■ カントリーリスク
さて、グリーンクライマーズホームの所在地はラオスである。
万が一の怪我の時、一体医療機関は整っているのか?
それは、当然至極の、疑問である。
私の知り合いに、パキスタンで雪崩にあった人がいるが、肋骨が折れてもそのまま無処置で日本に帰ってきたそうである…(汗)。
つまり、パキスタンで医療処置を受けるくらいなら、受けないで我慢し、日本で受けた方が良いという訳だ…。
このようなリスクは、カントリーリスク、という言葉でくくられている。
言うまでもないが、カントリーリスクは、個別、固有だ。国ごとに違う。
■ 在留日本人との交流
たまたまであるが、ラオスでの登攀中、現地の医療機関に勤める日本人の女性と知り合いになった。言葉の面で苦労されているようだが、例えば、注射針の使いまわしなどの、非衛生的な処置は聞いていないそうである。
またかおりちゃんのお母さんたちと知り合いになったため、もあるが、現地日本人のコミュニティとも、つながりを持てた。
一般に…であるが、現地の在留外国人が定着しているような土地…もともと植民地であったような場所が多い…は、伝統的に外国人向けの医療機関の蓄積があるようである。
一方、内戦などで世情が落ち着かず、在留外国人がいないような国だと社会の余力が、そのような部分にまで巡っては来ていないかもしれない。
たぶん日本でも、長らく在留していた外国人に対しては、外国人向けの住宅、外国人向けの医療、言語サービスとお抱えだったと思う。
以前、大阪で勤務していた会社は外資だったが、本国から派遣されている経営幹部は、日本人の常識では考えられないような金額のマンションに住んでいるのが普通なようだった。
これは逆も真なりで、東南アジアなどで、日本から派遣されている支店長さんの事情を聴くと、現地では考えられないような、いわゆる豪邸にお手伝いさん付で会社から住まわされる事が多い。
どちらも派遣元からの配慮、という事情だ。在留外国人と言う歴史には、このような企業からの派遣という歴史がある。一般的にそうした歴史が確立している国の方が日本人にとって住みやすい環境が、時間的積み重ねと言う財産に寄り、確立されている。
ラオスでは、GCHのトポの後ろに、緊急時の病院リストが掲載されている。リストというほどの量はないが。
■ 事後処理の充実より、リスク回避の充実が重要
しかし、どんなことにも言えることだが、事故や危険が起こってしまってからの処置の重要性より、予防のほうが大事なことだ。
これは、例えば、病気への対応などでも言えることで、そもそも、予防の方が大事で、起きてから治療する、ということのほうがより重要度が低い。
レントゲン技術があり、縫合技術があることも重要だが、そもそもヘルメットをかぶるという知恵がきちんとあるほうが良い。
あるいは、分かりやすい例で行くと、滑落停止技術があるよりも、そもそも、滑落しない歩行技術がある方が良い。
クライミングに当てはめると、これはなんだろうか?
そもそも、自立したクライマーになること、だ。
私がラオスで気が付いたことの一つに、日本のクライマーは自分の力量を相手に正確に伝えるコミュニケーション力をあまり持っていないということだった。
普通、クライマー同士は、夜の食事の場で、交流し、今自分が取り組んでいるのはどんな課題か、グレードは何か、どういう課題が好きか?クライミング歴はどれくらいか?
そうしたことを話しながら、いっしょに明日登るパートナーを見つける。
一方日本人は、そうしたことを話さない… どちらかというと、交流をせず、仲間うちで偏り、孤立していることのほうが多かった。
そして、クライミングでバディを組むときも、パートナーチェックから、クリッピング時の声掛けも、相互コミュニケーションになっていない。
分かっていて当然
という前提で話が進んでいくのだ。 これは、コミュニケーションの失敗である。
海外では分かっていて当然と言う形では、コミュニケーションは進んで行かない。むしろ、
分かっていないかもしれない可能性を取り除くためのコミュニケーション
(Trust But Check)
となっている。初めてロープを組む人と、クリッピング動作をするときは、「ロープ」と声に出すが、日本の人は、これをしない人が多い。
日本では、人工壁に行ってもそうで、ロープと声に出さないのはなぜなのだろうか…
というわけで、海外でのクライミングの適性は、たぶんコミュニケーション力にある。コミュニケーション力がないと、悪気がなくとも、ビレイヤーは、どのようなビレイをしてほしいのか、ワカラナイだろう。
大事なことは、コミュニケーション力をも含めた自立したクライマーになることである。
最初は誰でも知らない人である。そういう状態から、信頼関係を徐々に築いていく、ということが、一般に日本人は苦手なのかもしれない。
・事前に自分の経歴と相手の経歴を合わせて、いっしょに登る場合の安全管理について、想像を巡らせることができる。 例:どちらが先にリードするか?
・言語のすり合わせ 言葉は微妙に各国で違う
・初めてビレイしてもらう時は、落ちないグレードを選択する
・パートナーチェックは当然
・ビレイヤーを振り返って、ロープのたるみ、立ち位置などをクライマー側が指示できる
・クリッピング動作をするときは、ビレイヤーのために声を掛ける
・終了点に来たら、ロープをごぼうにもったまま(下のロープ)、ビレイヤーにテンションしてもらってから、体重を掛ける
・落ちてはいけないフラれる、箇所では落ちない
・ギリギリのところは、信頼関係が築けたクライマー(墜落を止めてもらった経験がある)クライマーとのみ、チャレンジする
・Trust But Check
上記以外にもあるかもしれない。クライミングで、墜落や怪我をしないためのリスク管理は、クライマーなら出来て当然のことである。
ちなみにこれは、グリーンクライマーズホームでは、誰もがこうしているようだった。
人は、朱にまじれば赤くなる、と思うので、リスクについてやみくもに恐れるのではなく、うまく回避しつつ、楽しくクライミングをするという、文化的影響を受けることができるということも、ラオスでのクライミングが楽しかった理由だ。