■ 乾徳山旗立岩中央岩稜
さて、早速ですが記録をまとめます。
乾徳山旗立岩中央岩稜は、『日本登山体系』8巻に記載があります。また岳人2000年11月号にも記載があります。(が、両方ともあまり役には立ちません)
登山口: 7:40~扇平(月見石)9:00
アプローチ 扇平まで:
約1時間(大平牧場から) 標高差700 駐車800円
約2時間(徳和から) 標高差1200 無料
扇平~取り付き : 約40分 (ほぼ山頂直下から懸垂3P)
懸垂下降点(10:00) ~取り付き(10:40): 懸垂下降を含め、40分
登攀:11:00~13:00 3P Ⅳ級+、Ⅲ級、Ⅲ級(Ⅲ級とあったがⅡ級と感じた)
山頂 13:00頃
扇平:14:00 休憩30分 夫と合流
下山:15:00
天候:曇り 時々雨 下山終了後 雨
■ ルートの性格 初心者向け 難しいところもあるが短く、体力負担が軽く楽しいルート
初級向き。乾徳山は奥秩父の前衛であり、都心から手軽なアクセス(最寄駅塩山)。しかも標高2000mに届くため、ゲレンデにない、天候の変化など山の性質も併せ持つ。アプローチは大平牧場からの登路が最短。徳和からだと駐車料金無料。
今回は一緒に行ってくれる人の負担を軽くするため、大平牧場からの登路を選んだ。この道は一番歩きやすく、プロフィールが良い。徳和からの林道経由の道は、植林の中であまり雰囲気が良くない。徳和からだと少し長いが、駐車が無料になるので、価格を優先する人はこちらが良い。
さて、6:00起き、6:30出発、7:40ごろ、登山口到着。大平牧場への林道は、落石が多く、普通車も入れるが、林道の運転慣れ程度は必要だ。水・トイレは無料だが、ぼっとん。
林道と林道をショートカットする道をまじえて標高200mほど上がると、すぐに道満尾根と合流する。開けてきたら、扇平。1時間弱ほどだ。9:00頃到着し、休憩を取る。
扇平は開けた草原で気分が良いエリアだ。大きなボルダ―が転がっている。そこから山頂へ向うポッコリとしたピークが見える。
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扇平から山頂を眺める ほんの一息で山頂 |
今回は、同行者はベテラン。ダブルだと3人まで登れるので、もったいないな、あと一人、ということで、色々声を掛けた(と言っても、ゲレンデくらいはやっていて様子が分かる人限定)が、空いている人がいなかったため、贅沢にもベテランを独占。アプローチはハイキング程度でゆとりがあったので、夫を同伴した。
同行者は遠方から・・・また電車での合流だったので、ギアはロープは私の物で行き、屈曲したルートでもないと思われたので、60mのダブル1本と敗退用に30mを用意した。カムは同行者に甘えて、ワンセット持ってきてもらった。(私がまだワンセット購入していないため)
扇平では多くの登山者と鉢合わせした。おじいちゃんが小学生くらいの男の子を連れてきていたが、不用意に”岩の向こう側へ行ってみなさい”などと薦めているので、「そちらは懸垂下降が必要な崖ですよ」となんとなく注意したりした。
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下降点のチムニー |
冒険心をはぐくみたい気持ちは分かるのだが・・・目の入る範囲内に子供は納めていないと、地形を地図で確認していないで、不用意に登山道から外れると え?→すってんころりん となりかねないと思うんだが、不用意な人は不用意なだけに、そうであるとも知らないので、余計な心配と思われたであろう。
我々は、というと、首尾よく、懸垂下降点を見つける。大体の場所は分かっていたので、問題なし。
懸垂支点を見つけると、若い男性のグループが、物珍しげに寄ってきて見ていた。
大体、アルパインクライミングを見る機会がないから、ギアやロープを見た男性は大抵は興味を引かれるみたいだ。
