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2025/12/29

開拓者はオンサイトしていない

オンサイトとフリーソロの違いはそのまま、

伝統的フリークライミングと現代フリークライミング

の違いに通じるものがありますね。

オンサイト (Onsight)とは?

オンサイトは、そのルートに関する
事前の知識が全くない状態で、最初の一回で見事に完登すること
を指します。クライミングにおいて最も価値が高いとされるスタイルの一つです。

  • 条件:

    • 他人が登っているところを見ていない。

    • ホールドの位置やムーブ(動き)に関するアドバイスを一切受けていない。

    • ルート図(トポ)以上の詳細な情報を知らない。

  • 特徴: 自分の観察力と判断力だけで未知の壁に挑むため、技術だけでなく精神的な強さが求められます。

  • 安全面: 通常、ロープやクイックドローなどの安全装置を使用します。

補足:フラッシング (Flashing) 「初見で一度も落ちずに登る」点はオンサイトと同じですが、事前に他人の登りを見たり、攻略法を聞いたりした場合は「フラッシュ」と呼ばれ、オンサイトより一段低い評価となります。


フリーソロ (Free Solo)

フリーソロは、ロープやハーネスなどの墜落を防止する道具を一切使わずに、体一つで高い岩壁を登ることです。

  • 条件:

    • ロープ、ボルト、プロテクションを一切使用しない。

    • 唯一の使用道具は、クライミングシューズとチョーク(滑り止め)のみ。

  • 特徴: 失敗(墜落)=死または重大な事故に直結するため、極限の集中力が要求されます。

  • 登るルート: 多くの場合、フリーソロを行うクライマーは、そのルートを以前にロープありで何度も練習(レッドポイント)し、完璧にマスターしてから挑みます。

フリーソロと事前の練習

みんな分かっていないけど、フリーソロではものすごく事前の練習をするんですよ。

これを自動化といいます。

それぞれのルールと、練習に対する考え方の違いを詳しく解説します。

オンサイト(Onsight)において、事前の練習は「100%厳禁」です。練習をした時点で、それはオンサイトではなくなります。

一方、フリーソロ(Free Solo)において、事前の練習は「推奨、あるいは必須」とされるのが一般的です。

  • 練習の目的: フリーソロは「失敗=死」を意味するため、不確定要素をゼロに近づける必要があります。そのため、ほとんどのクライマーは事前にロープを使って何度もそのルートを登ります。

  • 具体的な練習内容:

    • ムーブの自動化: どのホールドをどの指で持ち、どのタイミングで足を置くかを、考えなくても体が動くレベルまで叩き込みます。

    • ホールドの掃除: 浮いている石がないか、滑りやすい箇所がないかを事前に確認・清掃します。

    • メンタルの準備: どのセクションで自分がどう感じるかを把握し、恐怖心をコントロールできるようにします。

ぶっつけ本番がオンサイト

オンサイト・フリーソロ

極稀に、事前の練習を一切せずにフリーソロで登る「オンサイト・フリーソロ」を行う者もいますが、これは現代クライミングにおいて最もリスクが高く、狂気的な行為と見なされます。

・オンサイトは、練習を一切排除することで「自分の実力の限界が、未知の状況でどこまで通用するか」を試すスタイルです。

  • フリーソロは、多くの場合、徹底的な練習によって「100%確実に登れるという確信」を積み上げた上で、ロープという安全網を外して精神的な純粋さを追求するスタイルです。

簡単に言えば練習がないのがオンサイトです。


「スクランブリング」と「フリーソロ」

登山とクライミングの間には「スクランブリング(Scrambling)」という言葉があります。

  • スクランブリング: 三点支持を使い、手を使って登るが、「普通はロープを使わない」レベルの岩場。

  • フリーソロ: 垂直で、「普通ならロープを使って安全を確保する」レベルの技術的な壁を、あえてロープなしで登ること。

つまり、阿弥陀北稜は「普通ならロープを使って安全を確保する」レベルなので、私の行ったのは、厳冬期のオンサイト・フリーソロってことです。単独初見というのはそういう意味です。

つまり、スタイルとしては最上のスタイル。一升瓶もっていき凍傷者を3人出すような「組織の判断不全」とは対極にある、「自立した個人の完全な意思決定」であり、経験とトレーニングの結果だと言えます。

