昨日は、この冬一番の寒さだった。雪すら、ちらつく中、日向神へクライミングに出かけた。いや~、楽しかった。
良い登り納めになった。
マルチに行くのは予想外だったため、マルチ用の緩い靴、そしてダブルロープを持っておらず、シングル2本でのリードとなった。
ロープが重かっただろうなぁ。
オーダーは、私がセカンド、ベテランがサード。実力順に並べるとそうなるよなぁ・・・。ここは全員がリードできるが。(念のため。オーダーは、トップ1番登れる人、2番一番登れない人、3番次に登れる人というのが定番です)
行きの道すがら、マルチになり、シングル2本をダブルで使って行ったため、ロープが太くて、確保器の繰り出しが重そうだった。
3人がいる場合、一人一本ずつビレイしてはだめなのだろうか?(良いそうです!)
RCCとも違う不思議なボルト |
単純に楽しくてよかった。
3ピッチ上がると、山のてっぺん!と言う展望で、マルチらしさ満喫だ。たった3Pなのに。お得度が高い(笑)。
ベテランが言うには、なんとなくしっかり効いた感じがないスラブ、ということだった。たしかに、花崗岩スラブの効きの良さ、と言う感じではないかもしれない。この岩は安山岩ということだった。安山岩かぁ…。ステルスc4よりビブラムソールがいいのかなぁ?
が、なにしろ、雪渓のようなスプーンカットが一杯で、スタンスもホールドも豊富だった。もちろん、足がかじかんでいたり、寒さで指がかじかんで感触がないので、落ちるかも的なリスクは感じさせられたが、とりあえず、当然ながらノーテンで3名ともがスイスイ登った。
途中、一度、セカンドの私のロープがロープアップされず、後ろから、「黄色ロープアップして~」の声がかかった。
登攀が簡単だったので、スイスイ登っていたら、3mほどロープが溜まっていたのだった。「今、落ちると僕に激突するよ~」とサードが言う。たしかに~と思って納得した。後ろが声をかけてくれてよかった。
トップはフォローの確保を作るのに位置関係がイマイチだったらしくて、ちょっと直しに時間がかかっていた。
ロープが溜まっていたら登らない…というか登れない…のだが、うっかりスイスイ登ってしまったほどなので、いかにルートが易しいかということが分かってもらえるだろうか?
とくに、安全マージンが広い私のようなチキンクライマーですら、気がつかず、登ってしまったということで(笑)。
「ここならオンサイトできますね~」「春にとっておいたら良かったなー」というのが率直な感想ではあった。ここは新人さんのマルチデビューに良いルートだった。
(ちなみに小川山の新人向けマルチ 春の戻り雪5.7 3pのほうが質的に難しい)
■ 楽しみにして待つ対象を与える大事さ
5年ほど前、私は初めてのマルチに行くのに、
1)クライミングジムでパートナーを見つけ、
2)その人と人工壁に通うため、その人がたまたま入っていた山岳会に入会し、
3)人工壁にビレイ練習に通うこと3か月、
というプロセスを踏んだ。その後の春、4月に初めてのマルチピッチで、三つ峠に出かけた。岩場で知り合った師匠とだった。
その時は、三つ峠は寒く、まだつららすら出ており、落石ではなく、落氷が心配な状態だった。冬期登攀!だった(笑)。前日、登攀で有名な山岳会の横浜蝸牛が、「これでは登れん」と敗退していたのが印象的だった。あの蝸牛ですら登れなかったのか、というわけだ(笑)。
ルートへ出る、そのために何が必要か?を考え、積み上げた期間も長く、当日の条件も悪い中で行ったマルチデビューだったため、感動も、ひとしおだった…。もちろん、登攀は楽々だったため、すぐに2度目はリードで人を連れて行ってしまった…。今思うと、そういう人は伸びるだろうなぁと思う。あぶなっかしくはあるが。
■ 感動の量を最大化させてあげることが新人へのプレゼントでは?
