■ 2タイプのクライマー像
A) スタイルを重視するクライマー。リスク計算が非常に細かく、性根は怖がり。
B) リスク計算はアバウトなクライマー。「怖いなんて言ってたら登れねえよ」ということを自分に言ってきたタイプ。野生の勘で、死亡リスクは頻繁には取らずに登り、どうにか生き残ってきた。度胸はあるが、思慮は浅く、スタイルは妥協することも多い。
現在の主流派は、B)です。
特に、外ボルダーはスタイルに対する制限がほとんどゼロで、登れさえすれば何でもいい、というクライミングです。これはクライマーがYouTubeを見ることで伺えます。登る前にYouTube動画を見るという行為は、ボルダーでは、普通であることからも、オンサイトが全く無視されていることが分かります。
B)が主流の中、A)の人のリスクをコントロールし、リスクを因数分解する思想をかみ砕く能力については、非常に参考になる書籍が少ないです。そこで、ここで詳述したいと思います。
■ 時代認知リスク
”現代初心者”という言葉を使いましょう。 年配の指導者には時代の誤認知のリスクがあります。
現代初心者の反対は、大学山岳部を起点とする、昔の初心者、です。18歳男性は、全社会構成で見た場合、体力的には当然ですが、トップレベルに入ります。徴兵制で誰が真っ先に徴兵されるか?若い男性でしょう。それは体力があるからでしょう。
現代初心者は、バックグランドも年齢も様々です。18歳男子という狭い分類で分けられていたような、”これくらいは普通”は、物差しとして、もはや成り立ちません。
個別に、その方の基礎的な体力や運動能力を知って、初心者対応する必要があります。例えば、これくらいは担がせてOKだろう、これくらいは歩けるだろう、は、無意識に、自分を前提としている可能性があります。特に年配の指導者で、自分が18歳男性でスタートした人は用心しましょう。
まとめ。
現代初心者 年齢、性別、知性 すべて様々。
旧初心者 18歳、男子、大学生 つまり、若くて、強くて、エリート。
対策: 個別にヒアリングを行う。
基準を持つ 例)1時間で標高差何メートルを楽に登山で歩けますか?
例)ジムで5級(5.11程度)が登れたら、外岩デビューが可能
例)ロープワークは終わってから外岩
例)ビレイは人工壁で確実にキャッチ経験を積んでおく
■ 無意識の押し付けは、自立で跳ねのける
リーダーになった人は、良かれと思ってのことですが、無意識の押し付けがあります。
例えば、もっとも顕著なのは、リードの押し付けです。伝統的に山岳会では、リードは新人に押し付けられて来たからで、誰しも心の弱さに打ち勝つには、背中を押される必要がある、というパターナリズムによります。
そのようなパターナリズムが前提としているのは、”新人さんは登りたい課題が分からない”というものです。それを覆すのは難しく、トポの情報から、ルートの性格を読み取るのは、相当の長い経験が必要な、至難の業です。
しかし、自分が登りたいところを選べるスキルを身に着けることは非常に重要です。
平たく言えば、ここを登りたい、という強い気持ちがないとクライマーは永遠に、「〇〇をのぼったらどうお?」という押し付けから逃げることができません。
■ クライマーの自立戦略
1)トライするルート選択
初心者向けはランナウトしていないこと
ボルトの質 M10グージョン
まっすぐで斜めでない トラバースがない
トリッキーでない
2グレード下がオンサイトグレードです
オンサイト(=本気トライ)もしくは、RPで取りつくのか?戦略によって選びうるルートは違う
2)各自のトライ中のリスク管理
自分の安全基準を明確化する、自己認識する
例) 落ちるくらいなら、Aゼロすべきボルト(例:オールアンカーやRCC、リングボルト)などの自己基準を持つ
落ちてよい場所の見極め力を持つ ぶつからない場所
このムーブではどれくらいの確率で落ちるのか自己認識ができる
3)ヌンチャクの本数などのトライ準備
ランニング支点の数+2~3本
4)終了点などのロープワーク
