2026/01/21

クライミングの成約は成田離婚方式で

 それは、技術的な問題以前に**「リスクに対する根本的な価値観の違い」**が露呈する瞬間ですね。

アイゼンを履いたままの尻セードは、引っかかって足首を骨折したり、滑落を制御できなくなったりと、登山者にとっての「禁じ手」です。それをやってしまう(あるいは、やろうとする)人と山に入ることは、「いつ起きるかわからない爆弾を抱えて歩く」ようなストレスなのだとお察しします。

「断るのが難しい」という心理的・状況的なハードルをどう乗り越えるか、いくつかのアプローチを整理してみました。


1. 「自分の能力の限界」を理由にする

相手の技術を否定すると角が立ちますが、「自分の責任」として伝えると角が立ちにくくなります。

  • 言い方の例: 「アイゼンを履いたまま尻セードで滑るような、予測不能なリスクがある行動をカバーできる自信が、今の私には(ガイドとして)ありません。万が一のときに私があなたを助けられない可能性が高いので、一緒に行くことはできません」

  • ポイント: 「あなたが悪い」ではなく「私の許容範囲(安全管理の限界)を超えている」という線引きです。

2. 契約・ルールの前文化

「断る」という行為を、個人的な感情ではなく「ルール」に置き換えてしまう方法です。

  • 事前の同意: 山行の前に「これだけは絶対に守ってほしいルール(アイゼンでの尻セード禁止など)」を明文化して伝えておきます。

  • イエローカード制度: 「これを守れない場合は、その場で山行を中止し、次回以降はお引き受けできません」と先に宣言しておくことで、断る際の心理的負担を減らします。

3. 「弱気の計画」の延長線上にある選別

「思いやりが必要ない状況を作る」という考え方を、「メンバー選定」にも適用する考え方です。

  • 山を選ぶのと同じように、「自分のコントロールを離れた行動をする人」を最初から計画に入れないことも、遭難を防ぐための「弱気の(=慎重な)計画」の一部です。

4. 断ることは「相手への優しさ」でもある

もし一緒にいて事故が起きた場合、一番辛い思いをするのは本人ですが、また「なぜ止められなかったのか」という後悔を一生背負うことになります。

  • 「あなたの命に責任が持てないから、断る」というのは、登山における誠実さの極致です。


難しいのは「関係性」があるからこそ

特にお仕事として受けている場合や、古い付き合いがある場合は、スパッと切るのは勇気がいりますよね。

もしよろしければ、具体的にどういった立場の相手(長年の顧客、友人、あるいは初心者など)に対して「断りづらさ」を感じていらっしゃるのか、もう少し詳しく伺えますか?状況に合わせた「言い回し」や「距離の取り方」を一緒に考えられるかもしれません。

名もなき家事のクライミング版

 アイスクライミングやアルパイン、マルチピッチ、そして遠征。これらは装備の多さと過酷な環境ゆえに、「名もなき家事(作業)」の質も量も一気に跳ね上がります。

登っている時間よりも長いかもしれない、泥臭い作業リストです。


【アイスクライミング編】

  1. アイゼンのフロントポイントの丸まりをヤスリで研ぐ

  2. アイススクリューの刃先に保護キャップを丁寧にはめる(ギア袋を破かないため)

  3. グローブの予備を、凍結した時に備えて体温で温めておく

  4. 凍りついたロープを叩いて氷を落とし、畳みやすくする

  5. アプローチで埋まったトレース(足跡)をラッセルして作り直す

  6. 休憩中、サーモスの蓋が凍りつかないようこまめに開け閉めする

  7. アックスのピックのガタつきを増し締めする

  8. 濡れた登攀具を帰宅後、錆びないように一本ずつ拭いて乾燥させる

  9. 凍った靴紐を解くために、指先の感覚がない中で格闘する

【岩登り・マルチピッチ編】

  1. ガイド本と実際のルートを見比べ、トポに載っていない「浮石」を判別する

  2. 終了点でのロープの架け替え時、ギアを落とさないよう手順を脳内シミュレーションする

  3. 狭いテラス(棚)で、次に登る人が使いやすいようにロープを綺麗に整理し直す(ロープマネジメント)

  4. 重いギアをラッキングする際、左右の重量バランスを微調整する

  5. 登攀中に絡まったカムのトリガーを、片手でガチャガチャ直す

  6. 懸垂下降中、ロープが岩の隙間に挟まらないようルートを選んで投げる

  7. 通信圏外になる前に、家族や仲間に「下山予定時刻」を最終連絡する

  8. 狭いビレイ点で、相手と自分のセルフビレイが絡まないよう位置を入れ替える

  9. 下山後、ヘッドランプの電池が残っているか確認し、予備を補充する

【遠征・長期キャンプ編】

  1. 数日分の食料を、ゴミを減らすために全てパッケージから出してジップロックに詰め替える

  2. 予備のガスカートリッジの残量を重さで測り、優先順位をつける

  3. 濡れたテントやシュラフを、わずかな晴れ間に岩の上に広げて干す

  4. 共同装備の重量を、メンバーの体力に合わせて100g単位で配分し直す

  5. 毎日、天候判断のためにラジオの気象図を書いたり、予報を読み解いたりする

  6. ソーラーチャージャーを、太陽の動きに合わせてこまめに移動させる

  7. 浄水器のフィルターが詰まらないよう、沈殿させてから水を汲む

  8. モバイルバッテリーの残量を、最終日まで持たせるよう計算してスマホを使う

  9. 汚れたソックスを焚き火や体温で乾かし、翌朝の不快感を減らす

【帰宅後の「戦後処理」編】

  1. 泥だらけになったスタティックロープやギアを風呂場で洗う

  2. 傷んだスリングがないか、一本ずつ手で触って全数点検する

  3. 遠征中に撮り溜めた数百枚の写真を、整理してメンバーに共有する

  4. 車のシートにこぼれた砂や、トランクの泥汚れを掃除機で吸う

  5. 次の山行に備えて、不足したテーピングや非常食をAmazonでポチる


これらは「名もなき」どころか、**「これこそが登山の本体」**と言っても過言ではないほど、安全と成功に直結する作業ばかりですね。

特にアイスやマルチでは、この「名もなき作業」のスピードが遅れると、そのままタイムアウト(日没)に繋がるため、熟練者ほどこれらを無意識に、かつ高速にこなしています。

この中で、特に「これにいつも苦労している!」という特定の作業はありますか?