おそらく感動の量というものは、誰か他人が与えることはできず、本人の汗と涙の量?による。
もちろん、私はこのマルチデビューのために、泣いてもいないし、ド根性レベルの苦労などは、してはいないのだが、とはいえ、大きな意味では、3時間で登れるようなハイキングの山からスタートして、7時間も小屋までかかる厳冬期の鳳凰三山や、アイゼン登高、ピッケルでの滑落停止技術の習得を条件として登った赤岳登頂、そういうものを個人の力量の範囲内で終わってから、山のステップアップとしての、スタカットが出る山=マルチピッチデビュー…というのが、当時の私のマルチデビューの位置づけだった。大きな意味での準備期間は、当時で丸4年ということになる。もう5年も前の話だが…。
先日は、会と意見の相違があった。そうしたマルチへデビューするための正当と思えるプロセス… 山岳会の門をたたいたならば、最低限、ビレイとセカンドとしてセルフレスキューするためのロープワークの2点の伝授…を経るところなく、男性の新人をマルチに連れて行ってしまっていた。私は反対意見だった。
あとで本人に聞いたら、「行ったものの、何がどういう話か分からなかった…」ということだった。感動、少なさそう…。
私には、これは会が、こらえ性がなかった事例、と見えて仕方がなかった…。
本来、セカンドやサードで登ってすら、必要になる技術習得…ビレイと自己脱出…をさせないで連れて行ってしまうとするなら、それはガイド山行だ。悪しき習慣と思える。
しかも、これでは、全員参加型山行とは言えないのではないか?一緒には行っているが、メンバーシップを発揮できるか?というと違う。
全員参加型とは、全員が、登攀に協力でき、登攀に必要なリスク回避のために協力でき、そして、リスク回避活動を”共有”できる、ということだろう。連れていかれて行くだけでは、共有できず、蚊帳の外、ということになってしまう。
それで、あとを追うようにして、竜岩自然の家でプルージック登攀や自己脱出を教えた。
あいにくの雨と体育館が使用できない日で、大したことはできなかったが、それでも、彼は、楽しかったのだそうだった。初心者向けの教科書は教えておいたが、それらを読んでも、膨大過ぎて、よくわからなかったのだそうで、それも無理ないなと思う。
ビレイ習得には、週1ならば1年、週2回ならば半年くらいは、人工壁に通わないと習得できないこと、ビレイが習得できていない人は本来、ゲレンデも連れて行けないと教えておいた。
ビレイはクライマーとして最低限のスキルだ。マナーの基本のキであるが、習得に前向きでない人が多い。
想像の範囲ではあるが、昔の山岳会は、おそらくリーダークラスと庶民?クラスを分け、リーダー適性があると目した人にしか、ビレイを始め、技術を習得させなかったのではないのだろうか?
そして多分、それは時代の流れに反していると思う。昨今はビレイ関連のデバイスが向上し、誰でも初歩的なビレイは習得可能だ。もちろん、ほかの山の技術と同じく、永遠に学ぶ余地があるのがビレイ技術であるのだが、その機微を理解したいという気持ちさえ、あれば、初歩的なことは誰でも習得できる。習得には、たぶん平均的な人でも1年くらいはかかると思う。
したがってマルチに行けるには、その理解が必要だ。そうでないと何の習得を求めてマルチに連れて行ってもらっているのか?すら理解できないで、金魚の糞をすることになってしまう。
初心者にとっては、ビレイは習得に時間がかかる最初の難関だと思う。しかし、長い時間がかかったにしても、人の命を守るぎじゅづだけに、時間をかけるだけの価値はあり、そして、ビレイはセカンドとしての最低限の責任である。
ビレイができないクライマーを作ることは、クライミング界にとって何の善ももたらさない上、本人を不幸…山の本来の楽しみである憧れと情熱によって掴む山から遠ざける…にしてしまうと思う。
少なくとも、今回の会の新人が、私が5年前に感じたほどの感動を感じたか?というと否であることは明らかだと思う…。同じ山であるのに、もったいない。