早速ハーネスをつけ、支度をする。懸垂なので、とりあえず靴以外の装備を身に着ける。少し冷えてきたので、同行者はレインウエアを着ていた。私はまだ大丈夫と感じ着なかったが、ビレイがメインだったら着た方が良い。動かないほうが冷えるからだ。
懸垂支点はちょっぴり怖い場所にあったので、短くロープを出して、ごぼうで降り、各自をセルフを取る。ちょっとしたことで、めんどくさがって手間を省かないようにする。ここは個性が出るところで、こういうところでサボらない人が好きだ。
懸垂は25mきっちり3ピッチと教わってきた。1ピッチ目は狭いチムニーを行く。同行者が先行してくれたのでありがたかった。行き先に何があるか不明の懸垂などは、経験が生きるからだ。そういえば、先にいつも降りる側だったなぁ・・・。今回は高待遇だなぁ。
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とりつき |
落石を落としそうな地面なので、同行者が岩陰にいることを確認し、慎重に落石を落とさないように降りた。
2P目の懸垂も支点があった。が、ガレガレで、ラクが起きそう・・・同行者は落ちた場合、大怪我になりそうな、ミカン箱大の石を積極的に落としてしまってから行く・・・。
大きな音が山に響く・・・。これは北岳バットレスなんかではできないな~。ここは下は何もない樹海だからできるけど・・・。
以前、バットレスで私が邪魔な石を避けたら、先輩が「あ~!!」と大きな声を上げて、いかにも”なんと非常識なことをするんだ?!”と言うそぶりだったが、私は先に落とすように教わっていたので、”?”と思ったのだった。
同行者は下に誰もいなければ、積極的に落とす派のようだった。
1P目に引き続き、ラクに最大の注意を払いながら降りる。3P目は立木を支点にした。
3P目から左にトラバースして取り付きを探した。2つ目のルンゼ、2つめの尾根だった。ここは記録を読んでおいたことが役立った箇所だ。
ヒントは、ガレで始まるというものだったが、安定した古いガレで、錆びて、ぼろぼろのガス缶などが落ちていた。このルンゼのほうが、下りてきた下降点のチムニーより堆積した岩が安定していそうだった。
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安定したガラ場が取り付き |
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1P目 |
■ 1P目 核心部 え?雨??
さて、1P目基部で10:40. ちょっと休憩をし、支度して、「1P目、やらせてもらってよいですか?」と取り付く。11時近くにスタート。
古いハーケンが並んで打ってあるのが見え、記録で見たハングの写真と一致する。少し上に新しいアルミ色のハーケンも見えた。とりあえずハーケンを目指す。寝ていてクライミングはやさしく、大きなクラックを縦に掴むことができるし、エッジも使える。ただ足場は逆層なので小さい。
このあたりで
雨が降り出す。一瞬ドッキリするが、まだ、ぱらつく程度なので行くことにする。
1ピン目、長めにスリングを出して取る。2ピン目もハーケンなのでスリング。ここもクライミングは、そう難しくないが、足場が小さく、露出感がある。 3ピン目、早くもハングの下に来た。
私自身は直上したいと思うのだが、ハーケンの連打が右側に見える・・・。そっちに行くと、トラバースなので、屈曲してしまうなぁ~と思いつつ・・・、トラバース。これは記録に引っ張られた感じだ。
トラバースは振られると思うので、怖いが、仕方ない。足場がスメアしかできず、スタンスに乗ることはできないので、カチホールドにぶら下がる。このカチはフレークだったので、ホールドに使う前に、叩いて確認し、次のスタンスも蹴って確認した。この全体重を預けた状態で、欠けたら、えらいこっちゃ!
