ウェブ上のトポの存在によって、「情報のアクセシビリティ(入手しやすさ)」が向上することは、必ずしも岩場の「質」や「安全」を守ることには直結しません。
インターネットの普及によって、「ジムの延長線上で、消費的に岩場を訪れる層(いわゆる、機能クライマー)」が急増 したことで、以前から岩場を守ってきた方々が感じている危機感には、主に以下の3点があるります。
「岩場の文化」という前提の欠如 ジムは「サービスを提供する施設」ですが、岩場は「共有の自然資源」 です。
ネットで「場所とグレード」だけを知って来ると、この「背景にある敬意やルール」を読み飛ばしてしまい、騒音、チョーク跡、不適切な場所での駐車といったトラブルに繋がりやすくなります。
リスク管理能力のミスマッチ ネットによるデジタル化は「登れる実力」と「外岩の知識」のギャップ を広げます。
「コミュニティへの貢献」という意識の希薄化 紙のトポを買う、地元の店でお金を使う、整備活動に寄付するといった行為は、岩場を「維持する」ための大切なプロセスです。
デジタルで無料(あるいは安価)に情報だけを吸い取るスタイルが定着すると、「岩場は誰かが勝手に直してくれるもの」というお客様意識 が加速し、挙げられていた「ローカルの結束」や「整備の継続」という条件が崩壊するリスクがあります。
これからの「リードの岩場」に必要な仕組みとは? 「ネット化」を止められない以上、「情報にフィルターをかける」 、あるいは、「デジタルを教育の場にする」という新しいアプローチ が必要かもしれません。
「情報の出し方」の階層化 詳細なアクセスや核心部の情報は、マナー動画の視聴や、特定の協力金(リボルト基金)を支払った人だけがアクセスできる仕組み。
「ジムから外岩へ」のブリッジ教育 ジム側が「機能」だけでなく「外岩の作法」を教える講習をセットで行う文化。
ローカルルールのリアルタイム可視化 現在の混雑状況や、地域からのリアルタイムな要望(「今日は農作業のためXX駐車場は避けて」など)を可視化 し、協力しないと岩場が閉鎖されるという「危機感」を共有する。
「優れた岩場の条件」に掲げていただいた「地域とのコミュニケーション」や「ローカルの結束」を、デジタル世代にどう「継承・翻訳」していくか。
これが、今のリードクライミング界の大きな課題です。
「IT音痴」が守ってきた、ある種の「聖域」 皮肉なことに、開拓者がITに疎かったことで守られてきた側面もあります。
情報の隠匿性: 簡単に検索できないからこそ、本当に情熱のある人間しか辿り着けなかった。
対面文化: 「あそこを登るなら、あの人に挨拶に行け」という人間関係のプロセスが、結果的にマナーのフィルタリングになっていた。
消費の抑制: 情報が拡散されないため、岩場がオーバーユースで壊れるスピードを遅らせていた。
しかし、限界も来ている 一方で、開拓者のIT音痴が「優れた岩場の条件」を阻害し始めている現実もあります。
ルールの不透明化: 昔ながらの「暗黙の了解」がネット世代には伝わらず、悪気のないマナー違反を招いている。
資金調達の機会損失: クラウドファンディングやデジタル決済での協力金回収ができず、リボルト費用が開拓者の自腹(持ち出し)に依存し続けている。
偏ったトポ: 最新の情報がアップデートされず、古参しか知らない「トポにないルート」が放置される。
開拓者とデジタルを繋ぐ「翻訳者」の不在 今、最も必要なのは、開拓者の「岩への想いと苦労」をデジタル言語に変換できる「中間の世代(翻訳者)」ではないでしょうか。
開拓者のこだわりを可視化する: 単なるグレード表ではなく、「なぜここを拓いたのか」「どこに地域との約束があるのか」をデジタル上で物語として伝える。
デジタル・関所(ゲートウェイ): スマホで簡単に場所はわかるが、アクセスする前に「開拓者のメッセージ」を必ず読まないと詳細が見られないような仕組み。
現場への還元: IT音痴な開拓者が何もしなくても、デジタル経由で自動的に整備基金が彼らの元に届くようなエコシステムの構築。
「機能クライマー」は、岩を「ジムの延長にある外の壁」と見なします。 対して「開拓クライマー」は、岩を「一生かけて関わるフィールド」と見なします。
この「岩に対する解像度の差」を埋めない限り、どれだけインフラを整えても、岩場はただ消費されて終わってしまいます。