■ボルトの信頼度によって登り方を変える
はじめに。最もあってはならないこと:煽り&煽られ。
「クライマーなら、自己責任で登れ」
”手で押したり、引っ張ったりして、大丈夫だと判断したボルトに通常のフリークライミングの慣例として、落下係数2のフォールをするような登りで挑むこと”
は、結局は、判断の根拠が、
”見た目で、大丈夫そうだった”、
”手で押してみたら、大丈夫そうだった”
などのおぼろげな根拠しかないまま、ボルトを信頼して登ること。見た目や手で押しても、ボルト強度は判断できません。かかる荷重はせいぜい数kg…。
これでは、自己責任ではなく、無謀の後押しに、ほかなりません。
以下、具体的な行動の指針として、ご参考にされてください。
個々人で、採用できる安全マージンは差があります。誰かがバンバン落ちて、そのボルトを信頼していたとしても、あなたが信頼するかどうか?は別の話です。例えば、同じ高さから落ちても、肉体の壊れやすさは、個人差があります。
事例1)シャックル直付けのような、確信犯的に信用してはならない終了点の場合
→ 係数2で落ちるクライミング(RP型)はしない。TRは必ず3点で取る。
このようなボルトで落下係数2の落ちるクライミングをするかしないか?は、当事者の判断によるべきです。パートナーであれば、それが意思疎通できるような人と登るべきです。
事例2)ボルト配置が悪く、落ちたら致命傷になる課題
→ 登りながら、プリクリップで対処
事例3)課題は適切(上で核心なので落ちても安全)だが、プロテクション・終了点が、両方とも信頼できない課題
→ プロテクションに頼らないで登る、もしくは、各駅停車でテンション登り 係数2のフォールはしない
事例:このプロテクションは、ペイントで腐食もしくは錆が、ごまかされています。信頼する(落ちる)か、どうか?はクライマー次第
事例4)人気ルートでボルトがケミカルだったり、リボルトされており、信頼できそうな課題
→ 積極的にフォールしてOK 落ちたほうが疲れない
事例5)落ちたらぶつかるルート
凹角スタートで岩の突起にぶつかるなどの予想できる危険がある課題
→ オンサイトにはこだわらず、リスクを感じたらエイド
事例6)難しくてもリスクが低い課題
例:自分のRPより難グレードでも、ボルトがよく、ボルト間隔が近い課題
→ Aゼロで掛けながらリードし、TRで登れば、安全にスキルアップできる
事例7)関西の”斜陽”のような、後ろに走らなければ確保できない事故多発課題
→ 登らない
■ その他 予防策
1)ヘルメット着用
すでにフォールで頭を打った経験がある場合、や、余裕がなくロープをまたぐことがある場合
→ ベテランクライマーがノーヘル、ニット帽だったりすることを気にせず、揶揄されても気にせず、ヘルメット着用する。
さらに念を入れるには、チェストハーネスをつける。上手に落ちても、後頭部を打つクライマーはいる。その場合に、責任を取る=長い入院生活を送ることや半身不随になることも含め、結果を被るのは自分。
2)初めて組むパートナー
→とりあえずビレイをテスト 一発目で軽く落ちるべし
3)ほかの人に紹介するルート
→ できれば係数2のフォールも可能なボルトの品質が良いルート
■ プロテクションの質により、登攀のスタイルを変える
登攀のスタイル…TR、プリクリップありリード、Aゼロリード、ぬん掛けリード、マスターでのリード、フラッシュ、オンサイト…等を選択するのに、
ボルトの良しあし
ということが関係してきます。
落ちれないボルト配置(ランナウト、トラバース)の課題では、2グレード上を登れるようになってから取り付く、などの知恵が言語化されていないので、いつまでも経験者についていないことには、その岩場で主体的に登ることができない、という事情が日本の岩場にはあります。主体的に登るというのは、自由と言う意味です。
経験者の方も、その経験には当然偏りがあるため、すべてをゆだねられる状況にはなく、とくに年配のクライマーのビレイ立ち位置には大変問題が大きいことが多いです。昔の経験から、ボルトの品質には、妥協があることが多く、人は誰でも年を取れば、最新情報には疎くなるのが当然ですので、現代の知識を期待することも、無理というものです。そこは、ビレイをしましょうと申し出たり、ボルトを負担したり、情報提供したりしましょう。
ボルトの良しあしは、見た目、手で押す、などでは判断できず、熟練の職人の目、もしくは、ボルトタイプ、材質、設置年、設置者という4つの情報が揃わないことには、安全性は判断できません。
情報不足で判断できないことに対して、「クライマーなら自己責任で登れ」と発言することは、要するに、”安全性に根拠なくとも、危険に挑め”、ということですので、そのような発言は、控えましょう。無責任です。あなたはその人が怪我をしたとき、罪悪感を感じずにいられますか?