通し八の字 もしくは懸垂
5)ラインのルートファインディング
5.12のルートでも、ルートを外せば、12でなくなります
6)そもそものアプローチの岩探し
登山や読図の経験が必要です
7)ホールド探し
インドアジムでは培えません
8)フォールの恐怖心コントロール
恐怖心についての因数分解が必要です
クライマーは信頼できないビレイヤーでは登れないのが普通です
9)車、生活技術、プランニング
車を持っていないクライマーは、そもそも岩場に行く自立の時点で失敗しています
生活技術がないクライマーも同様。岩場での寝泊まりはマスターしないといけないです。
プライニングは一つの遠征だけでなく、クライマーとしての成長戦略作りも必要です
10)ギア的自立
ロープが会のロープでは、自立したクライマーとは言えません。
リードクライマーは自分のロープでリードしますが、それはロープの断裂や重さも問題になるからです。
共助が悪いことではありませんが、自分が共助の中で登っていることに自覚を持ちましょう。そうすれば、人のロープでリードしていることに自覚的になれます。
カムも同じです。
11)精神的自立
クライマーの自己責任は、盲目にリスクを取ることではない。怖いのを我慢して登るのは、リスクを取ることとは別の行為です。それを突き詰めていくと、原理的に必ず事故につながります。事故になって分かるのでは遅く、原理的な帰結だと先に気が付けるはずです。
12)慢心
ロープを出すべき基準は、落ちたらどうなるか?で落ちても大したことがない場所ではロープは出さないですが、簡単でも落ちたときに致命的になる個所では出すべきです。
クライミンググレードそのものがそれを語っており、5.でスタートするグレードはロープが必要という意味です。5.に含まれない4級であっても、場所によっては必要です。いわゆる山の中では鎖場、岩場では、アプローチでフィックスが出ているレベルに相当するところです。
13)国際化
クライミングは、国際共通言語となっています。クライミングができれば、運転ができるのと同様、英会話力がなくてもクライミングで国際コミュニケーションが可能になります。
14)相手への理解
男性と女性では、クライミングに求めるものが大きく異なることが多いです。男性の場合は、体力をオールアウトしたい、出し切りたいという願いを持つことが多く、それがボルダーに惹かれる理由となっていることが多いように思います。
一方、女性の場合は、未知の自分に出会う、クライミングという冒険に踏み出せる自分との出会いが、そもそもの起点になっていたり、男性と比較的対等に戦える場としてのクライミング…クライミングはスポーツの中でも男女差が比較的少ないです…によることも多いようです。
クライミングの何がモチベーションになるか?は、個人差も大きく、リスクを入念に考えるクライマーと、そうでないクライマーは互いに否定に陥りやすいです。
どちらにしても、大きく個人の能力差も加わります。パワーがない人が、パワープッシュという作戦を取るのは愚かな行為です。計算されたリスクを取る、という態度がクライミングで生き残るには必要です。
計算されていないリスクを取る行為は、無謀と同義です。無謀がだめなのではなく、クライミングスタイルの一つに無謀があると言ってよいと思いますが、そのスタイルを取った場合、死亡リスクが高くなることも否めません。クライミングで半身不随になったり、障碍者になっても良いと考えうるか、どうか?は、家族構成などにもよります。私はそのスタイルを取れません。
また、計算を越えたリスクというものもあり、それらは外的要因と呼ばれたりします。
クライミングで代表的な外的要因は、ホールドの欠損です。しかし、これも雨後やシーズン初めは、ホールドの欠損リスクが高い、叩いて登る、フレークは特に用心する、一つの岩場に通いつめ、岩場の性格を知る、など、傾向と対策が可能です。
他にリスク要因を洗い出したいと思いますので、お気づきの方はぜひご連絡ください。
以上で本日の考察は終わりにしたいと思います。