2016/05/02

グレード感の勉強

非常に勉強になる、東秀樹さんの投稿のまとめ・・・

ーーーーーーーーーーーーーー以下全文引用ーーーー 赤字 筆者

グレードの定義
クライミングルートには必ずグレード(難易度)がついています。ルートの難しさの指標です。

同じ指標でも「距離」の場合は・・・。
例えば1mは「北極と南極を通って地球を一周する子午線(しごせん)の長さの4千万分の1」という規定があり、「メートル原器」というモノサシが作られました。いまはもっと厳密に「光の波長で“299 792 458分の1光秒(約3億分の1光秒)の到達距離”」とされています。つまりこれより短いことも長いこともないのです(・ω・)ノ。

ところがクライミングのグレードはあくまで「体感」です。例えば42度のお湯に夏に入浴したときと、冬に入ったときに感じる温度が異なると思います。これは温度計で正しい湯温が測れますが、クライミングは入浴の体感のみで、湯温を測っているのと似ています。つまり「客観的な位置づけのグレードを主観的に判断しなくてはいけない」のです(・Д・)ノ。

ルートグレードは先ず開拓者や初登者がつけます。しかしホールドが欠けて、ムーブがやさしくなったり難しくなるとグレードは変更されます。これは岩の形状という物理的な変化ですから当然です。
ただし「新しく効率的なムーブが見つかったから」という理由でも変更されます。これらグレードはグレードダウンが多く、グレードアップは稀にしかありません。

この他、夏に登るのと冬に登るのでは手のフリクションが違います

またコーナーでのステミングでは足の開脚能力の違いや、クロスムーブでの肩関節の柔らかさの違いなどでも、すべて易しく登れた方の体感グレードが優先されます(・Д・)ノ。

オンサイトトライと複数回目のトライでも違いが出ます。初見でホールドの発見に苦労して登っても、ハングドッグしながら、ありとあらゆる位置のホールドを調べ、マーキングした後に登っても易しく登れた方の体感が優先となるのです。(´・Д・)」

岩質と傾斜

小川山のスラブでは10台でも苦労しますが、その難しさをジムの前傾壁では11台後半と同じくらいに感じるかも知れません。

ジムルートはホールド位置が分かりやすいので易しく感じますが、グレードは「その運動の難しさ」というものを表していて、ホールド発見の困難性は加味されませんので、どうしてもジムルートはやさしく思えます。(・_・;

またこれは時代背景の違いにもよります。アメリカのデシマルグレード(ヨセミテグレード)は、スニーカーで登るような性能の悪いシューズと切れるかも知れないロープ、墜落に耐えられず落ちると外れたり抜けたりする可能性があるプロテクションの時代に発生しました。「5」はプロテクションをとる必要のあるルートということで、5.1から5.9までがグレーディングされます。デシマル(10進法)ですから9が最難です。

その後、クライミングシューズの進化やロープの性能アップ、抜けないプロテクションの採用、さらにクライミングテクニックの向上などで、明らかに9より難しいルートが開拓されます。そのため5.10以上の難易指標が生まれたのです。

誰もが今日、小川山の10台のスラブのより、ジムの11台の前傾ルートの方がやさしく感じるでしょう。しかしクライミングはスラブ・クライミングの時代が最初だったため、オーバーハング時代幕開けの当初は前傾壁のルートは難しく感じました。また前傾壁では抜けやすい初期の貧弱なプロテクションの影響があるかも知れません。

その後フェイスの時代に入り、クライマーが前傾ルートに慣れたのと、キョンやヒールフックという前傾壁特有のムーブが開発されて、グレード感が逆転したのです。

日本でもオーバーハング時代に入った初期ルートの小川山の「とろろ」北川の「北落師門」がやや甘いグレードなのはそのせいです。(・_・;

さらにスラブの話です。(´・Д・)」

スラブは上達しますと足で主に登りますので、手がパンプして墜落することなく、壁の中に滞留可能です。

しかし、前傾壁はいつか力尽きます。そのあたりも前傾壁の方が難しくグレードされている理由です。

ただし5.1から5.9と難易度を上げて来たスラブルートはその比例で5.11、5.12となっていきますが、壁の傾斜が強くなり、手のホールドが米粒より小さくなってくると、人間の指では物理的に摘めなくなり限界に近くなります。

オーバーハングの方は傾斜が強くなり、ホールドが小さくなってもスタート地点のグレードからは伸び代があり、ホールドもまだ保持できる範疇です。そのため難しい グレードは強傾斜の方に伸びやすく、スラブと前傾壁のグレードの逆転が起きたのだと思われます。(?_?;

グレードは誰のものか

以前、城ケ崎にアメリカのルートセッターでイーグリップホールドの社長タイ・フーズと登りに行ったとき、彼はパンピングアイアン2(5.12b)は5.11cしかないと言いました。彼は180㎝くらいあるので、やさしいホールドと難しいホールドが交互に出てくるこのルートはガバばかりつないで登れるので易しく感じるらしいのです。

このようにグレードは身長によっても大きく異なることがあります。それでもグレードは固定化されなければいけません。

したがって現在では以下のようになっているような気がします。

・身長は男子の平均身長が考慮されるが、初登者の身長が高くグレードがやさしくつけられてもあまりグレードダウンされない。

・気温や天気、岩の染み出しなど外的条件では一番いい状態で登ったグレードが適用される。

・柔軟性やムーブの発揮能力に差があっても一番やさしく登ったグレードが適用される。

ホールドの発見しにくさ、プロテクションの間隔による怖さ、チョークの付いている程度などは考慮されない。

・ルートが長くてもレストできる箇所があれば、もしくは傾斜が緩ければグレードに加味されない。

・発表時のルートグレードはその後ホールドが磨かれて登り難くなってもグレードアップされない(ちょっと問題だが程度が不明なので対応し難い)

以上
東京から名古屋間 新幹乗車時間にて(・ω・)ノ

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■ まとめ


・クライミングのグレードはあくまで「体感」

・夏に登るのと冬に登るのでは手のフリクションが違う = 冬が易しい

・易しく登れた方の体感グレードが優先 = 上手な人の体感

・初見は難しい

・ホールドをあらかじめマーキングしても良い

・スラブでは10台=ジム前傾壁11台後半

・ホールド発見の困難性はグレードに反映されない
・難しい グレードは強傾斜の方に伸びやすい

・グレードは身長によっても大きく異なる

・ランナウトの怖さは反映されない


なんだか、ホールド発見の困難性、ランナウトの恐怖の克服、初見の困難性はあまりグレードに反映されていないようで、ここからも、アルパインの要素とは、真逆であることが分かります。

やはり下手くそな人(=クライミングの才能がない人)は、地道に確実と思える課題をたくさん登り込むことだと思いました。