直上のほうがクライミングは易しそうに感じたんだけどなぁ・・・。でも、沢などでは、怖いと直上したくなり、行き詰まって落ちるというのがパターンだしなぁ。支点を優先するのが賢いか。ただ後で、上からみたら、こっちにもハーケンがあった。でも下からは見えないもんなぁ。
トラバースしたら、カンテに支点が。しかし、ヌンチャクで取ったら、岩角なので、ロープが屈曲して、次のクライミングで全然ロープがでない・・・。下から、「そこは伸ばさないと取れないよ」の声。
うーん・・・今クライムダウンは正直つらい。ので、すこしロープを手繰り、上のハーケンで支点を取ってから、折り返してごぼうにして、少しクライムダウンし、ランニング支点を伸ばす・・・。流れが良くなった。
さらに上が核心部で、ハングの乗越し。普通のロケーションにあれば、なんてことのないハングの乗越だが、ロケーションが怖い。せーの!でマントリングになる。ザックの重み分の負担付で大丈夫だろうか?確信がもてない。
・・・ので、さらにすこし右に避け、トラバース気味に乗越した。こちらは、せーの!がない代わり、スタンスが小さく、ぶら下げたカムなどが邪魔になり、苦労した。
ここは落ちたら、ヤバいと思うが、不必要な力が入ることなく、体の動きは悪くなく、あまり落ちる気はしなかった。 いや~、烏帽子岩左岩稜や数々のフリーのゲレンデ、行っていてよかったなー。
ただザックやギアが邪魔で、フリーはいいなぁと改めてアルパインの不自由さを思った。今度はザックを背負って登る練習しておこう。
すぐ上の小テラスは足場がよく、ロープの流れも、これ以上延ばすと悪いので、ピッチを切りたかったが、あいにくリングボルト1個しかなかった。
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1P目核心部 |
■ ビレイポイント構築
とりあえずカムでメインロープのセルフを取る。これはカムというより、ナッツみたいなセットになった。1点では不安なので、2点目もカムで取り、クローブヒッチ。2点目の収まりがイマイチだ。
スリングのセルフを冗長として、リングボルトに取った。このリングボルトが、低い位置に打ってあり、位置関係的に流動分散が作りづらい・・・。
ので、一番位置関係が良い、2つめのカムにセカンドの支点を作る。が、2点目は収まりが悪かったので、念のため、もう一つ薄い縦のクラックに、小型カムを入れた。これはバチ効きだった。
この3点で固定し、リングボルトの方はバックアップで4点とした。
後でセカンドの先輩に見てもらったが、「このカムは効いてない。ダメ」。2つめのカムは、もっと上に取った方が良かったようだ。
後で冷静になって考えると、リングボルトを除き、カム3点をスリングで連結し、固定分散を作れば良かったと思った。
メインロープの連結で済ませてしまった。
■ 2P目
さて、ロープアップし、セカンドに上がってきてもらう。次も行きたいが、考えてみたら、来てもらっているのに、一回もリードさせなかったら、悪いよなぁ。
「1ピン目はすぐ取ろうね~」と目の前のハングに次のカムを噛ませ、相方がスタート。出だしはまた乗越しだ。
しかし、どんどんロープがでるなぁ・・・。次のピッチはずいぶんロープが出た。最後5mのところで、「あと5mだよ~」と声を上げるが、返事なし。2m。心配だ~。「あと2m!!!」返事なし。変な所でロープが足りなくてフォール、ってならないよなぁ・・・、と心配し始めた頃、ロープが止まった。60mのロープがあと1.5mくらいしか残らなかった。
上がってみると、これは、超快適な岩尾根だった。うーん、これは、快適な、いいピッチだ。難しくなく、単純に楽しい。
が、上がってみると、もうすぐ眼前にそこに縦走路が見えており、ハイカーがお弁当を広げている姿が見えた・・・。なんだか、もうすぐ終わり感があるぞ。
支点もハーケンときどきカムで楽そうだ。歩けるピッチで、左右に切れた岩稜。
いいピッチだなぁ。さっきのドキドキ感はないなぁ。
■ 3P目
ビレイポイントに到着。支点は岩角だったので、とりあえずセルフとるが、すぐに、選手交代して、登り始める。登り初めに、しっかり1ピン目のランニングを取るべきだが、易しく、あまり必要を感じないでいたが、3mほどすぐ上にハーケンがあったので、ラッキーと1ピン目を取る。易しい箇所だったのだ。
さらに岩のとんがりを越えると、すぐに立派なペツルが並んで二つ。え?!終了点?
