2025/08/09

日本の岩場が危険な理由

今朝は、アートセラピーが功を奏して、外岩で入門ルートされる5.9のボルト間隔が遠すぎて、入門ルートと言えない件についての対策アプリを思いつきました。スパゲティダイヤグラム化です。

これだと、全国のこのルートのボルト配置は変更が必要ではないかと思えるルートについて、AIの解析で適切なボルト配置をアドバイスできるかもしれません。こちらがアイディア

さて、ここでは、外岩デビュー前の、クライミングジム出身のクライマーのために、なぜ入門ルートでボルトが遠いのか?、上級者ルートと入門者ルートが混在している岩場が危険な理由を述べます。

クライミング史の理解が必要です

ロッククライミングがどうやって始まったか?の理解が最初に必要です。

ちょっと想像してみてください。ロッククライミングが、初めからオーバーハングで始まったと思いますか? まぁ、誰でもそうは思いませんね。

山登りの延長の、易しいところ、つまり、山登りで急なところが、ずっと連続するなぁというところから始まったはずですよね。

山登りでは水平なところは、UIAAⅡ級です。少し傾斜があるとⅢ級。かなりあるとⅣ級。Ⅳ級から人によってはロープがいります。北鎌尾根などです。
Ⅴ級(5級)から上がクライミングです。だから、クライミングのグレードは、5.××でスタートです。

4級ぐらいから危険がスタートし、ジャンダルムなどがそうです。なので、危険だな、落ちたらだめだなってところは、ルート上、時々しか出てきません。だから、このグレードのところは、人によっては、簡単だと表現しますし、危険だという表現もあっています。このようなところは、上級者になった場合は、ロープを出さないケースもあり、一般的には効率化のために、ここは、というところでロープを出します。ガイドはお客さんに死なれたら困るので出します。つまり、立場でロープの有無が違うのです。

これは、雪の山などでも同じです。

危険を認知して、そしてロープが順番です。

だから、登っている人はここは危険かな?と常に問いながら登っていたわけですね。

アルパインロッククライミングのレベル感


これがアルパインのロッククライミングになると、だいたい常にロープを出しています。つまり、全部、危険ってことです。

有名なところでは、前穂北尾根などです。

クライミングした山の上部でⅡ級が出てきても、そこは高いところですから、危険です。当然ですが、Ⅲ級でもⅣ級でも同じです。

これがガイド訓練を受けていない、一般のクライマーだと、普通に歩けるから、ロープ解きましょう、となり、その時に大体、事故が起きています。

難しいところでは緊張して気を付けていますから。もう大丈夫、とほっとしてロープを解こうか、となると事故るのです。

ガイド訓練を受けている私のような人は、当然ですが、ロープ解かないことを教わっています。カウンセラーが、YESBUT型の人にアドバイスをしないのと同じことです。

ところが、一般の山岳会というのは、技術や安全を向上するためにあるわけではないので、ロープを出さなかった自慢大会になるのです。あんなところでだすのー。です。こうなると、安全より心理が優先されています。

私は初めて参加した山岳会の顔合わせ山行で、雪庇を超えるのに、山岳会の人が、人を見下したように「ここ、ガイドならロープ出すんでしょ」というのを見ました。ところが、そこは、さすがにガイドでも、ロープ要らないなっていう落ちることがないうえ、落ちても、2m下で雪でふんわり止まってしまう、というところでした。ただラッセルがめんどくさく、体力がいるだけです。なので、その言ってきた人は、70代だったので、ロープで引き上げてほしかったんだろうと思います。

これは…山岳会でもロープを出す技術が求められているんだなぁと思いました。危険のためではなく、体力の不足のためです。しかし、素直に「助けて」ということができないでいるんですね。

この時は、女性登山者でしたが、男性の登山者でも、若いころは登れても、もはやメタボで赤岳すらも困難になっている人は非常に多いです。単純に体力そのものが、足りない場合は、どんな山でも危険です。

フリークライミングは全部ロープが前提

さて、この前知識があると、ロープをどの程度で出すか?という基準が4級グレーゾーンであり、5級から上は全部ロープであると知ることができると思います。そして、4級のグレーゾーンは、人により、年齢により、立場により、志向により、バラバラだ、ということが分かると思います。

さて、UIAAⅤ級から上は全部ロープが前提だと言いました。V級=5級。つまり、どこで落ちても不思議ではない場所って意味です。

だだし、昔は5級以上のグレードがなかったのです。そのため、5.XXの5にデシマルをつけた状態、小数点以下をあげることで、今でもグレード競争は、行われています。小数点以下にさらにaからdの文字をつけて、さらに細分化しています。

最近、誰かが、5.15aのマルチピッチを登ったとか。マルチピッチとは、ロープが一回ではなく、何回も出るという意味です。一ピッチと言えばロープ一回分。

つまり、この方式では、5.15dの次は、5.16、次は5.17と永遠に上になっていくという意味です。

ちなみに、これで燃える人もいますし、わたしは、なんてつまんないの、と思うタイプです。この仕組みを知って、フリークライミングについての興味関心は一気になくなりました。

さて、話を戻しますと、山を登るなかで、傾斜がどんどん上がっていって、水平の2級から、3級、4級、5級と上がっていったという話ですが、その4級と5級の間が、最も事故が多い時期です。

フリークライミングでは、一般に5.9が入門レベルなのですが、どこを登った経験もない、普通の人には5.9はかなり難しいです。

インドアの5.9はリスクフリーなので、とても優しく設定されています。おなじ5.9と聞いて同じ難度を想像してしまうので、初心者なのに5.9に取りつく人が多いのです。クライミングガイドは、5.6、5.7、あるいはエイトからスタートさせると思います。私は、5.8は最初からオンサイト出来ましたが、5.9がオンサイト出来るまでに3年かかりました。

