2017/10/09

初級クライマーへ グリーンクライマーズホームのススメ

■ なぜ海外が安全か?

ずばり、危険回避のためです。

国内岩場では、小川山がフリークライミングの聖地と言われていますが、その小川山ですらも、クライミングの初級者がリードするに適した課題…つまり

 ・ランナウトしていない課題
 ・1ピン目のクリップが遠くない課題
 ・ボルトの位置がよく考えられている課題
 ・そもそも課題数が少ない

という理由からです。これは、それだけクライミング(外岩)が、日本では愛好者人口が少なく、したがって、初級者向けの課題がないからのようです。

私が最初に登れるようになったのは、3ピッチ、5.7の”春のもどり雪”ですが、そこもランナウトしていることが核心、と言われていました…(汗)。

日本の場合は、例えば、5.9の課題だと、5.12を楽に登る人が初登者であり、プロテクション、つまりボルトの間隔は、その12の人の感性で適切だと考えられる間隔、になっています。

つまり、5.9がやっと登れるようになった人にとっての感覚と異なります。結果、5.9が精一杯でオンサイトしようとしている人に、大変危険、ということになってしまいます。

一ピン目も届かない場合すら、稀とは言えない頻度であります。

初心者時代と言うのは誰もが通る道なのに、その、もっとも危険な時代を安全に通ることができない。チータースティックなどが出てこざるを得ないのも、このような事情に寄るのでしょう。

特にリーチがない人にとっては、1ピン目が遠い課題など、非常に危険です。

結果、初見の者同士で、岩に行くことが、とても危険なことになってしまいます。

■ 旅行者ですら、楽しめるクライミング

ラオスで、去年私は初めての海外クライミングをしました。

驚いたことに、現地では、一般の観光旅行者が参加する、日帰りツアーの一環として、ターケーク、グリーンクライマーズホームでのクライミングは位置づけられていました。

確かに、安全管理がバッチリされていれば、トップロープでショートを登らせることには、あまり大きな危険はありません。落ちても、びよんとぶら下がるだけなので。

そのためか、非常に簡単な、5.4なんていう課題から、用意されています。

5.4なんて、日本ではみたこともありません(笑)。あっても誰も登らず、その課題を登ることが不名誉なことか、もしくは、課題として成立できないほど苔苔だったり。

一度、ためしにラオスで、5.4を登ってみましたが、登山道の鎖場のレベルでした。普段、鎖場の鎖を使わないで上り下りしている人には、何が難しいのかしら?となってしまうレベルです。


しかし、そのレベルから、5.5⇒5.6⇒5.7⇒5.8と一つずつステップをあげていくと…、クライミングでのリードという活動が、なるほど、と分かっていくのではないか?という気がしました。

私はすでにフリークライミングの経験があったので、フリークライミングで、もっとも易しいと考えらえているレベル、5.9から、一つマイナスした5.8からスタートしましたが、5.8だと使えるホールドやスタンスが多すぎて迷い、どうしてよいか分からなくなる、ということが分かりました。

という易しさですが、大抵の人は、どんなに立派な体格をしていても、このあたりのグレードからスタートです。

生まれて初めてリードした、と言っている西洋人の男性に会いましたが、5.8でした。

ちなみに、フリークライミング歴、何十年であっても、だいたい5.10代が一般のフリークライマーが登って楽しいレベルで、それは、まったくの初心者が登れる、5.8や5.9とそう大きく離れたグレードではありません。

それだけ、フリークライミングの場合は、グレードとグレードの間の難易度の密度が濃いです。

つまり、日曜クライマーレベルから、12が5本オンサイトできるというような、脱・日曜クライマーレベルへ行くのは、非常に大変で、大きな努力や献身、もしくは、才能が必要になるということです。毎日登っても、数年係るようなハナシ。

ですから、フリークライミング(含むボルダリング)を経験している人は、まったくの観光客レベルで、日帰り観光気分で、クライミングが楽しめる、と言うこと自体に、疑問を抱いてしまうかもしれませんが、実際、ラオスではそのような実態がありました。

■ かおりちゃん

そのような実例として…出会ったのが、かおりちゃんです。6歳、幼稚園生だったと思います。

かおりちゃんはお母さんともども、クライミング初心者で、グリーンクライマーズホームに登りに来ていました。日本語が聞こえたので、私が気づき、それでお友達に…。

とっても楽しくお友達になりましたが、彼女が与えられていた環境は、初めての岩場が外岩。

しかも、洞窟気分満点、鍾乳洞みたいな、石灰岩の岩場です。

きっと、初めて接するクライミングがこのような岩場だと楽しくて仕方がない!でしょう。

想像するに白石アシマちゃんは、外岩ばっかり登って楽しく成長したのではないかなぁ?