2ピッチ目をだいぶ伸ばしてくれたおかげで、きっと3p目は半分先取りって感じなのかなぁ。さっき、岩角に懸垂支点みたいな古いスリングがあったしなぁ。
というわけで、3P目はほとんど歩きだった。なんだ~ということで、あっけなく終了。
ベテランに良いピッチを登ってもらえて良かった☆
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あれ?あそこにハイカーが。もう終わり? |
■ 山は実力順
終了点は広場になっている。テント泊したら良さそうなロケーション。
一般登山者の人たちが不用意に「こっちに下山道あるんですか?」などと言って入ってくる。地図を見ていたら、そんなこと言わないはずだと思うんだが、人=道、と思っているのだろうと分かる。
一般生活における日本人大衆の考え方というのは、「他の人と同じことをする=安全」であるから、どうしても、山でも同じ考え方をして、誰かがいると、そこに行ってしまうのだ。
同じように日本社会で普通に受け入れられ、真実を反映していない考え方として、悪平等というのもあり、「その人がしているなら、自分もして良いに決まっている」と他人を見て思うのが日本人。
私がそこに居たら、登山者のおじさんは、俺だって行って良いはずだと思ってしまう。つまり、皆、結果が同じになるはずだ、という前提がある。しかも、暗黙の序列があり、無条件で、女が下で男が上になっている。
山では、上記ふたつの日本人の”常識”は、まったく正反対で、赤信号みんなで渡れば・・・?みんなで遭難。これはトムラウシなどでも証明されている。津波も同じだ。
”あれくらい俺でもできるさ” → ”いや、体重の重いメタボおじさんにこそ、つらいでしょう”と、結果は残酷だ。
逆に言えば、一般生活で、あまり実力どおりの結果を得ていない人からすると、山は実力通りの結果を出すので、山はたのしいなーとなるような気がする。
おそらく、山が楽しくない人というのは、山でシビアに自分が単独で行けるところ=自分の実力、であることに、いら立ちを感じるのではないだろうか・・・。余計な憶測だが。
そんなことを思うのは、山でふんぞり返っているオジサン連中が、いつも下界の地位を持ちだすからだ。社長だの部長だの言っても、山ではただの歩けないメタボおじさん。自分の体重の3分の2しか体重がない小柄な女性に、自分の酒を背負ってもらわないと、山で酒を飲むことすらできない。
そんなことを思わずにはいられないような、いい加減系の登山者が一杯の日だったので、山頂はいいかな・・・と一瞬よぎるが、同行者は、乾徳山が初めて、ということだったので、山頂へ向かう。
■ 山頂へ
乾徳山の山頂は、終了点から5分もかからないところにある。山頂直下は鎖場で鎖がでているが、クライマーなら鎖はイラナイで登り降りしてしまえる。
一般登山者の若い男性が、完全ぶら下がりで鎖にぶら下がって鎖を手繰り寄せていたので、終わってから取り付く。デシマルを付けるとしたら、5.6とか、5.7とかかなぁ・・・。
山頂は祠があって、お賽銭が置いてあったが中国人の人たちはお賽銭を持って帰ってしまうのだそうだった。
二人で記念写真を撮った。
山頂からは、黒金山へ続く稜線、牛首のタルなどが見える。ずっと稜線を行けば、奥秩父の主稜線に合流する。
乾徳山は主脈からは離れているので、あまり知られていない。西側を見ると、大蔵経寺山の長いラインと奥に、我が家へ続く、昇仙峡付近の無名のピークの連なりが見える。末端は岬になっていて、愛宕山で終るので、ずーっと頑張れば、愛宕山の麓の我が家からも、徒歩で奥秩父へ到達することができる。
我が家のあたりは武田神社があるが、その奥からは山で、背後に山を配し、脇に小川が流れる位置関係は、風水的にとても良いのだそうだ。
武田神社のさらに奥には、金桜神社があるが、そこを起点にして、昔は金峰山方面に9つの登路あったそうで、大体6日程度かかったそうだから、我が家から徒歩で奥秩父に行くと、6日程度、低山の藪尾根を歩くことになるのだろう・・・そそられないなぁ。
