2026/01/25

【リリース】初のKindle本、出版のお知らせ

ロープとクライミングの物理的なリスクについて、まとめた本をKindl出版いたしました。

内容は、このブログですでに挙げた記事をいくつか転記したものですので、あらためてご購入いただく必要は、このブログ読者にはありません。

この出版の理由は、本当に読んでほしいクライミング初心者に、このブログ発信では届かない、ブログ読者がコアなクライマーだけだと気が付いたからです。

2017~2018年ごろ、Googleの検索アルゴリズムが変わったようです。

それ以前は私のブログは常に上位ヒットしていたのにしなくなりました。

そのため、よりリスク管理に敏感になってもらいたい初心者に届きやすいよう、Kindle本へ移行しました。


2026/01/24

黎明(Liming)でのクライミング禁止らしい

 2025年9月24日に発表された玉龍ナシ族自治県政府および麗江老君山国家公園管理局による通告は、中国国内外のクライマーにとって非常に大きな衝撃を与えました。

この通告は、世界的なトラッドクライミングの聖地である**黎明(Liming)**でのクライミング活動に事実上のストップをかける内容となっています。しかし、「中国でクライミングが禁止されたのか?」という問いに対しては、冷静に事実と未確定要素を切り分ける必要があります。


1. 通告から確認できる「事実」

現在判明している公式通告の要点は以下の通りです。

  • 活動の停止: 老君山国家公園内(黎明エリアを含む)でのクライミング、ハイキング、キャンプなどの野外活動を一時的に停止する。

  • 名目上の理由: 生態系の保護、地質遺産の保護、および安全管理体制の再構築。

  • 対象範囲: 特定の岩場だけでなく、管理局が管轄する保護区全域に及ぶ。

  • 罰則の示唆: 無許可で立ち入った場合、関連法規に基づき処罰の対象となる可能性がある。

2. 一次情報が不足している「不透明な点」

現時点では、以下の点が公式には明言されていません。

  • 期間の限定: 「一時的」な措置なのか、実質的な「永久閉鎖」なのか。

  • 再開の条件: どのような安全基準や環境保護策が整えば解禁されるのか。

  • 既存ルートの扱い: すでに打たれているボルトや設置された終了点の撤去が行われるのか。

  • 他エリアへの波及: 麗江以外のエリア(陽朔や格凸など)に同様の規制が広がる予兆があるのか。


3. 「黎明が登れない」の本質とは?

今回の事態は「中国全土でクライミングが禁止された」わけではありません。本質的には、**「国立公園内のレクリエーション管理と、政府によるリスク管理の強化」**という側面が強いと考えられます。

視点内容
環境保護黎明の赤い砂岩(丹霞地形)は非常に脆く、地質学的に貴重なため、保護の優先順位が上がった。
法的責任事故が発生した際、管理当局が責任を問われるリスクを避けるため、一旦すべてを停止させた。
商業化の再編自由なクライミングではなく、ガイド同伴や有料許可制など、管理下でのアクティビティへの移行を狙っている可能性。

重要な視点:

中国のクライミングエリアは、多くが「風景名勝区(国立公園相当)」の中に位置しています。今回の黎明のケースは、アウトドア活動が「自由な冒険」から「管理された観光資源」へと変質していく過程の衝突と言えます。


4. 結論:中国でクライミングは禁止ですか?

いいえ、中国全土で禁止されたわけではありません。

しかし、黎明のような「国立公園内にある世界クラスのエリア」が、行政の一存で閉鎖され得るというリスクが顕在化しました。今後、中国でクライミングを継続するには、現地コミュニティからの最新情報を常に確認し、現地のルール(LNT: Leave No Traceなど)をこれまで以上に厳守することが求められます。


現代外岩リードクライミングの課題

ウェブ上のトポの存在によって、「情報のアクセシビリティ(入手しやすさ)」が向上することは、必ずしも岩場の「質」や「安全」を守ることには直結しません。

インターネットの普及によって、「ジムの延長線上で、消費的に岩場を訪れる層(いわゆる、機能クライマー)」が急増したことで、以前から岩場を守ってきた方々が感じている危機感には、主に以下の3点があるります。