怪我は武勇伝にはなりません。むしろ、リスク認知のおろそかさを示すものです。
■ RPするにも内容に細かな差が
RPにも内容の良しあしに色々な細かい違いがあります。
古いクライマーからは、落ちるクライミングをする若い人たちが危険だ、という指摘が根強いです。
しかし、フリークライミングはルール上、1本目を掛けたらどこでも落ちてよいというルールであるのですから、落ちる方が悪いというのは責任転嫁であって、正確には、落ちれないフリークライミングが、そもそも、フリークライミングの定義に反しているかもしれません。
そのような課題は、例外的ともいえるルールと違う現象ですので、トポ等に記載があるべきで、ちょっと説明が不足しているのではないか?というほうが事情の描写としては、適切かもしれません。
私が知っている若いクライマーたちは、13クライマーなどで、昔のクライマーと比較してはるかに高難度を登っています。危険をスキルで超越できる人たちですが、”9割落ちている”そうでした。登れない課題に挑むのがフリークライミングなのだから、当然です。
11程度を登る一般のスキルレベルのクライマーにも、自分の身を守る方法論が必要ですが、こうした事情説明は、昔の登攀しか経験がないベテランからは出てこないのが現状です。ベテランの中でもラッペルのスタイルに進んだ人は理解がある場合もあります。
今回は、粗削りながら、ひな形ができました。ベテランの方のご意見、ご指南をよろしくお願いいたします。
大事なこと。 落ちながら登るには、確実なプロテクション(ボルト)が必要です。
悪いボルトのルートでは、確実にオンサイト出来るつもりでないとバクチになるので、フリークライミングの見た目をしたアルパインクライミング、とでも表現したらいいような課題については、オンサイトにこだわる必要はない、というのが実情です。2000年代以前に開拓された岩場は、ほぼそのような岩場です。(小川山も結構そうです)
また、ラッペルで開拓されたルートに関しては、開拓者すらOSはしていません。リードしない開拓者もいるくらいです。
■ 世代間の知識の差について
年配のクライマーは、ボルダーをしないので、SDスタートのほうが難しいことがよくあるということを理解していません。シッドダウンがより難しいということは、リードでは背が低いクライマーが取り付くほうがより困難、ということと同じです。
これは、私は小川山のジョコンダで理解しました。一手目、届けばガバ、届かなかったら、サビて手で抜けるピトンに命を預けて(?)小さいスタンスを拾わないといけなくなります。とはいえ、下部核心の課題は、下地次第です。下がふかふかであれば、下部核心であっても、ボルダーと同じ程度のリスクです。しかし、下が海岸のように岩だとか、不安定な斜面という場合で、下部核心であれば、容易に捻挫します。捻挫は数か月最低かかる故障につながります。それを大きいと見るか、小さいと見るかは個人次第です。
オンサイト重視のクライマー=難しいルートは登れないクライマーという可能性もあります。
■ ルート途中のプリクリ 技術を身に着ける
エイドをやっていない現代クライマーは、クライミング中のチョンボ棒によるプリクリップクライミング、については、よく分かりません。1ピン目が遠い時にかけるプリクリップ以外のことは無自覚かもしれません。落ちれないボルト配置(ランナウト)のような課題の場合、ルートの途中でプリクリしないと、いくらビレイヤーが良くても、墜落すれば、怪我を免れません。それで登る勇気が出なくなった場合、敗退するにも、その前のボルトに落ちてぶら下がれない、という意味です。その場合は、なんとかプリクリするしか、安全に敗退する方法がないです。
■捨てビナ (捨てマイロン)
難しいグレードに取り組みたい人は、捨てビナか捨てマイロンを持つと自己責任で敗退できます。
■ グレードに上下なし
12でひいひい言っている人と、10でひいひい言っている人と、14でひいひい言っている人の心の中は同じ動きです。
どこで、悲鳴を上げていても、その人の限界に挑んでいるという点で同じです。そのギリギリ感が、”こわ楽しい”とか、”無になれる”とか、表現は色々であっても、同じことを楽しんでいるので、上下をつける必要はありません。
比べる心が不要なのがフリークライミングだと思います。
低グレードで、ひいひい言える人は、その分長くクライミングを楽しむことができます。正直なところ、14がすぐ登れてしまうと、そのあとが困ってしまいます…。そのような人を何人か知っています。