山は山でしかない。意味は人間が決めるものだ。
■ ラッペルダウン&グランドアップ
午後いちは、偵察へ行った。トンネルエリアと東稜の下部を偵察した。驚いた。初心者向けの課題が一杯だった。しかし支点が悪いようだった。みたこともない形状のRCCのような支点が一杯だった。
この岩場は下部は易しく、上部はどっかぶっている。ラッペルダウンでの開拓しかあるまいと思える。
傾斜の違いが、開拓スタイルの違いにつながるということが、分かりやすく理解できる岩場だった。
トポは公表されていないそうだった。ボルトが悪いためだろう…
ここで落ちることは、クライミングを理解している人にはなさそうだ。
だが、易しいグレードであっても、そういうグレードと言うものは、登る人もまた、全くクライミングそのものを理解していない段階にいる初心者が取り付くものだ。
■ 恩返し?5.11でセッション
最後は道端エリアで遊んだ。これは私は5.9はリードできると思っていたので、リード(再登)。マルチはリードしてもらったので、どこか登りたかった。
これをリードした春は、登攀力が、今より実はよかった…。小川山にバイトに行って2か月たったら、なんとカチ筋が弱っていた。体のほうもぐんと、切れ、が悪くなっていた。高くついたバイトだった…。
この寒いコンディションで、初めて組むビレイヤーで取りつく5.9は、私なりのクライマーのマナーだった。5.9というのは、どういう状況であれ、登れて当然のグレードだからだ。つまり、となりの5.8は、辞めておいたのだ。(ただし、新人のビレイの時は、5.8にしておく(笑)。)
5.9とはいえ、何度もムーブを組み立てなおし、リードに時間をかけた。
私はボルトの信頼性を勉強して以来、確実さ200%でない限り、行かない方針に鞍替え中だ(笑)。今までも慎重なクライマーで、登攀力が足りなかったという理由以外で落ちたことは無い。が、さらに輪をかけて慎重派になった。
ビレイヤーが私語を始めるくらい時間をかけた…ありがたくビレイヤーがいる贅沢を満喫した。普段、後輩を連れていると、できない贅沢だからだ。
先輩や同レベルのクライマーと行く山では、甘えることを学習中だ。見栄を張って、リスクを取ると、いつまでたっても、まぐれでの成功体験という自己認識が付きまとい、それが確実に登れる自分の登攀力だ、という自信がつかない。
登るのに時間がかかる、というか、時間をかけるのは、私のクライマーとしての成長に必要な時間なんだと思う。私にとって、頼りにされることは易しく、甘えることは難しい。
師匠の青ちゃんは、私がアイスでリードしているときは、心配の余り、顔面蒼白だった(笑)。一般にアイスクライマーの一通りの一人前ラインである、5級がリードできたときはうれしそうだった。比較的すいすい行ったため、となりのどっかぶりの6級のラインを「リードしてみる?」なんて聞いてきたんだよなぁ…。アイスで6級がリード出来れば、相当な猛者である。あれをリードしていたら、青ちゃんは、たぶん心肺停止していたんじゃないだろうか…(笑)
道端エリアで登った5.9を登れば、隣の5.10bにTRを掛けられる。実は、4月に3回落ちた課題だ。寒いほうがフリクションはいいのでは?と思ったが、そんなことはなかった。残念。小川山はフリクションは寒いほうがいいのだが、花崗岩と安山岩では違うのだろうか?
ロープはふんだんだったので、同行者が隣の5.8にもトップロープをかけたが、結局だれも登らなかった。
5.10bのあとに同じロープで掛けた5.11のスラブ、たち込みが、できなさそうでできる、できそうでできない微妙なムーブで、岩との対話に全員が目覚めてしまったからだった。
トップロープならチャレンジを取る。
全員が同じ課題を登って、セッション形式になり、楽しかった。
最初のマルチでのオーダーは正しかった、ということが実証された形になった(笑)。
マルチピッチを案内してもらった恩返しが、このイレブンでできたような気がした。
このイレブン、一緒にいつも登ってくれる先輩は2撃くらいで登れたんだよなー。