2025/12/31

【AI】40年物カットアンカーで落ちればどこかに当たる場合(九州の岩場)の正解行動

「この支点は40年物か?(YES) 下にテラスはあるか?(YES) ならば、この一手は100%確実に取れる時以外、出してはいけない」 

(下にテラスは落ちればどこかに当たると読み替えてください。)

その通りです。その「40年物の支点 × テラスあり」という、逃げ場のないデッドエンドに直面したとき、クライマーに残された生存のための選択肢は、大きく分けて4つに集約されます。

この状況で「5つ目の選択肢(無理やり突っ込む)」を選んだ瞬間に、事故の確率が跳ね上がります。


致命的状況を回避するための4つの選択肢

1. 支点の補強(バックアップの構築)

40年物のボルトが信じられないなら、自前のギアで信頼を上書きします。

  • NP(ナチュプロ)の併用: 近くのクラックにカムやナッツを固め打ちする。

  • タイオフ: 腐食したハーケンではなく、近くの頑丈な樹木や岩の突起(ピナクル)にスリングをかける。

  • 分散荷重: 1つがダメでも、3つのボルトを連結すれば耐えられるかもしれないという計算です。

2. 人工登攀(エイドクライミング)への切り替え

「フリー(自分の手足だけ)」で登ることにこだわらず、道具を「保持・足場」として使います。

  • A0 (エーゼロ): 腐食しているとはいえ、まだ抜けていないボルトにヌンチャクをかけ、それを掴んで体を上げる。

  • アブミの使用: ボルトに過度な墜落衝撃(フォール)を与えないよう、静荷重で体重を預けて一歩ずつ確実に進みます。

3. クライムダウン(勇気ある後退)

「一手出した後で詰む」前に、安全な場所まで自力で降りる決断です。

  • リスクの再評価: 登っている最中に「これ以上は無理だ」と直感したなら、次の支点に触れる前に、直前の確実なスタンスまで戻ります。

  • 敗退の美学: 「今日は条件が悪い」と割り切り、残置スリングを残してでも懸垂下降で脱出します。

4. ルート変更(エスケープ)

正面突破が「死の掛け算」なら、横に逃げる道を探します。

  • 弱点を探す: 本来のラインが脆すぎる場合、少し回り込んででも、岩質の安定した場所や、支点が取れそうな凹凸を探してラインを変えます。


なぜこの4つしかないのか

それは、この状況において唯一コントロールできる変数が**「墜落の可能性をゼロにする(1・2)」か、「墜落のリスクにさらされる時間をゼロにする(3・4)」**のどちらかしかないからです。

究極の「5つ目」を排除する

多くの事故は、ここで「気合で解決する」という5つ目の選択肢を選んでしまうことで起きます。

  • 「あと一手でガバ(良いホールド)があるはずだ」

  • 「ここまで来たんだから、引き返したくない」

谷川や滝谷のような場所では、この「希望的観測」が最大の毒になります。

「40年物 × テラス」の条件が揃ったなら、機械的に上記の4つのどれかへ移行する。この「思考の自動化」が、ベテランの生存率を支えています。




「100%確実な一手」以外を出さないための、具体的判断基準

このシンプルな方針を現場で徹底するために、ベテランは無意識に以下のような「確認作業」を行っています。

  • 「3点支持」の絶対化:

    スポーツクライミングでは「デッドポイント(動的な動き)」を多用しますが、谷川や滝谷では、常に3点が「岩の安定性」を確認できている状態を維持します。

  • 「テスト」の儀式:

    「この一手」を出す前に、ホールドを叩く(打音検査)、引いてみる、横に押してみる。支点が古いなら、その支点に体重を預けられるか指先で探る。この「確認」に100%の確信が持てなければ、手は出しません。

  • 「クライムダウン」の選択肢を常に持つ:

    「一手出した後に、戻れるか?」を常に考えます。戻れない一手を出した瞬間に、それは「博打」に変わるからです。


リスクの方針がシンプルになる理由

なぜ「100%確実」を求めるのか。それは、あなたが挙げた数式の**「掛け算」の性質**にあります。

墜落リスク = (岩質) × (支点) × (下地) × (技術)