ちなみに、初心者はギアなどは一切持っていないし、ロープなんて言われても謎だと思いますので、一切のギアは、施設からの貸し出しです。

体一つで出かけて行っても、大丈夫。すべてがレンタル可能です。しかも、体験クライミングだから、トップロープを掛けてくれ、楽しく登らせてくれます。

これは、大人の初心者も子供の初心者も同じです。

ひるがえって、日本の岩場では、施設側が岩場管理者であること自体がめったにないので、このようなサービスはありません。

ので、日本に来た外国人観光客が、身一つでクライミングでも体験してみようか、とはなかなかいかない。

これは、例えば、韓国のインスボンでも同じです。クライミングを愛好者以外が登るということは、めったにないので、日帰りツアーなども出てはいません。(韓国語で読めればでているのかもしれませんが…)

これがヨセミテとなると、現地ガイドが雇えたりもするそうですが、それは、その施設の人というよりは、日本と同じように無料で開放されている岩場を現地ガイドが案内する、というような状況だと思われます。

一方のラオス、グリーンクライマーズホームでは、基本的には、その施設の宿泊者のみが、その岩場で登っている、という状況にあり、現地の人はほぼ皆無。

一泊二日で来ていた英語圏の人が現地で働いているそうでしたが、現地で働いている外国人であってラオス人ではなかったです。

つまり、そこにいる人達は、基本的にみな、同じ宿泊地で宿泊している仲間ということでした。

■ 課題数が多い

そして、課題数が大変多いのです。

一般に、同じグレードの課題をたくさんの量登ることで、より自然な形で、無理なくグレードを向上させていくことができる、と言われています。…が、問題は、日本の岩場は、課題の量が足りないことです。

5.10Aへ進む前に、5.9のオンサイトを10本登りためする…というようなことは、日本ではとても難しいです。

これは、北海道などでは、とても顕著らしく、難しい課題しかないため、レッドポイントが主体にならざるを得ないのだそうです。

レッドポイントと言うのは、同じ課題を何度も何度もトライして、やっとこさ落とす、という方法です。

レッドポイントでのグレード更新は、9割落ちている登り方、というわけです。落ちることを前提に登らなくてなりません。

それは、他に登る課題がないから!

本来、オブザベーション(観察)で、これなら登れるのではないか?と思われる課題を登ってみて、その目論見が外れ、登れなかったなぁという経験を積み重ねることで、落ちないで登れるグレードやルートファインディング(オブザベーション)能力がつくと思いますが、課題数が少ないとそれもできないわけです。

その点、ラオスの場合は、課題数がたくさんありすぎて、同じグレードの課題をつぶすだけでも、だいぶかかりそうなほどでした。

しかも、ランナウトしていない。ボルト間隔が適切で、私は背が低いリーチの短いクライマーですが、それでも怖いと感じさせられることが少なかったです。

■ スポーツクライミングが根付いている海外

思うに、クライミング文化と言った時、死を意識せず、ファンクライム、楽しいクライミングとしてのクライミングが根付いているのが、海外、特にヨーロッパのクライミング文化のようです。

ラオスは、ドイツ人が開拓した岩場ですので、ドイツのクライミング文化が根付いているのかな?と思いますが…

ラッペルダウンで作られたボルト式の岩場、つまり、ボトムアップの、ヨセミテ風ではなく、ヨーロッパ風の岩場は、日本では、どちらかというと、あまり尊敬を受けない文化的気質があります。

つまり、危険でないから価値が低い、ということなのですが…。より危険な方がより大きな敬意を受けるという伝統は、もしかして、エルキャピタンをフリーソロしてしまったアレックスオノルド君を輩出したアメリカ的伝統が、日本では先に浸透した結果なのかもしれません。(余談ですが、それが、一般登山者の価値観にも影響して、一かバチかの賭けごとが登山の本質だと誤解されているかもしれません。)

記録を狙うような先鋭的クライマーにとっては、その価値観でいいかもしれないですが…一般大衆がその価値観だと、タダの趣味なのに、初心者時代に墜死してしまいかねません…

何しろ初心者と言うものは、何が登れて、何が登れないのか、よく分かっていないものなのですから。

というわけで、初心者ほど、海外の岩場へ行ってみるのが良い、と思います。そこには、”死を覚悟しなくても良い岩場”があります(笑)。

ちなみに日本では、アルパイン的な三つ峠でも、フリークライミング的な小川山でも、ある程度、死を想定しなくては、リスク回避できないです…。三つ峠では、”セルフを取る”というクライミング界の常套句を理解できないまま、自ら外してしまって、自分自身のミスで亡くなってしまう人がいますし、小川山では、一般的な普通の墜落に因る事故が後を絶たないです。死は、高山のアルパインルート…一般にフリーよりかなり易しいが総合力が必要…では、より顕著です。日本の岩場では、大なり小なりの死がついて回ります。

その点、ラオスのクライミングは、ボルト間隔にせよ、グレーディングにせよ、終了点の整備にせよ、安全ということが第一になって、純粋にクライミングそのものを楽しむ、ことが大事にされているのが分かります。

もしかしたら、世界には、グリーンクライマーズホームのようなクライミング初心者に適した岩場とサービスがあるのかもしれないのですが…。

私はまだ、クライミング初心者なので、もし、そうした岩場をご存知でしたら、教えていただけると嬉しいです。