ただし、一度できるようになると自転車と同じで、私は、ラオスに行ったときは5Cを全部オンサイトで登りました。日本のグレードだと5.8~だと思います。

5.9のばらつきが大きいこと

また、日本国内では、5.9と題されるレベルは、岩場によっても、開拓者によっても、非常にばらつきが大きいという特徴があります。

それは、そのルートを設定した人が、主観的に「”おれにとっては”、これが5.9」を主張する権利がある、とされているからです。

杉野保さんという方書いたOLDBUTGOLDというクライミングの本がありますが、5.9→5.10Cと言う訂正は、まったく珍しくないです。

今後フリークライミングに進む予定のあるクライマーなら、予防的な意味で、グレードのばらつき具合を知るためにも、購入しましょう。

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ちなみに、海外でも、岩場によってはそのノリです。

初心者でも安心して取り付ける岩場がどこか?という知識そのものが、ガイド知識みたいな感じです

私自身も、初めて岩場に連れていくならば…という状況を考えたときに安全で、ガイドである私自身が殺されない岩場はどこかな?と発想して、新しい土地に行ったときは、そういうレパートリーを探します。

その意味で、まったくの初心者でも登れるのはラオスですので、おすすめ。日本でのクライミング経験がなくても、現地ガイドを雇って登れます。

一般に、インドアのクライミングジムで、ボルダリングの段級グレードの5級が登れるような人であれば、外の岩場の5.7~5.9が射程範囲に入ると思われ、それくらいからが、外岩デビューです。その前に、人工壁のリード壁で、ビレイを習得します。

さて、こういう状況下で、5.12と5.9が混在するエリアってどういう意味か分かりますか?

それは、5.12を40年前にすでに登っていたような猛者が5.9を開拓したのではないかということが疑われるエリアって意味です。

岩場の中で、エリアは、ルートの傾向が似ています。難度は壁の形状で決まることが多いので、易しいエリアは、すべてのルートが易しく、難しいエリアはすべてのルートが難しいです。

そんな中で5.9もあり、5.12もあるなら? 推理力を働かせましょう。ここは探偵並みに推理するべきです。

つまり、その5.9は、5.12以上を登るような人にとって、おれにとっては5.9である可能性が高いです。

上級者も入門者も登れる楽しいエリアという記述には、要注意です(笑)。

こういうわけで、クライミングでは、入門者や初級者に

 ひっかけ問題(ほとんど詐欺)

が作られるわけです。昔は、入門者初級者はすべてトップロープです。トップロープを貼れなくなった上級者は、最近の若いもんはリードする気がないとか言って実は自分が登ってもらいたいだけということが多いです。なぜなら、すでに初級ルートを登るだけの力もなくなり、リードが彼自身も怖いのですが、まだ登りたいのです。そういう方のビレイは非常に悪いことが多いです。だらりんビレイということです。

日本人は一般に、心理学的に、

 素直に助けてが言えない

という共通項を持っているようです。危険なことを危険と言えない。言ってしまえば、何かメンツがつぶれると思っています。

現在クライミンググレードは高騰しており、5.13を登るのは、その辺の普通の人です。現在の若いトップクライマーは、5.14ですら生死がかかるクライミングをしています。なので、5.9がいくら危険でも、彼らに害が及ぶことはありません。
困っているのは、一般の、入門レベルの若いクライマーたちです。ジムでは、段級グレードの3級が登れるのは普通の人ですが、それを5.XXに治すと、5.12くらいになります。すると、外の岩場のガイドブックには、5.10だの、5.11だの書いてありますから、5.9なら当然登れるだろうと思って取りつきます。ところが、それは、”はるか昔の上級クライマーの俺にとっての5.9”ですから。

同じことがグレードを上げても起きており、九州では、四阿屋という岩場でインディアンサマーという課題がそのような課題です。知らずにとりついたと思しき人が腰椎骨折の大けがをしていました。関西では斜陽がそのような課題として有名です。6件も重大事故が起きているそうでした。

しかし、このような情報は伝統的にクライマー内部で回されており、そのクライマーたちのネットワークと、現代のジム上がりクライマーは接点がほとんどないのです。そこで、拾われてきた命が拾われなくなってしまうという現象が起きています。

スモールワールドシステムによる、命の保護機能は、ネット社会になって機能しにくくなってきました。

私が警鈴を鳴らしたいのはこの点についてです。

クライマーとして一人前になる前に今述べたような知識や情報が提供されていないことには、クライマーたちは自律的に成長していくことが、落とし穴だらけになってしまい、だれかにどこを登るべきか?の指南を依存しないと登れないということになってしまいます。

まさにそれが、クライミングガイドがガイド業として成り立つ、という根拠にもなっているのですが、そんなせこいやり方で職域を守らなくても、そのガイドさんと登る意義というのは、作れるだろうに…と私は思います。

故・吉田和正のクライミングにお付き合いしていた私ですが、吉田さんが伝えてくれたのは、クライマーとしての在り方、だと思います。そのようなクライマーとしての在り方を伝えられるガイドがいま求められているガイドであり、ムーブだの、なんだのは、クライマーなら、だれでも、ほっとけば上達します。

それよりも、岩場でリスクをどう判断するか?何ができたら、どこへ行くスキルがあると考えうるのか?そういう判断の基準的なものを伝えていくことも、ガイドや指導的立場にある人の重大な任務です。

その点のサボタージュの長年の蓄積が、クライミング事故ということになっています。