ級、Ⅶ級というグレードも発明されたようですが、グレードはその岩場に慣れたクライマーがつけます。
一方フリークライミングで、期待されているグレーディングは、オンサイトグレード。慣れたクライマーだと当然ながら、オンサイトグレードより、簡単に感じるので、グレードは辛く出るようです。その辛さ度合いも岩場によってマチマチのようです。
そうしたアルパインルートのV級を登るには、5.9ならノーピンで登れるくらい、5.11+が登れるくらい=ゆとり付きで安全、というのが、当たらずとも遠からずなことのようです。あるガイドさんは、スポーツクライミングで5.11を登れないとアルパインのためのロープワークすら教えないそうです。
ですので、現在の私が登るのに適切なのはⅣあたりでしょう。
■ まとめ
- 基本的にゲレンデを共有してからアルパインルートは行く
- 分からないときはダブルかシングルかを聞く
- ”山は一番弱い者に合わせる”
- とりあえず、マルチの場合、アルパイン仕様で行くべし(捨て縄)
- 山には一か八かはない
- 山には順番がある
- ”どんなに高い登攀力があっても、その岩場の最も易しいルートから”