この式の恐ろしいところは、どれか一つが「ゼロ(信頼性なし)」に近づくと、全体の安全性が一気に崩壊することです。

谷川や滝谷では、「岩質」や「支点」という変数がすでにボロボロ(0に近い数値)であることが多いため、私たちがコントロールできる変数である「技術(絶対に落ちない確実性)」を100%にする以外に、解をプラスに保つ方法がないのです。


最後に:この「シンプルさ」が命を救う

「行けるかもしれない」という50%の希望は、こうした岩場では「死」を意味します。

「100%確実な時以外、手を出さない」というルールを自分に課すことは、一見すると臆病に思えるかもしれませんが、それこそが最高のクライミング・インテリジェンスです。

谷川、滝谷……。こうした厳しい壁に挑む際、この「シンプルな数式」と「冷徹な判断」をザックに詰め込んでいけば、生還の確率は劇的に高まります。


リスクの網羅と登らない判断をすべき要件

 ご提示いただいたリストは、クライミングの現場感覚に基づいた非常に鋭い網羅性を持っています。これをMECE(モレなく、ダブりなく)の観点で整理・検証すると、さらに強固なリスク管理フレームワークになります。

結論から申し上げますと、「システム(ハード面)」と「人間(ソフト面)」の両軸において、あと数点だけ加えることで、ほぼ完璧にMECE化されます。

以下の4つの大カテゴリーで整理しました。


全クライミング・リスク網羅チェック(MECE)

1. 壁・環境の要因(ハードウェア的環境)

ここには「岩」「傾斜」「天候」が含まれます。

  • 傾斜: スラブ・垂直・ハング(ご提示済み)

  • 岩質: 硬度、脆さ、浮石(ご提示済み)

  • 下地・墜落ライン: テラスの有無、激突対象(ご提示済み)

  • 天候・時間: 雨、雪、結露、日没(ご提示済み)

  • 【追加】生物的リスク: 蜂の巣、蛇、熊、漆(かぶれ)。特に**「蜂」**は墜落を誘発する重大な外的要因です。

2. システム・ギアの要因(安全装置)

ここには「支点」「スタイル」が含まれます。

  • 支点の信頼性: 古い残置(ご提示済み)、ボルト、NP(カム等)

  • 墜落距離・衝撃: 支点間隔、ロープの伸び(ご提示済み)

  • クライミングスタイル: ボルダー、リード、TR(ご提示済み)

  • 【追加】ロープマネジメント: 「足にロープが掛かる(反転リスク)」「ロープの長さ不足」「ドラッグ(屈曲による引きの重さ)」。

  • 【追加】ギアの劣化・適合: ロープの芯折れ、ハーネスの経年劣化、カラビナのゲート開き。

3. 人的要因(ソフト面)

ここには「対人」「身体」が含まれます。

  • 対人(パートナーシップ): ビレイ技術の差、信頼関係、コミュニケーションミス(ご提示済み)

  • 身体的マイノリティ・コンディション: 既往症、障害、疲労、ハンガーノック(ご提示済み)

  • 【追加】認知的バイアス: 「慣れ」による慢心(チェックの省略)、パニック、周囲のクライマーからのプレッシャー。

4. 状況・アクセスの要因

ここには「遠隔」が含まれます。

  • 遠隔地: 救助の困難さ、電波の有無(ご提示済み)

  • 【追加】アプローチ: 登攀中ではなく「壁に着くまでの滑落・道迷い」。実は統計上、登攀中よりアプローチや下降(ラペル)中の事故が多いです。


修正・統合された「死の掛け算」チェックリスト

これらを踏まえ、あなたが最も警戒すべき「NG状況」の定義を拡張します。

絶対墜落NG = (脆い岩 OR 古い残置) × (スラブ OR テラスあり) × (ロープが足に掛かる) × (未熟なビレイヤー)

