クライミングにおける「テーパー」のニーズとは?
――休むことで強くなる、パフォーマンス最大化の科学
クライミング界では、まだあまり一般化していない「テーパー(試合前の調整期)」という概念。
これは本来、スイマーやランナーなどの持久系競技で使われる方法ですが、実は、クライマーにこそ必要な“最後の仕上げ”なのでは?
■ テーパーとは?
簡単に言えば、
「本番に向けて練習量を意図的に減らし、疲労を抜いてピークパフォーマンスを引き出す調整」
のこと。
普段の練習では強くなりません。
強くなるのは、トレーニングで身体にストレスを与え、その後の回復期に適応が起きるとき。テーパーは、この“超回復のピーク”を本番に合わせる技術です。
■ クライミングがテーパーを必要とする理由
① クライミングは「疲労が成功率を決める」競技だから
クライミングの成功率は、地力よりも当日のコンディションに強く左右されます。
-
前腕のわずかな張り
-
神経系の疲れ
-
体幹の微妙なダルさ
-
判断力の減衰
これらは数%の差に見えて、実際は完登率を大幅に落とす致命的要因になります。
だからこそ、直前に疲労をためないことが成果に直結します。
② 強度の高い課題は“力の出しきり”を要求する
RP(レッドポイント)や本気トライは、
握力・爆発力・神経系のキレが最も必要な場面。
テーパーによって神経系の疲れが抜けると、
-
動きのキレが上がる
-
タイミングが合う
-
指先がスッと効く
-
呼吸とムーブが一致する
という“ピーク状態”に入れます。
③ ケガの予防になる
本番前に疲労が残った状態は、“ただの疲れ”ではなく腱・指・肩まわりの損傷リスクが高い状態です。
テーパーを入れると、
-
指皮の回復
-
腱・靭帯の微細損傷の回復
-
肩・背中の緊張緩和
が起こり、勝てるし、壊れない身体が仕上がります。
④ メンタルが研ぎ澄まされる
休むことは「怠け」ではありません。
むしろ、
-
落ち着く
-
自信が戻る
-
冷静にルートを読む
-
トライ時に攻めきれる
という精神面の調整につながります。
特に真面目なクライマーほど“休む勇気”を持つ必要があります。
■ テーパーの実際(例:本番3~7日前から)
| 日数 | 内容 |
|---|---|
| 7~5日前 | 高強度1回(短時間) + 軽い登りで終える |
| 4~3日前 | 低〜中強度のムーブ確認。長時間登らない |
| 2日前 | ごく軽く身体を動かす or 完全休養 |
| 前日 | 完全休養。メンタルの準備、ルートのイメージ |
■ 結論:クライミングこそ「テーパー」が効く
クライミングは技術・筋力・神経系・意思決定が複雑に絡み合う競技です。
だからこそ、
「ガンガン登る人」より「賢く調整した人」が強くなる」
という構造がはっきりしています。
-
最終日の1トライのために
-
数週間の努力をムダにしないために
-
ケガを防ぎ、安全にパフォーマンスを高めるために
テーパーはクライマーにとって最も“コスパの良い”戦略です。