「岩場の文化」という前提の欠如

ジムは「サービスを提供する施設」ですが、岩場は「共有の自然資源」です。

  • ジム: 落ちても安全なマット、掃除されたホールド、スタッフによる管理。

  • 岩場: 自己責任、限定されたホールド(欠ける可能性)、ローカルによる無償の整備

ネットで「場所とグレード」だけを知って来ると、この「背景にある敬意やルール」を読み飛ばしてしまい、騒音、チョーク跡、不適切な場所での駐車といったトラブルに繋がりやすくなります。

 リスク管理能力のミスマッチ

ネットによるデジタル化は「登れる実力」と「外岩の知識」のギャップを広げます。

  • ジムで高グレードを登れる身体能力(機能)があっても、リードの支点構築、終了点の処理、落石への警戒、天候判断などの「山そのものの経験」が伴っていないケースです。

  • トポが手軽になりすぎると、「自分の実力でこの岩場に入っていいのか」という謙虚な判断を鈍らせてしまう側面があります。

「コミュニティへの貢献」という意識の希薄化

紙のトポを買う、地元の店でお金を使う、整備活動に寄付するといった行為は、岩場を「維持する」ための大切なプロセスです。

デジタルで無料(あるいは安価)に情報だけを吸い取るスタイルが定着すると、「岩場は誰かが勝手に直してくれるもの」というお客様意識が加速し、挙げられていた「ローカルの結束」や「整備の継続」という条件が崩壊するリスクがあります。

これからの「リードの岩場」に必要な仕組みとは?

「ネット化」を止められない以上、「情報にフィルターをかける」、あるいは、「デジタルを教育の場にする」という新しいアプローチが必要かもしれません。

「情報の出し方」の階層化

詳細なアクセスや核心部の情報は、マナー動画の視聴や、特定の協力金(リボルト基金)を支払った人だけがアクセスできる仕組み。

「ジムから外岩へ」のブリッジ教育

ジム側が「機能」だけでなく「外岩の作法」を教える講習をセットで行う文化。

ローカルルールのリアルタイム可視化

現在の混雑状況や、地域からのリアルタイムな要望(「今日は農作業のためXX駐車場は避けて」など)を可視化、協力しないと岩場が閉鎖されるという「危機感」を共有する。

「優れた岩場の条件」に掲げていただいた「地域とのコミュニケーション」や「ローカルの結束」を、デジタル世代にどう「継承・翻訳」していくか。

これが、今のリードクライミング界の大きな課題です。


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「IT音痴」が守ってきた、ある種の「聖域」

皮肉なことに、開拓者がITに疎かったことで守られてきた側面もあります。

  • 情報の隠匿性: 簡単に検索できないからこそ、本当に情熱のある人間しか辿り着けなかった。

  • 対面文化: 「あそこを登るなら、あの人に挨拶に行け」という人間関係のプロセスが、結果的にマナーのフィルタリングになっていた。

  • 消費の抑制: 情報が拡散されないため、岩場がオーバーユースで壊れるスピードを遅らせていた。

しかし、限界も来ている

一方で、開拓者のIT音痴が「優れた岩場の条件」を阻害し始めている現実もあります。

  • ルールの不透明化: 昔ながらの「暗黙の了解」がネット世代には伝わらず、悪気のないマナー違反を招いている。

  • 資金調達の機会損失: クラウドファンディングやデジタル決済での協力金回収ができず、リボルト費用が開拓者の自腹(持ち出し)に依存し続けている。

  • 偏ったトポ: 最新の情報がアップデートされず、古参しか知らない「トポにないルート」が放置される。


開拓者とデジタルを繋ぐ「翻訳者」の不在

今、最も必要なのは、開拓者の「岩への想いと苦労」をデジタル言語に変換できる「中間の世代(翻訳者)」ではないでしょうか。

  1. 開拓者のこだわりを可視化する: 単なるグレード表ではなく、「なぜここを拓いたのか」「どこに地域との約束があるのか」をデジタル上で物語として伝える。

  2. デジタル・関所(ゲートウェイ): スマホで簡単に場所はわかるが、アクセスする前に「開拓者のメッセージ」を必ず読まないと詳細が見られないような仕組み。

  3. 現場への還元: IT音痴な開拓者が何もしなくても、デジタル経由で自動的に整備基金が彼らの元に届くようなエコシステムの構築。


「機能クライマー」は、岩を「ジムの延長にある外の壁」と見なします。 対して「開拓クライマー」は、岩を「一生かけて関わるフィールド」と見なします。

この「岩に対する解像度の差」を埋めない限り、どれだけインフラを整えても、岩場はただ消費されて終わってしまいます。