■ 下山
今回は、ベテランと二人で行ってもよかったのだが、夫はまだ乾徳山を知らなかったし、安全管理上も余分な体力があと一人分あっても良かったので、夫を伴った。夫はハイキングなので、待ち合わせは高原ヒュッテとした。
高原ヒュッテでは、電波が入らないらしく、メッセージが入れてあったが、私のスマホでは全然電波が入っていた。夫には電話をしたが、彼は山ではなくても電話を取らないタイプなので、期待していない。しかし、こういうときはいつも連絡が必ず取れるという習慣がないと不安だし、サポートにもならない。
扇平まで二人で降り、ザックはデポして、高原ヒュッテまで、一走りで10分。一登りで20分。合計30分で合流した。同行者には休憩してもらった。電話が使える状態だったら、もっと良かったのだが、まあ、仕方のない時間の支出。
あとは、登りにも使った道をピストンで大平牧場まで。それほど苦も無く降りる。降りて車に乗った途端に雨が降り始めた。
■ 山の締め
帰りは、この辺では唯一の源泉かけ流しのはやぶさ温泉(600円)へ。ちょっと混んでいた。17時前には、すっかりのんびりしていた。
さらに、お食事をして締めた。プチとはいえ、本チャンをして、ギアの入った重いザックを背負った人、二人がラーメン(670円)で、標高差700m分のハイキングしかしていない夫がとんかつ定食(笑)。
何を食べても良いのだけれど、運動量とも、貢献量とも、カロリーは比例していない。
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ラーメンで締め 汗をかいた後は塩味の汁気がほしくなります |
■ 夫との意識の温度差
夫からは、2時間高原ヒュッテで待つことに文句を言われたが、待つというのは、あらかじめ言ってあり、本でも持って行って、と促していた。計画書も送付していた。
私なら、自然の中でのんびり昼寝でもしながら、2時間過ごすのは苦痛ではない。建物があるくらいなら余計そうだ。むしろ外にいたいので、テント、テントが重いならツエルトでも張って、寝転んでのんびりしたい。寝転んで本でも読んで、暇をつぶすことは家でも、いつもやっていることで、なにも文句はない。
山の師匠を得た頃、強調されたのは、
自分が何をしてもらえるか?ではなく、パーティに何を貢献できるか?
を考えることだった。
体力がゆとりがあるなら担ぎ、時間にゆとりがあるなら、作業を先に済ませておく。相方のセルフが外れていたら、かける。安環は相手の分もチェックする。懸垂のトップにはロープを弛ませてあげる。メンバーの一人に負担が偏らないようにする。
そういう発想で山岳会も選んだし、私の行動を決めるのは、相手に何がしてやれるか?だ。
今回も、大平牧場の乾徳山は標高差700mしかなく、運動不足で体力低下が気になる夫にも、同行のメリットがある、として同行をお願いした。そうでもしなければ、ソフトウェアエンジニアの夫は、365日運動しないからだ。山中の道案内も私で、トップは、初めてこの山にきたベテランが歩いてくれた。
■ 6年の待ち時間
実は、ここ山梨にいること自体が、私にとっては、6年間もの”待ち時間”、”一時停止”だ。
私の職業上のキャリアは夫の転勤によって断絶され、山梨での時間自体が、いわば、することがない、”待ち時間”だ。
その持てあます時間、夫を待っている時間を少しでも有意義に過ごしたいということで、始めたのが山だ。
山梨では山がとても良い。山が嵩じて3年で、アルパインへ進み、クライミングへ進んだ。
山ヤの皆にとって、お金を掛けてでも、やりたいのが山とするなら、私の場合は、「他にやることもないし・・・」ということでやっているのが山だ。恵まれていて、すみません。
■ 自信
仕方なしにやっているから・・・と言って、手抜きなことはしない。それはモットーだ。
行動原則は、生き方となるから。
だから、1年間の講習を受けたし、読図はゼロから出直して、独学でマスターした。