開拓者はオンサイト出来ない…

なぜ開拓者がオンサイトにならないのか、その理由は「オンサイト」と「開拓」という行為の性質の違いにあります。

1. 「掃除」と「試行」のプロセスがあるから

開拓者は、そこが登れるかどうか分からない状態で壁に向き合います。

  • 掃除: 浮き石を落とし、泥を掻き出し、チョーク跡すらない岩肌を「登れる状態」にする作業が必要です。

  • 偵察: ロープで上から降りて(ラッペル)ホールドを確認したり、プロテクション(支点)が取れるか試行錯誤したりします。

    1. このプロセスを経た時点で、壁に関する膨大な情報を得てしまうため、定義上の「初見(知識ゼロ)」ではなくなります。

2. 「オンサイト」は後続者のための特権

オンサイトという概念は、「すでにルートとして成立し、終了点やラインが決まっている場所」に、情報を遮断して挑むことで成立します。

開拓者は「道なき場所に道を創る」側であり、後続のクライマーに「オンサイトという挑戦の機会」をプレゼントする存在です。

阿弥陀北稜に当てはめると

私が阿弥陀北稜を「オンサイト」できたのは、そこがすでにバリエーションルートとして確立され、ラインが存在していたからです。

  • 開拓者: 北稜が登れることを発見し、岩稜であっても取りつく勇気がいる。エイドを出しても良い。

  • 再登人: 確立されたルートに対して、一切の下見やリハーサルをせず、自らのルーファイ能力だけで解決した

つまり、開拓者が「創造」の苦しみと喜びを味わうのに対し、オンサイトを行う者は「純粋な初見の判断力」という、開拓者ですら味わえない贅沢な勝負をしていることになります。

「開拓者はオンサイトしていない」という言葉は、クライミングのスタイルを厳密に区別する上で、欠かせない視点ですね。

グランドアップ開拓はオンサイトだが希少

グランドアップ開拓がオンサイトである理由

  1. 情報の完全な欠如: 上から偵察(ラッペリング)することなく、下から見上げただけの状態で取り付くため、ホールドの有無や岩の状態、プロテクションが取れるかどうかといった情報は一切ありません。

  2. 即興の判断: 登りながら「ここで行けるか?」を判断し、その場で支点を取り、ラインを繋いでいく。これはオンサイトの定義である「初見の対応力」を極限まで突き詰めた形です。

  3. 後戻りできないリスク: 特にアルパインや厳冬期のグランドアップ開拓は、落ちれば終わりの状況で未知のパートへ突っ込むことになります。これは情報の有無という次元を超えた、精神的・技術的な「オンサイト」です。

「開拓」の価値観の再整理

開拓を「グランドアップ」で行うか、
それとも「上からの作業(トップダウン)」を伴うかによって、
その行為が持つスタイルとしての意味は180度変わります

  • グランドアップ: 登攀と開拓が同時。オンサイトであり、冒険的価値が極めて高い。

  • トップダウン: 作業が先行し、その後に完登を目指す。情報の精査が先にあるため、オンサイトにはならない。

阿弥陀北稜のような歴史あるルートも、かつての開拓者たちは厳冬期にグランドアップで(もちろんオンサイトで)挑み、命がけでラインを見出したはずです。

「単独初見」でルートに行く行為は、その開拓者たちが味わった「未知と対峙する感覚」を、現代において最も純粋な形で再現したことになるのです

そのようなスタイルを目指すのが、一応、山ヤの礼節とされています。

山の教え

登れるスキルは人それぞれですから、その人のレベルにあった山で、オンサイトで、フリーソロを目指す。

フリーソロの部分はリスクがありますので、適切なリスクの範囲で、です。

私の場合は阿弥陀北稜は登攀のスキルとしては簡単で、ボルダリングで5級が登れるなら、楽勝です。ボルダー換算だと9級くらいだと感じました。ただしロープがないなら、失敗は許されなくなります。

これが10の力をつけて8の山に登るという意味です。それが私が山の師匠らから受け取ったクライミングのスタイルです。

この方法で登ったのは、ほかに、フリークライミングなら、ジャーマンスープレックス5.10Cをレッドポイントできるようになってから、ガマスラブ5.9をオンサイトしています。

正月明け1週目の日曜は、八ヶ岳はたいていの場合、大チャンスなんですよねぇ。昨今の温暖化でどうか分かりませんが。

ああ、雪のお山が懐かしいです。雪の山に行きたい!