この掛け算が一つでも成立する場合、それは「スポーツ」ではなく「命がけの博打」になります。

網羅性の判定:95%カバー

ご提示いただいたリストで、技術的なリスクの大部分は網羅されています。

MECEとして完璧にするために、以下の3点だけ頭の片隅に置いてください。

  1. 「生物(蜂・蛇)」: 物理的な条件が良くても、これでパニックになり墜落します。

  2. 「下降・アプローチ」: 登り終わった後の懸垂下降や、壁までの移動のリスク。

  3. 「ヒューマンエラー」: 完璧な支点でも、結び目を忘れたら終わりです。


■登らない判断が必要なケース


これまでの要素を網羅した上で、現場で「技術や根性でカバーしようとしてはいけない」、つまり**「登らない(あるいは即座に敗退する)という判断をすべき致命的なケース」**を、MECEの視点でカテゴリー別に全て抜き出します。

以下のケースが1つでも当てはまる場合、そこは「クライミング」ではなく「生存確率の低いギャンブル」となります。


1. 【システム崩壊】墜落が「支点ごとの脱落」に直結するケース

  • 「浮き石」に構築された支点: カムやボルトが打たれている岩塊自体が浮いている、または叩くと中空音がする場合。

  • 40年物のカットアンカー・腐食ボルト: 錆がひどい、破断の跡がある、または指で回るようなボルト。これらに墜落衝撃をかけることは自殺行為です。

  • プロテクションが取れない「脆いスラブ」: 岩がボロボロ(凝灰岩の風化など)で、支点が構築できず、かつ滑落すれば岩肌で体が削られる場合。

2. 【物理的致命傷】落下の軌道に「殺傷能力のある障害物」があるケース

  • 墜落ライン上の「テラス(棚)」: ロープが伸びきる前に激突する位置にテラスがある。

  • 「グラウンドフォール(地上激突)」の確定: 最初の支点が遠く、または支点間隔が広すぎて、落ちれば必ず地面に届く状況。

  • 「落石の巣」の直下: 自分が動くことで、あるいはロープの動きで、自分やビレイヤーを直倒しにするサイズの浮石が落ちる構造。

3. 【ヒューマンエラー・不能】安全を担保する人間が機能しないケース

  • ビレイヤーの技術不足・不適合: パートナーがそのルートの墜落衝撃を止める技術(あるいは体重差への対応)を持っていない。

  • コミュニケーションの断絶: 強風や屈曲により声も合図も届かず、互いの状況が全く把握できない中でのランナウト。

  • 単独(ソロ)時のシステム不備: バックアップが取れていない、またはシステムに致命的な不信感がある。

4. 【環境的限界】生存の窓が閉じているケース

  • 「結露」による急激なフリクション喪失: 岩が汗をかき始め、保持が物理的に不可能になったスラブ。

  • タイムアウト(日没)× 遠隔地: 夜間行動の装備がなく、かつルートが複雑でヘッドランプ程度では下降・脱出が不可能な場合。

  • 荒天(雷・猛吹雪): 支点や岩質以前に、低体温症や落雷で行動不能になることが確定している場合。

5. 【身体・精神的パニック】制御不能な内的要因

  • 「蜂の巣」などの生物的脅威: ルート上に威嚇する蜂や蛇がおり、回避不能。パニックによる無意識の墜落は最も危険です。

  • 深刻なハンガーノック・意識混濁: 低血糖や極度の疲労で、安全確認(セルフチェックやロープ操作)が正確に行えない状態。


究極の判断基準:これを「死の三要素」として抜き出します

これらが重なれば**100%「登ってはいけない」**判断になります。

  1. 「止める側(支点・ビレイヤー)」の不確実性

  2. 「落ちる側(岩の鋭さ・テラス)」の殺傷性

  3. 「逃げ場(脱出路・救助)」の不在

この3つのうち、2つ以上が重なっている場合は、その場でクライミングを中止すべきです。

例えば、脆い岩稜で、古いボルトしかないもしくはカムを利かせられる場所がないがない(1と2の重複)」なら、どんなに実力があっても登るべきではありません。逆に「二子山の強傾斜で、ボルトは完璧だが、体力が限界(1のみの検討)」であれば、落ちる練習として突っ込む選択肢が残ります。