他にすることもないからやっているとはいえ、結果として、ゼロから6年目で、ここまで来れたことには、誰が何と言おうと動かぬ自負を持っている。
このタイプの自負は、努力の質と量に根拠があり、自分で自分を認めることができる、正当な自負だと思う。資格や地位、パートナーの後光をかざしているのではない。だれかにやらされたのでもない。
私のヨガの仕事のほうでは、ラジオの出演をしているが、それに自負を持つか?持たない。単なる運だからだ。選ばれるのは実力ではないので、華やかではあるが、いくら選ばれても、自信には、つながらない。だから、会社でも部長や課長など地位を与えられるのは、ご褒美とはなるが、自信にはならない。
仮にこれが、他にすることもないからと、コンビニのバイトでもしていて、同じ精神的果実を得れただろうか?単純に不幸になってしまっただろうと思う。だから、6年の待ち時間の過ごし方としては、有意義だと思う。
私にとっては、今回はとても意味がある山行だった。
なぜなら、これは
師匠が私にくれようとしたプレゼントがやっと私の手に回帰してきた山だからだ。
しかも、連れて行ってもらうセカンドではなく、自分で企画し、自分でロープ構成を考え、自分でメンバーをお願いした。私の手による、私のための、わたしが作り上げた山。
この3年間の努力を積み重ねた結果、成立した山なのだ。小さいが、確実に。
そこのところが夫には全く伝わっておらず、まるで、連れてこられて迷惑とでも言うような態度しか夫は示すことができないのが残念だった。
同行してくれた先輩は、上記のような事情が分かって、ひと肌脱いでくれた人だ。
■ ケーキでお祝い♪
帰りは、シャトレーゼに立ち寄り、ケーキを買った。この日は父の日のようだった。
私にはバイオロジカルな父は、4歳くらいから会っていないから、見も知らないオジサンでしかないが、人生では、たくさんの父を持った。同様に、山でも多くの先輩がいる。とても幸せなことだ。
小中と学校でも父親代わりとなってくれた恩師がいたし、最初の職場、ロボットの開発部でも師匠がいた。英語ではメンターと言えば、良いだろう。
師匠は技術を伝授し、弟子の方は、師匠がやりたくもない大量のコード生成を受け持つ、という、持ちつ持たれつの関係ではあるが、互いに利益がある関係だった。それは仕事では、最終的には、社外まで伸びた。最後の会社を辞めてからは、客先だったアメリゴが、しばらくメンターとなってくれたものだ。
いつも、年長の実力者にはメンターになってもらう。たまたまではあるが、父娘くらいの年齢差のことが多い。
今日はシャトレーゼのケーキでお祝いだ。父の日のケーキが大きかったが、生クリームのショートケーキにした。夫はいつもチョコケーキ。
シャトレーゼからの帰り、自宅まで残りの10分は、ガス欠になってきたので、夫に運転をお願いした。
でも、帰ったら、いつも私には作業があって、夫はゴロンとするだけ。結局、自分で夫と二人分のコーヒーを淹れて、ケーキセットで祝杯を挙げた。
いつも自分で自分にご褒美を出す。まぁそれが私らしい生き方だ。高校時代に2年バイトして苦労してオール自腹で獲得した進学も、渡米やその結果のTOEICの高得点も、それがもたらした就職先も、17年毎月返済した奨学金の全返済も静かな勝利であり、誰とも分かち合うことがなく、その時が訪れた。
今回は、それを理解してくれる人が、少なくとも一人はいたから、同行者を得ることができたわけだ。
とても充実した二日間だった。
■ 参考サイト
老舗緑山岳会の記録 緑でも行動時間そう変わらない。
山の彼方に 取り付きが分かりやすい
ぶなの会の記録 ぶななのに、これくらいで長いと言っている・・・(汗)
山と兎
無名山塾 私の感触より難しく書いてある
凄そうな方の記録
こういう記録は山が分かっている人が書いてくれると助かりますが、分かっている人が会所属者とは限らない昨今の事情を反映しています。良き記録を選ぶのも選択眼の一つかもしれません。
初めて行った時の乾徳山 ロープワークを教わった。ムンターでカラビナ懸垂できるようになった